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ディーセント・ワークとはなにか?企業にとってのメリットとは

2022年06月29日更新

深刻な人手不足に悩む企業が増えているなか、従来の労働環境を見直し、改善しようと取り組む企業も少なくありません。仕事に対する価値観や目的は人によって異なりますが、やりがいを感じることができて、安定した十分な収入を得られることは働くうえでの基本といえるでしょう。このような概念はディーセント・ワークともよばれ、近年注目されています。

今回は、ディーセント・ワークの意味や国際労働機関(ILO)の取り組み、企業がディーセント・ワークの実現に取り組むメリットも含めて解説します。

目次 【表示】

ディーセント・ワークとは

ディーセント(Decent)とは、日本語で「きちんとした」、「まともな」、「ふさわしい」という意味を指す言葉です。

ディーセント・ワーク(Decent Work)の意味や定義については、さまざまな表現が用いられることがありますが、ILOではディーセント・ワークのことを、「働きがいのある人間らしい仕事」と定義しています。

そもそもディーセント・ワークという言葉は、1999年、ILOの事務局長ファン・ソマビア氏が、ILO総会に提出した報告書において初めて用いられました。この報告書のなかでは、ディーセント・ワークのことを以下のように説明しています。

「ディーセント・ワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事を意味します。それはまた、すべての人が収入を得るのに十分な仕事があることです。」

働きがいがあることはもちろんですが、「人間らしい仕事」という意味で「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる」こともディーセント・ワークにおいては重要な要素といえるでしょう。

ディーセント・ワークが注目されている理由

ディーセント・ワークが注目されるようになった背景には、開発途上国・先進国を問わず雇用環境に対するさまざまな問題が発生していることが挙げられます。

たとえば、開発途上国では、危険な仕事や労働者の基本的権利(強制労働や児童労働の禁止や、雇用差別の撤廃など)が認められていない仕事、病気や障害に対する保護が不十分な労働環境などが問題視されています。

また、先進国においては経済的な格差が広がり、失業や非正規雇用の拡大、ジェンダー不平等、移民労働者からの搾取などが社会問題化している国も少なくありません。

このような雇用環境を改善していくために、ディーセント・ワークが注目されるようになりました。

ILOが掲げる戦略目標と旗艦プログラム

ILOではディーセント・ワークを実現するために、4つの戦略目標を掲げているほか、具体的な解決策として5つの旗艦プログラムも推進しています。
戦略目標と旗艦プログラムの内容について詳しく紹介しましょう。

4つの戦略目標

ディーセント・ワークを実現するためには、人々の権利や社会保障、社会対話(政府・労働者・事業者間の話し合い)が確保されていることが前提となります。
また、ジェンダー平等や非差別は横断的目標とされており、4つの戦略目標すべてに関わっています。

1.仕事の創出
労働者が仕事に必要な技能を身につけ、仕事によって自立した生活が送れるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援します。

2.社会的保護の拡充
危険をともなうことなく、安全かつ健康的に働けると同時に、生産性も向上する労働環境を整備することと、社会保障の充実に向けた支援を行います。

3.社会対話の推進
労働問題や紛争の平和的な解決に向けた、政府・労働者・事業者間の話し合いを促進します。

4.仕事における権利の保障
一方的に不利な立場に置かれた状態で働く労働者をなくすため、労働者の権利を保障し、尊重します。

5つの旗艦プログラム

ILOでは、ディーセント・ワークを推進するために以下の旗艦プログラムを策定し、各国政府はもちろんのこと、労働者や事業者の代表も参加して取り組んでいます。

1.児童労働・強制労働撤廃国際計画(IPEC+)
2025年までに児童労働を撤廃し、2030年までに現代の奴隷制と人身取引、強制労働をなくすことを目指しています。日本では身近な問題に感じられることは少ないですが、国際社会への貢献の一環として取り組みを支援することが求められます。

