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心理的安全性を高めるには?定義や組織に与える効果を解説

2025年05月12日更新


チームや組織内の人間関係を示すキーワードとして注目されている「心理的安全性」。「人の心を傷つけずに安心して過ごせる状態」のように解釈されがちですが、実は本当の意味は少し異なります。心理的安全性を高めることで、チームや組織にはどのような効果があるのでしょうか? また高めるためには、どのような方法があるのでしょうか?

心理的安全性の定義、注目される背景をはじめ、心理的安全性が高まることによる効果や、低いと生まれる「4つの不安」、心理的安全を高める方法について見ていきましょう。

心理的安全性とは?どんな状態のこと?

心理的安全性(Psychological Safety)とは、「チームにおいて、『他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰を与えたりしない』という確信を持っている状態。対人関係にリスクのある行動をとったとしても、メンバーが互いに安心感を共有できている状態」と定義されています。

組織行動学の研究者・エイミー・エドモンドソン教授が1999年に論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」で提唱した心理学用語「psychological safety」が訳された言葉です。

心理的安全性が高い状態では、チームのメンバー全員が臆することなく発言・行動できます。「こんなことを言ったら否定されるのでは」「能力が低いと思われるのでは」といった不安や恐怖を感じずに、仕事に取り組める状態ともいえるでしょう。

その状態をつくるために重要になるのが、メンバー同士の関係性です。心理的安全性は、単なる良好な人間関係や、問題が起こらない状態を示すわけではありません。問題や課題も含めてなんでも言い合え、一人ひとりが自分をさらけ出せる関係を築くことが必要なのです。

心理的安全性が注目される背景

アイデアや問題解決のコンセプト
心理的安全性が注目されるようになった2つの背景を紹介します。

Google社の取り組み

アメリカのIT企業であるGoogle社は、2012年から「プロジェクト・アリストテレス」という、効果的なチームの条件を調査するプロジェクトを実施しました。大規模な調査の結果、以下の要素がチームの成功に影響していることが明らかになりました。

【チームの効果性に影響する要素】

心理的安全性
チームの中で意見やアイデアを自由に発言でき、失敗や無知に対して責められないと信じられるか。
相互信頼
メンバー同士が責任を持って業務を遂行し、互いに信頼できるか。
構造と明確さ
役割や目標が明確で、チームとしての方向性が理解されているか。
仕事の意味
自分の仕事やその成果に目的意識を感じられるか。
インパクト
自分の仕事が組織や社会に貢献していると思えるか。

 

参考:「効果的なチームとは何か」を知る|Google re:Work

このなかで、もっとも重要な要素として強調されたのが「心理的安全性」でした。心理的安全性が高いチームでは、メンバーが自由に発言しやすく、互いにサポートし合えるため、離職率が低く、多様なアイデアが生まれ、最終的に高い成果を上げることが調査結果から確認されたのです。

「チームにどのようなメンバーがいるか」よりも「チームがどのように協力しているか」がチームの効果性に大きく影響するという事実は大きな注目を集めました。この調査結果が発表されたことで、心理的安全性は「成功する組織に不可欠な要素」として広く認識され、多くの企業から注目されるようになりました。

VUCA時代の到来

テクノロジーの進化や、経済の変動など、変化が激しく将来の予測が困難なVUCA時代が到来しています。このように、従来の方法や考え方では対応できない複雑な課題に直面することが増える時代において、企業が持続的に成長するためには、以下のような要素が求められます。

  • ・新しいアイデアを生み出す創造力
  • ・チーム全員が情報を共有し、素早く対応する柔軟性
  • ・失敗を恐れずに挑戦する姿勢 など
    • しかし、心理的安全性が低いと、メンバーが挑戦を避けるようになり、指示を待つ文化が生まれやすくなるため、チームの対応力が十分に発揮されない可能性があります。チームがスピード・柔軟性・創造性を発揮するには、まず心理的安全性を確保することが必要です。VUCA時代において競争力を確保するためにも、心理的安全性の高いチームをつくる重要性が高まっています。

      心理的安全性が高まることによる効果

      チームメンバーにとっての効果

      チームを構成するメンバーにとって、心理的安全性が高まることによるもっとも大きな効果は、コミュニケーションに関わる余計なストレスを感じることなく仕事ができることです。

      チームで仕事を進める上で、メンバー間の対話は欠かせません。心理的安全性が高いチームにおいては、メンバーに話しかけるときに「いま話しかけても大丈夫かな」「こんなことを聞いてもいいのかな」といった心配をする必要がなくなります。すると、対話を通じて協力しながら業務を進めるのが日常となるため、パフォーマンスの向上につながるのです。

      メンバーは、自身の存在意義を認識することによって、チームや組織への愛着を持ち、精神的に安定した状態で仕事に取り組むことができます。

      組織にとっての効果

      メンバーの心理的安全性を高めることは、組織にとっても利点があります。メンバー間のコミュニケーションが活発で意義あるものになることで、チームの課題を早期に発見・解決できます

