インバスケット研修とは?注目されている理由やメリットを紹介
企業において人材不足が深刻化するなか、社員一人ひとりのスキルアップを促し、生産性を高めるための取り組みが求められています。そのようななかで、社員の問題解決力や判断力の向上、業務改善につながり、企業にとっては社員の強みやスキルを把握するうえでも役立つのが「インバスケット研修」です。
インバスケット研修は、指定されたシチュエーション・立場になりきり制限時間内にタスクを処理していく演習形式の研修で、人材育成の観点から注目を集めています。本記事では、インバスケット研修の特徴や、評価できる項目を紹介するとともに、研修のメリットや効果的に進めるポイントをお伝えします。
インバスケット研修とは
「インバスケット(in-basket)」という言葉は、まだ処理されていないタスクが入った箱(未処理箱)を意味します。「インバスケット研修」は、特定のシチュエーション・立場が指定されたうえで、その立場になりきり、制限時間内に未処理のタスクを処理していく演習型の研修で、多くの企業の人材育成において導入されています。
インバスケット研修の特徴
インバスケット研修では、膨大な数の未処理タスクが用意されています。受講者は、制限時間内にできるだけ多くのタスクを正確に処理するために、自らの判断でタスクに優先順位をつけながら適切な行動を回答していきます。
タスク処理の方法や順番には絶対的な正解がなく、設定されたシチュエーション・立場を加味して、望ましいプロセスを踏めているかがより重視されます。また、「なぜその判断に至ったのか」という思考のプロセスから、受講者は自身の思考の癖を把握することができます。
回答の形式は、タスク処理の順番や行動を自由に記入する「記述形式」や、いくつかの選択肢のなかからもっとも適切だと思える行動を選択する「マークシート方式」などがあります。
インバスケット研修の対象者と目的
インバスケット研修は、新入社員や中堅社員、マネジメント層と幅広い対象者に向けて実施することができます。また、対象者によって実施する目的が異なります。
対象者 | 実施する目的(一例) |
---|---|
業務のイメージを掴みやすくする | |
部下への指示の出し方や目的達成のための思考力を鍛える | |
チームのリソースを管理するスキルや働きかけ力を鍛える |
インバスケット研修が注目されている理由
インバスケット研修のはじまりは、もともと1950年代にアメリカの空軍において、教育によって得た知識・スキルが、実戦において活用されるかどうかを測定するために生み出されたといわれています。 日本では1980年代に大手企業の管理職登用試験として導入され始めました。
インバスケット自体は数十年前から活用されている手法ですが、近年、採用における売り手市場傾向、企業間の人材獲得競争の激化から再び注目されています。
限られた人材で、生産性を高めるための取り組みとして、社員一人ひとりの主体性の向上や、判断力、意思決定スピードの向上などの能力強化が求められていることから、インバスケット研修が関心を集めています。
インバスケット研修で評価できる能力
インバスケット研修にはさまざまなものがありますが、基本的には演習やその振り返りを通じて、さまざまな角度から受講者の能力の発揮度合いを評価できます。ここでは一例として、マイナビ研修サービスが提供している「インバスケット研修~社会人基礎力編~」において、評価できる能力を紹介します。
以下はいずれも、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」の要素となっています。
能力 | 能力を構成する要素 |
---|---|
前に踏み出す力 (一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力) |
・主体性 ・働きかけ力 ・実行力 |
考え抜く力 (疑問を持ち、考え抜く力) |
・課題発見力 ・計画力 ・創造力 |
チームで働く力 (多様な人々とともに目標に向けて協力する力) |
・発信力 ・傾聴力 ・柔軟性 ・情況把握力 ・規律性 ・ストレスコントロール力 |
前に踏み出す力
前に踏み出す力とは、「一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力」を指します。インバスケット研修では、自ら優先順位を考え実行します。自分ごととして捉え、取り組む過程で「主体性」を評価できます。
また、タスクをこなすために必要に応じて周囲の協力を仰ぐ「働きかけ力」や、タスクを達成するために行動する「実行力」も評価できます。前に進む力が身につくことで、主体的に物事を捉えられるようになり、指示を待つのではなく自ら行動できるようになります。
