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リカレント教育が求められる背景は?導入するメリットや注意点を解説

2021年04月21日更新

リカレント教育は「社会人の学び直し」とも呼ばれ、ITをはじめとする技術革新や、労働者の流動化が進む日本において注目を集めている教育制度の一つです。今回は、リカレント教育の概要やリカレント教育が求められる背景、企業がリカレント教育を可能にする環境を整えるメリットついて解説します。

目次 【表示】

リカレント教育とは

リカレント教育は、高校や大学など一定の教育を修了した後、再度、スキルアップや自己研鑽を目的として就学して学び、就学と就労を生涯にわたり繰り返す教育制度のことを指します。スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン氏によって提唱され、1970年に「経済協力開発機構(OECD)」の教育政策会議で取り上げられたことで、欧米を中心に認知されていきました。

英単語のリカレント(recurrent)は、「再発する」、「循環する」という意味合いで使用され、日本ではリカレント教育は「学び直し教育」「社会人の学び直し」などと呼ばれることもあります。

リカレント教育の対象者

リカレント教育の対象者は、多くの場合、義務教育や高校・専門学校、大学などを卒業した社会人です。一度社会に出たことのある人であれば、年齢が問われることはありません。

なお政府は、定年退職後の人や、出産、育児、介護などを理由に離職してブランクがある人、非正規雇用から正規雇用への転換を望む人などを含め、さまざまな人をリカレント教育の対象者として想定しています。

リカレント教育と生涯学習の違い

リカレント教育と近い意味合いで使用される言葉に「生涯学習」があります。生涯学習とは、ボランティアやスポーツ、勉強など、生涯のあらゆる活動や機会を通じて学習することを意味します。生涯学習がリカレント教育と異なる点としては、リカレント教育は、とくに「仕事」に関係するスキルの向上やキャリアアップを目的とした学習が前提とされている点が挙げられます。

日本におけるリカレント教育の現状

欧米では、リカレント教育は「フルタイムの就学と就労を交互におこなうこと」として広く浸透しています。しかし日本では、「仕事やキャリアを一度中断して就学する」という考え方は根付いていないのが現状です。

文部科学省の「高等教育の将来構想に関する参考資料」(※1)によると、25歳以上で大学へ入学する人の割合は、16.6%(2015年の世界平均)であるのに対し、日本は2.5%に留まり、世界的にみても低い水準であることがわかります。

その一方で、文部科学省が2018年におこなった「生涯学習に関する世論調査」(※2)によると、「学校を出て一度社会人となった後に、大学、大学院、短大、専門学校などの学校において学習したことがあるか」という質問に対しては、「学習したことがある(現在学習している)」「学習してみたい」という回答を合わせて36.3%となりました。この結果から、4割近くの人は、社会人となった後に教育機関において再度学習する意欲があることがわかります。

では、なぜ4割近くの人が「学び直し」に興味があるにも関わらず、社会人の学び直しが根付かないのでしょうか。厚生労働省の調査によると、「仕事が忙しくて学び直しの余裕がない」「費用がかかりすぎる」の2つが大きな問題点となっていることがわかります。

リカレント教育が求められる背景

リカレント教育が求められる背景には、どのような要因があるのでしょうか?

知識・スキルの習得やアップデート

近年では、AI・IoTをはじめとした技術革新が進み、企業を取り巻く環境も変化しています。とくに、ITツールの導入やAIによる仕事の自動化などによって、社内教育のみでの人材育成では、企業の競争力を維持していくことが難しくなっていく可能性も考えられます。

今後、企業が環境の変化に対応していくには、従業員の能力やスキルの習得、アップデートが欠かせません。リカレント教育における就学は、従業員が現在持っている知識やスキルのアップデート、新たな分野の知識取得につながる育成手法の一つとして活用できます。

労働者の流動化

日本では、新卒で入社した企業に定年まで勤める終身雇用が一般的とされていましたが、近年ではキャリアチェンジを選ぶ人材も増加傾向にあり、労働者の流動化が進んでいます。

株式会社マイナビの「転職動向調査 2020年版」(※3)においても、20代~50代男女の転職率は、20代男女を筆頭にいずれの年齢層においても4年連続で増加傾向にあるという結果がでています。また今後の仕事に関する考え方としては、「自分の経験、専門、資格、特殊技能を活かして、今の会社で働きたい」「自分の経験、専門、資格、特殊技能を活かせるなら、今の会社にこだわらない」と、いずれの質問においても「そう思う」と答えた肯定的な意見が多くありました。

今後は、労働者が自らのキャリアに合わせて学ぶことがさらに重要になり、リカレント教育を通して学ぶことも方法のひとつとして考えられるでしょう。

企業がリカレント教育を可能にする環境を整えるメリット

企業がリカレント教育を可能にする環境を整えることで、どのようなメリットを得られるのでしょうか?

