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事業継続や事業創造に求められるリーダーとは~どのように採用・育成するか~

2021年07月09日更新


一橋大学大学院経営管理研究科 准教授/佐々木 将人氏(右)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発部 部長 土屋 裕介(2023年11月時点)(左)

テクノロジーの急速な進展やグローバル競争の激化、そしてコロナ禍――ビジネス環境がめまぐるしく変化する時代において、企業は変革を続けていく必要がある。そうした中で、組織を牽引し、目標達成に導くリーダーの存在は、非常に重要だといえよう。では、組織を成長させるリーダーとは、どのような人材なのだろうか。またそうしたリーダーを、組織の内外で、どう選抜・育成すべきか。そして、リーダーが能力を発揮できる組織の在り方とは、どのようなものか。

日本企業を対象とした組織行動の研究を進める一橋大学准教授・佐々木将人氏に、マイナビの土屋裕介がうかがった。

目次 【表示】

リーダーとは、戦略を策定する力と、人を動かす力を高いレベルで持つ存在

土屋 裕介(以下、土屋):本日は、リーダー人材の選抜と育成というテーマで、佐々木先生とお話しをさせていただきたいと思います。まずは、佐々木先生の専門領域について教えていただけますでしょうか。

佐々木 将人 准教授(以下、佐々木氏):経営戦略を実行するための、組織デザインを研究しています。これまでは、マーケティングと営業部門や、海外現地法人と本社など、部門間の関係性がどのようにすれば円滑に進むのか、調査・分析を行ってきました。最近では、新規事業開発部門と他の事業部との関係などについての研究を進めています。

リーダーシップは、経営学の中では個人に焦点をあてた研究です。私はそれよりも、マクロな視点で組織設計を研究しています。しかし、組織に対してリーダーシップの影響は大きいため、必然的にリーダーシップと組織の関係についても注視しています。

土屋:リーダーシップについてお話しを進める前に、今回の対談の前提といえるリーダーやリーダーシップの定義について、先生の認識をお伺いしたいと思います。私は、優秀なリーダーとは「戦略を策定する力」と、「人を動かす力」、その両方を高いレベルで持ち合わせている人材だと理解していますが、先生のお考えはいかがでしょうか。

佐々木氏:土屋さんと同じ考えです。戦略や変革のビジョンを策定し道筋を示す力に加えて、その戦略に向けて人に動いてもらえるように力を引き出す、それがリーダーだと考えています。それに対してリーダーシップは学術的な定義では少し狭く、人を動かす力を指します。また、リーダーはポジションや役職であるのに対して、リーダーシップには階層は関係ありません。

土屋:リーダーシップにも、さまざまなタイプがありますね。

佐々木氏:1960年代に、三隅二不二(みすみ じゅうじ)により提唱された「PM理論」は、リーダーシップが、やるべきことを部下に明示して達成する「目標達成能力(P機能)」と、人間関係を良好に保つ「集団維持能力(M機能)」の能力要素で構成されるというもので、この2つの能力要素は今でもリーダーシップのタイプ分類における不動の2軸です。

それ以降、高いビジョンを示して組織の変革を推進する「変革型リーダーシップ」や、道徳的な価値観を示す「オーセンティックリーダーシップ」、そして部下を支援しながら力を引き出す「サーバントリーダーシップ」といったスタイルが議論されてきました。

土屋:リーダーシップのスタイルによって求められるスキルや素養が変わります。それらは、後天的に開発が可能なのでしょうか。

佐々木氏:後天的にスキルとして獲得可能なものと、先天的な素養が強いリーダーシップスタイル、両方あります。たとえば、PM理論の「目標達成志向」と「集団維持志向」のリーダーシップスタイルは、どちらも事業の業績に強い正の影響を示すことが過去の研究からも明らかになっていますが、これを本社の施策でどの程度コントロールできるかという調査を、過去に実施しました。その結果、本社が業績に連動した報酬を設定するなど、コントロールできる仕組みを持っている場合、事業部長の目標達成志向のリーダーシップの向上には非常に効果的だということがわかりました。

これは、リーダーシップの要素のうち目標達成能力は、適切なトレーニングやインセンティブの仕組みで後天的に開発が可能であることを示唆した結果と言えるでしょう。一方で、集団維持志向のリーダーシップには、効果が見られませんでした。集団維持志向のリーダーシップでは、集団の人間関係を重視してチームワークを強化、維持することが求められます。このようなリーダーシップスタイルには、人によって向き不向きがあるのだと思います。

有効なリーダーシップスタイルにはさまざまなスタイルがあることが知られているので、本人の特性にもとづいて、その人なりの「人を動かす」スタイルを考えていく必要があります。

事業の創成期にはリーダーの影響力が大きいが、組織の拡大に伴って仕組みを整えることも大事

土屋:続いて、事業や組織において求められるリーダー像についてお話ししていきたいと思います。先ほど、リーダーの大きな定義として、戦略策定力と、人を動かす力を併せ持つ人材というお話しがありましたが、組織のステージによって、求められるリーダーの要件は違うように思えます。たとえば、既存の組織を動かすリーダーと、新規事業開発で求められるリーダーは、それぞれどのようなものでしょうか。

