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【研究員コラム】リーダーシップ研究の歴史~リーダーシップは開発できるのか?~

2021年04月27日更新

目次 【表示】

はじめに

近年、テクノロジーの急速な進展やグローバル競争の激化、そしてコロナ禍でビジネス環境がめまぐるしく変化する時代において、企業は変革を求められています。そのため、組織を牽引し、目標達成に導くようなリーダーシップの重要性はますます高まっています。

また、リーダーシップの発揮は、コラム『リーダーシップとは?定義や理論、とるべき行動』にもあるように、組織の経営を担う層や管理職だけにとどまらず、一般社員にも求められるようになってきました。そしてリーダーシップは、開発ができるとも言われています。

本コラムでは、リーダーシップの開発に向けて、改めてどういったポイントがあるのか、リーダーシップ研究の歴史なども整理しながら、お伝えします。

リーダーシップとは

リーダーシップとは指導力、統率力などと表現されることが多く、一般的には組織の中で目標を定め、組織を維持しながら成果を出す能力を意味します。求められるリーダー像はそれぞれの組織で差がある分、さまざまな定義や理論が語られています。

リーダーシップの変遷(1900年代~現代)

リーダーシップの研究は世界中でさまざまな観点で行なわれています。まずは、リーダーシップ研究が始まったとされる1900年代~現代までどのようなリーダーシップ論があり、どういった変遷があったのかを確認していきましょう。

①リーダーシップ特性理論
1940年代まで、リーダーシップは先天的なもので生まれつき備え付けている、なにかしらの特性があるはずで、それを解き明かしていこうという考え方が主流でした。ここでいう特性とは、知能、外向性、雄弁などのほか、身長、体重に至るまで多岐にわたります。主な提唱者は以下の通りです。

・「英知を持ったリーダーこそ国を治めるべきである」:プラトン『鉄人リーダー論』
・「優れた資質を持つ偉人がリーダーになる」:カーライル『偉人説』
・「リーダーシップは①創造力、②人気、③社交性、④判断力、⑤積極性、⑥優越欲、⑦ユーモア、⑧協調性、⑨活発性、⑩運動能力と高い相関がある」:ストックディル『特性論』

②リーダーシップ行動理論
1940年代後半あたりから、そもそも人々の特性は測定・評価が難しく、特性があっても成果を出せないリーダーなど、不透明な部分が多くありました。そのため、特性理論に代わり、リーダーの行動スタイルに着目した考え方、すなわち「行動理論」が主流となってきました。主な提唱者は以下の通りです。

・「リーダーの行動は“配慮”と“構造作り”に大別できる」:シャートル『オハイオ研究』
・「組織は目標達成(Performance)とチームの維持強化(Maintenance)で動く」:三隅二不二『PM理論』
・「リーダーシップには専制型・民主型・放任型がある」:レヴィン『リーダーシップ類型』

③リーダーシップ状況適応理論
リーダーが置かれている「状況」によって、リーダーシップは変わるのではないかという考え方で1960年代あたりから出てきました。特性理論や行動理論のような普遍的なリーダーシップは存在しないという立場であり、内的・外的環境の状況次第でリーダーシップを変化させるという理論です。主な提唱者は以下の通りです。

・「与えられた状況下で目標達成の為に集団に影響を与える過程がリーダーシップである」:フィードラー『条件即応理論』
・「部下の習熟度に合わせ、リーダーシップのあり方は変わる」:ハーシー・ブランチャード『SL理論』

④コンセプト理論
1980年代以降、状況適応理論をベースとしながらも、その状況・要素はより分解していく必要があるということから、ビジネス環境や組織・メンバーといった集団によって発生する、さまざまな状況におけるリーダーシップ研究が盛んになってきました。たとえば、アメリカ経済の長期低迷などによって、既存の価値観や管理・命令型では企業成長ができないという不安が高まる中で出てきた「カリスマ的リーダーシップ論」が挙げられます。下記のような理論が有名です。

・「高い水準の自己信頼と部下からの信頼がリーダーには必要」「リーダーはビジョンを提示し、リスクをとり、現状を正しく評価せよ」:ハウス/コンガ―、カヌンゴ『カリスマ的リーダーシップ論』
・「ビジョン提唱に加え、外向きな対人態度かつエネルギッシュであれ」:ジョン・コッター『変革的リーダーシップ論』

以上が、リーダーシップ論の変遷になります。さまざまなリーダーシップ論は存在しますが、こうした経緯を経て、今があるということです。

そしてリーダーシップ「開発」へ

「特定の一人がリーダーの役割を担うのではなく、組織メンバーそれぞれ必要に応じてリーダーシップを発揮する」というシェアード・リーダーシップの考え方にも代表されるように、今日の環境下においては、リーダーシップの発揮は誰しも求められるような時代となりました。

