サバティカル休暇とは?注目されている背景や効果・メリットを紹介
働き方改革が進むなか、注目されている制度のひとつに「サバティカル休暇」があります。サバティカル休暇は、従業員が長期間の休暇を取得できる制度で、リフレッシュやスキルアップのための時間を得られます。しかし、単に制度を導入するだけでは効果が発揮されないことがあるため、導入する前にサバティカル休暇についてよく理解しておく必要があるでしょう。
今回は、サバティカル休暇とはなにか、注目されている背景、サバティカル休暇の効果・メリット、デメリット、導入するポイント、事例について紹介します。
サバティカル休暇とは
サバティカル休暇とは、従業員に対して長期の休暇を与える制度のことです。サバティカルとは、ラテン語の「sabbatical」に由来し、旧約聖書において「安息日」を意味します。休暇期間は企業によって異なりますが、1ヶ月といった月単位から、1~2年といった年単位に及ぶこともあります。
サバティカル休暇を与えられた従業員は、長期休暇によるリフレッシュだけでなく、スキルアップや自己成長のための時間としても活用できることが特徴です。
サバティカル休暇が注目されている背景
サバティカル休暇は、もともと19世紀の米国で大学教員向けに導入された制度です。1990年代にはヨーロッパの企業が、仕事と生活のバランスが取れた状態を示す「ワークライフバランス」の価値観を重視し、仕事だけでなく家族や自分自身の生活も大切にするために採用しました。
このような背景から、サバティカル休暇は、長期休暇を取得することで得られるリフレッシュやスキルアップ、自己成長の機会として注目されるようになりました。日本でも、働き方改革やワークライフバランスの重要性が認識され、経済産業省が2018年3月にサバティカル休暇の制度整備を呼びかけたことから、国内でもサバティカル休暇が注目されています。
また、2022年7月に調査した内閣府の「生涯学習に関する世論調査」の概要でも、「生涯学習を盛んにしていくために国や地方自治体が力を入れるべきこと」の問いについては「労働時間の短縮や学習するための休暇制度などの充実」の回答が上位6項目に入り、休暇制度への需要が高まっていることが伺えます。
自己成長やスキルアップ、リフレッシュを目的に取得できる制度として、多様な人生を支える手段とされるほか、長期休暇の取得が一般的になることで、育児休業なども心理的に利用しやすくなる効果も期待されています。
出典:
「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」 報告書│経済産業省
「生涯学習に関する世論調査」|内閣府
サバティカル休暇の効果やメリット
サバティカル休暇によって得られる効果・メリットはさまざまです。以下で紹介します。
長期休暇で得られる経験や体験
サバティカル休暇によって長期的な休暇を取得することで、資格取得や研究プログラムへの参加、海外留学など、短期休暇では得ることが難しい多くの貴重な経験を積むことができます。このような経験は、個人のスキルアップや自己成長になり、復職後には新しい視点や知識を業務に活かすことができ、組織への貢献も期待できるでしょう。
そうした自己成長を促進させるために留学や研修などのキャリアアップにつながる活動に対しては、特別な手当を設ける場合もあります。
自己成長やリフレッシュの機会の提供
長期にわたって従業員の自己成長やリフレッシュする機会を提供することで、新しい知識の習得によるモチベーション向上、普段の休暇では解消できなかった疲れやストレスの軽減につながります。仕事から離れ、趣味への没頭や海外旅行に出かけることで刺激を受け、リフレッシュできるでしょう。
また、新しい知識の習得やスキルアップにより、仕事に対するモチベーションが上がることや、新たな気付きや、アイディアを得て、復帰後の業務に活かすことが期待できます。結果として従業員の満足度が高まり、離職防止の効果も期待できます。
業務の詳細なマニュアル化
サバティカル休暇を導入する際には、長期休暇を取る社員が不在の間に業務が滞らないように、仕事の整理や調整をすることが求められるケースが大半です。これにより、業務のマニュアル化が進み、業務プロセスの標準化や効率化を図れます。
属人的な業務を減らし、誰でも業務を遂行できるようになることは、組織全体の安定性と生産性の向上につながります。
サバティカル休暇のデメリット
サバティカル休暇を実施するにあたって、企業または従業員にどのようなデメリットがあるのでしょうか。
制度が適切に運用されない
日本ではサバティカル休暇という概念が広く浸透していないため、諸外国と比べて長期休暇を取得できない場合があります。たとえば、企業として制度を設けていても従業員自身が「周りに迷惑をかけたくない」という理由で取得しづらいケースが考えられます。
業務にブランクが生まれる
