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ISO30414はなぜ注目されている?定義と認証方法、対応しない場合のデメリットも解説

2023年06月16日更新

ビジネスのグローバル化が加速し、世界中の企業が国際競争力を求められるようになりました。取引相手が世界各国に広がりビジネスチャンスが増える一方、2020年にアメリカの証券取引委員会が上場企業へ人的資本情報の開示を義務づけたのを皮切りに、企業価値における人的資本重視の傾向が各国に広がりを見せています。

そうした中、人的資本の情報開示に関するガイドラインであるISO30414が注目を集めています。アメリカの情報開示義務の基礎ともなったISO30414はなにを目指し、対応しない企業にどのような影響を与えるのでしょうか。

今回はISO30414が注目される理由と、対応しない場合のデメリットについてご紹介します。

目次 【表示】

ISO30414とは

ISO30414とは、国際標準化機構(ISO)が2018年に発表した人的資本情報開示のガイドラインです。人材マネジメントに関する規格を11の領域に分け、58のレポーティング項目を定めています。

人的資本とは、企業に属する人材が所有する技能や資格、経験といった能力全般を資本として扱う考え方です。以前より人材を大切な資本として扱うという考え方がありましたが、各国の労働法規制が異なることから、統一した国際規格が設けられていませんでした。

しかし近年、アメリカを中心とした欧米では、ビジネスの急速なグローバル化と人材確保・育成に対する意識の高まりが加速し、人的資本に対する共通認識の必要性が高まりました。ISO30414はそうした背景から、企業における人事・労務に関する透明性を高め、企業を正しく評価するための基準として設けられています。

ISO30414が注目される背景

ISO30414は、世界中のあらゆるステークホルダーから注目を集める国際的なトピックとなっています。その背景には、人的資本を重視するようになったさまざまな理由が存在しています。

注目が集まるESG投資

ISO30414が重視されるようになった理由のひとつに、投資家が注目するESG投資の存在があります。

ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を繋げたものです。企業が環境や社会に対する配慮をした経営をおこなえるよう、企業統治(ガバナンス)をおこなうべきという指針を表しています。ESG投資は、ESGを重視している企業への投資であり、環境問題や社会課題への意識の高まりが顕著な現代において注目を集める投資判断基準です。

環境や社会に配慮しながら企業の持続を目指すESGは、あらゆる環境問題の改善を通じて持続可能な社会を目指すSDGsと密接な関係があります。企業単位で環境や社会へ配慮するESGの先に、持続可能な世界の実現へ向けた国や企業の取り組みであるSDGsがあると考えられているからです。

人的資本に対する投資家の関心の高まり

近年、投資家による企業評価において、人的資本への投資姿勢が重視されています。その背景には、IT系企業やサービス業などの企業価値が財務諸表から測りにくいという事情があります。

企業価値を判断するために用いる指標の多くは、事業や財務活動により得られた収益が一般的です。財務諸表に掲載される情報も可視化された資産・負債・資本であるため、経営成績にもとづく企業価値を読み取りやすいという利点があります。

しかし、近年の市場でも目新しい商品やサービスを供給しているイノベーション企業は、企業価値が新たなサービスを生み出す「ヒト」に由来しており、財務諸表からは正確な価値を読み取るのが困難です。そのため、投資家は人的資本の影響力を把握したうえで投資判断をおこなえるよう、企業の人的資本投資状況を“見える化”する指標として、ISO30414(人的資本開示情報のガイドライン)の項目を重視する傾向にあります。

日本国内での人的資本開示が強化

こうした世界的な動きを背景に、日本でも人的資本に対する取り組みが活発になっています。先駆けとなったのは2020年に経済産業省が開催した「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」です。1月から6回にわたっておこなわれた会を経て、2020年9月に最終報告書である「人材版伊藤レポート」を発表され、企業経営における人材戦略のあるべき姿がまとめられました。

2022年5月には改訂版である「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。急速に進むDX、地政学リスク、世界的パンデミックといった社会環境の急変を受け、経営戦略における人材戦略の位置づけを見直すことが狙いとされています。

