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「ヒエラルキー」からフラットな「ティール」組織へ。GCストーリーが取り組んだ組織改革

2020年02月07日更新

従業員一人ひとりが目的のために進化を続けるティール組織。従来のヒエラルキー型ではなく、全員がフラットに協力し合いながら、社会に価値を提供することが特徴です。昨今、日本の経営・組織マネジメントの分野で注目を集めていることから、ティール組織へのシフトを検討している企業も多いのではないでしょうか。しかし、「個々の主体性に任せる」組織ゆえ、一歩間違えれば混乱を招いてしまう恐れもあります。
屋外広告物の施工などを手掛けるGCストーリー株式会社では、フラット型組織に移行しながら高い働きがいを従業員に提供しています。今回は、事業推進部 大嶋かなえさんに、組織改革成功のポイントを伺いました。

目次 【表示】

改革成功のカギは“組織の成熟度”

――御社の働きがいが高い理由はどこにあるとお考えですか?

大嶋かなえさん(以下、大嶋):当社が理念やビジョンに掲げている「貢献のための成長」「自律」という2つのテーマが大きく影響しているのだと思います。

まず「貢献のための成長」ですが、これは創業当時から一貫して発信しているテーマです。当社名「GCストーリー」の頭文字(Growth for Contoribution)にもなっていて、採用基準としても一番大切にしていることです。

もう一つの「自律」は「従業員一人ひとりがきちんと自分自身の人生を歩んでいけるように、会社として自律を支援していこう」という考えで、ここ2年ほどで力を入れて取り組んでいます。

そして、これら2つの価値観を支えているものが、①評価制度 ②経営基盤の管理会計の共有 ③組織の形態の3つです。

――それぞれについて具体的に教えていただけますか?

大嶋:はい。

①評価制度は、自分の上司、同僚、部下と評価しあう「360度評価」の導入です。評価項目には数字だけでなく、仕事への向き合い方やお客様へのパフォーマンスといった人格的な部分も含まれているため、内面的な成長が促される効果があります。もちろん社長自身もこの360度評価の対象で、従業員からフィードバックを受けています。

②経営基盤の管理会計の共有を行っています。従業員全員が会社の数字を見られるオープンな状態にして朝礼や、ビジネスチャットツールでも最新の情報を共有しています。新入社員にも入社1年目から数字の見方を教えているんです。

③組織形態ですが、当社では事業部長以下が全員フラットな組織形態を取り入れています。以前はヒエラルキー型だったのですが、時代の移り変わりからか、徐々にその組織形態がフィットしない従業員も出てくるようになりました。

当社は企業理念の中に「全従業員の幸福」を掲げているのですが、当時のマネジメント手法では馴染めず、ストレスを抱える従業員も少なくありませんでした。それに気が付いた時、まずはマネジメント体制や従業員同士の関係性から見直そうという話が出たんです。

その後、役員からも「改革した方が輝ける人がいるなら」という判断があり、1年ほどのお試し導入期間を経て現在のフラットな組織形態になっていきました。

――フラットな組織は、一歩間違えると混乱を招く危険もはらんでいると思います。御社が導入に成功したのはなぜでしょうか?

大嶋:フラットな組織に移行するにあたって、単純に組織の形を変えたとしても、それを使いこなせなければただ混乱を招くだけになってしまいます。重要なのは、組織の中にいる従業員の成熟度です。当社もいきなり形を変えたわけではなく、もとの組織形態の中で従業員が成熟してきて、「どうやら今のままではフィットしない人たちがいるらしい」という状況になったことをきっかけに移行した背景があります。

「役割を奪われる」という危機感が反発を生んだ

――フラットなティール組織に移行する過程で反発などはなかったのですか?

大嶋:組織の形がガラリと変わるわけですから、もちろん葛藤や反発はありました。導入後に「もとのほうがいいんじゃないか」という揺り戻しもありましたが、「まずはこのままやってみよう!」とポジティブに続けたんです。すると、1年半ほどして徐々にみんな馴染んできて、結果も追いついてくるようになりました。

――もともと反発していた方たちは、どのように馴染んでいったのでしょうか?

大嶋:フラットな組織の導入に踏み切る前、30代後半以上のいわゆる「昭和世代」からの反発を予想して、昭和世代よりも下の世代の価値観を理解するところから始めていたんです。ところが実際に導入してみると、反発したのは20代〜30代前半のマネージャー層でした。

――意外ですね。なぜでしょうか?

