ティール組織とは?それぞれの組織モデルをわかりやすく解説
組織運営に携わる一員として運営や構造を考えるとき、マネジメントの現場で「ティール組織」という組織モデルが注目を集めていることに気がつきます。今回はティール組織とはどのような組織モデルであるのかを確認し、なぜ注目されているのかを考えてみましょう。
ティール組織に注目が集まったのはある書籍から
2014年フレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』の中で紹介されたのが「ティール組織」です。著者であるフレデリック・ラルー氏は長年組織改革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザーやファシリテーターとして独立した人物。その彼が世界中の組織を調査し、新しい組織モデルについての考察をまとめたのが『Reinventing Organizations』です。
本書は各国語に翻訳され世界中でベストセラーになりました。日本では2018年に『ティール組織』(英治出版 Kindle版 2018/01/23)というタイトルで邦訳版が出版され、それをきっかけに日本のビジネス界で一気に新しい組織モデルとして注目されるようになりました。
組織モデルについてのビジネス書は他にも多数存在します。そんな中で、『ティール組織』が注目されるようになった理由は、ティール組織がいままでのマネジメントにおいて常識とされていた考え方や組織構成とはまったく異なる内容を示したものでありながら、ティール組織を構築することで成果をあげた事例が数多く現れたからです。
では具体的にティール組織とはどういった組織なのかみていきましょう。
ティール(青緑色)の組織と他4色で表される組織
フレデリック・ラルー氏は、組織モデルをその進化過程ごとに色で区別して紹介しています。
レッド(衝動型)の組織
赤の組織は組織モデルのなかでもっとも原始的な形であるといえます。ひとりの圧倒的な力を持つ者が支配者となり、組織のメンバーを力と精神的な恐怖でまとめています。この組織が重視しているのは、目の前の利益です。中長期的な目標に向けて行動し、プロセスを踏んで継続的に組織を運営するというよりは、短絡的で衝動的な行動によって、今すぐに手に入る利益を求める傾向にあります。
アンバー(順応型)の組織
アンバーというのは琥珀、または琥珀色を指すことばです。この琥珀の組織は、階層的構造(ヒエラルキー)を持つ組織です。このような組織には階級や制度が徹底的に組み込まれていることが多く、組織を構成しているメンバーの上下関係によって秩序が保たれています。メンバーは組織における自分の役割にしたがって行動することを優先させ、自発的に意見を出したり、組織が向かうべき方向性や目的達成までのプロセスに対して、よりよいアイデアを提案したりすることはほとんどありません。
この組織は、トップダウンで指示が出され、ルール通りの行動をおこなうことで安定した組織運営ができるのが特徴です。ただし、秩序が重んじられるあまり、新しい意見やアイデアが生まれにくく、変化の激しい時代や競争他者の多い場合には対応ができないという面もあります。
オレンジ(達成型)の組織
オレンジの組織は、階層的構造(ヒエラルキー)は基本にあるものの、柔軟に社会変化や環境に適応するために変化することができる組織だといえます。日本社会においては一般的な組織モデルだといえるでしょう。オレンジの組織では、組織としての成果をあげるために、組織のメンバーが才能を活かして活躍をし、成果をあげれば昇進できるという特徴があります。
また、組織の成果をあげることが第一であるため、効率化が図られ、そのための数値管理が徹底されているのも特徴です。ただし、そうした環境のなかで仕事をするうえでは、成果をあげるための生存競争が激化したり、過重労働が常態化したりするといった労働問題が発生する可能性が高いという面もあります。
グリーン(多元型)の組織
グリーンの組織は、オレンジの組織が目的達成を第一とした合理的な組織であったのに対して、メンバーがより主体性を持って行動することができる組織です。この組織では意思決定のプロセスもボトムアップ式であるのが特徴です。
緑の組織におけるリーダーは、メンバーがより働きやすくなるように環境を整える役割を担います。ただし、メンバーの個性、多様性が認められているとはいえ、緑の組織においても組織内の決定権はマネジメント側にあるといえます。
ティール(進化型)の組織
ティールとは「青緑色」を指します。この青緑の組織には、権力を集中させたリーダーは存在せず、現場においてメンバーが必要に応じて意志決定をおこなうことが特徴です。言いかえれば、メンバーが組織の目的をはっきりと理解し、組織の使命を果たすための行動ができなくてはなりません。
またティール組織におけるメンバーは、それぞれが対等(フラットな関係)であり、組織はメンバー全員のものであると考えます。「組織の社会的使命を果たすために自分ができること」と「自分自身の目標達成のための行動」が一致しているため、メンバーは自主的に成長をしながら、活動することが可能なのです。
日本社会に多く見られるオレンジの組織
