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企業がサクセッションプランを策定する目的は何か?取り組み方や事例もあわせて解説

2022年09月07日更新

企業が持続的に成長していくためには、将来的に経営を担っていく後継者の育成が不可欠です。

経営者や経営幹部の後継者を育成する計画・施策のことを「サクセッションプラン」とよびます。企業がサクセッションプランを策定・実行するのにはどういった目的があるのでしょうか。

サクセッションプランの取り組み方や、企業が取り組んでいる事例もあわせて紹介します。

目次 【表示】

サクセッションプランとは

サクセッション(succession)とは「継承」や「相続」といった意味を指す言葉であり、サクセッションプランは日本語で「後継者育成計画」と訳されます。

すなわち、サクセッションプランとは、経営者や経営幹部の後継者を育成する計画にもとづいた後継者育成のための人材マネジメント手法です。

通常の人材育成では、あらゆる社員のスキルアップやキャリアアップを支援しますが、サクセッションプランは対象が経営者や経営幹部の後継者であるという違いがあります。

タレントマネジメントに包括されるサクセッションプラン

サクセッションプランとタレントマネジメントは、広義では、ともに企業の人材マネジメント手法です。

タレントマネジメントとは、企業が成長し続けるために全社員を対象に一人ひとりのタレント(能力)に注目し、評価や育成、異動などを通じて、最も活躍できるポジションに絶え間なく人材を配置することを指します。

そして、タレントマネジメントは下記の4つに分けることができます。


※出典:タレントマネジメント入門 ~個を活かす人事戦略と仕組みづくり~ 103P

①排他的 職務ベース
重要業務への適材配置をどのように実現するか

②排他的 人ベース
有能な高業績者をどのように管理するか

③包括的 職務ベース
優れたチームやネットワークをどう管理するか

④包括的 人ベース
すべての従業員を輝かせるにはどうすればよいか

経営者や経営幹部の後継者候補を対象として、集中的な投資を行うサクセッションプランは、上記のタレントマネジメントにおける①「排他的 職務ベース」にあたります。

サクセッションプランを策定する理由・目的

企業がサクセッションプランを策定するのはどのような理由・目的があるのでしょうか。おもな2つのポイントを解説します。

企業の持続的な成長のため

企業経営において、経営者を含めた経営幹部の能力は、業績や企業そのものの成長に大きく影響します。

実際に、2022年5月の調査では中小企業の倒産理由のなかで「後継者難」(現経営者の高齢化や後継者の不在)は全体の7.6%を占めており、経営リスクとして顕在化しています。
(参考:株式会社東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」※2022年5月)

後継者難の中で企業存続を優先するあまり、経営者としての適性を十分に検証しないまま後継者を指名した場合、経営に関する能力が備わっていない後継者を選出するリスクもあり、業績の悪化を招く可能性もあるでしょう。その結果、企業の成長が望めなくなるばかりか、存続が危ぶまれる事態につながるかもしれません。

企業を存続させ、持続的に成長していくためにも、サクセッションプランを策定して幅広い人材の中から候補者を選出し、客観的な視点で経営者としてのスキルや能力が備わっているかを判断しなければなりません。加えて、長期的な目線で計画的に育成していく必要があります。

コーポレートガバナンス・コードへ記載されたため

コーポレートガバナンス・コードとは、企業統治(コーポレートガバナンス)のガイドラインとして東京証券取引所が示した原則・指針のことで、上場企業に適用されるものです

株主や社員、取引先などさまざまなステークホルダー(利害関係者)に対して、適正な企業経営がなされているかを監視する仕組みを企業統治とよび、コーポレートガバナンス・コードに従うことによって経営の健全化が図れるようになります。

コーポレートガバナンス・コードでは、後継者育成に関して以下のような記述がなされています。

「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」

上の指針で示されているように、上場企業においては、サクセッションプランを策定し、計画的に実施する必要があります。また、取締役会も第三者的な視点からサクセッションプランの策定・運用に関与し、サクセッションプランに沿って育成が計画的に行われているかを監督することが求められています。

この指針は、2022年の時点では上場企業以外には適用されていないものの、企業の持続的な成長やリスク回避といった面から、非上場企業も段階的に取り組んでいくことが望ましいといえるでしょう。

サクセッションプランの進め方

サクセッションプランはどのような手順で進めていけばよいのか、一例を紹介しましょう。

経営戦略の明確化

経営者や経営幹部の後継者候補を育成していくためには、今後自社が目指す経営の方向性および経営戦略を明確化しなければなりません。

これは、経営者や経営幹部としてどのようなスキル・能力を備えた人材が必要かを検討するためにも重要となってきます。

必要となる経営幹部のポジションと人材要件の明確化

経営戦略に沿って、どのようなポジションに何名の人材が必要なのかを決定します。

また、経営者・経営幹部として求める人材要件を具体的に決定することも重要です。人材要件はポジションによっても異なりますが、共通しているものとしては、経営にかかわる専門的な知識、実務経験、語学力、リーダーシップ、コミュニケーション力などが挙げられます。

