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Z世代のマネジメント―「Z世代に選ばれる企業」に必要な条件

2022年10月31日更新


甲南大学 経営学部 教授 尾形 真実哉氏

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Z世代を取り巻く環境

昔(私が大学生時代)と今では、大学教育の現場も様変わりしています。その理由は、学生の“お客様化”です。大学全入時代に突入し、今後も続く少子化の影響もあり、大学も生き残りをかけた学生獲得戦争時代となっています。そうなると、学生は“お客様”です。

例えば、今どの大学も当たり前に開催しているオープンキャンパスは、私が大学生時代には(おそらく開催していたのだと思いますが)やっていたのかどうかも定かではありませんでした。そんなことをしなくても、学生が集まったのでしょう。しかしながら(もちろん、大学にもよるのかもしれませんが)現在の大学において、オープンキャンパスは大々的に広告を出し、全学部が総力をあげて取り組む一大行事となっています。そこで大学のイメージを高め、受験者数を確保することが目的です。

また学部教育においても、私が大学生時代には、休講は当たり前で補講はしない(むしろ、しっかり講義をする先生のほうが少なかった気がします)。講義に30分遅れて来て、30分早く終わる先生も沢山いました。講義内容も自分の書いた難しい本を読んでいるだけの講義がいくつもありました。結局「字くらい自分で読めるわ!」と学生たちはみんな講義に出なくなります。そんなことが当たり前だったような気がします。

今そんなことをすれば多くの批判や指摘が飛んできます。学生もそんな講義に苦情を出します。自分の意見を堂々と言う(権利の主張)のもZ世代(18-25歳を想定)の特徴といえるかもしれません。とにかく、今の大学の多くが「学生(お客様)のために」という教育になっているのです(それが悪いという訳ではないのですが)。今時の若者、そして今後の若者も“手取り足取りの教育を受けた”人材なのです。

そのような環境は、自分のイメージと異なる環境や厳しさへの耐性を低下させてしまいます。そこで学び、育ってきた若者たちが、社会に出た途端「競争だ」「成果を出せ」「自分で考えろ」「グローバルに」といわれれば、どのようになるか想像できるでしょう。温かく外敵がいない小さなプールで育ってきた魚が、突然大海原に投げ出されるような感じかもしれません。メンタルの問題が増えているのも、そのような要因が大きいのではないでしょうか。

このような学生から社会人への移行(school to work transition)における断絶を防ぐためには、大学側と企業側の双方が変えられるところは、変えていかなければなりません。

Z世代の特徴

Z世代と呼ばれる若者たちは、どのような世代なのでしょうか。筆者は大学の教員として15年以上の月日が経ちましたが、15年前に比べて昨今の大学生が大きく変わったとは思っていません。あえていうのであれば、Z世代の特徴として感じられるのは3つあります。

1.競争意識の低下

まず1つめは「競争意識が低下している」という点です。「団塊の世代」と呼ばれる世代は、ベビーブームに生まれ、同世代が多い中で育ってきました。それゆえ受験や就職・出世においても、常に激しい競争環境の中で生きてきた世代です。そのような世代に比べ、少子化世代は受験や就職においても競争が緩やかな、あるいはほとんどない状況になっています。

個人に優劣を付けてはいけないという風潮もあり、個人を格付けするようなテレビ番組も姿を消し、ミスコンなども中止する大学が増えてきました。小学校の運動会でも優劣をつけないために、徒競走などはゴール前で全員が手をつないで同時にゴールするという学校もあるそうです。

このような環境で育ってきたZ世代ですから「人を蹴落としてまで自分が上に行く」という意識が強い者はあまり多くはいません。それは良くいえば「優しくなった」と言えますが、大学卒業後の競争社会でうまく生き残っていけるのかと言われると、少し頼りなさを覚えてしまいます。

いずれにせよ、そのような環境で育ってきたZ世代にハングリー精神や負けん気を求めるモチベーションマネジメントは間違いだと言えます。

2.承認欲求の強さ

では、Z世代に適したモチベーションマネジメントはどのようなものでしょうか。それがZ世代の特徴の2つめである「承認欲求の強さ」を活かすマネジメントです。

Z世代の承認欲求の強さも社会環境が大きく影響していると考えられます。それは「褒めて育てる」という風潮です。育児本のコーナーを見ても「褒める」や「褒めて育てる」という言葉が溢れ返っています。