一人のリーダーだけではなく、誰もがリーダーシップを身につける必要があるということです。それに伴い、リーダーシップそのものを分析したり、発生の経緯を体系化するだけではなく、リーダー育成の方法を実践的に研究する動きも出てきました。

その代表的なものがマッコールの『リーダーシップ開発論』です。マッコールは、リーダーシップは仕事経験から培われるとし、「適切な経験を積ませる」ことで、リーダーを開発できると提唱しています。裏を返せば、「経験から学ぶことができる」という特性がリーダーには求められるということですが、このようにリーダーシップは先天的なものではなく、後天的に開発できるものだという現在の論調に至ります。

リーダーシップ開発に必要なこと

どのような経験が必要なのか?

リーダーシップは「経験を積む」ことと「その経験から学ぶ」というサイクルを回すことで開発されると考えられます。では具体的に、「経験」にはどのようなものがあるのでしょうか。リーダーシップ開発を促す「経験」はさまざまありますが、マッコールの提唱通り「経験」によりリーダーシップの開発が促進されるという前提にたって、ここではその代表的なものを挙げてみましょう。

①人事異動
転勤、配置変え、昇進・昇格、出向などのことです。新しい環境に身を置き、視座が変わることなどで経験が積まれていきます。近年、より適切に人事異動を行なうために、各ポジションごとの要件を明確化する企業も増えてきています。

②キャリア開発(ロールモデル)
自身の中で目指したい、理想とするような人物像とともに仕事をするような経験です。たとえば、経営者の近くで仕事をする機会などがあり、経営の疑似体験ができた、といったような事例です。最近では、社内におけるハイパフォーマーなどを分析し、意図的なロールモデルの創出を試みる企業も出てきました。

③ゼロからの立ち上げ・立て直し
新規部署の立ち上げや、不採算部門の立て直しなど、通常とは異なる組織などにおける仕事経験のことです。機能していないものを機能させるという、一般的または完成された組織などでは得難い経験を指します。

その他、プロジェクトへの参画、仕事におけるトラブル・失敗、初期の仕事経験、教育研修なども挙げられます。このような数多くの経験を「意図的に」提供できるかどうかが、経営者・人事担当者などの腕の見せどころといえるでしょう。たとえば人事異動の際に、人員不足をパズルのように埋めるといったような話はよく耳にします。

しかし、それだけではなく、その異動が本人にとってどれだけ視座を広げられるのか、新しい挑戦ができるのか、といった視点も重要だということです。

経験から学ぶためには?

一方で経験を積む機会に巡り合えたとしても、そこから学ぶことができなければリーダーシップの開発は難しくなります。では、経験から学ぶためにはどのようなことが必要なのでしょうか。

まず重要なのは、個人でしっかりと内省(リフレクション)を行なうことです。経験したことを客観的に振り返り・考察し、次へ繋げていく習慣を身に付けておくことが求められます。また個人で行なう内省は、文字に起こすことで促進されるといわれるため、仕事の経験そのものであったり、そこからの内省できた内容を、シートやツールなどに記録・蓄積していくことも推奨されるでしょう。

次に、そうした個人の内省を促せるような上司の存在もまた重要です。教育研修など人事施策を除くと、基本的に経験は「現場」で得られるものです。ゆえに、現場上司からの日常的な内省促進が極めて大切な要素となります。

たとえば、1on1をはじめとする面談の機会が日常的に設定され、内省は促される環境にあるのか、仕事経験に対する上司の指導・フィードバックスキルは十分なのか、といった部分を経営者・人事担当者としてはまず確認していくことが望ましいかもしれません。経験学習サイクルを回せる環境を整えていくことで、リーダーシップの開発が促進されると考えられます。

まとめ

長らくお話して参りましたが、最後に改めてリーダーシップ開発のポイントをまとめたいと思います。

まずは前提の理解が大切です。「リーダーシップは誰でも発揮できる(すべき)」ということ、そして「リーダーシップは先天性のものではなく“開発できる”」ということ。この前提を、経営者から一般の社員まで、共通して認識できるとよいでしょう。

そして、従業員(次世代のリーダー)に対する経営者・人事担当者による意図された「経験を積む機会」の提供です。あわせて、「その経験から学ぶ能力(学びを促進させる上司の能力)」を向上させるような支援も必要だと考えられます。

変化の激しい時代の中で、一人ひとりのリーダーシップの発揮は今後もより求められることでしょう。これを機に、改めて本格的なリーダーシップ開発に向けた検討を始めてみてはいかがでしょうか。

<執筆>
HR Trend Lab研究員(リーダーシップ):田口、山本

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