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リモートワーク時代に求められるマネジメントとは?

2021年10月06日更新


株式会社O: (オー) 代表取締役 谷本 潤哉(右)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 統括部長 土屋裕介(左)

コロナ禍は当初の予測を大きく上回って長引き、ワクチン接種を前提としてリモートワークから従来のオフィス勤務へと切り替えようとしていたGAFAなどの企業も、リモートワークの延長を決めました。

国内でもオフィスの減床や廃止を決めた企業も増えてきて、リモートワークが一時的な緊急措置から、少なくとも数年は続くであろう「新しい常識」になろうとしている兆しが見えています。

このような環境下では、チームメンバーが物理的に近い距離にいて一緒に仕事をしていることを前提としたマネジメント手法をそのまま続けることはできません。

そこで今回は、マネジメントのDX(デジタルトランスフォーメーション)をサポートするサービス「Co:TEAM」を提供する株式会社O:(オー)の代表取締役・谷本潤哉氏と、日本エンゲージメント協会の副代表理事でもあるHR Trend Lab所長・土屋裕介が、これからの時代に求められるべきマネジメントについて語った対談をお送りします。

目次 【表示】

マイクロマネジメント偏重に終止符を

土屋:谷本さん、今日はよろしくお願いします。今回は、リモートワーク時代におけるマネジメントと社員のエンゲージメントについてお話をお伺いさせていただきたいと思っています。早速ですが、谷本さんがお考えになる、リモートワーク時代のマネジメントで発生しやすい問題点とはどのようなものですか?

谷本氏:ありがとうございます。代表的なものとして「マイクロマネジメント」に偏ってしまいやすいということはあると思います。

チームメンバーの姿が見えない分、その成果やモチベーションが把握しにくくなり、マネージャーは不安を解消するために細かくマネジメントをしたくなってしまうんですね。

土屋:なるほど。確かにありそうなことですが、逆効果ですよね。

谷本氏:そうなんです。日本式の「空気を読んで動く」労働環境がリモートワークで失われたことの副作用でもあるので、ある意味でそうなってしまうのも仕方のないことなのですが……。

土屋:マネジメントコストも増大しますし、メンバーのチームに対するエンゲージメントという意味でも決していい効果をもたらすものではないと思います。

例えば、よく聞くマイクロマネジメントの事例で「マウスの動作をトラッキングするソフトウエアを強制インストールする」みたいなものもありますよね。あれは良くない方法の一つです。

谷本氏:分かります。動きが少ないとサボっていると見なされてマネージャーに通知が行くんですよね。

土屋:メンバーがチームにエンゲージメントしている状態というのは、まず「チームがメンバーを信頼している」という前提が必要なんです。
つまり、マネージャーがメンバーを信頼するということが第一歩。なのに、サボっているかどうかを知るためにマウスをトラッキングするというのはまさに真逆なんですね。

谷本氏:サボっていないかが気になるのは心情的に理解できなくもないのですが、同じようにトラッキングするのであれば、成果につながっているかどうかにフォーカスすべきというのが私の考えです。

マウスのトラッキングというのは、あくまで表面化した動作でしかありませんから、それが成果につながっているかどうかは分かりません。トラッキングするなら、一人ひとりの行動が会社の重要KPIにつながっているかどうかを見るべきです。

土屋:パフォーマンスマネジメントですね。

谷本氏:そうです。Adobeが体系化したマネジメントスキームですが、これを社員のモチベーションやエンゲージメントの向上に繋げられないか、という発想が弊社の提供しているサービスの根幹にもあります。

パフォーマンスマネジメントが成立する条件は?

