ダブルループ学習とは?注目されている理由やメリット、有効なフレームワークを解説
既存の枠組みや考え方に則って改善を繰り返していくことは、取り組みの質を向上させ、一定の成果をもたらすでしょう。その一方で、新しい発想が生まれづらく、問題の根本的な解決に至らない側面を持っています。そこで有効なのがダブルループ学習です。
ダブルループ学習は、過去の成功体験に捉われずに既存の方法や前提を見直して改革を起こしていく学習プロセスで、組織の柔軟性や成長につながるため注目されています。
本記事では、ダブルループ学習の概要やシングルループ学習との違い、注目されている背景やメリット、ダブルループ学習を取り入れる方法、実践に有効な手法を紹介します。
ダブルループ学習とは
ダブルループ学習とは、既存の枠組みや考え方、過去の成功体験に捉われず、新しい考え方や行動を実践していく学習プロセスのことを指します。アメリカ・ハーバード大学の名誉教授であるクリス・アージリス氏が提唱しました。
たとえば、企業が自社サービスや商品の「売上の減少」という課題に対して、サービス・商品の質や営業スタッフの提案をさらに改善するといった対策ではなく、そもそもターゲットとしている市場や商品コンセプトが正しいかどうかなどの根本的な前提を見直し、必要に応じてマーケティング手法やビジネスモデル自体を改革します。
このように、表面的な問題解決に留まらず、根本原因を探り、組織のあり方を見直すのがダブルループ学習です。ダブルループ学習は、既存の方法や前提を見直し、改革を起こしていく手法といえるでしょう。
シングルループ学習との違い
ダブルループ学習と対となる考え方にシングルループ学習があります。組織における学習プロセスという点では共通しますが、目的や手法が異なります。シングルループ学習とは、過去の成功体験や既存の考え方・行動にもとづいて問題解決を図る手法です。
たとえば、PDCAサイクルを代表とし、同じ取り組みに対して結果を出すことや改善を繰り返すことが目的です。この手法により、取り組みそのものの質は向上しやすくなります。しかし、前提に誤りがあった場合、根本的な解決には至らないことがあります。また、より効率のよい方法を見逃してしまう可能性もあります。
一方でダブルループ学習は、既存の枠組みや前提を疑い、新しい考え方を取り入れながら軌道修正する手法です。たとえば、売上減少の原因を探る場合に、サービス・商品の質や営業スタッフの提案などに焦点をあてるだけでなく、マーケティング手法やビジネスモデルなどの根本的な部分も含めて見直しをおこないます。
このように、シングルループ学習は既存の枠組み内での改善に焦点を当て、ダブルループ学習はその枠組み自体を問い直すことに焦点を当てます。両者を並行して活用することで、組織の学習と成長を促進する効果が期待できます。
ダブルループ学習が注目されている背景
過去の成功体験や、企業の持つ慣習などから、「過去にうまくいった手法」を繰り返しがちです。
たとえば、新製品の開発や市場拡大の戦略を立てるといった新しいものを生み出す場面では、革新的なアイディアやアプローチが求められます。それにもかかわらず、過去の成功例をベースに考え、従来の手法に固執してしまうと、新しいものが生まれにくい状況になってしまいます。また現代は変化の激しいVUCA時代であり、既存のやり方だけでは変化についていけない可能性があります。ダブルループ学習による改革は今までのやり方を変える必要があるため簡単ではありません。
しかし、改善のために試行錯誤し、新しい発想を得て改革をおこなうことは組織の柔軟性や成長につながります。既存のやり方や価値観に捉われず、常に発想を更新し続けることが、予測不可能な未来に対応する力となるため、ダブルループ学習が注目されています。
ダブルループ学習のメリット
ダブルループ学習のメリットを2つ紹介します。
広い視野で問題解決ができる
ダブルループ学習では、前例や慣習に捉われず、広い視野で解決策を考えることができます。
問題解決のプロセスを通じて自己調整を繰り返し、幅広い問題に対する経験を積むことで、今後発生する問題に対しても臨機応変に対応しやすくなります。
企業の成長につながる
ダブルループ学習では、目の前のことに対処するのではなく、根本的な原因を特定・解決することにつながります。そのため、同じ問題が再発しにくくなり、企業は新たな施策に取り組む余裕が生まれます。その結果、業績の向上に貢献し、企業の成長につながります。
ダブルループ学習を取り入れる方法
ダブルループ学習を取り入れるきっかけとなる方法を以下で紹介します。
ブレインストーミングをおこなう
ブレインストーミングとは、決められたテーマについて、参加者が自由にアイディアや意見を出し合い、新しい発想を生み出すことを目指す会議手法のことです。役職や立場は関係なく自由に意見を言い合えることを重視していることが特徴です。
