キャリアデザインとはなにか?企業にとって重要な理由
社会の目まぐるしい変化により、自身のキャリアについて真剣に向き合う労働者が増えています。社内での昇進や、目標とするポジションに就くためには「キャリアパス」を考えることが多いですが、さらに広い視野で自分のキャリアを俯瞰する「キャリアデザイン」という考え方も注目されています。
今回は、キャリアデザインとはなにか、背景やメリット、構築方法、企業ができるキャリア支援について解説します。
キャリアデザインとは?
まずは「キャリアデザイン」とはなにか、その基本について解説します。
将来のビジョンを明確化し行動に移すこと
キャリアデザインとは、自分自身が将来どのような仕事・働き方をしたいのか、ビジョンを明確にしたうえで行動に移すことです。会社や上司によってキャリアや働き方を決定されるのではなく、あくまでも自分自身が主体となって自律的に考え、キャリアを構築する意味で使われます。
キャリアデザインが注目されるようになった背景には、終身雇用を前提とした年功序列制度が当たり前ではなくなってきたこと、成果型の評価制度にシフトしてきたことが大きく影響しています。また、これに加えてジョブ型の雇用システムを採用する企業も増え、勤続年数よりもその人がもっているスキルや仕事の成果がより重視される仕組みに移行したことで、キャリアデザインが注目されるようになりました。
キャリアパスとの違い
キャリアデザインと混同されがちな言葉として「キャリアパス」がありますが、両者の意味はまったく異なります。
キャリアパスとは、主に社内での昇進や目標を指す言葉として使われます。たとえば「3年以内に係長に昇進する」「企画開発部門でプロダクト開発に携わる」など、キャリアパスの範囲はあくまでも社内や組織内に限定されます。
一方キャリアデザインは、社内に限定せず、自分自身が最終的にどうなりたいかを明確にします。たとえば「今の会社で実務的なスキルや知識を身につけ、将来はさらに大きな仕事にチャレンジできる会社に転身する」といったことも、キャリアデザインのひとつの考え方といえるでしょう。
キャリアプランとの違い
キャリアプランとは、自身のキャリアをどのように進めていくかという具体的な計画を指します。たとえば「3年以内に管理職に昇進する」や「専門資格を取って独立、起業する」といった目標を設定し、それに向かって行動を起こすことがキャリアプランの範疇です。
一方、キャリアデザインはより広い視野で自身のキャリア全体を設計することを意味します。キャリアプランが短期的・具体的な目標設定に焦点を当てるのに対して、キャリアデザインは長期的・包括的な視点で自身の人生をどのように歩んでいくかを考えるものです。
キャリア形成との違い
キャリア形成とは、理想とするキャリアを目指して、個人がスキルや能力、知識を習得していくことです。また、関連した職務の職業能力を形成していく行動を指します。キャリア形成とキャリアデザインは、個人の職業成長を目指す点で同じですが、具体的な行動の内容が異なります。
管理職を目指す社員を例にした場合、キャリア形成は「リーダーシップ研修に参加する」や「後輩指導を率先しておこなう」などを指し、キャリアデザインは「何年後の昇進を目指すのかを考える」「管理職に必要なスキルをリストアップする」などを指します。
このようにキャリア形成が実際の職業生活の中で経験やスキルを身に付けていくことを指すのに対し、キャリアデザインは広い視野で将来のキャリアや働き方を設計し、自分のビジョンにもとづいて行動することを指します。
企業にとってキャリアデザインが必要な理由
近年、終身雇用を前提とした年功序列制度から成果主義制度へと移行する企業があるなかで、漫然と同じ会社で働き続けていればエスカレーター式に昇進・昇給していくことは難しくなりました。そのため、キャリアデザインが重要となってきました。
もともと、キャリアデザインは、20世紀後半から徐々に発展してきた概念です。かつては、個人の職業人生の設計はあまり重視されておらず、多くの人は企業の方針に従い、用意されたキャリアパスを歩んでいました。
しかし、1980年代から1990年代にかけて、労働市場のグローバル化や技術革新が進むにつれ、個人が自らのキャリアを主体的に管理する重要性が認識されるようになりました。そして、21世紀に入り、終身雇用制の終焉や予測困難なVUCA時代の到来、ジョブ型雇用が普及すると、キャリアデザインはさらに重要視されるようになりました。
現在では、企業は個人のキャリアデザインを支援するためのプログラムやツールを提供し、従業員が自らのキャリアをデザインすることを奨励しています。
一方で、「キャリアデザインは従業員個人が考えるべきこと」として捉えられがちですが、実は企業から見ても、従業員のキャリアデザインは非常に重要です。企業が従業員のキャリアデザインを理解し、人材育成や配置を最適化することで、モチベーションやパフォーマンスの向上に寄与します。
また、企業が適切なキャリア支援を提供することで、離職率の低下やエンゲージメントの向上にもつながるでしょう。このような過程を経て、キャリアデザインは今や現代の働き方に欠かせない考え方のひとつとなっています。
キャリアデザインをおこなうメリット
つぎに、キャリアデザインをおこなうことによる企業のメリットについて解説いたします。
人材力の強化
キャリアデザインがしっかりと描かれている従業員は、会社での働きや自分に課されたミッションを正しく理解し、高い成果をあげることが多く、会社にとっても人材価値の高い存在となる傾向にあります。
今後、経済のグローバル化、AIによる業務効率化によって、企業の競争力がよりいっそう求められる時代になると考えられます。そのような時代において、人材力の向上は、企業の競争力にも直結する重要課題なのです。
多様な人材の確保につながる