土屋:私もパフォーマンスマネジメントについては今のリモートワーク環境でさらにその重要性が増したと考えているのですが、一方で納得感のある評価制度を作ることに難しさを感じる方がいるのも分かります。

谷本氏:そうですね。極端な例えではありますが、非常に売上成績のいいメンバーの評価が、パフォーマンスマネジメントに切り替えたことで会社の重要KPIにつながっていないという理由で平均的な評価になるということもあり得るわけです。

そのときに、誰にとっても納得感のある説明をできるか? というと実際には難しい。経営者の強い決断が必要とされる部分です。

土屋:おっしゃるとおりですね。谷本さんもご存じだと思いますが、「戦略経営論」で有名なイゴール・アンゾフは「戦略は組織に従う」という言葉を残しています。
つまり、谷本さんの例えで言えば、「売り上げ成績のいいメンバー」が評価されていたということは、組織の戦略としても「売り上げが上がればいい」という側面を持っていたということになります。

いま企業の存在意義に軸を置いた「パーパス経営」という言葉が注目を集めていますが、「売り上げが上がればいい」もまた一つのパーパスだったということです。
しかしそうではなく、より強い組織をつくるためにパーパス(存在意義)を再定義しなくてはいけないと思っているのなら、メンバーが去ることも覚悟しなくてはいけませんし、新たに採用することも考えなければいけません。

マネージャーはパーパスを「行動」で示す

谷本氏:そして一方では、パーパスを理解してもらう努力もマネージャー陣はしなくてはなりませんね。

土屋:はい。それこそ、これまでは対面による1on1ミーティングや「飲みニケーション」が大きな役割を果たしていた部分でした。私は今でもそれらは効果を持っていると思いますが、谷本さんのお考えではどうですか?

谷本氏:私も有効だと思います。というか、とにかく行動で示すしかないわけなので、方法は問わずにマネージャーの言動をもって伝えていく必要がありますよね。
また同時に、マネージャー本人が納得していなかったり、理解できていなかったりすると、それはメンバーにも見透かされてしまうとも思っています。

土屋:私もそう思います。パフォーマンスマネジメントのためにパーパスを明確にし、そこへ向かっているかどうかを評価するのであれば、その評価者であるマネージャーへの信頼が非常に重要ですね。

人は本能的に変化を嫌いますが、それでも組織のためにパフォーマンスマネジメントに切り替えるというドラスティックな変化が必要だと経営層やマネージャーが判断するのであれば、言動を通じてその評価の基となるパーパスを伝えていくべきです。

谷本氏:そうですね。ファーストリテイリングやソフトバンクが社内公用語を英語にしましたが、あれはまさしく「言動でパーパスを表現する」ことの好例だと思います。付いてこられないと思うなら離脱してもいい、という覚悟を経営層が持って実行したものでしょう。

コミュニケーションは「インフォメーション+エモーション」

土屋:パーパス経営やパフォーマンスマネジメントといった経営層の話とは別に、私も谷本さんも部下がいて日々のコミュニケーションには難しさを感じているところもあると思いますが、その点、谷本さんはいかがですか?

谷本氏:コミュニケーションというのは「インフォメーション+エモーション」だと思っています。成果に対するトラッキングも重要だし、その上にパフォーマンスマネジメントが成立するわけですが、最も基礎にあるのは「エモーション」を大切にしたコミュニケーションなのではないか、と。

土屋:そうですね。私、個人的な話になりますが、リモートワーク環境になって部下とのチャットで絵文字をものすごく使うようになりました(笑)。

谷本氏:(笑)

土屋:事実として、リモートワークの環境下では感情って伝わりにくいものなんですよね。面と向かって言えば冗談で言っていることが分かったとしても、文字にした途端に相手を萎縮させてしまう可能性もあるわけです。
リモート会議でも身振り手振りを大げさにしますし、絵文字も使いますし、とにかく私の感情が伝わる方法を模索しています。
谷本さんは、何かコミュニケーションやマネジメントに変化はありましたか?

谷本氏:タスクでメンバーの進行管理をしなくなりましたね。「○日までにこのタスクを完了させてね」というスタイルのマネジメントは、リモートワーク環境になじまないと思うんです。

土屋:タスクの代わりに、何でマネジメントしていますか?

