【連載】職場でのゲーミフィケーションの手順とコツ(3/3回目)
近年、職場でも注目が高まっているゲーミフィケーション。本シリーズでは、3回に分けて職場でのゲーミフィケーションについて解説していきます。
最後の第3回目では、これまでの内容をまとめつつ、職場でゲーミフィケーションを導入する手順を3ステップに分けて解説しながら、それぞれのステップで失敗しないコツも解説していきます。
ゲームのデザイン要素
はじめに、第1回目の記事で紹介した、ゲーミフィケーションのデザイン原則と対応するゲームのデザイン要素の表を再掲します[1]。
(Nah et al.(2019)の表を著者が翻訳・一部修正して作成)
ステップ1:ゲームのゴールとルールを設定する(デザイン原則①、②、③、⑥)
最初のステップは、ゲームのゴールとルールの設定です。ゲームのゴールについては、長期的なゴールと短期的なゴールを用意します。
また、短期的なゴールを積み重ねることで長期的なゴールに近づくルールを作り、それぞれの進捗状況を可視化することで、基本的なゲーム構造が作れます。
どちらのゴールも基準を明確にしないといけません。たとえば以下のように、ゴールの基準と期限を明示することが大事です。
・長期的なゴール:1ヶ月以内に新入社員に必要な10種類のバッジを集める
・短期的なゴール:バッジ獲得のためのミッションをクリアする
ミッションの例1:研修のシミュレーションソフトで一定のスコアを出す
ミッションの例2:1週間連続で業務レポートのサイトを閲覧する
一方、職場のゲーミフィケーションは、しばしばトップダウンでゴール設定されることが多いため、社員の同意を得られないままゲームが一人歩きすることがあります。
ゲームは参加者がゴールに同意していることが前提になっているため、同意を得ていない社員はそもそも参加してくれなくなり、結果としてゲーミフィケーションに失敗しやすくなります[2]。
そこで、社員が職場で求められることとゲームのゴールをできるだけ近づけたり、そのゴールを達成すると、社員にとってどのように良いことがあるかを丁寧に説明したりして社員の同意を得ることが、失敗を防ぐポイントになります。
ステップ2:報酬のフィードバックシステムを作る(デザイン原則⑦)
次のステップは、報酬の設定とフィードバックシステムの構築です。良い行動に対しては報酬を提供し、失敗した場合はヒントや改善ポイントの情報を提供することが、基本的なフィードバックシステムです。
報酬については、ゲーム内の「ポイント」「レベル」「バッジ」などを報酬にしている事例が多いですが、無機質な報酬に対しては価値を感じない社員もいます。そのため、その各々の企業や社員に合った多様な報酬を考え、追加で盛り込むことが大事です。
たとえば、「社内のスター社員の仕事術の記事が読める」といった質的な報酬を盛り込むのも良いでしょう。
また、「Webページの社員インタビューの対象者に選んでもらえる」や「自分のアイデアに対し、1回だけ指定した人からコメントをもらえる」などリアルな職場での報酬と絡めるのも良い方法です。
報酬についてはもう1つ注意すべき点があります。それは「失敗した時の報酬」です。
市販のゲームでは、失敗した時にこそ、コミカルで派手なシーン(例:キャラクターが敵にやられた時のアクションなど)やレアなシーン(例:特殊エンディング)を見せたり、再チャレンジを促すためにキャラクターが励ましてくれる演出を挟んだりする傾向があります。これはゲームから離脱するのを防ぐために取られる方法です。
しかし、職場におけるゲーミフィケーションの事例では、本来高く評価されるべき「挑戦はしたけれども失敗した」時の報酬はあまり設定されていません。
たとえば、失敗しても何度も挑戦した時にだけもらえる特別なバッジやアイテムを設定したり、失敗したら成功した人のやり方を覗き見できる権利を与えたりすることも効果的だといえます。
ステップ3:楽しさが続く多様なルールを作る(デザイン原則④、⑤、⑥、⑧)
最後のステップは、ゲーミフィケーションのデザイン原則の、④社会的つながり、⑤競争、⑥達成、⑧楽しみ志向を踏まえ、楽しさが続く多様なルールを作る段階です。
ゲームのプレイヤーには、たくさんのタイプがいます[2]。たとえば、ゴールの「⑥達成」に向けてコツコツ頑張るタイプもいれば、「⑤競争」を好むプレイヤーもいます。逆に、競争を嫌い、「④社会的つながり」を好むプレイヤーもいます。また、単純にゲーム内のおもしろいことに興味がある「⑧楽しみ志向」のプレイヤーもいます。
職場のゲーミフィケーションでよく導入されている「ポイント」「レベルアップ」「リーダボード」は、「⑥達成」「⑤競争」が好きなプレイヤーには効果的ですが、これだけでは「④社会的つながり」「⑧楽しみ志向」が好きなプレイヤーには刺さりません。
そのため、たとえばチームで取り組むミッションと特別な報酬を導入したり、チームを組むことでランダムに新しいアイテムが手に入ったりするルールを作るなどして、より多くのタイプの社員に対し、楽しさを維持できるルールを追加することが大事です。
まとめ
職場でのゲーミフィケーションについては研究的にもまだ始まったばかりですが、多くの効果が期待されている手法です。
同時に、ゲーミフィケーションを考える人の領域や、発想力によってまだまだおもしろい事例が増える分野でもあります。本シリーズを参考に、日本の職場から多くのゲーミフィケーションの事例が生まれることを願っています。
参考文献
[1] Nah, F.-F.-H., Eschenbrenner, B., Claybaugh, C.C., Koob, P.B. (2019). Gamification of enterprise systems. Systems, 7(13). https://doi.org/10.3390/systems7010013.
[2] Perryer, C., Celestine, N. A., Scott-Ladd, B., Leighton, C. (2016). Enhancing workplace motivation through gamification: Transferrable lessons from pedagogy. The International Journal of Management Education, 14(3), 327-335. https://doi.org/10.1016/j.ijme.2016.07.001.