クリティカルシンキングとは?身につけるためのポイントと4つの要素
ビジネスを成功させるためには、物事の本質を捉え、正しい方向に導くことが重要です。しかし、自分自身の考えや相手の意見が正しいのか、筋道が通っているのかを分析することは簡単ではありません。
そこで重要となるのがクリティカルシンキングとよばれる思考法です。クリティカルシンキングとはなにかを解説するとともに、企業にとって重要な理由、社員にクリティカルシンキングを身につけてもらうためのポイントも紹介します。
クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングとは、批判的思考ともよばれ、「自分や他者の思考・言動が本当に正しいのか」を、一旦立ち止まって”あえて疑う”思考法や思考習慣を指します。
「批判的」という言葉からネガティブなイメージを抱くかもしれませんが、他者の人格や人間性を疑うものではありません。他者および自分自身の発言の内容や考え方・捉え方などが本当に正しいのかを一旦疑うことで、本質を発見しやすくすることがクリティカルシンキングの目的です。
クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
クリティカルシンキングと混同しやすい概念にロジカルシンキングがあります。ロジカルシンキングは論理的思考ともよばれ、「筋道を立てて物事を考える」ことを指します。具体的には、原因と結果、結論と論拠といった因果関係を明確にしていく考え方です。
物事を論理的に考えるという面では、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは共通していますが、ロジカルシンキングは「物事の結果に対し、筋道を立てて考える」ことであるのに対し、クリティカルシンキングは「本当に筋道が通っているか、本質的であるかをあえて疑い検証する」という違いがあります。
クリティカルシンキングが今求められる理由
近年は、先行きが不透明で将来を予測することが困難な「VUCA時代」ともよばれています。そのような時代の中で市場のニーズを的確に把握して企業活動に活かすには、情報の適切な取捨選択や既存の価値観にとらわれない柔軟性などが求められます。
たとえば、マーケティング活動によって得られる複雑なデータや情報を解析する際、さまざまな仮説が導き出されるなかでクリティカルシンキングを用いることにより、消費者がなにを求めているのか本質を発見し、ニーズを的確に理解できます。
消費者のニーズに応える新たなビジネスモデルやサービスの開発につながるとともに、効果的な販売戦略を立てることにもつながっていくでしょう。
クリティカルシンキングを社員が身につけるメリット
クリティカルシンキングを身につけることで、自分自身の思考の質を高められることに加えて、他者との議論やコミュニケーションの質も向上していきます。
クリティカルシンキングを社員が身につけるメリットについて、詳しく解説しましょう。
情報の過不足や真偽に気づきやすくなる
人の思考にはさまざまなバイアス(思い込みや指向性など)がかかっており、それらがときに本質をとらえることを難しくしています。
クリティカルシンキングを身につけることで、思考するときに、思い込みによって前提を決めつけたり、表面的な情報にとらわれたりすることを減らせるでしょう。また、情報の過不足や真偽に気づきやすくなり、より高い精度の分析ができるようになります。
それらを考えるにあたっての具体的な切り口の例として、「実店舗の販売戦略の見直し」をテーマに考えてみましょう。
現状
売り上げを上げるために来客者数が多い日曜日にセールをしている
切り口の例
・本当に日曜日にセールをするのが最適なのか?
・注目するべきは本当に来客者数なのか?客単価や顧客属性を中心に考えた方がいいのではないか?
・売り上げをあげるためには、セールという施策をとることが本当に最適なのか?商品に特典をつけるなど他の施策のほうが有効なのではないか?
問題に対する分析と対策の質が向上する
インプットした情報を正しく精査し、本質的な思考をおこなうことで、アウトプットの精度も向上します。
たとえば、業務においてなんらかの問題が発生した時、クリティカルシンキングによって問題の真因を捉えることによって「なにをすべきか」が明確になり、対策の質も向上していきます。
また、これまでにない新しい発想を生むことにもつながるなど、効果的な解決方法を見出しやすくなると考えられます。
円滑なコミュニケーションにつながる
クリティカルシンキングを身につけることで、他者が発言している内容を正しく捉え、その意図や前提を的確に理解できるようになります。
それに対し的確な回答ができれば、お互いの会話がスムーズになりコミュニケーションが円滑化するでしょう。
合意形成の効果・効率の向上
クリティカルシンキングにより物事の本質を理解することで、抱えている課題や問題を解決するために生産的な意見を出し合うことができます。もし、他者の発言内容に偏りや偏見があったとしても、筋道が通っていない部分に気づきやすくなるでしょう。
たとえば、プロジェクトなどにおいて合意形成がスムーズになり、業務効率の向上が期待できるなど、業務におけるメリットにもつながります。
クリティカルシンキングを実践するプロセス
クリティカルシンキングを身につけるためには、どういったプロセスで物事を考えていけばよいのでしょうか。4つのプロセスに分けて解説します。
1.違和感に気付く
