企業を強くする組織開発とは?目的や実施のプロセス、代表的な手法を解説
企業の組織開発とは、組織や組織間の問題にアプローチし、組織をよりよくしていく取り組みのことを指します。就業形態や働く価値観が多様化した現代、組織内の人や部署間のつながりを強化し、活性化するための組織開発が注目されています。組織の課題解決や仕組みの整備などに携わる人事担当者が押さえておくべき知識の一つでしょう。
ここでは組織開発の目的や人材開発との違い、実施のプロセスと代表的な手法について説明します。
企業における組織開発とは
組織開発(OD = Organization Development)とは、組織内の人と人の関係性や部署間の関係性へ働きかけ、組織を活性化し、組織全体のパフォーマンスをあげていく取り組みです。組織が抱えている問題を明らかにし、解決策を考え実行します。
企業における組織開発が注目されている背景
組織開発の手法は、1950年頃にアメリカで誕生し、世界で発展してきました。日本に広まったのは1960年代に入ってから。運動会や飲み会といった伝統的なコミュニケーション活性化による人間関係の改善、チームビルディング研修などが行われました。コミュニケーション改善によってモチベーションを高める動きは、次第に工場など現場の改善活動へと進化。
一方で1990年代のバブル崩壊後の景気後退により、企業が組織開発にかける資金を失ったことから、運動会などのコミュニケーション改善活動は下火になりました。
近年、日本で組織開発が再び注目されている背景には、年功序列や終身雇用の崩壊、働き方改革といった「働き方のスタンダードの変化」があげられます。たとえば、コミュニケーション一つをとっても、対面よりオンラインのシーンが急速に増え、それに伴って仕事の進め方やチーム間の連携の仕方も変化しています。
「働き方の変化にあわせて組織自体が変化を迫られている」という背景が、多くの企業が組織開発に取り組んでいる理由といえるでしょう。
企業における組織開発の目的
企業が組織開発に取り組む目的として、以下の点があげられます。
• 集団のシナジーが高まるような組織風土を醸成
• 組織のメンバー自ら課題解決に取り組む姿勢を持つ
• 課題解決により、企業の生産性を上げる
組織開発とは、組織のパフォーマンスを最大化させるのが狙いです。組織の仕組みを改善することで、意思決定のスピードや生産性の向上、イノベーションの誕生など、最終的に企業力強化につながるような組織づくりを目指します。
組織開発は「一度取り組んで終了」という簡単なものではありません。組織が成長し続けるよう、継続して取り組んでいきましょう。
組織開発と人材開発の違い
組織開発と混同される言葉のひとつに、「人材開発」があります。組織をターゲットとする組織開発に対して、人材開発では「人」をターゲットとし、組織内の従業員のパフォーマンスを向上させる取り組みを行います。
人材開発は、具体的には社内研修、キャリア開発、セミナー、OJTなどを通じて、従業員が業務上必要な知識を直接習得するなど、個人の能力を向上させるものです。たとえば、新入社員の社会人スキルを磨くために実施する研修などは、人材開発に当てはまります。
一方、組織開発では、個人だけではなく「個人対個人の関係」、「グループやチームでの関係」、「グループ間・部署間の関係」など、個人以外に対してもアプローチをおこなう点が特徴です。組織全体に良い変化をもたらすことを狙いとし、「面」で改善の対象をとらえるのが組織開発といえます。たとえば、新入社員の働く意欲を向上させるために評価制度や配属の検討方法を改善したり、チームビルディングを行ったりするのは組織開発に当てはまります。
このように、組織開発と人材開発は異なりますが、この2つの区切りを明確にせずに改革のプロセスを実施するケースもあります。
組織開発における6つのプロセス
ここでは組織開発を実践する場合、どのようなプロセスを踏んで実行に移すのかを紹介します。
1.目指す組織の姿を明確にする
組織としてどのような状態になりたいのか、目指す姿を言語化します。「組織内で新しいアイディアを出すことを促進したい」「部署間のつながりを強化し協業体制を整えたい」など、目指す姿をメンバー間で共有できるように言語化することが、組織開発を成功させる第一歩です。
2.客観的事実にもとづき課題を把握する
目指す方向性に対して課題となっている点を、事実をもとに整理します。経営陣や従業員が「こう思っている」という印象だけに頼らず、インタビューや調査を用いて客観的事実を把握することが重要です。事実やデータにもとづき認識された課題に対して、適切な解決方法を決定します。
3.組織のメンバーを巻き込み組織開発の必要性を共有する
組織開発の主体は、その組織に属する個人です。そのため、課題解決に関係するそれらの人々を巻き込み、組織開発の必要性を共有しておく必要があります。
4.スモールステップで実践する
組織開発は、研修のように数日で終了するものではありません。そのため、長期的視点を持ちつつ、小さな段階から実践を重ねることが重要です。たとえば、はじめのうちは部門全体ではなく、小さなチームから成果を出し、全社に拡大するといったプロセスが有効です。
5.検証と実践を繰り返し、データを集める
スモールステップで実践をおこなうなかでは、組織開発に効果を発揮する案もあれば、効果が見られない案も出てくることでしょう。検証と行動を繰り返し、それらのデータを蓄積することで、組織開発に役立てることができます。
6.現場の自立的な取り組みを支援する仕組みを整える
実践した改革の内容をナレッジとしてまとめます。他部署のマネージャーや管理職クラスと共有することで、同じような取り組みを継続的に実施できる仕組みを整えることができます。