2.労働安全衛生・グローバル予防行動計画(OSH-GAP)
労働安全衛生の観点から事故や労働災害を防止し、すべての労働者が安全で健康的な仕事に従事できる権利の実現に向けて取り組んでいます。

3.平和と強靭性のための雇用促進計画(JPR)
戦争や災害によって被害を受けた国や地域の人々に対し、雇用創出や技能開発、起業家育成を支援し、雇用を促進します。特に、若年層がインフラ整備の仕事に従事することで、平和の構築と社会的一体性が実現できると同時に、生活に欠かせないインフラも生み出せます。

4.社会的保護の土台計画(SPF)
生涯にわたる保健医療の提供や子どもたちへの社会的保護の提供、失業者、母性保護、障害や労働災害を中心とした所得保障、高齢者を対象とした年金の支給など、すべての人に対しての社会的保護制度を策定し、実現することを支援しています。

5.より良い仕事計画(ベターワーク)
ベターワークとは、労働条件の改善と企業競争力の強化を両立する取り組みです。主に開発途上国の衣料産業や履物製造業の工場で働く労働者について、貧困からの脱却を目指すと同時に、企業競争力を向上させることで国全体の経済成長も促進します。

ディーセント・ワークとSDGsの関係

「持続可能な開発目標」ともよばれるSDGsは、持続可能でより良い世界を目指すための世界共通の目標として2015年の国連サミットで採択されました。環境問題や貧困などの社会課題の解決に取り組み、誰一人取り残さないことを理念としています。

SDGsが掲げる目標のなかには、ディーセント・ワークそのものがゴールとして設定されている目標が存在します。全部で17の目標が存在するなかで、8番目の目標がそれにあたり、以下の内容が掲げられています。

「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」

また、直接的に「ディーセント・ワーク」という表現は使用されていないものの、1番目の目標には「貧困の解消」、5番目の目標に「ジェンダー平等」、10番目の目標に「人や国の不平等是正」が掲げられており、間接的にディーセント・ワークと関連のある目標も存在します。

前章で紹介したILOが掲げる5つの旗艦プログラムは、ディーセント・ワークを実現するとともにSDGsの目標を達成することも目的としています。

企業にとってのディーセント・ワークのメリット

企業がディーセント・ワークを実現することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。今回は3つの例を紹介します。

1.人手不足の解消

出産や子育て、介護などを理由に離職者が増え、人手不足に陥っている企業も少なくありません。そこで、ディーセント・ワークの一環として、時短勤務やテレワークなど、子育てや介護と仕事を両立できる制度・環境を整えることで離職者が減り、人手不足の解消につながる可能性があります。

2.企業の魅力向上

社員にとって働きやすい労働環境を整えたり、労働者としての権利を保障したりといった取り組みによってディーセント・ワークを実現できている企業は、社員にも社外の人にも魅力的に映ります。

魅力的な企業には入社を希望する人が集まりやすく、優秀な人材を採用できる可能性も高まるでしょう。その結果、企業の採用力が強化されることも期待できます。

3.企業としての信頼性向上

さまざまなメディアでSDGsという言葉が取り上げられるようになったこともあり、SDGsとの関連性も深いディーセント・ワークに取り組む企業は、社会からの注目度も高くなります。

十分な収入とやりがいの感じられる仕事を生み出すことにより、自社の利益だけでなく、社員を大切にする企業として認知され、企業そのものの信頼性が向上すると期待されます。その結果、売上の増加や取引先との良好な関係構築などにもつながるでしょう。

社会貢献や企業の信頼性向上に重要なディーセント・ワーク

「働きがいのある人間らしい仕事」を意味するディーセント・ワークは、社員はもちろん企業にとってもさまざまなメリットがあります。

労働環境の改善や、社員に働きがいを提供するという意味でSDGsとの関連も深く、社会貢献に結びつく取り組みともいえるでしょう。また、企業としての信頼性向上を目指すためにも、重要となります。

まずは自社の働く環境や制度をあらためて見つめ直し、ディーセント・ワークの実現に向けて取り組んでみてはいかがでしょうか。

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