      たとえば、顧客からクレームを受けたとしましょう。心理的安全性の高い組織では、クレームを受けた本人を責めることはなく、上司や同僚が一丸となってカバーします。しかし、心理的安全性がない組織ではクレームを受けたとしても「周囲に相談しづらい」と一人で抱え込んでしまうかもしれません。営業担当者の方は自信を持って営業活動をできなくなり、ストレスフルな状態に陥ります。結果的に組織全体の売上が下がり、生産性を下げてしまう恐れもあります。

      心理的安全性の高い組織は、解決に向けた前向きな議論が生まれやすく、自発的に発展していく特性があります。発展する組織には、やりがいや愛着を持つメンバーが増え、退職率の低下にもつながるでしょう。組織の雰囲気がポジティブだと、入社希望者が増加し、優秀な人材を確保しやすくなる好循環も生まれるのです。

      心理的安全性が低いと生まれる「4つの不安」

      異なる表情が描かれた木製ブロック
      エドモンドソン教授は、心理的安全性が低いことで引き起こる以下の4つの不安と、その不安をもととする行動の特徴にも言及しています。

      • ・無知だと思われる不安
      • ・無能だと思われる不安
      • ・邪魔をしていると思われる不安
      • ・ネガティブだと思われる不安

      「無知だと思われる不安」があると、メンバーはわからないことを質問・相談できなくなります。それによって、対応の遅れやミスにつながる可能性が高まります。

      「無能だと思われる不安」があると、メンバーはミスを報告せずに隠すようになります。それによって問題が隠蔽され、大きなトラブルに発展するまで周囲が気付けない可能性があります。

      「邪魔をしていると思われる不安」があると、メンバーは会議などの場で議論が長引いたり脱線したりすることへの批判を恐れて、自発的な発言をしなくなります。それによって、新たなアイデアや有意義な意見が出る機会を逃す可能性があります。

      「ネガティブだと思われる不安」があると、メンバー間で指摘や否定を避けるようになります。それによって、改善目的の指摘すらされなくなり、抱える課題が解決されないままになる可能性があります。

      チームの心理的安全性を測るには

      メンバー側の視点から測る7つの質問

      心理的安全性の度合いを測る手法として、エドモンドソン教授が提唱している7つの質問をご紹介します。これらの質問に対してポジティブな回答をするメンバーが多いほど、心理的安全性が高いチームと評価できます。この7つの質問は、アンケートなどの形で定期的に実施することで、メンバーの置かれている状況の変化を把握することもできます。

    • 質問①:「チームの中でミスをすると、たいてい非難される」
    • 質問②:「チームのメンバーの間で、課題や難しい問題を指摘し合える」
    • 質問③:「チームのメンバーは、自分と異なることを理由に、他者を拒絶することがある」
    • 質問④:「チームに対してリスクのある行動を取っても安全である」
    • 質問⑤:「チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい」
    • 質問⑥:「チームメンバーは誰も、他人の仕事を意図的におとしめるような行動をしない」
    • 質問⑦:「チームメンバーと一緒に仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる」
    • ①③⑤については、度合いが低い(Noが多い)ほどポジティブと捉えられる設問、②④⑥⑦については度合いが高い(Yesが多い)ほど、ポジティブと捉えられる設問です。

      リーダーの視点からチームの状態を測る3つのサイン

      エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性が高い場合に現れる3つのサインについても言及しています。リーダーの立場からは、チームの状態をセルフチェックするポイントとして、これらの視点を意識することをおすすめします。

      • ・サイン①:チームメンバーが次のような言葉を口にする。
        • 「私たちはみな互いに尊敬し合っている」
        • 「誰かがあることを気掛かりに思うと、みんなでそれに取り組むことができる」
        • 「グループの誰もが、プロジェクトに対して責任を持っている」
        • 「職場で仮面をかぶる必要がない。ありのままの自分でいられる」
      • ・サイン②:メンバーが、成功だけでなく、失敗や問題についても話をする。
      • ・サイン③:職場が笑いとユーモアを促しているように思われる。

      心理的安全性を高める方法【組織ができること】


      メンバーが安心して発言や挑戦できる環境を整えることは、心理的安全性を高めるうえで重要なポイントです。組織として取り組める具体的な方法を紹介します。

      1on1の実施

      1on1は、上司と部下が定期的に1対1でおこなう面談です。1on1では、上司が部下の話に耳を傾ける姿勢(傾聴の姿勢)を持つことが前提となるため、部下にとっては「自分の発言を否定されない」という安心感が生まれます。さらに、1on1を継続的に実施することで、上司と部下の間に信頼関係が築かれ、コミュニケーションが円滑になります。部下が安心して意見を言いやすくなるため、組織全体の風通しが良くなる効果が期待でき、心理的安全性の向上に効果的です。

      OKRによる目標管理

      OKR(Objectives and Key Results)は、目標(Objectives)と、それを達成するための主要な成果(Key Results)を設定する目標管理手法です。主要な成果(Key Results)では、60〜70%の達成を想定した「ややチャレンジングな目標」を設定することが特徴であり、この目標達成度は基本的に報酬とは連動させません。これにより、失敗を過度に恐れることなく、挑戦する姿勢を組織全体で後押しする雰囲気が生まれます。