企業の競争力の向上

従業員がリカレント教育によって学び直すことで、社内教育だけではカバーできないような、より専門的な知識を習得することが可能となります。現在の仕事と直結した知識を学び直すことで、学習内容がそのまま業務に役立ちやすく、生産性向上も期待できるでしょう。リカレント教育によって社内人材の専門性を高めたり、知識をアップデートしたりすることで、企業競争力の向上につながります。

人材不足の解消

少子高齢化社会が進む日本では、労働人口の減少が大きな問題として挙げられます。そのような中で、企業が従業員を確保するためには、出産や育児などの理由でブランクを持つ人や、定年退職した人に対して、リカレント教育による復職支援をおこなうことも有効です。リカレント教育を活用することで、多様な人材が長く活躍できる環境を整えられ、人材不足の解消にもつながります。

また前述したように、学び直しの意欲がある社会人は一定数いるために、企業が従業員へリカレント教育の制度を整備することは、採用において人材を惹きつける要素となることも考えられるでしょう。

従業員の定着

近年、終身雇用制度に対する考え方は変化しつつあります。企業としても、従業員に長く勤めてもらえるような取り組みを実施しているとはいえ、従業員が「この企業では成長できない」「仕事の進め方や評価制度が従来のままで魅力を感じない」など、不満が重なってしまうと、離職につながる可能性が高くなります。

株式会社マイナビの「転職動向調査 2020年版」(※3)によると、転職理由としては「仕事内容への不満」が全体の3割を占めてもっとも高い結果となりました。中でも、仕事を通じて自己成長を求める従業員にとっては、仕事内容への不満がそのまま退職理由として影響してしまうと考えられます。
そのような状況を踏まえ、企業がリカレント教育を支援することで従業員が成長できるような環境を整えれば、スキルアップを目的とする離職を防げる可能性があり、従業員の定着率向上につながるでしょう。

企業がリカレント教育の制度を整備する際の注意点


企業がリカレント教育の環境や制度を整備する際には、どのような注意点があるのでしょうか?

各制度の整備が必要になる

従業員がリカレント教育制度を利用するためには、企業も休暇制度や評価制度などの各制度を整える必要があります。

たとえば、「リカレント教育制度を利用して就学している期間は有給、無給のどちらにするのか」「リカレント教育によって得られたスキルや知識をどう評価するのか」「そのスキルを自社の事業でどのように活かしてもらうか」などを明確にしなければ、企業が従業員のリカレント教育にかけたコストだけが負担となってしまいます。

株式会社マイナビが、2020年に20代~50代の会社員800名を対象におこなった「社会人の学び直しに関する実態・意識調査」(※4)によると、「学び直しに期待すること(理想)」と、「学び直しにより得られた結果(成果)」の回答をそれぞれ比較すると、「昇格・昇進」に期待した割合が21.8%であったのに対し、実際の結果に対する満足度は6.5%と、大きなギャップが見られました。また「昇給」に関しても、期待した割合が28.3%であったのに対し、得られた結果に対する満足度は9.3%と、理想と現実のギャップが生じている傾向にありました。

従業員がリカレント教育制度を利用する際には、企業にも、リカレント教育によって得られた能力をしっかりと評価できる仕組みが求められるといえるでしょう。

リカレント教育制度を利用する際に役立つ給付金・助成金

リカレント教育の利用を検討している場合に役立つ給付金・助成金には、どのような種類があるのでしょうか? 厚生労働省が提供している2つの制度をご紹介します。

【企業向け】人材開発支援助成金

人材開発支援助成金(※5)は、雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するために、職務に関連した専門的な知識や技能を修得させるための職業訓練などを受講させる企業に対して支給される助成金です。

人材開発支援助成金には7つのコースがあり、職業能力開発促進センターなどが定める特定の訓練を受講する「特定訓練コース」、有給教育訓練休暇等制度または長期教育訓練休暇制度を新たに導入し、労働者がその休暇を取得して訓練を受講する「教育訓練休暇付与コース」などがあります。

【在職者・離職者向け】教育訓練給付金

教育訓練給付金(※6)は、労働者の主体的な能力開発への取り組みや中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とした給付金です。

労働者が対象の教育訓練を受講後にハローワークで手続きをすることで、教育訓練受講に支払った費用の一部が支給される仕組みとなっています。教育訓練給付金は目的によって「一般教育訓練給付金」と「特定一般教育訓練給付金」、「専門実践教育訓練給付金」に区別されています。

まとめ

リカレント教育は、企業の人材教育として活用することはもちろん、労働人材不足の解消や労働者の定着にも効果が期待できます。企業がリカレント教育の環境や制度を整備することで、企業競争力や生産性の向上へとつながります。これを機に、リカレント教育の環境や制度を整備することを検討してみてはいかがでしょうか。

<出典>
※1. 文部科学省:高等教育の将来構想に関する参考資料
※2. 文部科学省:生涯学習に関する世論調査
※3. 株式会社マイナビ:転職動向調査 2020年版
※4. 株式会社マイナビ:社会人の学び直しに関する実態・意識調査
※5. 厚生労働省:人材開発関係の助成金
※6. 厚生労働省:教育訓練給付制度

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