キャリアとは?企業の人事担当者が従業員のキャリア支援をする際のポイント

VUCAと呼ばれる不確実性の高い時代において、キャリアへの向き合い方は日々多様化しています。かつての終身雇用や年功序列を前提とした画一的なキャリア形成では、変化の激しいビジネス環境に対応するのは困難になりつつあります。そのため企業にとっても、従業員のキャリア形成をいかにサポートし組織の成長につなげられるかがカギといえるでしょう。
そこで本記事では、これからの時代に求められるキャリア支援の考え方と、個人の自律的なキャリア形成を支援する方法を解説します。
キャリアとは

キャリアとは、人が生涯にわたって積み重ねる経験や役割、そしてそれらを通じた成長の過程を指します。文部科学省では、「人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね」と定義しています。また、「キャリア(career)」の語源は諸説ありますが、ラテン語の「carrus」(車輪のついた乗り物)ともいわれています。
なお、とりわけビジネスの文脈においては、より職業的な側面が重視されます。厚生労働省は「職業能力の開発・向上や、職業上の地位・役割の変化等の連続したプロセス」と定義しており、キャリアは職業を通じた自己実現と、人生における働く意義の追求を含む広い概念として位置づけられています。
出典:
キャリア教育|文部科学省
キャリア・コンサルティングQ&A|厚生労働省
VUCAの時代におけるキャリアの課題

ビジネス環境の急速な変化と個人の価値観の多様化により、終身雇用や年功序列を前提とした画一的なキャリア形成は大きな転換点を迎えています。まずは個人のキャリア形成にかかわる課題を一つひとつ確認していきましょう。
ビジネス環境の変化が加速している
現代のビジネス環境は、かつてないほどの速さで変化を続けています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速や産業構造の変化により、多くの企業がビジネスモデルの抜本的な見直しを迫られています。それにともない、企業が求める人材像も大きく変化しています。
今後は多くの既存の職種が変容し、新しい職種が生まれることも予測されています。そのような背景から、必要とされる職種やスキルセットも急速に変化しており、個人として継続的にスキルアップを図ることが欠かせません。
従来型キャリアパスの限界
これまでは終身雇用や年功序列を前提とした人事制度が広く普及していましたが、ここ数年でジョブ型雇用や成果主義を導入する企業が増えてきています。
さらに、2021年に施行された改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの雇用機会確保の努力義務も課されるようになりました。長期化する職業人生において、ひとつの企業が社員の生涯にわたるキャリアを保証することが難しくなっています。
個人のキャリア観の多様化
正社員やパート、アルバイトといった従来の働き方に加えて、ここ数年では業務委託や副業なども普及しています。個々人でさまざまな働き方を選択できるようになり、働き方の自由度は高まるばかりです。
その結果として、一人ひとりが主体的かつ自律的にキャリアを考え、選択していくことが不可欠となりつつあります。
従業員に対してキャリア支援をおこなうメリット

能動的なキャリア形成が個人に求められると同時に、企業には従業員がやりがいをもって働けるような環境整備が必要です。一見すると、キャリア支援は従業員の視野を広げ、結果として離職を促進するのではないかと考えられがちです。
しかし実際には、従業員が上司や人事部門とキャリアについて率直に対話することで、会社のサポートする姿勢が伝わり組織への信頼感が高まるケースが少なくありません。とくに適切なキャリア支援は、従業員のエンゲージメント向上と組織への定着につながります。
【キャリア支援を実施するメリット】
- ・従業員のモチベーション向上
- ・組織への定着率アップ
- ・優秀な人材の獲得・確保 など
これらのようなメリット・効果により、結果として従業員の生産性向上や企業の競争力強化にもつながります。
効果的なキャリア支援の方法