また、2021年6月には上場企業がおこなう企業統治のガイドラインである「コーポレートガバナンス・コード」が改定され、人的資本開示が求められるようになりました。これは金融庁と東京証券取引所が共同で制定しており、現在は罰則なしのガイドラインとして運用されています。

さらには2022年8月に日本政府が「人的資本可視化指針」を公表し、国を挙げて人的資本を重視する方針を打ち出すといった動きを見せています。

ISO30414がガイドラインを定める11領域58項目

ISO30414が定める11領域および58項目は以下の通りです。
ISO30414がガイドラインを定める11領域58項目

1.倫理とコンプライアンス

内外を問わず、企業が倫理観とコンプライアンス意識を持って活動しているかを測る領域です。苦情の種類・件数や研修を受けた従業員割合といった定量的な項目のほか、第三者に解決を委ねられた紛争(訴訟など)といった定性的なものも含まれています。

2.コスト

人材の育成・活用に必要なコストを定量的に測る領域です。現在企業に所属している人材にかかるコストのほか、採用・離職にともなうコストも開示するように求めています。

3.ダイバーシティ(多様性)

昨今注目を集めるダイバーシティ(多様性)に関する領域です。年齢・性別・障害の有無に関する従業員の傾向に留まらず、経営陣のダイバーシティにも触れています。今後さらに拡大するグローバル展開を視野に入れた領域であるといえます。

4.リーダーシップ

経営層や管理職が発揮するリーダーシップを評価する領域です。現在管理職がかかえる部下数に加え、企業がどれだけ管理職の育成に力を入れているかといった点も注視しています。

5.組織風土

従業員の企業に対する満足度や忠誠心を測る領域です。組織エンゲージメント(従業員が組織に貢献する意思をもって、業務に打ち込んでいる状態)に加え、従業員の定着率といった定量的な評価もおこないます。

6.健康・安全・幸福

企業が従業員に与える健康・安全について、労災の観点から評価する領域です。労災の件数・死亡者数といった直接労災に関係する項目だけでなく、事故を未然に防ぐ研修の実施状況といった取り組みも評価します。

7.生産性

従業員の生産性を定量的に測る領域です。EBIT、売上、利益といった収益性および人的資本に対するROI(投資利益率)を測ります。

8.採用・異動・退職

人的資本の流動性・定着率を測る領域です。企業の持続的な経営活動の前提となる人材の準備に対する備えを評価します。

9.スキルと能力

人材のスキル開発・育成への取り組みを評価する領域です。現時点のスキルではなく、会社が従業員の能力向上のためにどれだけ力をいれているかを測ります。

10.後継者計画

持続的な経営のために不可欠な後継者への取り組みを評価する領域です。現時点における準備だけでなく、向こう5年に向けた準備の進行度も評価の対象としています。

11.労働力の可用性

従業員の数や勤務実態から、継続的に労働力を供給する体制を評価します。企業に所属している被雇用者だけでなく、派遣労働者や個人事業主といった臨時の労働力に対する備えも対象です。

ISO30414に準拠しないデメリット

ISO30414非準拠によるデメリット

ISO30414は人的資本に対する取り組みの方向性を示すガイドラインであり、準拠しなければならない法的な強制力はありません。しかし、世界的な人材に対する意識が高まる中、準拠しないことが不利益となる日がやってくるのは、そう遠くないでしょう。ISO30414への準拠を見送った結果、どのようなデメリットが発生するのでしょうか。

投資家からの資金調達が困難になる

投資家からの資金調達が困難になる
先述の通り、企業の人的資本に関する取り組みについて、投資家の関心は日々高まりを見せています。今後さらにESGを重視する企業への投資活動が活発化していくことにともない、人的資本を活用する姿勢への注目度も上がっていきます。

その結果、人的資本を活用した経営をおこなっていない企業への注目度が下がり、投資家からの資金調達は困難になるでしょう。そのため、ISO30414に準拠する動きは、市場からの資金調達という面でも重要視されていくことが予想されます。

人材の確保が困難になる

人材の確保が困難になる
人材不足に頭を抱える企業は以前から存在していましたが、近年は業種を問わず人材確保に苦労する企業が増加しています。各社とも人材を集めるためさまざまな施策をおこなっていますが、今後はさらに人的資本の重要性に着目した取り組みが求職者の方から注目されると考えられます。

