ラテラルシンキングとは?基本的な考え方とビジネスシーンで活かすコツ
将来の予測が難しいVUCA時代には、変化に対応する柔軟性や問題解決能力、新しい発想を生み出す能力などが求められます。そうしたなかで注目を集めているのが、物事を多角的にとらえ思考する「ラテラルシンキング」です。
今回は、ラテラルシンキングの概要をはじめ、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングとの違い、ビジネスに活かすコツなどについて解説します。
ラテラルシンキングとは
ラテラルシンキングとは、物事の角度を変えて見ることで、多角的に考察し、自由な発想を生み出す思考法のことです。日本語では「水平思考」とも呼ばれ、固定概念や既存の考え方にとらわれず、発想を広げることで新しい発見を得たり、従来とは異なる角度からアプローチをおこなったりすることができます。
【例】
3人に13個のチョコレートを公平に分けるには?
一般的な解決方法例: 1人4個ずつ配り、余った1つを3等分して配る
ラテラルシンキングによる解決方法例:13個のチョコレートをすべて溶かし、3等分した大きなチョコレートを新たに作って3人に配る。
上記例においては、13個のチョコレートの形をできるだけ保ったままで分配する思考が働くかもしれません。しかし、そうした固定概念を持たず、発想を広げていくのがラテラルシンキングです。
ロジカルシンキングとの違い
ロジカルシンキングとは、日本語で「論理的思考」とも呼ばれ、「筋道を立てて物事を考える」思考法です。結論と根拠をつなぐ「筋道」があり、それぞれの要素が明快で「曖昧さがない」のがロジカルシンキングであり、左脳型の思考法とも言われます。
一方で、ラテラルシンキングは、ロジカルシンキングとは異なり、一見、結論に至る筋道がわかりづらい、もしくは、やや曖昧な要素があったとしても、多角的に考えて結論を導き出します。直感的な要素もあるため、右脳型の思考法とも呼ばれます。
クリティカルシンキングとの違い
クリティカルシンキングは、「批判的思考」とも呼ばれ、自分や他者の思考・言動を振り返り、一旦立ち止まって、あえて疑問視してみる思考法です。たとえば、ロジカルシンキングで考えたことに対して本当に筋道が通っているかを検証したり、ラテラルシンキングで考えた方法が現実的であるかを考察したりする考え方と言えます。
クリティカルシンキングは、ラテラルシンキングとはアプローチが異なります。しかし、ラテラルシンキングより着想を得たプランを具体的な実践に移すためにはクリティカルシンキングによる検証が必要であり、補完しあう関係にあります。
社員にラテラルシンキングを身につけてもらうメリット
ラテラルシンキングは、不確定要素の強いVUCA時代に求められる考え方の1つです。社員一人ひとりがラテラルシンキングを身につけることで、以下のようなメリットがあります。
新たな発想による問題解決
ビジネスシーンにおいては、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングが重視される傾向にあります。しかし、既存の考え方では対応できない問題や課題においては、なかなか解決策が見いだせないケースもあるでしょう。
そうしたケースにラテラルシンキングを用いることで、これまでにはない解決策が発見できる可能性があります。また、異なった視点や新たな発想から多くのアイデアが集まれば、結果として、組織や個人が抱える問題解決につなげることができるという利点があります。
発想の転換による商品やサービスの開発
ラテラルシンキングは、新たな商品やサービスの開発を考える際に役立つだけでなく、既存の情報に対して、通常の認識を超えたり、前提を外したりした考え方で見直すといった考え方も含まれます。
たとえば、現在多くの人が使用しているスマートフォンは、それまでの「携帯電話」という枠を超えて、インターネットブラウザや音楽プレーヤー、カメラ機能のあるミニパソコンという位置づけで大きく普及しました。ラテラルシンキングによって、このような商品の開発も可能になるでしょう。
時代の変化に対応した職場づくり
ラテラルシンキングは、働き方や社内ルールなどの見直しにも役立ちます。オフィスワークを前提とする企業で、リモートワーク対応が可能になったり、フレックス制が導入されたりすることも、新たな発想で多様な働き方に対応した結果でしょう。
ラテラルシンキングの基本的な考え方・進め方
ラテラルシンキングは、自由な発想を求めるがゆえに、どのような視点を持てばよいのかわかりづらい点があります。本来、発想方法に決まりはありませんが、参考となる基本的な進め方について紹介します。
チェックリストを使った「強制連想法」
自由な枠で考えているつもりでも、このままでは限界と感じることがあるかもしれません。そんな時は、強制連想法を試すのも一案です。ラテラルシンキングに導く方法の1つとして、リストの項目に従って、強制的に「発想の切り口」を広げ、思い込みを覆していく方法です。