筆者の娘は,小学校低学年なのですが、以前、学校に遅刻したことがありました。娘が帰宅し、筆者が「今日、遅刻して先生になんて言われた?」と聞いたら「よく学校に来たね」と言われたそうです。「叱られた」という答えを待っていた筆者は、驚いたと同時に「学校教育は本当にそれで良いのか?」と心配にもなりました(もちろん、遅刻をさせた親が1番悪いのですが)。

このように、褒められることが当たり前の環境で育ったZ世代は、認められ褒められることでモチベーションを高め、次のアクションを起こす世代と言えると思います。そのような承認欲求の強さはまさにZ世代の特徴ですが、SNSの発展も影響を与えていると思います。

今時の多くの若者たちが、SNSで“映える”写真を公開し、リア充(公私含め、自身の私生活が充足している事を指す若者言葉)を表現しています。そこで彼らが気にしているのが「いいね」の数です。「いいね」の数が多ければ認められたことになり、さらなる「いいね」の数を求めることがモチベーションになるのです。

過剰な“映え”(自身が撮影した写真や体験(飲食や旅行など)の「見栄えが良い」「見た目が良い」という意)探索と「いいね」獲得欲求の強さは、彼らのストレスになるので抑制しなければなりませんが、周囲から認められることが彼らのモチベーションになっていることは間違いありません。彼らの承認欲求をうまく活用したモチベーションマネジメントが会社にも求められるでしょう。

3.仕事よりプライベートを重視

3つめは、他人との付き合いよりも「プライベートを大事にする」という点です。筆者のゼミ生にも就職する会社に求めることとして「残業がない」や「地元で働ける」という条件が多くあがります。もちろん、労働時間や勤務地は働くうえで重要な要素ですが、これらが重要な条件になってくるのがZ世代の特徴と言えるような気がします。

昔、某健康ドリンクのCMで「どんな時でも、身を粉にして、会社のために働き続ける」というCMソングが流れました。このCMが放送されたのが働けば働くほど会社の業績や給与があがるバブル期で、会社や給与のために働き続けた世代を象徴したものだったと言えるでしょう。今となってはそのような働き方をすれば「ブラック企業」と呼ばれ、すぐに社会問題にもなります(もちろん法律的にも)。

それゆえ、このような働き方はZ世代にとっては「悪」なのです。残業が多い割に生産性が低い日本人の働き方に疑問が呈され、労働時間が短くプライベートを大事にする国々の幸福度の高さなどが取り上げられることで、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の重要性が論じられるようになったのは、2000年代に入ってからです。

今では、プライベートや自分らしさを大切にする働き方が理想とされ、Z世代はそのような環境で育ってきた世代です。「ワーク・ライフ・バランスが大事」という言葉にもピンとこないはずです。彼らにとっては「ライフ・ワーク・バランス」なのです。彼らのプライベートを侵す飲みにケーションや強制的に参加させるような会社行事が好まれないのは納得できます。

「会社のために」ではなく「自分自身のために」働く世代が、生き生きと働ける会社になるためにはなにが必要か。彼らのプライベートを尊重してあげられるような人事施策が「Z世代に選ばれる企業」に必要な条件になってくるでしょう。

Z世代のマネジメント―Z世代に選ばれる企業になるための条件

そこで企業に求められることとして4点あげたいと思います。

1.パースペクティブ・テイキング

まず1つは、今時の若者(Z世代)の視点に立って彼らを理解しようと努めることです。これを「パースペクティブ・テイキング(perspective taking)」といいます。

先述したように、今時の若者、そして今後の若者も“手取り足取りの教育を受けた”人材です。ベテラン社員が受けてきたような“俺の背中を見て学べ”的な教育方法は理解されません。また、組織としても人事部からの一方的で、強制的な教育のあり方や放置教育が通用しない世代になってきていることを理解すべきです。若手社員の育成や意識を変える前に、自分たちの意識や教育観・教育方法を見つめ直すことが必要です(これは大学教育にも当てはまることですが)。

このようなことを多くの人事部長が集まる会合で報告させて頂いたことがあります。その際「なんでそこまでしなければならないんだ。我々の時はそうじゃなかった。今まで通りでよい」という意見を頂きました。たしかに、それも1つの教育のあり方なので否定はしません。

ただ、教育は相手を理解し、相手のためになるものでなければ意味がないと思います。そのためには教える側が相手を理解し、どのような教育を求めているのかを把握し、それを満たす教育を施すことが重要です。

時代は変わり、若手の意識も変わりました。教える相手に適した教育をしなければ、これから会社を担っていく若手社員をうまく会社に馴染ませ、コア人材へ成長させることはできないでしょう。そんな会社に未来はないと個人的には思っています。

