会社と社員を思うことがエンゲージメント強化にも繋がる|浜屋株式会社様インタビュー
家電製品のリユース事業を中心に、「グローバル循環型社会の構築」を支えるサービスを展開する
浜屋株式会社。同社では「お客様の満足が浜屋の誇り」を企業理念に掲げ、それを社員に浸透させることへ力を注いでいます。企業理念が意図するのはどんなことなのか。そしてそれを社員に浸透させることで、どのような効果が生まれているのか。代表取締役の小林茂さんに、お話を伺いました。
お客様と“WIN-WINの関係”を築く
――まずは、御社の事業内容について教えていただけますか?
小林茂さん(以下、小林):家電製品のリユースを軸に、持続可能な循環型社会への貢献をしています。
日本では昔から、非常に優れた家電製品が作られてきました。使っているうちに壊れてしまっても、修理すれば長く使い続けることができるような高品質のものばかりです。ところが今は、修理するよりも新しいものを買う人のほうが多いですよね。家電は処分するだけでもお金がかかりますし、本当はまだまだ使うことができるのにもったいない。私たちは、そんな家電製品を回収し、発展途上国を中心とする国々に輸出販売をしています。
――そんな御社では「お客様の満足が浜屋の誇り」を企業理念に掲げ、お客様と“WIN-WINの関係”を築くことをポリシーとされていますよね?
小林:はい。それを実現するために、「お客様の喜びを常に考えて行動する」「常に感謝の気持ちで平等・公平に接する」を行動原理としています。
私は大前提として「浜屋にくるお客様は、私たちを喜ばせにきてくれている」という考えを持っています。だから私たちは、全力でそれに応えたい。笑顔でお迎えするのはもちろんですが、たとえばリユースできそうな家電製品を持ち込んでくれたお客様に対しては、とにかく「いい品物を持ってきてくださいましたね」と喜びの気持ちをお伝えするようにしています。
また当社には、南米やアジア、アフリカなど、世界の国々から家電製品のバイヤーさんもいらっしゃいます。彼らに対しても精一杯のホスピタリティをもって接し、「同じ製品、同じ価格なら浜屋に行こう」と思っていただけるような接客を心掛けていますね。
――御社は現在、全国各地に拠点をお持ちで、社員も360人ほどいらっしゃると伺っています。ご自身のお考えをどのように社員に浸透させているのでしょうか?
小林:まずは、支店長や所属長としっかり認識をすり合わせるようにしています。それに加えて、新入社員には入社してから半年以内に、私と食事に行く機会を設けているんです。私と、新入社員2人ほどの少人数で、おいしいご飯を食べながら、お互いが考えていることについてじっくり話し合っています。
――社長と2対1で食事なんて、緊張してしまいそうですね。
小林:そんなことないですよ。この食事会のとき私が話すのは、常に感謝の気持ちを持って行動してほしいということ。商品を持ってきてくれるのはお客さん、商品を買ってくれるバイヤーさん、みなさん「浜屋を喜ばせたい」と思ってきてくださる。だから、笑顔で彼らを迎え入れることはもちろん、「いいものを持ってきてくれてありがとう」と褒め、喜びを伝えるようにと。それは、お客様に対してはもちろん、それは社員同士にも言えることですが。
外部の方からよく「浜屋の社員は機転が利きますね」と言っていただくのですが、当社では特別な教育をしているわけではないんです。実は私自身が、そんなに機転が利くタイプの人間ではないと自覚していて……。だからこそ、感謝の気持ちをいつも軸に持つことを意識しています。常に意識しているからこそ、周りの人にも喜んでもらえるような行動を自然とできているのだと思います。
社員は“褒めて”伸ばす
――小林さんは、社員とコミュニケーションをとる際に気をつけていることはありますか?
小林:一番は「褒める」ことでしょうか。
――「褒める」ですか。
小林:はい。各拠点を回っていて思うことですが、どの社員にも、私より優れているところが必ず一つはあります。私は交渉力にかけては誰にも負けない自信があるのですが、なかには私でも目を見張るような粘り強さで交渉に臨んでいる社員もいます。そのほかにも、英語ができたり、ITに強かったり……。みんなそれぞれ強みがあって、なにか一つは必ず、私が勝てないものを持っている。現場に顔を出した際には、それをしっかり見つけて褒めるように意識しています。
――たしかに、社長が社員一人ひとりをそこまで見てくれている実感があると、社員も頑張りたいと思いますよね。
小林:そうですね。社員一人ひとりを見て、平等に思いやることを大切にしています。
たとえば社内でのポジションアップは、どうしてもリーダー的な素質を持った人に偏ってしまいます。一方で、商品の価値を見極める力があったり、お客様のニーズをよく理解していたりと、リーダーの役割とは違った部分で会社に貢献してくれている社員もたくさんいます。この人たちをおざなりにしてしまうと、組織の質はとても悪くなってしまう。だから幹部をはじめ、各拠点や部門のリーダーとなっている社員たちには、自分の下についている社員たちへの思いやりを常に持って行動するよう徹底しています。
――リーダーとなる社員たちにもそういった考え方を徹底されているのですね。実際に社員ととったコミュニケーションのエピソードがあれば教えてください。
日本国外の話になってしまいますが、ブラジルの子会社「HAMAYA DO BRASIL」を訪れた際には現地の社員たちがとても喜んで迎えてくれたのが印象的でした。安全靴と作業着を持参し、一緒に仕事したり、コミュニケーションをとったりしたのですが、社長自らが現場でそういうことをするのは、ブラジルではかなり珍しいようで。
間に通訳が入っていたので、私の気持ちがきちんと伝わっているか不安ではあったのですが、話しているうちに社員たちの目がどんどん輝いていったのが印象的でしたね。この訪問をきっかけに社員たちのモチベーションが上がったと聞いて、現場に顔を出してコミュニケーションをとることの大切さを改めて実感しました。
福利厚生は長いスパンでの“投資”
――「社員のために」として導入されている制度や施策、社長のお持ちの考えなどがあれば教えてください。
小林:そうですね。当社でも福利厚生は重要視していて、いろいろと取り入れています。仕事で必要になるフォークリフト免許を取得する際には費用を全額負担したり、勤務中の昼食を会社から支給したり……。マイホームを購入した際には「持家支援制度」として30万円の補助を出しています。
――それはありがたいですね。どうして「持家支援制度」なのでしょうか?