考え抜く力
考え抜く力とは、「疑問を持ち、考え抜く力」を指します。インバスケット研修において、膨大なタスクに優先順位をつけて時間内に処理するためには、素早い意思決定や、処理するためのプロセスを整理することが求められます。
取り組む過程で「課題発見力」や「計画力」を評価できます。考え抜く力が身につくことで、論理的に考えて答えを導き出すだけでなく、自発的に課題を発見し、解決のための道筋を描けるようになることが期待できます。
チームで働く力
チームで働く力とは、「多様な人々とともに、目標に向けて協力する力」を指します。インバスケット研修では、マネージャーなどの役割が与えられ、その役割になりきってタスクを処理していきます。チームのリーダーとしてタスクを処理していく過程で、多様なチームメンバーの立場の違いや関係性を理解する「柔軟性」や「情況把握力」、マネージャーとしての「発信力」などを評価できます。
チームで働く力が身につくことで、協調性が養われるだけでなく、多様性のあるメンバーとの協働により、一人だけでは生み出すことのできない大きな成果につながります。
インバスケット研修のメリット
インバスケット研修を導入することで以下のメリットがあります。
問題解決力が向上する
インバスケットにおける案件処理の過程では、原因の特定から実行までのプロセスを繰り返すため、問題解決力の向上につながります。問題を解決するためには、問題の根本的な原因を見つけて分析し、仮説をもとに解決までの道筋を考え、実行していくスキルである「問題解決力」が求められるためです。
ビジネスにおいては、日々さまざまな問題が発生しますが、このスキルが身についていることで、論理的に考え、発生した問題に臨機応変に対処できるようになります。
判断力が身につく
特定のシチュエーションを想定して、指定された立場になりきるインバスケット研修では、意思決定をする機会が確保でき、繰り返しタスクを処理していく過程で判断力の向上につながります。日常業務において、失敗を恐れて自分自身で判断することを避け、上司やメンバーに判断をゆだねてしまう傾向がある人にとくに有効でしょう。
スキルアップにつながる
社会人基礎力をはじめとした、スキルの発揮度合いを受講者が把握することができるインバスケット研修では、社員が自分自身の得意分野・苦手分野を把握することで、強みを生かしたり、苦手を克服したりするなど、スキルアップのための行動につながることが期待されます。
業務改善のきっかけとなる
インバスケット研修を通じて自分自身の行動や思考の癖がわかることで、業務改善のきっかけとなります。時間制限が設けられているなかで膨大な案件を処理しなければならないため、演習やその振り返りを通じて、普段の業務における優先順位の付け方や、必要に応じて他のチームメンバーへ仕事を割り振る重要性を学ぶきっかけとなるでしょう。
インバスケット研修を効果的に進めるポイント
インバスケット研修を効果的に進めるためには、以下のポイントを意識してみましょう。
演習前に自己評価をしてもらう
演習を始める前に、受講者自身に評価項目ごとの自己評価をおこなってもらい、演習後に実際の結果と照らし合わせることで、自己認識とのギャップに気づくことができます。もし、自己評価よりも実際の点数が低い項目がある場合、今後意識して改善していきたい項目であると気づけます。
気づきを促すことで、受講者が強みや弱みを認識でき、日々の仕事において改善を図ることや、強みを生かしていくことにつながります。
結果を踏まえて、今後のアクションを設定してもらう
インバスケット研修における演習やワークには絶対的な正解がありません。そのため、受講者が問題意識を持った状態で受講しなければ、今後の業務改善につながりにくくなります。インバスケット研修を自己成長のための行動や動機づけに繋げるためには、演習後の受講者に、課題を改善してくための具体的なアクションを考えてもらうことが大切です。
具体的には、演習の結果をもとに受講者が自身の課題を把握し、それを克服するために今後取り組みたい具体的なアクションを設定することが効果的です。また、設定したアクションをグループ内で宣言してもらうことで、研修後の行動を促しやすくなるでしょう。
社員自身の課題発見・改善に役立つインバスケット研修
インバスケット研修を活用することで、社員が自身の強み・弱みや、思考プロセスにおける癖などに気づくことができ、スキルアップや業務改善のきっかけを作ることにつながります。インバスケット研修を実施する際は、受講者の動機づけをおこなうことで研修効果を高め、実際の業務に生かせるように働きかけましょう。