大嶋:彼ら彼女らは、これまでチームマネジメントが仕事だったのに、マネジメントという仕事が無くなってしまったわけです。「組織がフラットになり自分の役割(存在価値)が無くなってしまうのでは…?」という不安があったのだと思います。ただ、最初こそ反発があったものの、徐々に「その空いた時間でなにがしたいのか」を自ら考えて動けばいいのだという考えにシフトしていってくれました。

――フラットな組織においては、どのように相談したりコミュニケーションを取ったりしているのでしょうか?

大嶋:まさに我々が直面した壁です。これまではチーム一丸で動くのが当たり前だったということもあり、ティール組織を導入して半年ほど経った頃、「チームや組織としての連帯感がなく孤独を感じる」「誰に相談すればいいのかわからない」といった声があちこちから出てきました。

課題解決のために知る必要があったのは、ティール組織導入後に現場でなにが起こっているのかということです。そこで、孤独感や相談相手がいないという課題に対して当事者意識を持ったメンバーが集まり、改善活動がスタートしました。社内アンケートを実施し、具体的な課題を洗い出していきました。その結果を元にPDCAを回していくことで、根本的な課題が少しずつ解決されていったように思います。

横の繋がりこそ自発的な成長を促す

――従業員のエンゲージメントやモチベーションをはかるために、サーベイなどは導入していますか?

大嶋:半年に一度、自社でオリジナルのサーベイを取って、従業員の内面的な成熟度や、不安をどう感じているかなどを見ています。

「この人は今、チームに頼れない状況になっている」「この人は与えられた仕事はきちんとできるけれど、自発的に仕事をするマインドまではあと一歩」というように、組織の中で主体的に動く人と役割を与えられた方が動きやすい人のバランスもわかるので、その結果を事業部長に共有し、組織や事業の状態をはかる材料にしてもらっています。

――サーベイの結果は、従業員にもフィードバックされるのでしょうか?

大嶋:正直な回答が得られなくなってしまう可能性があるため、本人へのフィードバックはしていません。ただ、サーベイの結果ではなく評価でのフィードバックはもちろんあって、その時に自分の内面的な成熟度などを知ることができます。

――評価のフィードバックのほかに成長実感が得られる機会はありますか?

大嶋:従業員には「育成側に回る経験」もしてもらっているので、それも成長実感に繋がっていると思います。たとえば新入社員研修については、人事はノータッチで、従業員たちが自ら企画・開催しています。自分たちの実体験を踏まえて、どんな研修内容だったら嬉しいかを考えているんです。

また研修に限ったことではないですが、成長過程において苦しんだり葛藤したりしている従業員がいると、みんなであたたかく見守る風土があります。上下関係ではなく、横の繋がりで自らの経験をシェアしようという気風なので、周りに相談しながら、自発的に成長していけるんです。

――従業員が教育を受ける機会もあるのでしょうか?

大嶋:メンター的な制度や社内研修、外部研修があります。

社内研修には、スキルを伸ばす研修と、内面的な育成を促す研修が組み込まれています。月に1回受けるもの、単発で参加するものもあり、本人の希望をベースに受けてもらっています。

外部研修については、半年あたり1人5万円の研修費を出していて、レポートを提出すれば自ら好きな外部研修に参加できるようになっています。

事業計画は従業員みんなでつくる

――ティール組織への移行後は、目標設定も各従業員に任せているのですか?

大嶋:当社では上から与えられた数字ではなく、従業員みんなでつくった事業計画をもとに目標を決めています。そこからさらに月換算して、一人ひとりの目標にしているんです。

このやり方がうまくいっている背景としては、管理会計の全社共有が大きいと思っています。事業計画をつくる過程で、一度立てた計画について管理会計をもとに検証すると、「ここの予定数字がこれだけだと会社全体の売り上げが少なすぎる」「全体の売り上げをこのくらいにしたいから、この事業の目標をもう少し増やそう」「この経費は必要な経費なのか」といったように、従業員一人ひとりが会社全体の数字を意識できるようになるんです。

――いわゆるアメーバ経営というものですね?

大嶋:はい。当社では、売り上げや経費、自分たちの使っている時間を計算して、1時間あたりどのくらい生産したのかという「部門採算」がわかるようになっています。採算を上げるためにコストを下げるのか、売り上げを上げるのかなどを判断して、数字達成に活用しているんです。

個人で数字を追えば周りがライバルになってしまいますが、そうではなく、みんなが協力して目標を達成できるような仕組みになっています。

――従業員個人の評価はどのようにしているのでしょうか?