      さらに、OKRでは組織の目標と個人の目標を紐づけることで、従業員一人ひとりが自分の役割を理解し、チームとして協力しながら目標達成に取り組めます。このような環境が整うことで、「失敗を責めるのではなく、成長の機会として捉える文化」が醸成され、心理的安全性の向上につながります。

      ピアボーナスの導入

      ピアボーナスとは、従業員同士が、お互いの成果や貢献に対して、少額の報酬やギフトを贈り合う仕組みです。上司が中心となって称賛するのではなく、メンバー同士でも評価できる機会が増えることで、職場に称賛文化が生まれ、ポジティブなやり取りが活発化するでしょう。

      メンバーに認めてもらえたり、貢献が可視化されたりする機会が増えることで、安心して行動したり、発言したりできる環境が整い、心理的安全性を高める効果が期待できます。

      心理的安全性を高める方法【上司・管理職ができること】

      デジタルタブレットを使って会議をする様子
      上司や管理職の行動は、チーム全体に大きな影響を与えます。部下やチームメンバーが失敗を恐れず、安心して発言・行動できる環境をつくるためには、管理職自身が心理的安全性を意識して振る舞うことが重要です。そのために、「開放」「支援」「挑戦」「異見」の4つの心構えを持ち、日々のコミュニケーションを工夫してみましょう。

      意見を言いやすい環境をつくる

      まずは「開放」の姿勢を持ち、メンバーが安心して発言できる環境を整えることが大切です。

      そのために、会議やミーティングの場では、全員が発言する機会を均等に確保し、上司が一方的に話すことを避けるようにします。また、上司が最初に意見を述べると、部下は「上司の意見に合わせた方がよい」と感じる可能性があるため、上司があえて最後に発言することで、メンバーが自由に意見を出しやすい雰囲気をつくることもできます。

      さらに「異見」を尊重することを示すために「どのような意見でも歓迎する」と明言し、実際に上司自身が積極的にさまざまな意見を受け入れる姿勢を示すことで、チーム内の心理的安全性はより高まります。

      メンバーが発言を控えたり、消極的な態度になったりするなど、「心理的安全性が低いサイン」が見られたら、適切なフォローをおこなう必要があります。

      失敗が許容される雰囲気をつくる

      心理的安全性を確保するためには、「挑戦」できる環境を整え、メンバーが「失敗しても大丈夫」と思える雰囲気を醸成することが重要です。そのために、管理職自身が積極的に過去の失敗を語り、「ミスをしたが、このように乗り越えた」といった経験を共有することが効果的です。完璧な手本としてではなく、「失敗することもある一人の人間」であることを部下に示しましょう。

      部下がミスをした際には、なぜ失敗したのかではなく、「次はどうすればよいか」「この失敗からなにを学べるか」に焦点を当てたコミュニケーションをとり、失敗を責めるのではなく成長の機会と捉える雰囲気をつくることを心がけます。

      また、部下が困ったときに「支援」できるよう、チーム全体で互いに助け合える雰囲気を醸成することも重要です。そのために、部下がサポートを求めやすい環境を整え、困ったときに誰に相談すればよいかを明確にしておくとよいでしょう。

      心理的安全性の向上に取り組む際の注意点


      心理的安全性の向上に取り組むのは、決して「居心地のよいぬるま湯」をつくるためではありません。「心理的安全性がある=ラクをできる」と捉えられないよう注意しましょう。そのためには、各メンバーに適切な責任や目標を与えたり、チームが一丸となって目標達成を目指したりするような雰囲気づくりも、並行して実施することが不可欠です。

      また上司やリーダーの立場では、「優しいだけの人」にならないよう注意します。組織やチームが進むべき方向に向かえるよう、メンバーへの指導や助言をする役割があることに変わりはありません。上司やリーダーの立場から、心理的安全性の向上のために取り組めることとしては、メンバーの意思や意図を否定せずに尊重し、意見を述べやすい雰囲気をつくることが挙げられます。

      心理的安全性を高めてパフォーマンスの高いチームづくりへ


      心理的安全性を高めるためには、「自分自身が職場環境を構成する一員だ」という主体的な意識をメンバー全員に持ってもらうことが大切です。そのための組織全体での取り組みとして、1on1の実施、OKRの導入、ピアボーナスの活用などを紹介しました。

      また、上司や管理職の姿勢も重要なため、「開放」「支援」「挑戦」「異見」の4つを意識したコミュニケーションを意識することから始めてみるとよいでしょう。意見を言いやすい環境を整え、失敗を許容し、チーム全体で支え合う文化を醸成することで、チームの心理的安全性が向上し、個人の成長やチームのパフォーマンス向上、ひいては組織全体の発展につながります。

      心理的安全性の重要性を理解し、長期的な視点で環境づくりに取り組んでいきましょう。

      著者プロフィールHR Trend Lab編集部
      タレントマネジメントやエンゲージメントなどの最新トレンドから、組織や人事にまつわる基本知識までマイナビ独自の視点でお届けいたします。
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