佐々木氏:既存事業の方は、ある程度大きな組織を動かすため、そこで求められるのはしっかりと収益を立てられるかどうか。そして、競合がいる中でいかに差別化をして勝っていくのか、そうした戦略を策定できる力だと思います。それに対して新規事業では、市場そのものをどう立ち上げられるか、そこが重要なポイントですね。

土屋:戦略策定能力が非常に高い人材であれば、どのような事業のステージであっても対応できるように思えるのですが、いかがでしょうか。

佐々木氏:戦略策定能力がどの戦略にも有効かというと、そうとは限りません。事業を立ち上げる時の戦略、大きく伸ばすための戦略、そして安定期、衰退期の戦略は、同じ「戦略」といっても性質が大きく異なります。また、リーダー本人が、どのステージが好きか、ということも重要です。

ある企業では、新規事業が軌道に乗って事業のステージが変わる際、その事業を立ち上げた人に、そのままリーダーを続けるのか、あるいは別の事業立ち上げを望むのか、本人に選ばせているそうです。

土屋:たしかに、新規事業と既存事業で求められるリーダーの要件が違うという前提に立てば、事業のステージごとに適切なリーダーを見出し、配置するのが理想です。企業は、リーダーの資質を正しく把握し、いつまで同じ人に事業を任せるのかといった判断をする必要がありますね。

新規事業の成長という文脈でもう一つ伺いたいのですが、新規事業が成長していくと、ミッションの共有やメンバーのリテンションが難しくなると感じます。そこを従来とは違う方法で突破し、さらに成長していくには、なにが必要なのでしょうか。

佐々木氏:新規事業の経験者や、ゼロイチが好きな人だけで事業を手掛けているうちは、組織の仕組みはそれほど必要ではありません。ビジョンを共有すれば、みんなが規律的に動くことができます。しかし、組織が大きくなると、未経験者が入ってきます。彼らには明確な仕組みが必要です。職務を明確にしたり、人事評価の仕組みを分けたりしなければ、後から参加する人はフィットすることができません。

未経験者に仕組みが必要だということは調査でも明らかになっています。以前、新規事業開発組織において、職務に対するメンバーの「自己効力感」(自分がうまくできるという認知)が、なにによって左右されるかについて、アンケート調査をしました。

具体的には、個人の特性として、その人が新規事業を経験したことがあるか(経験)、新しいことが好きか(性格)、を取り上げ、組織の施策としてトップが支援しているか(トップの支援)、評価方法や手続きなどの仕組みが既存事業と分かれているか(仕組みづくり)、を取り上げて、自己効力感との関係を見ていきました。

すると、これら4つの要因は、いずれも自己効力感を高める上で重要であることがわかりました。ただし、経験や性格が新規事業に適している人の自己効力感は、トップの支援には左右されるが、仕組みづくりには左右されないことがわかりました。他方で、経験のない人は、仕組みづくりの有無が大きく自己効力感を左右するという結果が出たのです。

【図】アンケート調査の結果

土屋:なるほど。ある程度の規模に成長したら、仕組みを分けて役割を明確化する必要がある。さもなければ、新しく入ってきた人たちが自分に自信を持って働くことができず、組織が瓦解しかねないということですね。

佐々木氏:そうですね。新規事業を立ち上げて、ある程度まで育てていくには、リーダー個人の影響が非常に大きいです。ただ、組織が安定的に成長し続けるためには、会社の仕組みも必要になります。

土屋:人と仕組みの両輪ですね。また、事業立ち上げにリーダー個人の影響が非常に大きいということであれば、経営トップが新規事業のリーダーを信じて任せられるか、ということも大切ですね。

リーダーを内部から抜擢するか、外部から採用するか

土屋:事業のステージごとに求められる戦略の性質は異なり、それゆえ必要なリーダー像も異なるというお話しでした。では、リーダーの選抜についてはどうお考えですか?

佐々木氏:新規事業の組織に必要なリーダーと、既存事業の組織に必要なリーダーが異なるからといって、単純に違う人を抜擢すればそれでいいのかというと、そうではありません。評価の仕組みなどから変えていかなければ、組織としてうまく回っていかないのです。そうなると、職務を明確化したり、新規事業のフェーズに合わせた人事評価の仕組みを作ったりと、個人の能力を活かす土台を作ることが、これからの企業には必要になってくると思います。

土屋:まさにタレントマネジメントですね。タレントマネジメントで人材を抜擢するには、企業の価値観から変えていかねばならないため、腰を据えてやっていく必要があります。

また新規事業で活躍する人は、既存の評価軸には当てはまらない、尖った人が多い印象があります。そういうリーダーをいかにして発掘すべきか、難しい問題です。会社側が、パーソナリティ、スキル、経験などの軸で、新規事業のリーダーのペルソナを設定して、それに当てはまる人材を探すというのも一つの方法ですが、佐々木先生はどうお考えでしょうか。