大嶋:先ほどもお話ししたように、人間的な成長軸と、スキルアップの成長の2軸で、半期に1度評価を行っています。

――管理会計の共有など従業員一人ひとりの当事者意識が強い印象ですが、新規事業なども従業員から立ち上がるのでしょうか。

大嶋:新規事業については他社に比べると、大々的に予算をつぎ込んで新しい事業をどんどん始めていこう!という気風ではないかもしれません。ただ、従業員がやりたいと思ったことを自発的に行動に移せる土壌はあります。

たとえば当社のソーシャルエネテック事業は、従業員の発案から始まりました。数年前に立ち上がった事業なのですが、地球環境をよくしたいという強い想いを持ってるメンバーが頑張っている事業部です。未来にクリーンなエネルギーを残す仕事ですし、従業員にもその自負があるので、これから大きくしていこうと頑張っているところです。

もちろんやりたいと思ったことすべてがなんの規定もなく承認され進んでいくわけではありません。役員会でなんのためにどのようにそれをやりたいのかきちんと説明する必要はありますし、そこで役員陣からのフィードバックも受けます。しかしそこをクリアしていけば、問題なく進めることができる環境です。

ティール組織がフィットする企業とは?

――働きがいの高い企業は共通して、採用時にカルチャーフィットを重視している印象があります。

大嶋:そこは当社含め、各企業でとても大切にしている部分だと思います。

当社で特徴的なのは新卒の採用制度が少し変わっていることで、最終面接が合宿なんです。社長、常務と面接した上で選考に残った学生が、社長と人事、他の参加学生さんとともに1泊2日の合宿に行きます。そうするとある程度、会社に対する共感度などもわかるんです。

――採用時の妥協のなさがすごいです。カルチャーフィットといえば、御社が導入しているティール組織の形態は、他の企業でも受け入れられると思いますか?

大嶋:すべての企業にフィットするわけではないと思います。あくまで「ティール」は組織形態の一つであって、必ずしもそれが正解なわけでも、すばらしいというわけでもないと考えています。

たとえば、病院がティール組織になったら困りますよね。「私の個人的な判断で点滴を変えておきました!」なんてことになったら大変です。当社も普段はフラットな組織ですが、お客様からクレームをいただいた場合など緊急事態には、しっかりリーダーを立ててピラミッド型に動くこともあります。

――なるほど。臨機応変に動けばいいということなのですね。

大嶋:はい。ティール組織はレッド型~グリーン型組織まであらゆる形態を内包している、と言われています。従業員みんながそれを理解していれば、同じ企業の中で組織形態が混同していてもいいと思うんです。当社は半年〜1年掛けて、ようやくその考えにたどり着きましたので、自分たちがティール組織だという認識すらありません。あらゆる形態を内包したフラット組織だという認識です。

ただ社会の変化を見ていると、従来型の企業形態に馴染みづらい人たちが増えてきているのも事実ではないでしょうか。私は採用の場で学生に会うことが多いのですが、今の若い世代には、目的(意味)を持って働ける環境やより自由度(裁量権)のある環境、風通しのよい環境、自分の意見を尊重しながら働ける環境を求める人が多いと感じています。そういった志向の人たちが増えているということを踏まえて、組織の形を変化させていくことが大切なのだと思います。

――ちなみに、どんな企業であればティール組織にフィットすると思いますか?

大嶋:ティール組織にすると、従業員同士が上下関係ではなく、お互いに違いを楽しんだり尊敬しあったりする関係性で結びつくことになりますので、相互信頼や自己理解が進んでいる企業であればフィットするのではないでしょうか。また、組織の全体が見渡せるような情報の透明化がなされていることと、我々はなぜ存在しているのか?という組織の存在理由が明確になっていることも重要なポイントになってきます。

部下がフラストレーションを抱えていそう、とか、指示が響かないような人が増えてきていると感じている企業があれば、導入を検討してみてもいいかもしれませんね。まずは組織の一部から導入してもいいんです。たとえば少し扱いにくいような、いわゆる“厄介者”的な人がいたら、そういう人たちを集めてティールチームをつくってやってみるのもありだと思います。

――なるほど。まずは小さい規模で導入してみることは、社内での受け入れもスムーズに進みそうですし、ティール組織導入のきっかけとして良さそうですね。大嶋さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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