既存のやり方にとらわれないためには、自分自身だけでは思いつかなかった考え方を得ることが重要です。また、大多数が当たり前だと思っていたやり方に対しても、一人が疑問を呈したことをきっかけに見直すことができる可能性もあります。
そのためにも、ブレインストーミングでは他人のアイディアを否定したり、立場によって発言そのものがしづらくなったりしないようにし、意見の質より量を重視することが大切です。
目標設定を根本から見直す
目標が今までどおりだと、既存のやり方から抜け出せないことも多いものです。ダブルループ学習で新しい可能性を模索するには、従来の枠組みを取り払い、別の軸で目標を考えることが重要です。たとえば、従来まで「総売上」を目標に設定していた場合、「顧客単価」に目標を変更することで、自然と新しい手法を考えざるを得なくなります。
部下が意見を出しやすい環境をつくる
ダブルループ学習を効果的に取り入れるためには、さまざまな意見を出しやすい環境をつくることが必要です。とくに役職や立場を気にして部下が意見を出しづらいといった環境は避けたいものです。そのためには、「心理的安全性」を高めることが重要です。
心理的安全性とは、チームにおいて、『他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰をあたえたりしない』という確信を持っており、対人関係にリスクのある行動をとったとしても、メンバーが互いに安心感を共有できている状態のことを指します。心理的安全性が高い職場では、先輩社員や上司がいる場であっても部下は発言することを恐れず、積極的な対話に取り組むことができます。
心理的安全性を高めるためにはメンバーの発言機会を均等にすることや、メンバーの発言に否定的にならず、ポジティブに尊重する態度をとることが重要です。これにより、メンバー同士で既存の枠組みにとらわれないアイディアを自由に共有しやすくなります。心理的安全性を高めることで、従業員が自分の考えを自由に表現しやすくなるため、ダブルループ学習が促進されるでしょう。
ダブルループ学習に有効な手法
ダブルループ学習に有効な手法を以下で3つ紹介します。
リフレーミング
リフレーミングとは、物事や出来事への見方や考え方を変えることを指します。
たとえば、売上が悪いサービスを「成果の出ないサービスだ」とネガティブに捉えるか、「可能性があるサービスだ」とポジティブに捉えるかで、同じ状況でも異なる見方が生まれます。これは同じ事実であっても、視点や考え方の変化によってその捉え方が変わるということです。
リフレーミングはダブルループ学習において、前提を見直す際に有効な手法で、良いと思っていたものの悪い側面や、悪いと思っていたものの良い側面に気づくことができ、新たな視点を得ることができます。
技術課題と適応課題
技術課題とは、明確な解決策がすでに存在し、専門知識や既存の技術によって解決できるものです。
適応課題とは、解決策が不明確で、解決にはものの見方や周囲との関係の変化が求められ、新しい考え方やアプローチを必要とするものです。
たとえば、ソフトウェア開発プロジェクトが大幅に遅れているため、あるチームではこれを技術課題として考え、新しい技術やツールの導入の必要性を検討しました。しかし、調べていく中で遅延の主な原因はチームメンバー間のコミュニケーション不足や不明確な役割分担にあることが判明しました。実はこの課題は、新しい技術を導入するのではなく、適応課題として考え、コミュニケーション改善やチームビルディングの取り組みをする必要があるものでした。
こうした従来の価値観を見直し、目の前の技術課題が本当に技術課題なのかといった決めつけをおこなわないことがダブルループ学習につながります。
クリエイティブ・テンション
クリエイティブ・テンションとは、現状と理想の間に生じる緊張感(ギャップ)を指します。このギャップを明確にし、意識することで、理想に近づけようと個人や組織の変革を促進する原動力になるというものです。
ダブルループ学習においては、こうしたギャップから、現状維持では達成できない理想と現実の差を理解したり、目標や指針に対する現在の状況や進捗を明確にしたりすることも重要です。根本的な見直しや前提に対する疑問のきっかけとなり、ダブルループ学習を促進することにつながります。
ダブルループ学習で組織に新しい成長を
ダブルループ学習は、広い視野で問題解決ができ、企業の根本的な成長にもつながる学習プロセスです。ダブルループ学習を社内に浸透させるためにも、ブレインストーミングで多様な意見を募る機会を増やしたり、目標を根本から見直したりしてみるほか、心理的安全性の確保によって誰もが発言しやすい環境づくりに取り組むことが重要です。
現代のビジネス環境は急速に変化しています。ダブルループ学習によって価値観を更新し、未来の不確実性に対応する力を付けていきましょう。