コロナ禍が新入社員に与える影響とは?社会人基礎力の診断結果に表れた変化
社会人基礎力とは、経済産業省により提唱されている「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」です。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力が、さらに12の能力要素に細分化されています。マイナビ研修サービスでは、この社会人基礎力の発揮度合いを自己評価と評価者評価の両面から診断できる社会人基礎力診断を提供しています。
今回は、コロナ禍前である2020年3月以前に診断した新卒入社1年目の社員180名と、コロナ禍の2020年4月以降に診断した新卒入社1年目の社員325名の間で、診断結果を比較してみました。新型コロナウイルス感染症によって起こった変化が、新入社員の社会人基礎力の発揮度合いにどのような影響を与えているのか考察するとともに、上司や先輩社員がコロナ禍の新入社員のためにできることを紹介します。
新入社員の自己評価の変化
コロナ禍では、リモートワークを取り入れる企業が増加したり、上司や先輩社員と交流する機会が少なくなったりと、新入社員を取り巻く環境に大きな変化が起こっています。社会人基礎力の発揮度合いについて、まずはコロナ禍前後で新入社員の自己評価の変化をみてみましょう。
ほぼすべての能力要素で自己評価のポイントが上昇
新入社員による自己評価では、「ストレスコントロール力」を除くすべての能力と能力要素について、コロナ禍前よりもコロナ禍のほうがポイントが上昇しています。唯一ポイントが下がった「ストレスコントロール力」についても、コロナ禍の前には2.82pだったのがコロナ禍では2.78pと、減少幅は0.04pに留まっています。
ポイントの上昇幅は「柔軟性(0.16p)」「実行力(0.14p)」「課題発見力(0.13p)」「傾聴力(0.12p)」「計画力(0.10p)」の順に大きく、いずれの上昇幅も0.1p以上です。コロナ禍の新入社員は、コロナ禍前の新入社員と比べて自分自身への能力評価が高く、自己効力感が高い傾向にあります。
「実行力」と「柔軟性」の上昇が顕著
ポイントの上昇幅で1位と2位だった「実行力」と「柔軟性」は、自己評価が高い順に能力要素を並べた順位でも1位と2位を占めています。その代わりにコロナ禍前は1位だった「規律性」が、コロナ禍では3位になりました。ただし、「規律性」もポイントはコロナ禍前より0.04p上昇しています。
コロナ禍においては前例のない対応が求められるようになり、これまでのやり方やルールが通用しない世の中になっています。このような状況下では規則やルールに従う「規律性」よりも、状況に応じて柔軟に行動することや、その場ごとにやるべきことを実行していく機会が増えていると考えられます。
新入社員も就職活動中や入社1年目に直面した臨機応変な対応を通じて、「実行力」と「柔軟性」が発揮できていると感じるようになったのではないでしょうか。
評価者評価も踏まえた変化
社会人基礎力診断では、新入社員の社会人基礎力の発揮度合いを、先輩社員や上司などの視点から客観的に評価する評価者評価のデータも収集しています。コロナ禍前の新入社員180名とコロナ禍の新入社員325名それぞれの評価者評価を比較すると、コロナ禍前の新入社員が評価者に評価されていた能力と、コロナ禍の新入社員が評価されている能力の間にも変化がありました。
「情況把握力」と「主体性」が評価されるようになった
コロナ禍前とコロナ禍での評価者評価にみえる変化で注目したい点が、「情況把握力」と「主体性」のポイントや順位の上昇です。「情況把握力」は、コロナ禍前の評価者評価では3.17pだったのが、コロナ禍には3.43p(+0.26p)になっています。12の能力要素をポイント順に並べた場合も、コロナ禍前は11位でしたが7位にまで上昇しています。「主体性」についても、コロナ禍前の評価者評価が3.46pだったのに対しコロナ禍には3.59p(+0.13p)になっています。
状況が刻一刻と変わるコロナ禍において、新入社員が自分の取るべき行動を場面ごとに考えられている点や、積極的に業務に取り組んでいる姿勢が評価されたのではないでしょうか。
新入社員のために周囲の社員ができること
コロナ禍においては、新入社員を受け入れる人事担当者や上司、先輩社員もどのように新入社員と関わればよいのか、手探りで考えていることでしょう。研修の実施方法や業務の教え方にも試行錯誤があったことは、想像に難くありません。そのような状況下でも新入社員と関わる社員が取り組める、新入社員の社会人基礎力を伸ばす方法を紹介します。
社員間で困りごとを伝えやすくする雰囲気づくり
新型コロナウイルス感染症の影響によるリモートワークの普及で、新入社員と上司や先輩社員がお互いに直接見える環境で働く機会が少なくなったことにより、とくに気をつけるべきことがあります。
新入社員の立場でみると、リモートワークではわからないことを質問するタイミングを逃しがちです。上司や先輩社員からみても、同じオフィスや拠点で働いている時には、新入社員が困っている様子に表情やしぐさなどで気づくこともできました。しかし、リモートワークにおいてはなかなか気づけず、気づいた時には問題が大きくなっている、というような事態も起こり得ます。
新入社員が業務上の質問をする機会は、自分自身の現状を整理して言葉にして伝えることで「発信力」を伸ばしたり、自分自身がなにを理解できていないのかという視点で自分の課題を把握することにより「課題発見力」を伸ばしたりできる絶好のチャンスです。リモートワークでのコミュニケーション方法についてポイントを公開するなど、困りごとを周囲に伝えやすくする雰囲気づくりをすることで、これらの能力要素を伸ばしやすくなるでしょう。
相互理解を深められる機会や情報提供
コロナ禍の新入社員は、業務以外でのコミュニケーションがとりにくい環境にいることもあり、先輩社員や上司の人柄や日頃考えていることを知る機会が少なくなっています。お互いの価値観を理解したり、普段の業務では直接関わらない社員とも人間関係を構築したりすることは、業務でも役立ちます。
人事や、新入社員と関わる上司や先輩社員が主体となって、コロナ禍でもできるコミュニケーション促進施策を検討するのもおすすめです。直接対話する機会を設けることは難しくても、Web会議システムを使っての交流や、社内報や社内SNSなどの活用により、既存社員と新入社員双方の相互理解を深められる機会や情報提供をすることができます。
このような取り組みは、違う部署の人や異なる価値観をもつ人の存在に触れられる可能性があり、直接的な業務を超えた取り組みなどを生み出すきっかけ作りにもなることから、社会人基礎力でいうところの「働きかけ力」「創造力」「ストレスコントロール力」といった能力の発揮につながります。社内で幅広い人間関係を構築しておくことで、目の前の業務だけではなく将来的に業務を進めやすくなることもあるでしょう。
まとめ
コロナ禍の新入社員は、コロナ禍前の新入社員に比べると自分自身の能力に自信を持っている人が増えていることがデータから読み取れました。また、先輩社員や上司といった評価者も、コロナ禍という過去に類をみない状況に立ち向かっている新入社員には、大きな期待を寄せているようです。VUCA時代において柔軟に対応していける人材に育つであろうコロナ禍の新入社員を、いち早く一人前に育てられるよう、会社一丸となってサポートしていきましょう。