部下の指導にあたって押さえておきたいポイントと指導方法の例
管理職や中堅社員にとって、部下や後輩社員の指導は重要な業務のひとつです。 しかし、効果的な指導方法がわからず悩みを抱えるケースも少なくありません。 そこで本記事では、部下や後輩社員の育成にあたって、効果的な指導方法とはどのようなものなのか、指導の悩みを解決するためのポイント、指導に必要なスキルも含めて詳しく解説します。
部下の指導において管理職が抱える悩みとは
厚生労働省が発表した「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」(※1)によると、上場企業を対象とした2017年の調査では「管理職としての悩み」として「部下がなかなか育たない(39.9%)」がもっとも多く挙げられており、多くの管理職が部下の指導に難しさを感じていることがわかります。また、「部下が自分の指示通りに動かない」という悩みを挙げている管理職の割合も年々増加傾向にあります。
部下がなかなか育たない
部下自身のモチベーションが向上しないと、部下が成長できない可能性が高まります。一生懸命仕事に取り組んでいたのに成果が上がらず諦めてしまう場合や、「自分がやりたい仕事ではない」または「自分には適性がないのでは」と考える場合など、部下の性格や価値観によっても、モチベーションが向上しない理由はさまざまです。
効果的な指導方法がわからない
部下の性格や考え方によって最適な指導方法は異なります。褒めることで成長する部下もいれば、あえて厳しく指導することが成長につながるケースもあり、どのような方法で指導すればよいのかわからず悩む管理職もいるでしょう。
さらに最近では、ハラスメントへの対策が以前にも増して企業に強く求められていることから、ハラスメントを恐れるあまり、指導自体を難しく感じてしまう管理職も増えていると考えられます。現在の管理職が若手の頃に経験してきた先輩や上司からの厳しい指導方法が、今の社会ではマッチしないケースもあります。
他の業務に追われて指導の時間がとれない
プレイングマネージャーとして業務をおこなう管理職の場合、部下を指導しながら通常業務もこなさなければなりません。そのため、とくに通常業務が忙しい時期は、部下を指導するための時間が十分にとれないケースもあるでしょう。その結果、部下に対して十分な指導ができなかったり、管理職が長時間労働を強いられたりすることも考えられます。
部下の指導における心構え
部下の指導にあたっては、指導する側の心構えが非常に重要です。まずは管理職が率先して安心感を与える振る舞いを心がけましょう。部下指導の際に次の4つを意識することで心理的安全性が確保され、部下との対話や関係性づくりにつながります。
開放
「開放」の姿勢により、部下は「なにを言っても大丈夫」という安心感を得られます。日頃から部下の話を傾聴し、どのようなことも受け入れるという意識をもちながら接しましょう。
具体的な例として、定期的な面談や雑談の時間を設けて部下から意見や悩みを気軽に話せる環境を整えること、部下の意見を尊重してフィードバックを適切におこなうことなどが挙げられます。
支援
「支援」の姿勢は、部下に「助け合えるから大丈夫」という安心感を与えます。管理職一人だけでは支援できる範囲に限界があります。そのため、チーム全体での協力体制を整えていくことが大切です。
たとえば、部下が困っている場面に直面したときには、周囲のメンバーが積極的にサポートできる環境を作りましょう。また、困ったときに誰に相談すればよいかを明確にし、スムーズに支援を受けられる体制を整えることも重要です。
挑戦
「挑戦」をサポートする姿勢は「失敗しても大丈夫」という安心感を与え、部下の挑戦意欲を高めることができます。部下が新しい業務やプロジェクトに挑戦する際には、失敗を恐れずに取り組めるように環境を整えるようにしましょう。
具体的には、失敗した場合でも、それを責めずに次にどう改善すればよいかを一緒に考える姿勢をもつことが重要です。
異見
「異見」を尊重する姿勢は「異なる意見を出しても大丈夫」という安心感につながります。部下が異なる意見をもつことは自然なことであり、それを歓迎するようなチームをつくっていきましょう。
たとえば、定期的に意見交換の場を設けて部下が自由に意見を発表できる機会を提供したうえで、出された意見をしっかりと聞き取り、建設的なフィードバックをおこなうようにしましょう。これにより、部下は自分が尊重されていると感じ、モチベーションが向上します。
部下の指導に必要なスキル
部下の指導にはさまざまなスキルが求められます。効果的な指導をおこなうための主なスキルをいくつか紹介します。
ティーチングスキル
ティーチングスキルは、部下に対して具体的な知識や技術を教える際に不可欠なスキルです。ティーチングの際は、WHY、HOW、WHATを明確に伝えることや指導し実行した後に、フィードバックすることなどが重要です。
効果的なティーチングをおこなうためには、相手の理解度に合わせた説明が求められます。たとえば、専門用語を使わずに平易な言葉で説明する、段階的に難易度を上げるなどを意識しましょう。
コーチングスキル