この時活用できるチェックリストとして有名なのが、ブレインストーミングの提唱者であるオズボーンがまとめた「SCAMPER(スキャンパー)」法です。各項目の頭文字をとったもので、以下の7つの視点から、発想を切り替えて考えます。
- ・S…Substitute(代える、代用する)
- ・C…Combine(組み合わせる)
- ・A…Adapt(適応させる)
- ・M…Modify(修正する)
- ・P…Put to other uses(他の使い道)
- ・E…Eliminate(省略する、除去する)
- ・R…Rearrange(再調整する)
何を代わりに使うことができるか?他に誰の協力を得られるか?など
何を組み合わせることができるか?混ぜ合わせることはできるか?など
他に似たものはないか?過去に似た状況はないか?など
どのくらい色や形、重さを変えることができるか?さらに工夫することはできないか?など
他のものに使えないか?もし一部を変えたら、新たに生まれる他の用途は何か?など
何を省略することができるか?ある部分がない時、どうやって実行するか?など
他にどんなパターンが使えるか?何を交換できるか?逆にしたらどうなるか?など
慣れてきたら、自分で新たな切り口を追加するのもよいでしょう。
発想の幅を広げる「3つのコツ」
ラテラルシンキングを上手に使うために役立つ3つのコツがあります。以下の3つの視点で発想の幅を広げてみましょう。
- 1.前提を疑う
- 2.抽象化
- 3.セレンディピティ
なぜそうなのか? その方法は正しいのか? 今後も変化はないか?と問いかける
そもそもどんな結果、結論を求めているのか?もっとも重要な部分は?と問いかける
過去に出会った偶然をヒントに、新たな解決の糸口を探る。予期しない出会いや組み合わせ、発想を受け入れてみる
上記3つは相互に連携したり、重なり合ったりすることもあります。いつもと違う発想をする際のヒントとして、活用してみましょう。
思考サイクルを回して考える
ラテラルシンキングを進める方法として、「5つのステップ」で考えてみましょう。具体的には、以下の項目で、思考サイクルを回しながら考える方法です。
- 1.現状の不満に気づく
- 2.なぜ?と問う
- 3.ならば…と考える
- 4.どうやって?と問う
- 5.前提を疑う
不満を感じることを洗い出し、問題解決に取り組む姿勢を整えます。
何が原因で不満を感じているのかを自らに問いかけます。
原因が見つかったとして、どうすれば解決できるのか。解決が難しいとしても、どういった結果なら納得できるのか、「ならば…」を考え、言語化します。
言語化された理想の状態を実現するために、どのような方法があるのかを自らに問いかけます。
ここまで、さまざまな視点で発想したことを、前提から疑って考えます。
ラテラルシンキングを鍛えるコツ
ラテラルシンキングを鍛えるために、普段から思考の幅を広げるトレーニングを取り入れてみましょう。具体的には以下のような方法があります。
自分の当たり前を自覚する
人は、「当たり前」の物事に対して注意力が落ち、観察しなくなってしまうという性質があるとされています。そのため、常識や固定概念にこだわらない発想をしたいと思っていても、なかなかその壁を越えられないこともあるでしょう。
また、慣れや経験が柔軟な思考の邪魔をしてしまうと、細部まで発想が広がりづらくなります。自分が「当たり前」だと思っていることを、まず自覚することで、はじめて「当たり前」を超える発想への広がりが見えてきます。
他人の視点を借りる
思考は、基本的に自分自身が経験したことや観察力などから発展しやすいものです。自分が気になる情報を集めたり、観測したりして視野を広げることも大切ですが、他人の視点を借りることで、さらに視野が広がります。
周りの人に、普段どんなところから情報を得ているのかを教えてもらい、積極的に幅広い分野や媒体にアクセスするなど、より多角的な情報収集を意識して、新たな発想を得るきっかけをつかんでみましょう。
ラテラルシンキングを取り入れ、組織の問題解決能力を高めよう
ラテラルシンキングによる柔軟な思考で、より多角的な発想が可能になります。組織内の問題解決においても、ラテラルシンキングを活用することで、これまでにはない新しいアプローチができることでしょう。とはいえ、ラテラルシンキングだけでは、論理性に欠け、現実的ではない可能性もあります。
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングと合わせて、さまざまな思考をバランスよく身につけられるような教育計画を意識するとよいでしょう。社員へのラテラルシンキングの定着で、組織の問題解決能力向上を目指してみてはいかがでしょうか。