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【連載】ゲーミフィケーションとは(1/3回目)

2022年07月20日更新

近年、職場でも注目が高まっているゲーミフィケーション。本シリーズでは、3回に分けて職場でのゲーミフィケーションについて解説していきます。第1回目は、ゲーミフィケーションの定義、具体的なデザイン要素、効果について解説します。

目次 【表示】

ゲーミフィケーションとは

ゲーミフィケーション(Gamification)は、「ゲームのデザイン要素をゲームとは違う文脈に使うこと」と定義される言葉で、2010年代から注目を集めました[1]。一般的には、ゲーム以外の場面でのモチベーションやエンゲージメント、パフォーマンスの向上を狙って導入されることが多い手法です。

たとえば、ロールプレイングゲーム(RPG)の代表的なデザイン要素に、「経験値」と「レベル」があります。これらは、「敵を倒す」「なにかを収集する」といった特定の行動に対する報酬の役割を担っています。

報酬のタイプにもいろいろあり、レベルアップで自分が強くなったり、おもしろいスキルを習得したりするだけでなく、新しい場所に行けるようになるといった報酬もあります。これにより、ゲームで特定の行動を取ることに対するモチベーションが高まるという構造になっています。

上記のようなゲームのデザイン要素をさまざまな場面の活動に組み込めば、いろいろなモチベーションが高められるのではないかという考えが広まりました。応用場面の事例として多いのは学校教育や医療福祉ですが、近年では、仕事場面にゲーミフィケーションを取り入れる事例も増えています。

ゲームのデザイン要素を仕事の文脈に応用し、労働者のモチベーションやパフォーマンスなどを向上させることを指す「ワーク・ゲーミフィケーション」という言葉も使われるようになっています[2]。

ゲーミフィケーションの原則

ゲーミフィケーションの研究が進むにつれ、「ポイント」や「レベル」のような具体的な要素の調査が進むと同時に、それらを束ねた抽象的なゲーミフィケーションの原則も明らかになってきました。この記事では、多くの先行研究を踏まえて整理している、Nah et al.(2019)の研究知見を紹介します[3]。

Nah et al.(2019)は、ゲーミフィケーションの原則を以下の8つにまとめています。

①チャレンジ、②インタラクティビティ、③ゴール志向、④社会的つながり、⑤競争、⑥達成、⑦強化、⑧楽しみ志向

このうち、「①チャレンジ」「②ゴール志向」「③インタラクティビティ」は、プレイヤーを「フロー(Flow)」にさせる効果を持っています。フローとは、完全に没頭もしくは活動に従事している状態を指しますが、フローになるには自分のスキルにちょうど合った挑戦になっているかが鍵になります。

デジタルゲームは一般的に、ゲーム中の挑戦に対するプレイヤーの振る舞いに対し、簡単そうなら退屈させないように難易度を上げ、難しそうなら不安にならないように難易度を下げたりヒントを出したりしますが、このインタラクティブな仕組みは、まさにプレイヤーをフローの状態にし続けるのに適したものといえるのです。

④社会的つながり、⑤競争、⑥達成、⑦強化、⑧楽しみ志向の原則は、ゲーミフィケーションとして重要なデザイン要素を抽象化してまとめたものといえます。それぞれモチベーションを高める効果などが確認されています。

ゲームのデザイン要素

では、ゲーミフィケーションの8つの原則を実現させるための、ゲームのデザイン要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

同じくNah et al.(2019)は、代表的なゲームのデザイン要素を整理し、表1のように18個の要素を挙げています。具体的には、「ポイント」、「レベル」、「バッジ」、「リーダーボード」、「オンボーディング」、「クエスト」、「フィードバック/進捗バー」、「パフォーマンスのグラフ」、「賞品/報酬/ボーナス」、「ソーシャル・エンゲージメント・ループ」、「チームの活用」、「ルール」、「マーケットプレイス」、「3D空間」、「アバター」、「ストーリー(物語的なコンテンツ)」、「ロールプレイ」、「カスタマイズ/パーソナライズ」です。

また、表2のように、先ほど紹介したゲーミフィケーションの8つの原則それぞれに対し、どのゲームのデザイン要素が使えるのかもまとめています。すべての原則、要素を使う必要はありませんが、促進したい活動にプラスすると良さそうなものを組み込むことで、職場でのゲーミフィケーションが可能になります。

表1. ゲームのデザイン要素と説明
(Nah et al.(2019)の表を著者が翻訳・一部修正して作成)

表2. ゲーミフィケーションのデザイン原則と対応するゲームのデザイン要素
(Nah et al.(2019)の表を著者が翻訳・一部修正して作成)

ゲーミフィケーションの効果

ゲーミフィケーションの効果検証は学校教育を対象にしたものが多いですが、従来の教育方法と比較して、モチベーション、エンゲージメント、学習成果(知識や思考力など)を高める効果が確認されています [4]。

職場でのゲーミフィケーションについても、モチベーション、エンゲージメント、仕事の生産性に効果があったことを示す調査結果があります [5]。

しかし、職場でのゲーミフィケーションについては、うまくいかなかった事例が報告されていたり、導入の仕方によっては効果が見込めなくなる懸念も指摘されており、いくつかの注意点があることも分かってきました[6]。

そこで、第2回の記事では、職場でのゲーミフィケーションのさまざまな事例を結果と一緒に紹介しつつ、職場に導入する際の注意点について解説します。それらを踏まえた上で、第3回の記事では、職場でのゲーミフィケーションの手順とコツについて解説します。

参考文献
[1] Deterding, S., Dixon, D., Khaled, R., Nacke, L. (2011). From game design elements to gamefulness: defining gamification. In: Proceedings of the 15th International Academic MindTrek Conference: Envisioning Future Media Environments. ACM, 9–15.

[2] Cardador, M. T., Northcraft, B. G., Whicker. J. (2017). A theory of work gamification: something old, something new, something borrowed, something cool? Human Resource Management Review, 27, 353-365. https://doi.org/10.1016/j.hrmr.2016.09.014.

[3] Nah, F.-F.-H., Eschenbrenner, B., Claybaugh, C.C., Koob, P.B. (2019). Gamification of enterprise systems. Systems, 7(13). https://doi.org/10.3390/systems7010013.

[4] Donovan, L., Lead, P. (2012). The Use of Serious Games in the Corporate Sector. Learnovate Centre.
https://www.learnovatecentre.org/wp-content/uploads/2013/
06/Use_of_Serious_Games_in_the_Corporate_Sector_PRINT_
FINAL.pdf(参照日: 2022年6月27日)

[5] TalentLMS(2019). The 2019 Gamification at Work Survey. https://www.talentlms.com/blog/gamification-survey-results/(参照日: 2022年6月27日)

[6] Perryer, C., Celestine, N. A., Scott-Ladd, B., Leighton, C. (2016). Enhancing workplace motivation through gamification: Transferrable lessons from pedagogy. The International Journal of Management Education, 14(3), 327-335. https://doi.org/10.1016/j.ijme.2016.07.001.

著者プロフィール池尻 良平(いけじり りょうへい)
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