リーダーシップ理論の歴史と近年注目される3種類の理論を解説
経済のグローバル化が進むなかで企業が激しい競争に勝ち残っていくためには、多様な価値観や考え方のもとで、社員がリーダーシップを発揮し、強い組織を作っていくことが重要です。
リーダーシップとは「指導力」や「統率力」を指すことが多く、組織が目的を達成するためにメンバーの行動を促す能力を意味します。しかし、一口にリーダーシップといってもさまざまな捉え方ができるため、その理論は時代とともに変化してきました。
そこで今回は、リーダーシップ理論の歴史的変遷と、そのなかで代表的なリーダーシップの種類を紹介するとともに、近年注目されているリーダーシップ理論についても解説します。
リーダーシップ理論の歴史的変遷と種類
リーダーシップは、これまでさまざまな研究者によって研究され、多くの理論が提唱されてきました。どのような歴史を辿ってきたのか4つのフェーズに分けて解説しましょう。
リーダーシップ特性理論(〜1940年代)
リーダーシップ理論の研究が始まった当初は、リーダーシップは個人が生まれ持った特性によって決まるという考えが一般的でした。具体的な特性は、知能や創造力、協調性、社交性など多岐にわたり、これらの能力を生まれ持った人こそがリーダーに適しているというのが「リーダーシップ特性理論」です。
リーダーシップ行動理論(1940年代後半~)
リーダーシップ特性理論で挙げたような先天的な特性を持っていたとしても、成果が出せないリーダーも存在していました。そこで1940年代後半に入ると、リーダーとしての行動に注目した「リーダーシップ行動理論」の研究がなされるようになりました。
リーダーシップ状況適応理論(1960年代~)
個人の特性やリーダーとしての行動が同じであったとしても、リーダーシップを発揮できる人とそうでない人が存在していました。そこで、特性理論や行動理論のような普遍的なリーダーシップは存在しないという立場のもと、周囲の環境や状況によってリーダーシップを変化させる「リーダーシップ状況適応理論」の研究が1960年代から登場しました。
コンセプト理論(1980年代~)
1980年代に入ると、リーダーシップ状況適応理論をベースとし、ビジネス環境や組織ごとにリーダーのあり方を細分化した「コンセプト理論」の研究がおこなわれるようになりました。その結果、カリスマ的な才能で組織を強く牽引する「カリスマ的リーダーシップ論」などが登場しました。
ドラッカーによるリーダーシップの定義
リーダーシップ理論は時代とともにさまざまな変遷を遂げてきたことがわかりました。近年は、経営学者であるピーター・ドラッカーが掲げた「仕事の能力ではなく、人格を高める」というリーダーシップの定義を用いることが多くなっています。
ドラッカーが掲げた定義は以下の3つです。
1.リーダーシップは仕事
ドラッカーは、「リーダーとは目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」と定義しています。
すなわちリーダーシップとは、特性や才能といった先天的なものではなく、上記で示した定義の内容を仕事として捉えることを意味しています。
また近年のリーダーシップ理論も、リーダーシップは先天的に身についているものではなく、トレーニングなどによって後天的に身につけられるという考え方が主流です。
2.リーダーシップは責任
リーダーシップは組織における地位や特権として認識されることも少なくありません。しかし、ドラッカーは「責任として認識すること」と定義しています。
たとえば、リーダーが立てた戦略やプロジェクトが失敗に終わったとしても、メンバーではなくリーダー自身の責任として捉えることという考え方です。
3.リーダーシップは信頼
ドラッカーは、リーダーとは「つき従う者がいること」と定義しています。
従来、リーダーといえば「トップダウンによって部下に命令し、従わせる」というイメージを抱かれがちでしたが、リーダーに対する信頼のもとで部下が能動的に従うことが真のリーダーシップであるとしています。
近年注目されている3種類のリーダーシップ理論