コーチングスキルは、部下が自ら考えて行動できるようにサポートするためのスキルです。コーチングでは、答えを与えずに質問を通じて相手の考えを引き出し、自己成長を促します。
まず、重要なのは「質問スキル」です。適切な質問を投げかけることで、部下が自身の考えを整理し、新たな視点を得られます。
次に、「承認スキル」も重要です。部下が努力や成果を上げたときに、その行動を認めて言葉で伝えることで、良い行動を強化し、習慣化させることができます。これにより、部下は自信をもち、さらに成長する意欲が湧いてくるでしょう。
傾聴スキル
部下指導においては部下の考えや能力などへの理解が不可欠です。それらを理解しなければ、部下一人ひとりに合わせた効果的な指導ができないためです。
部下を理解するために重要なのが「傾聴」です。傾聴とは相手の立場に立ち、共感しながら話を聞くこと。傾聴をすることで、部下の言葉の裏にある意図や気持ち、思いなどに気付きやすくなります。
フィードバックスキル
フィードバックスキルは、部下を指導する際に欠かせないスキルです。適切なフィードバックをおこなうことで、部下は自己改善のポイントを理解しやすくなり、モチベーションも向上します。
また、良い点もあわせて伝えることで、部下の自信を育て、前向きに改善に取り組む姿勢を促すことにもつながるでしょう。こうしたフィードバックスキルを磨くことで、部下の成長をいっそうサポートすることができます。
部下指導におけるフィードバックの具体例
部下指導で効果的なフィードバックをおこなうためには、次に紹介する3つのポイントを押さえることが重要です。
1.フィードバックの目的を明確にする
フィードバックを通じて「組織としてなにを実現したいか」「部下にどういう姿になってもらいたいのか」を明確にイメージしましょう。
2.適切なタイミングでおこなう
フィードバックをおこなう際は、指摘対象となる事象が起きてすぐに伝えることが大切です。早い段階でフィードバックができれば、相手もそのときの状況や行動をより鮮明に振り返れます。
3.具体的かつ定量的に伝えることを心がける
フィードバックの内容はできるだけ具体的にし、数字やデータなどを用いて定量的に伝えるよう心がけましょう。
部下の指導における悩みを解決するためのポイント
部下の指導における悩みを解決し、効果的に指導するためにはどのようなポイントを心がけるべきなのでしょうか。上記で紹介した悩みに対応する解決のポイントを紹介します。
フィードバックを工夫し部下のモチベーションを維持する
部下がなかなか育たないという悩みに対しては、フィードバックの仕方を工夫し、部下のモチベーションを適切に管理することが解決策の一つとなります。
フィードバックは主に課題や改善点を伝えるケースが多いですが、あわせて部下の良い点も評価して伝えることで、モチベーションを維持しやすくなります。また、タイムリーにフィードバックをおこなうこともポイントです。
課題や改善すべき点を伝える際には、単なるダメ出しで終わるのではなく、改善するための具体的な方法やアドバイスを提供することが重要です。部下に寄り添い、一緒に改善していくことが理想的なフィードバックの仕方といえるでしょう。
それでも部下のモチベーションが上がらない場合、今の仕事との適性が合わずに悩んでいることも考えられます。そのようなときは、部下がどのような仕事をしたいのか希望をヒアリングしてみましょう。部下に対してつねに関心をもつことで、部下本人は「上司や先輩は自分のことを気にかけてくれている」と感じ、モチベーションの向上につながる可能性があります。
指導方法の原則を理解する
効果的な指導方法が分からず悩んでいる場合には、指導方法の原則を理解することが重要です。部下の成長を促すために褒めることは重要ですが、重大なミスや事故に繋がる危険性がある場合などは、厳しく指導することが求められます。
しかし、行き過ぎた指導はパワーハラスメントととらえられることもあるため、適切な指導とパワーハラスメントの違いを明確に理解し、正しい指導方法を身につけることが求められます。
たとえば、部下の尊厳や人格を傷つける言葉を発したり、管理職の個人的な感情に任せて叱ったりすることはハラスメントにあたる行為といえます。事実にもとづいて適切に指導することが重要であり、個人的な感情やストレスをぶつけることがないようにしましょう。
また、上司と部下の信頼関係が構築されていないと、部下を叱っても受け入れてくれないこともあります。そのため、日頃から部下とコミュニケーションをとり、信頼関係を構築しておくことが大前提といえます。
定期的な面談を実施する
部下の成長を促すためには、定期的な面談が欠かせません。面談を通じて部下の進捗状況や抱えている課題を把握し、適切なアドバイスや支援をおこなうことが重要です。
面談は定期的におこなうことで、部下とのコミュニケーションが円滑になります。月に一度など、一定の頻度で面談を設定し、状況を確認しましょう。これにより、部下はいつでも相談できる環境が整い、安心して仕事に取り組めます。
