社内アンケートで組織の現状把握。質問設計のポイントをご紹介
組織開発において効果的な対応策を検討するためには、組織の現状を正確に把握することが不可欠です。組織ごとに抱える課題が複雑化しているため、社内アンケートを独自に設計して実施するケースも増えています。その際、アンケート結果を効果的な対応策に繋げるためにも、質問設計は慎重におこなう必要があります。
自社で独自にアンケートを実施し、組織開発につなげたいと考える経営者や人事担当者に向けて、社内アンケートの質問項目を設計するうえで考慮すべきポイントをお伝えします。
社内アンケートとは?実施前の検討ポイント
社内アンケートとは、従業員を対象として実施するアンケートです。職場環境やチームワーク、マネジメントなど、組織に関する現状と意見を調査する目的で実施します。組織の課題を把握し対応策を検討する際に、アンケートの分析結果が活用されます。
社内アンケートを実施する際、事前に検討するべきポイントは下記の4点です。
・実施目的
まず、何のために社内アンケートを実施するかを明確にします。一例としては、「職場環境の改善」、「研修内容や実施方法の検討」などがあります。実施目的は、アンケートの設計に関わる根本の部分になるため、はじめにしっかりと定義しておくことが重要です。
・対象範囲
社内アンケートに回答してもらう従業員の範囲を検討します。全社員から広く意見を収集したいのか、役職や部署といった特定の社員だけを対象とするのかを決定します。実施目的が職場環境改善などの場合には、非正規社員(契約社員やアルバイト)の意見も合わせて確認すべきかどうか、検討を重ねる必要があるでしょう。
・実施方法
紙に印刷したものを配布して記入してもらうか、Webなどのオンラインで回答してもらうかを検討します。紙の場合は、その場で手軽に回答してもらえるというメリットがあります。しかし、関係者以外の目に触れてしまうリスクや、無記名式の場合でも筆跡などから回答者を特定できる可能性があるという点がデメリットとして挙げられます。一方、Webの場合はこれらのデメリットを回避できるうえに、回答を効率的に集計できるというメリットもあります。
・大まかな調査項目・観点
実施目的に沿って、どのような観点で調査するのかを検討します。この際に注意するのは、調査項目に漏れやダブリがないようにすることです。また、すでに特定の課題がある場合は、その実態の把握につながるように質問を工夫しましょう。
質問設計がアンケートの肝
社内アンケートのベースを決定したら、アンケートの肝である質問設計を進めます。質問設計の仕方によっては、組織に対する印象や回答率にも影響がありますので、ポイントを押さえて設計していきましょう。
導入文でなにを伝えるか
アンケートの導入部分には、回答者に事前に伝えておきたいことを記載します。回答者は、導入文をみて回答を始めるかどうかを決定しますので、導入文を工夫することは回答率向上にもつながります。
導入文には、回答者が安心して本音を回答できるようにするという役割があります。アンケートを実施する目的や、回収したデータをどのように活用する予定なのか、誰の目に触れる可能性があるのかなどを含めます。また、アンケートの回答内容が評価につながらない、などといった内容を記載することも有効です。
目的に沿って無記名式or記名式を選択する
アンケートには、誰が回答者なのかわからないようにする「無記名式」と、誰の回答かを把握する「記名式」の2種類があります。いずれもメリットとデメリットがありますので、アンケートの目的に沿ったものを選択してください。
無記名式 | 記名式 | |
---|---|---|
メリット | ・回答率が向上しやすい ・本音で回答しやすい |
・さまざまな観点で追加の分析をしやすい ・必要に応じて、個別にヒアリングが可能 |
デメリット | ・集計時に個人と紐づけができないため 人材育成や現場管理に活用するのは難しい |
・本音を書きにくい場合がある |
どのような質問形式にするか
質問の形式を検討します。よく用いられる形式には、単一回答・複数回答・順位付け・自由記述があります。それぞれの質問形式のポイントをお伝えします。
・単一回答
単一回答とは、いくつかの選択肢からもっとも当てはまるものを一つだけ選択する形式です。答えやすく回答時間が短いため、質問数が多い時に有効です。注意点としては、「はい・いいえ」という選択肢にしてしまうと「はい」が選択されやすくなる、というものがあります。ポジティブな印象をもつ「はい」が求められている、という印象を無意識的にもたれやすいためです。
また、「どちらでもない」や「普通」といった中央値を置く場合も注意が必要です。回答に迷った場合に、安易に中央値を選択することとなり、正しい傾向がつかめなくなります。曖昧さを取り除くために、あえて選択肢から外すことも考えてみましょう。
・複数回答
複数回答とは、いくつかの選択肢から当てはまるものをすべて選択してもらう形式です。選択肢が複数考えられるときに有効です。回答者は、感じるままに回答しやすいのですが、集計する側にとっては傾向を読み取りにくくなるというデメリットがあります。この点を踏まえ、アンケートの目的を考慮した上で、単一回答と複数回答のどちらの形式にするか検討しましょう。