谷本氏:パフォーマンスマネジメントの話に戻ってしまいますが、目標に対する進行とそのために取られたアクションを追っています。
メンバー自身がプロジェクトに関わる数値を入力できる環境をつくって、それをもとに1か月、四半期、半期、と期間を区切ってトラッキングして、マネジメントするイメージです。

それに加えて1on1を週に一度行うことで、お互いに話してエモーショナルな部分も評価に入るように気を付けていますね。

土屋:まさに「インフォメーション+エモーション」ですね。メンバーの評価をするとき、データこそが正しいと考えがちですが、実はエンゲージメントという側面ではもっといい使い方があると思うんです。

谷本氏:そうですね。例えば、メンバーが今の部署からマーケティングに異動したいという申し出があったとき、それが不可能だからといって「無理だよ」と突き放すのではなく、データを基にして「君の得意な○○を伸ばして、将来的にマーケティングの部署で成果が上がるように、□□の業務を任せてみようと思うけれど、どうだろう?」みたいな話ができることが大事なんだと思います。

土屋:まさしくそうですね。パフォーマンスを測るデータをトラッキングしながら、それをより良いコミュニケーションのために使っていく、まさにこれこそがパフォーマンスマネジメントの上でも、エンゲージメントを高める上でも大切だな、と私も思います。

人事データと業務データの融合

土屋:いまお話ししたようなメンバーのサポートをするためには、マネージャーに対する適切な人事上の権限移譲も必要ですね。

谷本氏:私もそう思います。「言動で示す」ということを体現するために、マネージャーに一定の人事権を与えて、言動一致させることも重要ですね。

土屋:今の日本では人事権のあるマネージャーというのはあまり存在しませんが、人事部が仕組みや方針決定をし、現場のマネージャーがメンバーのケアをしつつ、適切な異動を直接的にできるとメンバーのエンゲージメントも高まるし、組織としてのパフォーマンスも上がるはずです。

谷本氏:マネージャーが業務データだけを持っているのではなく、パーソナルな情報を含めた人事データも持って、その融合でメンバーのケアをできるかどうか、というのはこれからの組織づくりにおいては重要になりそうですね。

土屋:まさしく、私はそういう未来が来ると思っています。「実際に何をやってきたのか」という業務データと、「どういう人物なのか」という人事データ、これを掛け合わせると、「この人は本当はこういうことがしたいんじゃないか」っていう気付きをマネージャーに与えることができるはずなんですよね。

それをコミュニケーションや人員配置にどう生かすか、これはマネージャー一人ひとりのセンスとメンバーとの関係性によって変わってきますが、定量データだけでもなく、定性データだけでもなく、複合的に語れることがこれからの時代は求められるでしょう。

谷本さん、本日はありがとうございました!

<プロフィール>
谷本 潤哉
株式会社O: (オー) 代表取締役 Founder/CEO
チーム内の「フィードバック」を増やし、「1on1支援」「目標管理(MBO/OKR)」「評価支援(360度含む)」機能が連携してエンゲージメントを育成するパフォーマンス・マネジメントサービス「Co:TEAM (コチーム) 」を展開。「Make Your Best」をミッションに掲げ、「チームの持続的な目標達成」と「高いモチベーションや健康の維持」を両立した「これからの働き方」の実現を目指している。
経済産業省J-startup採択|週刊ダイヤモンド「日米ヘルステックスタートアップ20選」選出。

土屋 裕介
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 統括部長/HR Trend Lab所長
大学卒業後、企画営業として研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に株式会社マイナビ入社。マイナビ研修サービスの商品開発責任者として「ムビケーション研修シリーズ」「各種アセスメント」「タレントマネジメントシステムcrexta」など人材開発・組織開発をサポートする商材の開発に従事。10年以上にわたり一貫してHR領域に携わる。
主な著書に『タレントマネジメント入門~個を活かす人事戦略と仕組みづくり~』(ProFuture)、『楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか~エンゲージメントで“働く”を科学する』(プレジデント社)など。

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