もちろん、すべてを若手社員に合わせる必要はありません。大学時代と社会人は異なることをしっかりと教育することは重要だし、自社の理想とする人材像も育成のやり方も大切にして欲しいと思います。そして、時には厳しく接することも重要です。会社が長年大事にしてきた“正しい”育成観は、継承することも重要だし、それが会社の「強み」(コア・コンピタンス)にもつながります。

会社の成長を支える幹の部分は大切にし、枝葉の部分は環境に合わせて変えていくことが重要です。Z世代が仕事に、会社に、人生になにを求めているのか。まずは、それをしっかりと理解することから始めることが重要だと思います。

2.アンラーニング

2つめは、会社側(先輩社員)が「アンラーニング(unlearning)」することです。アンラーニングとは学習棄却と訳され、時代遅れになったり、組織や人を誤った方向に導く知識を捨て去ったりすることです。

時代遅れになった知識や過去の成功体験に固執し過ぎれば、新しい環境に適応することは難しくなります。新しい環境に応じ、その知識を修正・アップデートしていくことが重要になります。会社側がZ世代には通用しない価値観や考え方をアンラーニングし、Z世代型に学び直すことです。

例えば、新型コロナウィルスは我々の生活に多くの変化をもたらしました。もちろん、仕事生活にも大きな変化が生じ、その中でもとくに大きな変化が「働き方」の変化だと思います。具体的にいうと、今までの「1つの場所で、みんなで」という働き方から「ばらばらの場所で、1人で」という働き方に変化した点です。この変化は働き方の根底を覆す、大きな変化だと言えます。

コロナ以前の働き方を経験しているBeforeコロナ世代は、その働き方(「1つの場所で、みんなで」)の良さを知っています。同僚と1つの場所で、蜜なコミュニケーションを取り、チームで仕事を成し遂げていました。その中で、我々は失敗や成功、試行錯誤を繰り返し、上司や同僚から叱られたり、褒められたり、上司や同僚の働きぶりを観察しながら成長してきました。Beforeコロナ世代はそれが仕事であり、そのような人材育成の方法が効果的だと感じている人が多いのではないでしょうか。

With/Afterコロナ世代は、コロナ以前の働き方を知りません。つまり、コロナ以前の働き方の良さを知らず「ばらばらの場所で、1人で」という働き方が当たり前の世代なのです。生まれた時から情報技術が発展しており、それをうまく使いこなす世代です。学生時代もオンライン講義を経験し、むしろ自律的に働け、プライベートも充実させることができるテレワークこそ理想の働き方と考えている世代なのです。

コロナ以前への郷愁はなく、未来しかない。そのような世代に「コロナ以前の働き方は良かった」「コロナ以前の働き方こそ,本来の仕事のあり方だ」と主張するのは、“時代遅れの困った先輩”になってしまいます。

コロナ以前の世代とWith/Afterコロナ世代が、未来に向けて新しい日本社会を築いていくための求められることは、Beforeコロナ世代がBeforeコロナ時代の働き方や人材育成のあり方をアンラーニングすることです。

もちろん、すべてを棄却する必要はありません。古くなった知識でも、現状に役立つものもあります。そのような知識は、積極的に現状に援用していくことも重要です。コロナ以前の働き方や人材育成のあり方で援用可能な部分は援用し、援用できなくなった部分は修正することで、With/Afterコロナ時代の新しい働き方・人材育成のあり方を構築していくことが求められていると思います。

3.承認してあげる

3つめが「承認する」ことです。先述したようにZ世代はとくに承認欲求が強い世代です。彼らをしっかりと承認することが重要です。

ここで重要になるのが、成果だけではなく「プロセス」もしっかりと見て、承認することです。結果が良くなくても、そのプロセスでの努力はしっかりと認めることが重要です。そうすれば努力の重要性を認識し、今後も努力ができる人材になるはずです。成果も重要ですが、成果だけで判断しないことです。

仕事のプロセスを承認するということは、常に仕事の状況を見守ることが求められます。人事部や上司に求められることは、彼らが仕事に取り組む姿勢やプロセスもしっかりと見て、タイミングを見計らってフィードバックを与えることです。仕事のプロセスで、上司からしっかりとフィードバックをもらえれば「上司は自分たちをしっかりと見てくれているんだ」という安心感を抱かせることができ、また上司への信頼感を醸成できます。