「従業員自身がさまざまなキャリアデザインを意識することによって、自社から人材が離れていくのではないか」と危惧されることもあります。しかし、広い視野でキャリアデザインを意識したときに、従業員が「今の働き方のほうが自分に合っている」と見つめなおす機会になることもあります。
また、仮に自社を離れてステップアップしていく人材が現れたとしても、自社とのつながりで取引することも考えられるでしょう。このように、社内の人材だけではなく、社外も含めて多様なコネクションの確保につながる可能性もあるのです。
行動が具体化され社員のモチベーションが高まる
キャリアデザインを構築していくと、ゴールに向かってどのような行動をとればよいかが見えてきます。自らが定めた目標に向かって、さまざまなスキルや能力を身につけるために行動を具体化していくと、ゴールまでの距離が近付いていく実感を得ることができ、モチベーションの向上につながります。
またモチベーションが向上することで、主体性のある従業員が増え「指示されたからやる」という受け身の姿勢を変革する契機にもなります。
キャリアデザインの構築方法
キャリアデザインを構築するための有効なツールとして、キャリアデザインシートがあります。キャリアデザインシートとは、目標とするキャリアのために必要なスキルを表などで可視化し、計画的に実現していくためのツールです。キャリアデザインシートを活用することで、従業員のキャリアデザイン構築を支援できます。
では、具体的にどのような手順でキャリアデザインを構築するのか、それぞれのステップに分けて解説します。
1.自身の現状を把握する
まずは、従業員自身がもっている資格やスキル、これまでの経験などを洗い出します。得意なことばかりではなく、苦手とすることも挙げてみましょう。自分では苦手だと感じていても、実は適性が認められるケースもあります。適性検査などを受け、客観的に自分を見つめ直してみることも有効です。
2.将来やってみたい仕事・なりたい姿を描く
次に、興味のあることや自分が得意なことを生かし、将来やってみたい仕事をピックアップします。具体的な仕事内容だけではなく、「こうなりたい」「こんなポジションを目指したい」という希望でも構いません。
具体的な仕事内容が思い浮かばない、やりたいことが見つからない場合でも、理想的な暮らし方や人生の送り方を想像してみることで具体化できる場合があります。たとえば「満員電車から解放され通勤ストレスのない生活を送りたい」という理想でもよいでしょう。すると、「テレワークに対応した職種へのキャリアチェンジ」という目標が見えてきます。
3.将来と現在とのギャップを知り、必要な行動をとる
理想やなりたい姿を思い描いたうえで現状と照らし合わせたとき、解決すべき課題が見えてきます。たとえば「テレワークに対応した仕事」の代表例としては、一部のITエンジニアやバックオフィス業務などが挙げられます。ITエンジニアを目指すのであれば、プログラミングなど専門性の高いスキルや実務経験が要求されるでしょう。また、バックオフィス業務も経理や人事部門での実務経験が重視されます。
このような業務に従事するために、「資格を取得して異動希望を出す」などの具体的な行動が第一歩として考えられます。
企業ができるキャリア支援
企業が具体的にどのようなキャリア支援の取り組みをおこなうべきかについて解説します。
キャリアデザイン研修をおこなう
キャリアデザイン研修を実施することで、従業員は自律意識やキャリアデザインスキルを向上させ、目標の明確化や自己成長に対する動機づけを図れるでしょう。また、組織にとっては研修を通じて従業員のモチベーションが向上し、主体的なキャリアデザインを促すことができれば、結果として高いパフォーマンスを発揮する人材の育成につながります。
キャリア支援制度を整備する
キャリアデザインを支援するために、以下のような各種制度を整備するのも効果的です。
キャリアの選択肢を提示することで、従業員が主体的にキャリアを考え、さまざまな経験を通じて成長できる機会の提供につながります。これにより、自分の強みや興味を再確認することができ、より明確なキャリアビジョンを持つことで、長期的なキャリアデザインに積極的に取り組むことができるでしょう。
キャリア相談窓口を用意する
従業員が気軽にキャリアについて相談できる専門窓口を設けることで、従業員は自身のキャリアについてより深く考える機会を得られ、長期的なキャリアビジョンを明確にすることにつながります。キャリアコンサルタントなどの専門家による支援体制を整備することで、より客観的な視点からアドバイスが可能となります。上司や人事とは異なる立場からの助言により、従業員は新たな気づきを得られます。
結果として、従業員が自らのキャリアを主体的にデザインすることで、従業員のモチベーションやエンゲージメントが向上し、企業全体の生産性や業績の向上にもつながるでしょう。
キャリア面談を実施する
キャリア面談は、従業員がキャリアデザインについて考えるきっかけとなり、自身のキャリアビジョンや目標を確認する重要な場です。定期的なキャリア面談を通じて、従業員の意思や希望を丁寧に把握することも重要です。ただし、効果的な面談の実施には、面談をおこなう管理職側のキャリアカウンセリング力が欠かせません。
人事部門は管理職向けの研修や支援ツールを提供し、面談の質を高める取り組みをおこなうとなおよいでしょう。
キャリアデザインで企業の人材力を強化しよう
社内での昇進だけにとどまらず、広い視野でキャリアそのものを考えるのがキャリアデザインです。自分自身のビジョンを明確にして行動に移すキャリアデザインは、今後多くの従業員にとって重要な考え方となり、結果として企業の人材力強化にもつながります。
キャリアデザインによって人材力を強化することは、企業の生産性や競争力にも関わる重要な課題でもあるのです。