前述したキャリアの課題を背景に、最近では従業員一人ひとりが主体的に自身のキャリアを考える「キャリア自律」の考え方が重要視されています。企業としても従業員のキャリア自律を促進し、組織の持続的な成長を実現するために、体系的なキャリア支援の仕組みづくりが重要です。ここでは具体的なキャリア支援の方法を見ていきましょう。
キャリア支援制度を整備する
キャリア形成を支援するために、以下のような各種制度を整備するのも効果的です。
- ・社内公募制度
- ・社内FA制度
- ・ジョブローテーション
キャリアの選択肢を提示することで、従業員が主体的にキャリアを考え、さまざまな経験を通じて成長できる機会を提供します。
あわせて、支援制度と評価制度を連動させることも欠かせません。評価面談の中でキャリアの方向性を確認し、それにもとづいて具体的な育成計画を立案することで、組織の目標と個人のキャリア目標を適切に調整できます。
キャリア面談を実施する
定期的なキャリア面談を通じて、従業員の意思や希望を丁寧に把握することも重要です。ただし、効果的な面談の実施には、面談をおこなう管理職側のキャリアカウンセリング力が欠かせません。人事部門は管理職向けの研修や支援ツールを提供し、面談の質を高める取り組みをおこなうとなおよいでしょう。
キャリア相談窓口を用意する
従業員が気軽にキャリアについて相談できる専門窓口の設置も効果的です。キャリアコンサルタントなどの専門家による支援体制を整備することで、より客観的な視点からアドバイスが可能となります。上司や人事とは異なる立場からの助言により、従業員は新たな気づきを得られます。
また、キャリアコンサルタントは、新入社員から若手、中堅、ベテラン社員まで、それぞれの階層ごとの課題や個人の状況に応じた具体的なキャリアプランも立案できます。各従業員のキャリアステージに適した効果的な支援が可能になるでしょう。
学習機会を積極的に提供する
従業員一人ひとりが描くキャリアの実現に向けて、自律的に学習できる環境を整備することが重要です。社内外の研修プログラム、オンライン学習コンテンツ、資格取得支援制度など、従業員のニーズに応じた学習機会を用意しましょう。とくに、デジタルスキルなど、今後必要となる能力開発に向けた支援を強化することで、従業員と組織の持続的な成長につながります。
キャリア支援における注意点

キャリア支援を効果的に進めるためには、いくつかの注意点があります。最後にキャリア支援に取り組むうえで、どのような点に気を付ければいいのか確認していきましょう。
個人の主体性を尊重して自律を促す
キャリア形成の主体は、あくまでも従業員自身です。企業は「支援者」としての立場を意識し、過度に介入しないよう気を付けましょう。上司や人事部門の考える「望ましいキャリア」を押しつけるのではなく、従業員自身の意思決定を支援する立場に徹することが重要です。
画一的なキャリアパスの押し付けを避ける
「営業職の次は管理職」「3年で係長、5年で課長」といった画一的なキャリアパスを前提とした支援にも注意が必要です。上司や人事担当者は、企業の経営方針や事業戦略に沿いながらも従業員に複数のキャリアの選択肢を提示し、その中から自分に合った道を選択できるよう支援することが重要です。
たとえば、以下のような複線型のキャリアパスを用意し、それぞれのキャリアパスで期待される役割や必要なスキル、具体的な成長機会を明確に示すと効果的です。
マネジメント系:部門やチームのマネージャーとして組織を率いる
スペシャリスト系:IT、財務、法務など専門的な知識が必要な分野のエキスパートとして活躍する
プロフェッショナル系:営業、企画、人事など事業の中核となる職種で高い実績を上げる など
世代による価値観の違いに配慮する
世代によっても、仕事観やキャリア観は大きく異なります。また、デジタル化への適応度も世代によって差があるでしょう。そのため、それぞれの世代に適した支援方法を選択することが重要です。たとえば、ベテラン社員に対してはこれまでの経験や知識を活かせる役割の提案や、後進の育成機会を提供するといった具合です。
一方、若手社員には、幅広い経験を積める機会の提供や、デジタルツールを活用した学習支援が有効でしょう。定期的なキャリア面談を通じて従業員の志向性の変化を把握し、必要に応じてキャリアの軌道修正を支援することも大切です。
これからの時代に求められるキャリア支援

従来の日本企業では、会社主導の画一的なキャリア形成が一般的でした。しかし、VUCA時代を迎え、個人のキャリア自律と組織としての成長の両方を実現することが求められています。
企業にとっては従業員一人ひとりの多様な価値観を受け入れ、対話を重視した双方向のキャリア支援をおこなうことが今後より重要になっていきます。従業員と組織がともに成長し、変化に強い組織につながるようなキャリア支援に取り組みましょう。