物事や相手の発言を注意深く観察し、「より良いことはないだろうか」「本当だろうか」という違和感がないかを意識します。また、どういった違和感があるのかを具体的に説明できるように実践してみましょう。
「上司や先輩、または優秀な部下だから発言内容は正しいだろう」といったように、表面的な言動や事象にとらわれてしまうと違和感に気付けないこともあるため注意が必要です。
2.あえて疑う
違和感を持ったからといって、その対象が間違っているとは限りません。対象が本当に間違っているかどうか疑って考えてみることも大切です。
たとえば、ミーティングなどにおいて「売上が低迷しているのは、前年と比べて市場全体が大幅に縮小しているのが原因に違いない」という意見が出された場合、大幅に縮小しているのが本当に市場全体か、一部の分野だけではないのかをあえて疑い、実情を調査してみましょう。
3.仮説を立てる
疑ってみた結果をもとに、そこから考えられる新たな原因などを仮説として設定します。
上記の例でいえば、「市場全体が大幅に縮小している」ということが事実だったとしても、ほかにも「営業担当者の数が減り訪問件数が減った」という事実があれば、それも売上減少のひとつの要因として考えられます。
4.検証する
最後に、立てた仮説が本当に正しいのかを検証します。検証するためには、できるだけ多くの情報を集めたり、実際に試したりすることが有効です。
上記で挙げた「営業担当者の数が減り訪問件数が減った」ことが売上減少につながっているかを検証するためには、過去の実績や営業担当者一人あたりの売上高などを割り出して比較してみるのもひとつの方法です。
クリティカルに考えるための4つの要素
クリティカルシンキングでは、本質を捉えるために論理が飛躍せず筋道が通っているかをあえて疑う必要があります。
筋道が通っているかどうかは、「事実・情報」をもとに「根拠・推論」を立て、「結論」が導き出されているか、それぞれのポイントをあえて疑い、検証することが重要です。
事実・情報が正しいか
もっている情報が事実と異なっていた場合、意思決定に大きな狂いを生じさせることがあることから、「事実・情報」がそもそも正しいかを疑ってみることが大切です。また、ほかに重要な事実・情報がないか、反対意見も積極的に取り入れながら批判的に検証します。
たとえば、「過去3年間、自社の東京での会社説明会はオンライン参加が多かった」という事実・情報があった場合、「今年自社が出展した合同説明会でも70%がオンライン参加だったため、自社でも今年の会場での参加は少ないだろう」という根拠・推論が成り立ち、「社内の会議室をおさえれば十分である」という結論が予想されます。
しかし、「今年の、自社の大阪開催の説明会は80%が会場での参加だった」という重要な情報が入ると、「外部の会場を借りなければ収容人数が足りなくなるかもしれない」という結論に変わる可能性があります。
前提・存在が正しいか
前提としてとらえている認識が正しいかを、あえて疑うことも大切です。
たとえば、商品販売戦略において「商品の販売」という点に着目すると、「実際の商品を手に取ってもらい、利用イメージを沸かせ購入のきっかけにするためには、実店舗での販売がよい」という前提から、「出店をすることが売上向上につながる」という意思決定が結論として導き出されます。
しかし、実店舗への集客を実現するためには、より多くのお客様に自社製品が認知されていなければなりません。その場合は、商品販売戦略に「認知」までを含んだ再設計が必要になるでしょう。
推論が正しいか
正しい推論が導き出されているかを検証するためには、違和感を無視せず考えることが大切です。
漠然とおかしいと感じた場合には、自分自身の考えを自問自答すると同時に、相手がなぜそう考えているのか質問をしながらの検証が必要になります。
質問を繰り返し、内容を掘り下げていくことで、推論の間違いや不自然な点に気付くこともあるため、反論しながら議論を深めていきましょう。
論点が正しいか
クリティカルシンキングで結論を導き出すためには、そもそもの論点が本質的な内容になっているかを考えることも大切です。論点の正しさを見極めるためには、「本質的であるか」、「今考えるべき内容か」、「自分達で扱える内容か」をチェックします。
たとえば、「自社の売上を向上するにはどうすればよいか?」「今真っ先に注力するべきなのは、本当に売上向上なのか?」といった疑問形にすることで、なにを具体的に考える必要があるのかが明確になり、その結果として良い論点が見つけやすくなります。
研修や日常業務を通してクリティカルシンキングを実践しよう
自分や他者の考え方・言動が本当に正しいのかを検証するためにも、一旦立ち止まってあえて疑うクリティカルシンキングが有効です。
クリティカルシンキングを社員に身につけてもらうことで、情報のインプット・アウトプットの精度が向上するほか、合意形成のスピードアップにもつながります。その結果、これまで見落としていた業務課題の発見や、課題を解決するための新たな方法を見つけられる可能性もあるでしょう。
今回紹介したクリティカルシンキングで重要な要素と、以下の4つのプロセスを参考に、日頃の業務に役立ててみましょう。
- 1.違和感に気付く
- 2.あえて疑う
- 3.仮説を立てる
- 4.検証する
また、社内研修を実践することで、社員にクリティカルシンキングを効率的に身につけてもらうこともできます。先行きが不透明で将来を予測することが困難な時代だからこそ、クリティカルシンキングで物事の本質を捉えられるようにしましょう。