サバティカル休暇によって従業員が長期間職場を離れることで業務にブランクが生じるリスクがあります。現在は予測が困難なVUCA時代で、市場や顧客ニーズが激しく変化しています。それに伴い、長期不在の間に職務内容や必要なスキルが大きく変わることがあり、復帰後の適応に時間がかかることが考えられます。
そのため企業は、従業員のスムーズな復帰に向け、フォローアップ体制やトレーニングメニューを準備する必要があります。
従業員の収入が減少してしまう
企業によって異なりますが、サバティカル休暇中は、給与や手当が支給されないことがあります。そのため、従業員が休暇を取得することに対して経済的な負担を感じることが考えられます。
企業としては、収入の減少が従業員のモチベーションに与える影響を考慮し、適切な手当や補助金の支給を検討する必要があり、従業員が安心して休暇を取得できる環境を整えることが求められるでしょう。
業務を円滑に進められなくなる
サバティカル休暇を取得する従業員が不在になることで、たとえば専門的な知識やスキルが求められるポジションであれば、代替要員の確保が難しく、残された従業員に負担がかかることが予想されます。
このような状況を避けるためには、休暇取得前に業務の引き継ぎやマニュアル化を徹底し、組織全体で業務をサポートする体制を構築することが重要です。
サバティカル休暇を導入するポイント
メリットとデメリットを踏まえて、サバティカル休暇を導入するポイントを解説します。
サバティカル休暇を取得しやすい環境をつくる
サバティカル休暇を取得してもらうためには、従業員が休暇を取りやすい環境を整えることが重要です。
はじめに、経営陣が従業員に対してサバティカル休暇の趣旨や内容を周知し、理解を促しましょう。制度の詳細を説明し、休暇は取得してよいものであることを明確に伝え、取得方法や手続きを共有することも重要です。休暇取得者の事例を紹介することで、他の従業員にも積極的に休暇を取得してもらうきっかけとなります。
また、実際に休暇を取得しやすい環境をつくるためには、直属の上司や組織長が業務の引き継ぎやマニュアル化を徹底し、代替要員の確保や業務の再分配を計画することが求められます。
休暇中の周囲の従業員の業務負荷分散
長期不在となる従業員の業務を他の社員に分散し、円滑に業務をおこなうためには計画が必要です。まず業務内容を可視化し、引き継ぎ計画を立てます。そして関係者全員と打ち合わせをおこない、休暇期間や影響を共有しましょう。
業務内容を精査し、休暇中の周囲の従業員の業務負荷分散をおこなうことで、休暇取得者の不在による業務の滞りを抑えられます。
休暇中の給与の明確化
サバティカル休暇中の給与については、企業ごとに対応が異なります。そのため、企業は休暇中の給与や手当の有無、社会保険料、住民税の支払いについて事前に取り決めをおこない、明確化することで、従業員はそれをもとに休暇の計画を立てやすくなるでしょう。
休暇から復帰する従業員のサポート体制
長期間職場を離れていた従業員がスムーズに復帰できるよう、事前の準備と復帰後のフォローアップが重要です。たとえば、復職前に必要な情報や資料を提供し、復職後には業務に戻るためのトレーニングやオリエンテーションを実施するなどが挙げられます。
また、休暇前と同じ業務に携わるかどうかは双方で話し合って決め、休暇中の担当者から業務状況をしっかりと引き継ぐようにしましょう。
サバティカル休暇の事例
ここではサバティカル休暇の企業事例として、厚生労働省が挙げている2つの事例を紹介します。
業務調整を徹底し、取得しやすい長期休暇のA社の事例
求人メディアを運営するA社では、従業員が連続して20日間の有給休暇を取得できる制度を導入しました。この制度の利用目的は自由で、取得時期も従業員の都合に合わせて設定可能ですが、分割取得は認められていません。休暇取得に向けて業務調整が徹底されており、取得者は長期旅行や資格取得、家族との時間にこの休暇を活用しています。
この制度により、従業員のリフレッシュやスキルアップが促進され、属人化の防止や生産性の向上が期待されています。また、エンゲージメントが向上し、離職率の低下にもつながると考えられています。
キャリアを見つめ直すきっかけをつくるB社の事例
情報通信業のB社は勤続10年以上の正社員を対象に、2~3か月間の休暇が取れる制度を設けました。休暇期間中、1か月間は給与が支給され、残りの期間に年次有給休暇を当てることが可能です。取得には4か月前から申請が必要で、役職者は休暇期間中に役職を外れます。
この制度の導入により、従業員がキャリアを見つめ直す機会が得られ、子育てや家庭、仕事のバランスを見直せました。
サバティカル休暇で多様な働き方の実現を
サバティカル休暇は、従業員のリフレッシュやスキルアップを目的とした長期の有給休暇制度であり、企業にとっても生産性向上や離職率低下など多くのメリットがあります。
ただし、導入に際しては、サバティカル休暇を促す周知や環境づくり、業務整備をおこなうとともに、従業員が休暇で得られた多様な経験を、組織発展に貢献できるような機会の提供が重要です。この記事を参考に、サバティカル休暇の導入を検討してみてください。