日本の企業においては、オレンジ(達成型)の組織がもっとも一般的な構造であるといえるでしょう。組織内には階層が存在し、一定の決定権を有したリーダーが存在します。そしてそのリーダーを中心にメンバーが集まり、プロジェクトごとの小さな組織が成立しています。
それぞれの組織では、各メンバーはただ組織のルールに従って行動をするだけではなく、個々に能力や才能を発揮し、成果を生み出すために主体的に活動することが求められます。そしてメンバーは、成果をあげることによって評価されます。この組織におけるリーダーは固定的な存在ではなく、能力や才能によってプロジェクトごとに任命されることもあり、階層構造内で流動的に付与される権限である、ともいえます。
このようにオレンジの組織には、柔軟性や対応力があることが特徴です。しかし、つねに変化する環境に対応するために競争を続けることが求められます。つまり過剰な労働を続けることを助長しやすい組織なのです。
成果を第一に求め続けた結果、組織のメンバーの過重労働につながり、個人の生活の充実といった「人間らしさ」の部分が失われてしまうことが社会問題にもなりました。このような状況がビジネスにおけるモチベーションの欠如や新しい発想の枯渇を生むことになることに気づき、企業や社会は「働き方改革」として現状を見直す必要性を認めることになりました。
ティール組織が注目を集めた背景には、こうした社会の変化が関係していると考えられます。
ティール組織の3つの要素
オレンジ(達成型)の組織からティール組織への変化は、階層的構造(ヒエラルキー)からフラットな関係で構成された組織への変化だといえます。つまり、メンバーそれぞれが対等でフラットな関係のなかで、協力し合いながら社会的に価値を提供できるような活動をすることで、企業の価値を高めていくことを意味しています。
しかし、個々がフラットな関係であり、それぞれの主体性に任された活動を認める組織であることは、混乱を招く危険性と隣り合わせでもあります。たとえば、実際に階層的構造(ヒエラルキー)組織からティール組織へと変革を進めた企業では、メンバーから「チームの連帯感がなく孤独を感じる」「誰に相談をしたらいいのかわからない」といった声が挙がったそうです。
ティール組織が効果的に機能するためには、メンバーの成熟度、横のつながりが重要で、そうした関係が自発的な成長を促します。ここでは、ティール組織をさらに理解するために、提唱者のラルー氏が提示している3つの重要な要素をみていきましょう。
1.エボリューショナリーパーパス
「存在目的」と訳されるものです。「なんのためにこの組織は存在するのか」をメンバー全員が理解し、追求することが重要です。また、ティール組織における存在目的は環境変化に応じて進化すると考えられます。
2.ホールネス
「全体性」と訳される要素です。ティール組織では、メンバーそれぞれがフラットな関係のなかで自分の能力や才能を発揮できなければなりません。そのためには、多様性を認め合い、自分を否定されることが無い環境であることが必要です。
メンバーの心理的安全性を確保し、各メンバーが「この組織において自分らしく存在でき、自分の個性や才能を公平に評価され、認められる場所である」と認識することで、組織の目的と自己実現の目的が一致する可能性が高くなります。結果として、メンバーが自分の成長をめざすとともに、組織の成長を促す行動を継続的におこなうと考えられます。
3.セルフマネジメント
「自主経営」と訳される要素です。これはメンバーに大きな裁量が与えられることを意味し、メンバーが意思決定する権利を持っている状態といえます。そのために会社が保有している情報は、基本的にメンバーに対して開示され、適切な意思決定をするために他者からの助言を得られる仕組みが用意されています。助言を与える者は、さまざまな可能性や想定されるリスクなどを踏まえ助言を行いますが、裁量権はあくまでも意思決定をするメンバー個人にあり、その判断が尊重される環境が保たれています。
経営者と個々のメンバーは互いに信頼関係を築いており、それぞれが自律的に思考することでイノベーションを可能にしています。
キーワードは対話
これら3つの要素の共通項はコミュニケーションです。フラットで活発なコミュニケーションをとれる環境が確保された組織であることが、メンバーにとっても自分の存在を肯定的に捉えることができ、個性や才能を発揮できることにつながります。ティール組織への移行を検討するのであれば、まずフラットで活発なコミュニケーションがとれる環境を構築する必要があるでしょう。
ティール組織も組織モデルの選択肢のひとつに
成長を続けられる組織を目指すのは企業のあるべき姿です。そのためにマネージャーとなる立場の人はつねに組織モデルについて悩み、模索しています。今回紹介したティール組織は、日本社会においてはまだ馴染みの無い斬新な組織モデルかもしれません。また、ティール組織があらゆる組織に適応する万能モデルというわけではなく、組織の目的によってはティール組織よりも他のモデルが効果をあげることも十分に考えられます。
大切なのは自分の組織が成長を続け、効果的に成果をあげられる環境を創るために、なにが必要で、なにが障害になっているのかを客観的に分析することだといえるでしょう。
そのうえで、目的を達成するために有効な組織モデルとして、ティール組織が選択肢の一つになることを意識しておくことが大切です。