企業の組織開発の4つのアプローチ
組織開発の手法は、組織のどのカテゴリーの問題にアプローチするかによって、4つのタイプにわけられます。
1.企業戦略へのアプローチ
市場での優位性や今後の商品戦略といった、企業戦略のなかで生まれる問題点へのアプローチを指します。AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)などで組織の強みを顕在化させる手法が有効です。また、ナレッジ・マネジメントで知見や体験を共有することが、企業の競争力を強化させます。
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)は、組織の強みに目を向け、強みを最大化させる狙いがあります。「Discovery(発見)」「Dream(夢)」「Design(デザイン)」「Destiny(運命)」の「4Dサイクル」というプロセスを用いて、前向きな思考により改善を実現させます。
ナレッジ・マネジメント
仕事上で得た知見(ナレッジ)を、組織全体で共有し活用するための手法のことをいいます。全社でナレッジを共有することで、新たなアイディアが生まれる効果や、生産性の向上といった効果も期待できます。ナレッジ・マネジメントでは、優秀な営業マンの商談スキルといった明文化されていない技能も共有できる点が特徴です。
2.組織構造へのアプローチ
「部門ごとの役割」、「部門を超えた調整」、「仕事の進め方」といった組織の構造的な問題へのアプローチを指します。活用できる代表的な組織デザインとしては「マトリックス組織」や「フラット型組織」などが挙げられます。サーベイ・フィードバックやファミリー・トレーニングなどで組織課題の現状調査をおこなう手法が、構造へのアプローチに役立ちます。
サーベイ・フィードバック
組織調査によって職場の現状や課題を可視化し、それを職場のメンバーにフィードバックすることで、職場や組織の改善を図るのがサーベイ・フィードバックです。「現状を調査しただけ」、「結果をフィードバックしただけ」で終わらないためには、建設的な対話のためのルールを決めることが重要です。たとえば、相手の意見に積極的に耳を傾ける、意見をいったんは受容するなどのルールが有効です。
ファミリー・トレーニング
企業全体、あるいは部署や部門単位でおこなう研修や訓練を指します。職場が抱える問題に焦点をあて、所属する組織全体の変革すべき点をメンバー全員で確認し、実行に移せる能力を育てることが目的です。
3.人材マネジメントへのアプローチ
従業員のキャリアやモチベーションなど、人的マネジメントにかかわる幅広い問題への対応を指します。報酬体系や評価制度の改善などが、代表的なアプローチです。また、部下と上司の対話を活性化し信頼関係をつくる1on1や、キャリア開発のための研修や社員のメンタルヘルス改善なども含まれます。
1on1
上司と部下が定期的に1対1で会話する機会をつくり、部下のエンゲージメント向上や能力開発のきっかけとするもの。正式な評価面談と日常の会話の中間の機会として導入され、1on1で扱われる内容は業務内容のフィードバックや仕事の不安、キャリアへの見通しなど部下がそのとき抱えている話題というように多岐にわたる。上司は、社員個人の特性に沿ったサポートができ、部下は小さな気づきを得たり、困りごとを相談したりする場として機能する。
4.組織のメンバーの関係性へのアプローチ
組織に所属するメンバー間(対人)の課題へのアプローチを指します。チームビルディングといった組織の力を高めるための手法が代表的です。ほかにも、コーチングなどヒューマンスキルを伸ばす研修も当てはまります。
チームビルディング
チーム全体のパフォーマンス向上のために効果的なメンバー関係の構築を目指す手法です。チームの目的を共有し、目的の達成にむけてメンバー間のサポートを強化する過程で、各メンバーの役割を明確化したり、円滑なコミュニケーション方法を開発したりします。チームの動きを活発化させ、抱える問題を解決できる関係性の構築を目指すのがチームビルディングです。
アクション・ラーニング
アクション・ラーニングは、組織の「学習する力」を養成する手法です。グループで問題の解決策を話し合い、実行、振り返り(リフレクション)を通じて個人の能力開発と、変化に対応できる組織を構築します。複雑な組織のなかでも、問題解決能力の高いチームを育てます。
コーチング
従来は個人の能力開発の手段として捉えられてきたコーチングですが、最近では組織開発の手段として活用されています。コーチングとは人のやる気を引き出す手法です。経営層などエグゼクティブメンバーや従業員に対してコーチングを行い、問いから気づきを引き出します。
企業の組織開発における人事の役割
組織開発とは、幅広い階層で組織の仕組みを改善することで、最終的に企業力強化につながる組織づくりを目指すものです。組織開発において重要なのは、組織に属する人々が、自らが抱える課題や問題点に気づき改革のために取り組むことです。そして、その過程において制度や仕組みだけでなく、人々の価値観が変わることで組織開発は進んでいきます。
組織開発をおこなう過程において人事が果たすべき役割は、目指すべき組織の姿を、部署を越えてキーマンと共有することです。また現場の実情を把握するために、従業員に調査やインタビューを実施する、組織開発の事例として行ったプロセスや結果をまとめ、ナレッジとして社内で共有するなど、組織開発のプロセスを活性化させる重要な役割も担います。
組織開発には、組織に属するメンバーの主体性が不可欠です。組織が目指すべき姿の共有を人事がサポートし、人々を巻き込むことで、改善を推し進めることができるでしょう。