ホラクラシー組織とは?ティール組織との違い、メリットや注意点を紹介
従来の組織構造であるヒエラルキー組織と異なり、役職や上下関係がなく、組織全体が柔軟に動けるように設計されているホラクラシー組織をご存知でしょうか。柔軟性と自律性を持つホラクラシー組織は、変化の激しいVUCA時代に対応できる組織構造のひとつとして注目されています。
本記事では、ホラクラシー組織とはなにか、ホラクラシー組織が注目されている理由、メリット、注意点、導入のポイントを解説します。
ホラクラシー組織とは
ホラクラシー(Holacracy)とは、ギリシャ語で「全体」を表すホロス(holos)に由来する「ホラーキー(holarchy)」と、ガバナンス方法を示す「-cracy」を組み合わせた造語です。ホラクラシー組織とは、組織内の権限や役割に階層がなく、複数の自律的なチームや役割に意思決定権が分散している組織構造を指します。
組織全体が柔軟性を持ち、迅速に変化に対応できるように設計されているため、従来のように、上司が部下に指示を出すのではなく、役割を割り当てられたチームが自主的に活動する組織になります。また、意思決定は一元化された指導者ではなく、役割やチームによっておこなわれることも特徴です。
組織運営の際には、ホラクラシー組織の約束事やプロセスが具体的に文書化された「ホラクラシー憲章」を用いることもあります。
ヒエラルキー組織との違い
ヒエラルキー組織とは、管理職やリーダーといった役職が存在し、上の階層になるにつれて権限と責任が重くなる組織構造のことを指します。上司が指示を出し、部下がそれに従うという形態が一般的であり、ホラクラシー組織と対義する組織構造といえるでしょう。
情報や指示が上から下へ伝達されるという性質上、意思決定には上層部の承認が必要で、意思決定権が分散しているホラクラシー組織よりも時間がかかります。ホラクラシー組織では柔軟性と自律性を重視する一方で、ヒエラルキー組織では統制と指導に重点が置かれているという違いがあります。
ティール組織との違い
ホラクラシー組織と混同されやすいものとしてティール組織が挙げられます。ティール組織も自律性や柔軟性の高さを持ち合わせており、階層がなく、意思決定権も分散している特徴を持ちます。そのため、ホラクラシー組織はティール組織に含まれる組織構造のひとつといえるでしょう。
ティール組織では、「エボリューショナリーパーパス」「ホールネス」「セルフマネジメント」の3つの重要な要素を備えています。
- ・エボリューショナリーパーパス……なんのためにこの組織は存在しているのかと
- ・ホールネス……多様性を認め合い、自分を否定されることがない環境
- ・セルフマネジメント……メンバーが意思決定する権利を持つ
これら3つの要素を持つことで、個々が経営の視点を持ち、メンバー同士が対等な関係にありながら企業の価値を高めていくことにつながります。
ホラクラシー組織が注目されている理由
現代は技術革新や消費者のニーズといった市場の変化が激しいVUCA時代であり、変化に合わせた素早い対応の重要性が増しています。ヒエラルキー組織では、上司や管理者が意思決定をおこなうため、市場の変化に素早く対応することが難しく、ビジネスチャンスを逃す恐れがあります。これは長期的に見たときに企業の競争力の低下につながる可能性があります。
また、上司が一人で意思決定することから、すべての部下の意見を採用するのは難しく、結果として部下一人ひとりの意見が反映されづらい懸念があります。ホラクラシー組織であれば、意思決定もチームでおこなえるため、個々の意見が反映されやすく、意思決定そのものも素早くなります。
こうした柔軟性の高さが急速な技術革新や、変化し続ける消費者ニーズに対応するための組織構造として、多くの企業の注目を集めています。
ホラクラシー組織のメリット
ホラクラシー組織のメリットを紹介します。
意思決定のスピードが早く、変化に対応しやすい