たとえば求職者の方からは「どのような仲間(既存の従業員)と働くことができるのか」「そのような環境下で、自身のキャリアビジョンを達成できるか」といった、就業後のイメージを構成する要件などは非常に重要視されるでしょう。反面、人的資本を重視していないと感じ取られる企業は、人材の確保や従業員の定着が難しくなると予想されます。

グローバル展開の難易度が上がる

グローバル展開の難易度が上がる

ISO30414は国際的なガイドラインです。グローバル企業が多く存在するアメリカの上場企業では、すでにISO30414に準拠した「人的資本に関する情報開示」が義務化されました。

こうした動きを受け、前述のように投資家は人的資本への取り扱いに注視する動きが活発化しています。また、企業間の取引や提携においても、人的資本に対する取り組みが判断基準となり、人事情報の開示を求められるケースは増加すると考えられています。

その傾向が広がりを見せれば、グローバル展開を見据えた海外企業との取引において、ISO30414に対応していないことそのものが致命的なデメリットとなる可能性があるといえるでしょう。

ISO30414認証の取得方法

ISO30414はガイドラインであり、一般的には資格や認可の対象ではありません。しかし、ISO30414に準拠している企業であることの客観的な評価が求められていることから、日本でも認証をおこなう機関があります。

ISO30414認証機関による分析

2023年4月現在、日本国内におけるISO30414の認証機関は「株式会社HCプロデュース」社のみとなっています。

認証は企業がまとめた11領域における人的資本関連データを3段階で審査したうえでおこなわれます。ただし、すべての企業が認証審査に進めるわけではなく、認証が必要なレベルであるのか「フィット&ギャップ分析」をおこない、企業の人的資本に対する取り組みを判断します。このギャップが大きい場合には、審査の前に人的資本を重視した経営をおこなうための仕組みの導入をおこなわなければなりません。

3段階の審査

ISO30414の認証は、以下の3つの段階でおこなわれます。

データの確認

第1段階がデータの確認です。認証は58項目に関するデータを社内で取得できる仕組みが整っていることが前提となります。そのため、従業員の勤務時間や入退社数の記録、ハラスメントの通報システムといった仕組みが存在しているか、集められたデータが正しく収集されレポーティングできる体制になっているかを審査します。

インタビュー

第2段階がインタビューです。ISO30414に準拠した人的資本管理・活用は、仕組みを整えるだけでは十分とはいえません。なぜISO30414の認証を受けたいのか、人的資本をどのように事業戦略に活かしたいのかといった企業全体の考えを、インタビューを通じて経営者や人事責任者に確認します。

実査

第1、第2段階を経て、実際にインタビューの内容が従業員に浸透しレポーティングがおこなわれているかの実態調査(実査)をおこないます。レポーティングは経年での比較を重視し、単発ではなく継続的なレポートが可能であることを確認します。また、レポーティングで終わりではなく、実際に問題の解決に活用されているかも確認すべきポイントです。

再審査は3年ごと

取得した認証の効力は永続ではありません。取得後は定期的な再審査をおこない、認証を更新する必要があります。1年ごとにおこなわれるのが簡易的な監査です。また、3年ごとには本格的な再審査がおこなわれます。

概算費用

ISO30414認証を受けるための審査費用は、企業単体やグループの規模、海外拠点の有無や数によって大きく異なります。また、審査費用だけでなく、毎年の認証更新のための継続的な更新料も必要です。

なお、前述のフィット&ギャップ分析の実施にも費用が必要です。分析の結果、社内に仕組みを導入する必要が認められた場合には、さらに構築費用が必要となります。フィット&ギャップ分析はおおよその概算ですが、200万~300万円ほどの費用が必要とされています。

まとめ

ESGに代表されるような「企業のあり方」に注目が集まる現代において、企業の競争力を形作る人的資本が注目を集めています。また、企業経営で必須の資金調達という面では、投資家からも重要視されており、今後の企業運営にはISO30414への適応が経営の最重要課題のひとつとなるでしょう。

より高い競争力と持続性を獲得するためにも、ISO30414に準拠した情報開示に取り組みましょう。

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