候補者の選出

どのような方法で候補者を選出するのかを検討します。

選出方法としては、社員からの自薦・他薦のほか、一定の要件を満たす選抜層にアセスメント(職務の適性に対する事前査定、能力や勤務評定)を行い選出していく方法などが考えられます。

候補者の選出にあたっては、現在のポジションや役職、職種による先入観を持たず、幅広い対象者の中から選出できる方法を検討しましょう。選定方法を決めたら、実際に候補者を選定していきます。

育成計画の策定・実行

候補者に対して育成計画を策定し、実行します。

経営者・経営幹部として求める一定の要件は共通であっても、候補者ごとに現在保有しているスキルや能力、経験はさまざまです。また、求めるスキルについても全ポジションに共通する汎用的なものと、ポジションに応じた専門的なものがあるでしょう。

そのため、下記のように画一的な育成計画と個別の育成計画を組み合わせたプランを候補者ごとに策定することが重要です。

①求める人材要件を満たすための画一的な育成計画 
②候補者ごとのスキルや能力、経験に応じた個別の育成計画
③候補者を配置したいポジションに合わせた個別の育成計画

個別の育成計画の例として、候補者にある分野の知識が足りないのであれば対応する研修などで知識の補完を行うことや、CFO(最高財務責任者)の候補として育成するならM&AやPMI(合併・買収後の統合プロセス)などの財務・会計に関する高度な知識や実績を得られる環境で実務を経験させるといった方法があります。

進捗・成果の確認

計画に沿って育成を実施した後、一定期間が経過したら進捗・成果を確認します。
想定していたよりも進捗が悪い、もしくは成果が出ていない場合には、途中で育成対象者や育成計画の見直しも求められます。

サクセッションプランの策定における注意点

サクセッションプランを策定し、取り組むうえでは、いくつか注意すべきポイントもあります。おもに考えられる2つの注意点を解説しましょう。

長期的に取り組む必要がある

サクセッションプランを策定し、さまざまな施策を実施したとしても短期間で後継者人材が育成できるとは限りません。候補者の選出から育成までは、1年から、場合によっては10年以上という長期的な視点で取り組むことが必要となります。

また、育成にかかる期間が長くなるほどコストも増えていくことから、育成対象者を選抜する精度や育成計画の質を高めることが重要です。

社員のモチベーション維持

サクセッションプランでは複数の候補者を選出した後、育成計画を進めるなかでスキルや能力を見極めながら候補者を絞り込んでいきます。

しかし、一度候補者になった社員が、この段階で候補者から外れると、自信をなくしたり仕事に対するモチベーションが低下したりすることもあるでしょう。候補から外れた社員には、経営幹部としての道だけでなく、特定の業務や職種に特化したプロフェッショナルの道など、多様なキャリアパスを提示しフォローを行うことが重要です。

また、候補者として選出された場合でも、長期間の育成過程においてモチベーションが低下してくることも想定されます。候補者として選定された社員に対しては、定期的な経営層との面談などにより、将来的に自社を牽引していくという意識を持ってもらうなど、モチベーションを低下させない工夫が必要です。

サクセッションプランの事例

サクセッションプランを策定・実行している企業の事例を2つ紹介しましょう。

候補者に気づきを与える能力開発

ある大手企業では、候補者のなかから、いますぐに後継者となり得る人材を1人選出することとあわせて、1〜3年後に後継者となり得る人材を2名まで、3〜5年後に後継者となり得る人材を3名まで選出し、それぞれの育成計画を立てて能力開発に取り組んでいます。

それぞれの候補者にどの程度のスキル・能力が備わったのかは、課題達成度の評価や、コーチング、360度評価など複数の手法を取り入れて評価します。また、その結果をフィードバックすることで、本人の「気づき」を促しています。

グローバル幹部の育成

グローバルに事業を展開している大手企業では、以下の3つの柱をもとにグローバル幹部人材の育成に取り組み、グローバル幹部にふさわしい能力や見識を、職務において最大限に発揮できるようにすることを目的としてサクセッションプランを実行しています。

①経営哲学や幹部への期待の明示
②人事管理
③育成配置・教育プログラムの展開

人事評価の基準やプロセスをグローバルに全社統一することで公平性を担保し、自社の経営哲学や幹部人材に求める期待を明確化しています。部長級以上にあたるグローバル幹部人材の異動や配置については、専門の委員会を定期的に開催し、議論・決定する仕組みを構築しました。

また、部長職候補者の中から特に優秀な約10名を世界から集め、経営トップの講話やケーススタディなどを実施し役員候補の育成に取り組んでいます。

企業の持続的な成長を支えるサクセッションプラン

経営の健全化を図り、企業の持続的な成長を実現するためにも、サクセッションプランを策定し、実行していくことは重要です。

経営者や経営幹部として求められる人材要件に対して、候補者が持ち合わせているスキルや能力はさまざまであることから、サクセッションプランの実行にあたっては、候補者一人ひとりに合わせた能力開発が求められることを覚えておきましょう。

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