次に、面談の際には部下の話をしっかりと聞く姿勢をもちましょう。部下の意見や困りごとを受け入れ、それに対して具体的なフィードバックをおこなうことが信頼関係の構築に繋がります。部下の意見を尊重し、ともに問題解決に取り組むことで、モチベーションが向上します。
最後に、面談の目的を明確にし、成果や目標達成のための具体的なアクションプランを共有しましょう。これにより、部下はなにをすべきか明確になり、成長の方向性が見えてきます。定期的な面談を通じて、部下の成長をサポートし、効果的な指導をおこないましょう。
部下に合わせた指導方法を取り入れる
部下の性格や考え方は人それぞれです。また、業務の習熟度や適性によっても効果的な指導の仕方は異なります。部下を成長させていくためには、すべての部下に対して画一的な指導をするのではなく、相手に合わせた指導方法を取り入れることが重要といえるでしょう。
相手によって指導方法を変える場合に参考になるのが、「SL理論」とよばれるものです。これは、部下の成熟度によって有用なリーダーシップのスタイルが変化するという理論で、「指示型」「説得型」「参加型」「委任型」の4つのスタイルに分類されます。
たとえば、新入社員など習熟度が浅い社員に対しては、業務を細かく具体的に指示する「指示型」、一定の業務経験を積んだ若手社員に対しては相手を説得しながら目標達成を目指す「説得型」の指導方法が適していると考えられます。
適切に権限委譲をする
通常業務に追われ、部下の指導に十分な時間がとれない場合には、部下に対して権限委譲をすることも検討してみましょう。部下にとっては業務を任されることにより、責任感や仕事へのやりがいを得られ、仕事を通して成長に繋がっていくこともあります。
上司に指示されてから動くのではなく、仕事に対して自律的に行動できる社員が増えるほか、「こうしたほうがよいのではないか」と自発的に業務改善の提案をする社員も出てくるでしょう。
ただし権限を委譲する際には、部下の適性や業務の習熟度などを見極め、適切に割り振ることが重要です。適切な権限委譲をすることは、上司と部下の信頼関係の構築にも役立ち、フィードバックなどの指導もしやすくなります。
効果的な部下指導の方法
部下がミスをしたときや、指示に従わなかったときなどには、管理職や上司の立場として厳しく指導することもあるかもしれません。しかし、それだけが効果的な指導方法といえるのでしょうか。管理職や指導する立場の社員が押さえておきたい、効果的な指導方法の例を紹介します。
同じミスを繰り返す部下への指導
仕事で同じミスを繰り返す部下がいた場合、部下自身がミスの理由や原因をわかっていない場合もあります。このような場合は、部下自身を責めるのではなく、なぜミスが発生してしまうのか、それを解決するにはどうすればよいのかを一緒に考えることが重要です。
このような場合は、部下自身を責めるのではなく、なぜミスが発生してしまうのか、それを解決するにはどうすればよいのかを一緒に考えることが重要です。
たとえば、ミスをしたときの行動を一緒に振り返ってみる、ミスを繰り返さないための対策をデスクの見える位置にメモで残しておくなどの方法が考えられます。
同じミスを繰り返すことによって他のメンバーや関係部署にも影響があることや、なによりも部下本人にとって、解決しなければならない課題であることも理解してもらう必要があります。
指示に従わない部下への指導
上司や先輩社員の指示に従わない部下がいた場合には、まずはその理由を聞いてみましょう。
たとえば「仕事のやり方に納得できない」など、さまざまな不満を抱えている場合もあります。このような場合、上司や先輩社員からの一方的な指示に従わせるのではなく、まずは部下が抱えている不満をよく聞いたうえで、それを解決するためにはどうすればよいのか、意見を求めてみましょう。もし、提示された対案が今の仕事の進め方よりも効率的・合理的なものであれば、受け入れることも重要です。
一方、部下から対案を提示されたものの、上司の立場からは「その仕事の進め方では難しい」と思えることもあるでしょう。だからといって、頭ごなしに否定するのではなく、まずは部下にその進め方を体験させたうえで、今の仕事の進め方や指示に納得してもらうという方法もあります。
また、指示に従わない理由の一つとして、業務指導が抽象的で、部下に伝わっていないケースも考えられます。そのような場合には、「いつまでに、なにを、どのように」といった具体的な指示を出すようにしましょう。見本となるような成果物の例を提示すれば、部下にとってもわかりやすく、参考にしながら業務に取り組めるはずです。
信頼関係を構築して個々にあった効果的な部下指導を
部下に対して効果的な指導をおこなうことで、部下を成長させることはもちろん、指導時間の短縮にもつながります。部下が成長すれば部署やチーム全体の生産性が向上し、管理職は部下への指導に充てていた時間を他の業務に充てることもできるでしょう。
そのためには、日頃から部下との信頼関係を構築することが前提となります。今回紹介した指導方法の例を参考にしながら、部下との接し方を振り返り、今後の指導に役立ててみてはいかがでしょうか。
<出典>
※1. 厚生労働省:平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-