これらは、彼らの仕事のパフォーマンスや成長にも重要な役割を果たすことになります。プロセスもしっかりと承認し、適切なタイミングで、彼らの成長に寄与するフィードバックを提供する。これがZ世代のマネジメントに求められる重要な要素になると言えます。

ただし、筆者は日本社会の「褒めて育てる」という風潮に危機感を覚えています。やはり育成には「厳しさ」も不可欠です。結果が良くなかったり、正しくない行動を取れば、厳しく接することも求められるでしょう。

また、良い成果を出したとしても、承認すると同時により良くするためにはなにが必要だったのかを考えさせ、さらなる成長を促すような厳しさも必要です。近年、パワハラなどの問題が多く取り上げられ、若手に厳しく接することが難しい時代になっています。“叱れない上司”という言葉もよく耳にします。しかしながら、部下を成長させたければ、厳しさは必要になります。

育成における厳しさとは、上意下達の一方的で強制的な厳しさ(パワハラ型厳しさ)ではなく、仕事に妥協しない厳しさや部下のさらなる成長を期待する厳しさ(育成型厳しさ)です。この厳しさを履き違えてはいけません。部下の成長を期待する育成型厳しさは、人材育成には不可欠です。

Z世代も褒めて育てられた世代です。しかしながら、成長欲求も強いように感じます。そのような成長欲求を刺激し、さらなる成長を期待する育成型厳しさも忘れないでください。

4.オーダーメイド型育成

4つめが、1人ひとりの個性に合わせた「オーダーメイド型育成」です。社員を“束”と捉え、マス教育などで画一的に育成しようとしていたのが、今までの日本企業ではないでしょうか(学校教育も)。そこでは、全員に対して組織のやり方や考え方に従わせるような教育を施し、効率的に社員をマネジメントしようとしてきました。

しかしながら、Z世代はそのような環境で育っていません。1人ひとりの個性を重視し、多様性(ダイバシティやインクルージョン)が尊重される環境で育ってきた世代です。彼らに合ったマネジメントの仕方は、今までのような「没個性型マネジメント」ではなく、1人ひとりの個性や自律性を発揮させる「自律性発揮型マネジメント」になります。

育成に関しては、1人ひとりの能力や成長度合いに応じて、オーダーメイドの育成プランが求められるでしょう。それは人事部や上司の負担を増加させますが、Z世代以降の人材には、このような育成方法でなければ通用しなくなるはずです。

今後の日本企業には、社員1人ひとりの個性を引き出すマネジメントが求められており、管理者にはそのようなマネジメント能力や育成能力を身に付けさせることが重要な組織課題になるといえます。会社としてZ世代の1人ひとりの個性を生かすマネジメントが求められています。

以上の「パースペクティブ・テイキング」「アンラーニング」「承認」「オーダーメイド型育成」の4つがZ世代のマネジメントのキーワードになると考えています。

関係性構築の原点

しかしながらZ世代は、まったく見たことも、触れたこともない未知の生物ではありません。Z世代も人間です。同じ日本語を話す日本人です。理解できないはずがありません。人と人が、ともに仕事をしたり、関係性を構築したりするために最も重要なものは,昔も、今も、これからも不変だと思います。それがコミュニケーションです。

Z世代の視点に立って、Z世代を理解し、承認すること。そのためには、先輩社員がアンラーニングし、考え方や意識を変えること。これらすべての原点にあるのが、コミュニケーションです。

ここまでいろいろと難しいことを論じてきましたが、最終的に言いたいことはいたってシンプルで「Z世代としっかりと向き合い、傾聴し、理解し合うこと=コミュニケーションをとることが大事だ」ということです。

著者プロフィール尾形 真実哉(おがた まみや)
甲南大学 経営学部 教授
2007年神戸大学大学院経営学研究博士後期課程を修了(博士(経営学)取得)。同年4月より甲南大学経営学部専任講師,准教授を経て,2015年より教授となり現在に至る。
専門は組織行動論,経営組織論。研究テーマは,若年就業者の組織適応,中途採用者の組織再適応,育成上手の研究など。著書に『組織になじませる力:オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』(アルク),『中途採用人材を活かすマネジメント:転職者の組織再適応を促進するために』(生産性出版),『若年就業者の組織適応: リアリティ・ショックからの成長』(白桃書房)。共著に『人材開発研究大全』(東京大学出版会),『日本のキャリア研究:組織人のキャリア・ダイナミクス』(白桃書房),『経営行動科学ハンドブック』(中央経済社),『入門組織行動論第2版』(中央経済社)など。
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