佐々木氏:興味のある人が手を挙げて挑戦できる、社内公募制度は有効だと思います。このとき、上司を経由せずに、手を挙げられる仕組みにすることが大事ですね。既存事業での評価軸で見てしまうと、尖った人材が埋もれてしまう可能性が高いですから。

他にも、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を設立して、スタートアップに投資している大企業では、投資先に若手人材を送り込んで、未来の新規事業リーダーを育成することもできますね。

土屋:まさに当社でも、投資先に社員を派遣するという事例があります。企業の内部にいる人材の中から、やる気がある人を発掘したり、育成したりして、新規事業のリーダーに抜擢する方が、日本企業にはフィットするのかもしれませんね。

佐々木氏:外部から採用するという手ももちろんありますが、採用の段階で事業サイドはOKを出しても、人事でNGとなる可能性があることには気をつけるべきですね。事業サイドでは「この人は新規事業のリーダーにぴったりだ」と思っていたとしても、人事は「新規事業の組織がなくなった後、この人は既存事業で働き続けることができるか」という視点でスクリーニングをします。つまり、新規事業にも既存事業にもフィットする人材でなければ、採用に至らないのです。

土屋:まったく異なる視点でのスクリーニングを両方通過できる人材が果たしているのか、いたとしても入社してくれるか、非常に難しい問題ですね。これは、先ほど佐々木先生がおっしゃったように、既存事業と新規事業の仕組みや評価軸を分けて考えるといいのでしょうか。

佐々木氏:そうですね。そもそも外部から新規事業に参加しようという尖った人の多くは、特定の会社で長く勤め上げようとは考えないはずです。だから、仕組みを変えれば外部から採用できる可能性も高まるでしょう。

土屋:日本企業が新規事業を立ち上げる場合、外部からプロフェッショナルを採用してくるのと、内部から抜擢するのとでは、どちらが有効だと考えますか。

佐々木氏:瞬間的に新しいものを持ち込みたい場合は、外から持ってくる方がいいと思います。しかし、長期的に腰を据えて取り組むのであれば、内部の人材を活用しつつ、仕組みを分けていく方が、組織づくりとしてはいいでしょう。ただ、成果を出すには時間がかかります。その時間をどれだけ、会社やトップが許容できるのか、それも重要な問題です。

もう一つ、注意していただきたいのが、万能なリーダーを求めないということです。企業の戦略や目指す方向によって、必要なリーダー像は異なります。そこを明確にしなければいけません。

土屋:たしかに、リーダーは全知全能を求められがちですね。私もリーダーとして、部下に「何でもできるでしょう」と思われて戸惑う場合があります。

佐々木氏:リーダーの能力と影響力について、本人の評価と部下の評価の乖離を測定したおもしろい調査があります。それによると、仕事の業績や人間関係への配慮などに関しては、リーダーが思っているほど部下は評価していないことがわかりました。とくに、企業規模が大きくなればなるほど、その傾向は顕著です。他方で、リーダーの影響力に関しては、本人が思っている以上に部下は評価しているという結果でした。良くも悪くも、リーダーのパワーは過大評価されがちということです。

土屋:本日お話しを伺って、学術的に研究されているリーダーと、私たちがビジネスの現場で捉えているリーダーは、それほど違わないことが分かったのも大きな収穫です。当社では、アカデミックの世界と協力して、組織開発や人材育成に関する研究やサーベイを行っていますが、それには大きな意義があると実感できました。

佐々木先生、本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

<プロフィール>
佐々木 将人
一橋大学大学院経営管理研究科 准教授
2008年に一橋大学大学院商学研究科博士後期課程を単位修得退学し、武蔵野大学政治経済学部専任講師、一橋大学大学院商学研究科講師を経て、2013年より現職にある。博士(商学)。研究上の主たる関心は、組織メンバー間の意識の分化と組織デザインの関係にある。具体的には、日本企業を対象とした組織構造や組織行動、マーケティング活動についての質問票調査データを用いた定量的研究を中心に研究をおこなってきた。近年は、新規事業開発組織やイノベーションと組織デザインの関係に焦点を当てて研究をおこなっている。

土屋 裕介
株式会社マイナビ
教育研修事業部 事業開発部 部長
大学卒業後、不動産会社の営業職を経て、国内大手コンサルタント会社入社。人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に(株)マイナビ入社。マイナビ研修サービスの商品開発の責任者として、「ムビケーション研修シリーズ」「各種アセスメント」「ビジネスゲーム」「タレントマネジメントシステム crexta(クレクタ)」など人材開発・組織開発をサポートする商材の開発に従事。10年以上にわたり一貫してHR領域に携わる。主な共著に「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?~エンゲージメントで”働く”を科学する~」(プレジデント社)「タレントマネジメント入門 個を活かす人事戦略と仕組みづくり」(ProFuture社)。
※記事中の役職名は2023年11月のものです。

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