・順位付け
順位付けとは、いくつかの選択肢から重要だと感じる順に順位を付けてもらう回答形式です。傾向を把握したい時に有効な回答が得られます。集計する際には、1位として回答されたものを5ポイント、2位として回答されたものを4ポイントにするなど、回答に重みづけがされるように集計します。
・自由記述
自由記述は、文章で自由に意見を記述してもらう形式です。100~300文字程度の文字数制限を設定することがオススメです。自由記述では、選択式の回答では感じられない実情をイメージしやすくなるというメリットがあります。逆に、回答者個人の言葉で記載されるため、分析に手間がかかるというデメリットがあります。選択式の質問とセットで配置することで、定量的な集計結果の背景を理解できます。
質問文をどのような表現にするか
質問文の表現によって回答者が受ける印象が変わるので、十分に配慮することが必要です。対象者に合わせた言葉遣いを心がけます。避けてほしいのは、回答者にとって馴染みのない専門用語や、回りくどい表現をすることです。
また、「あなたの職場環境は快適ですか?」というように、快適であることを前提とするような表現は、回答を誘導してしまう可能性があるため望ましくありません。加えて、質問の観点を一つに絞ることも大切です。たとえば、「職場の環境やチームワークはいかがですか?」という質問にしてしまうと、環境について答えればよいのか、チームワークについて答えればよいのかが分からなくなってしまいます。
できる限りシンプルで中立的な表現を心がけることで、回答者にとって答えやすいアンケートになり、回答率の向上にもつながります。
質問の順序をどうするか
正しい傾向を把握するためには、質問の順序も重要です。上から順に回答をしていく中で、前の質問で前提となるような情報を与えられていると、回答者はその前提で回答してしまう可能性があります。
たとえば、「在宅勤務制度を導入するとしたら」という質問の後で、働く環境についての質問をしてしまうと、在宅勤務制度がある前提での回答になってしまうかもしれません。この現象は、心理学では「初頭効果」と呼ばれています。正しい順序の定義はありませんが、そのような影響があることは意識しておきましょう。
社内アンケート実施で陥りがちなワナ
従業員の意見や状況を把握するためのアンケートにも関わらず、本音で答えてもらえない場合があります。理由としては、従業員が回答した内容から個人を特定されることを恐れている可能性が考えられます。
また、回答結果が自身の評価につながるとすると、ネガティブな気持ちを回答することは避けたがるでしょう。企業文化によっては、上司や経営者に忖度して、その人たちが期待する回答をしてしまう場合もあります。
社内アンケートで従業員の本音を引き出すためには、結果の利用目的をはっきりと説明することが不可欠です。また、前項の導入文に関するポイントでもお伝えした通り、「評価につながることはない」、「個人を特定して不利益を与えることはない」という旨を伝えることも有効です。
分析結果を対応策に紐づけられない
せっかく社内アンケートを実施するにしても、アンケート結果に応じた対策を事前に想定しないまま質問設計してしまうと、課題を解決できなくなってしまう場合があります。また、匿名性にこだわるあまり属性情報の分類を荒くすると、課題がないようにみえても、実は一部の部署や年齢層に大きな課題が隠れていることもあります。
あくまでもアンケートの目的は、課題の把握と解決だということを認識し、分析後のことまで視野に入れた質問設計をすることが大切です。目的に合わせたアンケート実施方法や質問形式を選択しましょう。
アンケート実施後の対応により従業員からの信頼度が低下
社内アンケートは実施するだけではなく、分析結果の共有や対応策の実行を通じて、従業員に恩恵を提供することが重要です。分析結果を受けて、どんな課題を把握し、どんな対応をしていくかまで誠実に伝えるようにしましょう。伝えないまま、経営陣や人事部内だけで完結していると、従業員は「会社は現場が抱える課題を分かっていない」「どうせなにも対応してくれないだろう」という思いが募り、会社への信頼度が低下する結果に陥ってしまいます。
アンケート結果を真摯に受け止め、対応する課題の優先順位付けなどを理由も含めて丁寧に説明すれば、「会社は声を上げれば考えてくれる」と従業員が感じ、アンケートに対してポジティブな印象をもつ好循環が生まれます。
まとめ
社内アンケートは、従業員から本音で回答してもらえるように設計することが大前提です。できる限り悩まずに回答できる選択肢を用意したり、回答にかかる時間は5~10分程度で済むような分量にしたりと、細やかな工夫を凝らすようにします。
より効果的なアンケートに仕上げるために、外部ベンダーが提供しているアンケートサービスを活用したり、心理学や統計学の専門家に監修を依頼したりすることも一案です。せっかく従業員が時間を割いて回答してくれるのですから、アンケート実施の目的を念頭におき、ここまでに挙げたポイントを一つひとつ確認して、慎重に質問を設計してください。