ここまで説明してきたように、リーダーシップ理論にはさまざまな種類が存在し、時代に合わせて変化してきました。また、現代においても人々の価値観の変化や、ニーズの多様化など、ビジネス環境は変化しつづけています。そのような変化に対応していくためには、組織に多様な価値観や考え方を取り入れることが重要です。
そのなかで、近年とくに注目されているリーダーシップ理論を3つ紹介しましょう。
オーセンティックリーダーシップ
高い倫理観や道徳観をもつと同時に、リーダー自身が大切にしている価値観や考え方に根ざして組織をリードするリーダーシップを「オーセンティックリーダーシップ」とよびます。
オーセンティックリーダーシップでは、リーダーがメンバー一人ひとりと本音で向き合うことで信頼関係を築き、メンバーそれぞれの個性や強みを把握し、どう生かせるかを考えて行動します。企業が時代の変化に対応していくためにも、メンバーの多様な強みを生かせる組織づくりに有効な、オーセンティックリーダーシップが注目されているのです。
なおオーセンティックリーダーシップには、以下の5つの特性が求められます。
- 情熱をもって目的を追求する
- 自分なりの価値観にもとづいて行動する
- 真心をもってリードする
- 継続的に人間関係を構築する
- セルフマネジメント
サーバントリーダーシップ
「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えにもとづいたリーダーシップ理論を「サーバントリーダーシップ」とよびます。
サーバントリーダーシップはリーダーが部下の話を傾聴し、コーチングやメンタリングによって部下を目標達成に導くというものです。そして、この過程においてリーダーと部下の信頼関係も構築されます。
ドラッカーのリーダーシップの定義にもあった「信頼」をメンバーから得るためには、必ずしも従来のようなトップダウンの支配型リーダーシップが適切とはいえません。メンバーが心から信頼できるリーダーになることで、真に強い組織が生まれるでしょう。そのため、サーバントリーダーシップの考え方は重要といえます。
提唱者のロバート・K・グリーンリーフは、サーバントリーダーシップには以下の10の属性が求められるとしています。
- 傾聴
- 共感
- 癒し
- 気づき
- 説得
- 概念化
- 先見力・予見力
- 執事役
- 人々の成長に関わる
- コミュニティづくり
シェアドリーダーシップ
組織内のメンバー全員がリーダーシップを発揮することをシェアドリーダーシップとよびます。リーダーの役割をシェア(共有)している状態ともいえ、状況に応じてリーダーシップを発揮するメンバーと、それに従い主体的に動いているメンバーが入れ替わるのが特徴です。
ただし、シェアドリーダーシップにおいても、公式な役職としてのリーダーは必要といわれています。
メンバーそれぞれにリーダーシップを発揮してもらうために、公式なリーダーに求められることは、以下の3つが挙げられます。
- なにをすれば組織に貢献できるか、自分の強みを生かしたスタイルをメンバー自身に自覚してもらう
- メンバーに対するアプローチ方法(ファシリテートやコーチングなど)を公式のリーダーが学ぶ
- 会議などの進め方を実際に変えてみる
メンバー自身がリーダーシップを発揮するために、具体的にどのような強みを生かせるのかわからないことも多いため、まずはリーダーシップの定義や理想の組織といった前提を組織全体で揃え、そのなかで強みを発揮できる分野やポイントを考えてもらうとよいでしょう。
時代とともに変わるリーダーシップ理論
リーダーシップ理論が変化してきた背景には、時代やビジネス環境の変化があります。
現在は不確実で不安定なVUCA時代に突入したといわれており、そのなかで企業が生き残っていくためには、従来のようなトップダウンによる支配型リーダーシップからの変革が求められるでしょう。
近年注目されている「オーセンティックリーダーシップ」、「サーバントリーダーシップ」、「シェアドリーダーシップ」は、いずれも部下を命令によって動かすのではなく、信頼によって個々が主体的に動ける組織へと導くものとなり、支配型リーダーシップとは異なる考え方です。
新たな時代に適応した組織を作り上げていくためにも、さまざまなリーダーシップ理論を参考にしながら組織改革を進めてみてはいかがでしょうか。