ホラクラシー組織は、チームで話し合い、一定の賛同が得られれば、すぐに計画や変更を実行できるため、市場やビジネス環境の変化に素早く対応することができます。変化が激しいVUCA時代において、状況の変化にすぐ適応できることは企業にとって大きな強みとなります。
社員の主体性が向上する
意思決定において、上層部の承認といったフローがないことで、個人の考えが意思決定に反映されやすくなります。そのためメンバーが組織に対してより積極的に関わり、自ら責任を持つ機会が増えることで、各々が抑圧されることなく、主体性を持って積極的に働くことができます。
ホラクラシー組織の注意点
ホラクラシー組織の導入において、ただ裁量の大きい働き方や、自律的な働き方を認めるだけでは、運用は難しいと考えられます。以下の点に注意して運用しましょう。
組織構造が浸透するまでに時間がかかる
ホラクラシー組織はヒエラルキー組織とは大きく異なる概念のため、導入に際して社員から困惑や反発が起こる可能性があります。そのため、組織構造の浸透には一定の時間を要することを念頭に置いて導入を進める必要があります。
昇格や報酬制度を構築しづらい
ホラクラシー組織では、一人の社員が複数の役割を持つことは珍しくありません。また、プロジェクトによってリーダーシップを発揮する社員が変わるなど、社員の役割が複雑に変動することもあります。そのため、役割に対してどのように報酬を決定するかが難しいという課題を抱えています。
さらに、チームメンバー同士の協力が重要になるため、社員ごとの貢献度を分けるのが困難になることも起こり得ます。このように、ホラクラシー組織ではそれまでの報酬制度を機能させることが難しいため、成果や貢献を評価する柔軟な報酬制度を構築する必要があります。
責任の所在が曖昧になりやすい
ホラクラシー組織では、権限と責任が分散されていることで、誰がなにに責任を持つのかが不透明になりやすいです。また、管理者がいないことで業務の重複、遅延などの問題が生じる可能性もあります。役割を分担する際には、責任の所在と、意思決定プロセスを明確にしておくことが重要です。
ホラクラシー組織導入のポイント
ホラクラシー組織導入の検討、そして導入時のポイントについて解説します。
組織に適しているか検討する必要がある
ホラクラシー組織の導入にも向き不向きがあり、すべての企業に適しているわけではありません。
上下関係や役職をただ撤廃してもホラクラシー組織になるわけではなく、余計な混乱を招くこともあります。また、自主性と責任感のある人材がいないと、主体性を持った生産性のある組織にはなれないでしょう。
ホラクラシー組織に適性がある企業の特徴として、以下が挙げられます。
- ・部門を越えたコミュニケーションが活発で、風通しのよい職場である
- ・新規事業開発など、個人の裁量権が大きい業務が多い
- ・メンバー一人ひとりが主体性を発揮し、能動的に行動できる
これらを踏まえ、ホラクラシー組織を導入することで効果を得られるかどうかを検討してから導入を決定しましょう。
スモールスタートで導入していく
ホラクラシー組織にいきなり移行してしまうと、突然管理者が不在となり、混乱やトラブルを招く可能性が高いでしょう。はじめは部署ごとやプロジェクトチームごとなど、数人規模のチームを対象に、スモールスタートしていくことが大切です。
また、ホラクラシー組織に移行する前のステップとして、役割上のリーダーの他にもチームメンバーそれぞれがリーダーシップを発揮し、リーダーの役割を共有する「シェアドリーダーシップ」を浸透させるのも一つの方法です。
変化に対応できるホラクラシー組織の柔軟性
ホラクラシー組織は、意思決定のスピードが早い、変化に対応しやすい、社員の主体性が向上するといったメリットを持つことから、変化の激しいVUCA時代に対応できる組織構造のひとつとして注目されています。
その一方で、必ずしもすべての企業に有効な組織構造ではなく、ヒエラルキー組織よりも優れているというわけではありません。組織によって適性が異なるため、ただ導入しても社内に混乱を招くこともあります。自社をよりよくする選択肢のひとつとして、ホラクラシー組織の導入を検討するところから始めてみましょう。