小林:昔に比べると、今はマイホームを購入する人も減ってきていると思います。でも私は、マイホームを持つことも人生を豊かにすることの一つだと考えていて。暮らしが充実すれば、気持ちも穏やかになり仕事のモチベーションアップに繋がりますよね。補助としてただお金を渡すのではなく、最終的には会社にいいことが返ってくるという考えから、長いスパンでの“投資”としてこの制度を取り入れています。
――なるほど。“投資”なのですね。
小林:毎年行っている社員旅行でも、同じような考えから補助制度を取り入れています。たとえばスキーに行った年には、ウェアを持っていない社員のために購入費用として3万円を負担しました。もちろん、スキー場に行けばレンタルすることもできますが、マイウェアを持てば、その後プライベートでも再びスキーに行く可能性が高まりますよね。そうすれば、社員の家族も「スキーに行く」という経験ができる。
社員旅行がきっかけで、社員はもちろんその周りの人たちの人生の幅も広がればいいなと思っています。そうすればきっと、会社を中心にいいサイクルを生み出すことができますよね。
――おっしゃるとおりですね。社員の人生まで考え会社が施策を打つ、それによってエンゲージメント向上につながり、さらに業績向上にまでつながる、こういった考え方は世界的にも、特に各分野の先端を行く企業でスタンダードになりつつあると思います。
小林:たしかにそういった流れがありますよね。実は当社では、1991年の創業時からベースになる考えは変わっていないんですよ。
不公平感を取り除く
――制度を作ったはいいけれど、実際にはそれが機能していないというお話をいろいろな企業で聞くことがあります。御社では、用意した制度をきちんと社員に使ってもらえるよう、何か工夫はされていますか?
小林:さきほどお話しした「マイホーム」や「社員旅行」の補助は割と使ってもらっているので、特別な対策はしていないですが……。当社では時短勤務も取り入れているのですが、そちらでは少し工夫していますね。
――どのような工夫でしょうか?
小林:時短勤務だからといって、単純に時間を減らして、その分の給料を引くだけでは、必ずしも組織が上手く回るとは限らないんです。場合によっては、時短勤務制度を使う人と使わない人との間に不公平感が出てしまうこともあります。それを防ぐために、時間、給料、休日のバランスを調整するようにしています。
――なるほど。ちなみに有給休暇の取得についてはいかがですか?
小林:当社はもともと公休(年間休日)が一般平均に比べ少なめなので、一般的な企業よりも有給を取得できる日数を多めにしています。「公休を増やそう」という話が出たこともあったのですが、それは私が反対しました。なぜかというと、以前支店回りをした時に、社員が有給を取れていないことに気が付いたからです。
――決して「社員を休ませたくない」ということではないのですね。
小林:もちろんです。社員たちはシフト制で働いているので、たとえば7人で運営している店舗では、1人が公休だとその日出勤するスタッフは6人になり、さらに1人が有給を取ると5人になってしまいます。これでは「人手が減る」という申し訳なさから、みんな有給を取りづらくなるんです。
――この状況でさらに公休を増やしたら、ますます有給が取れなくなってしまいますね。
小林:そうなんです。なので、どちらかといえば有給を取得できる日数を増やしたほうがいいという結論にいたりました。ただ、それだけでは、スタッフの人数が多い店舗では休みが取りやすく、少ない店舗では取りづらいという不公平感が出てしまいます。そこで店舗間でスタッフの貸し借りをする「ヘルプ」をしてもらうことで、最近やっと、少しずつではありますが、以前に比べると有給が取りやすくなってきたと思います。とはいえ、有給取得率の向上はまだまだ改善の余地がある課題ですね。
――そのほか、今後取り組んでいきたいことはありますか?
小林:より女性が活躍できる環境を整えたいですね。その一環として、当社では企業内保育所を設置しています。以前は、せっかく能力が高いのに、結婚・出産を機に仕事を辞めていく女性社員がいました。そんな状況をどうにかできないかと考えていたとき、新聞で助成金制度を知ったんです。すでに申し込み期限が迫っていたため、新聞を見てすぐに土地を確保するところから動きました。
――その決断力と瞬発力がすごいですね。
小林:この決断も、もともと優秀な女性社員たちが出産や育児をきっかけに辞めていってしまうのがもったいない、と意識していたため、新聞を見てすぐに動くことができたと思っています。現在も企業内保育所や時短勤務の導入で女性社員の産休・育休後の職場復帰を支援してはいますが、今後も常に改善点を見つけながら、よりよい環境作りに努めていきたいです。
――創業時から変わらない小林社長の会社と社員への思い、考え方をうかがうことができました。御社のさらなるご活躍に期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。