2030年問題とは?企業に与える影響や対応策を解説
2030年は、高齢化率(65歳以上の人口割合)が30.8%まで増加し、総人口の約3人に1人が高齢者となる年です。人口構造の変化により、労働力の不足や業績悪化リスクの増大など、さまざまな問題の表面化が懸念されています。
今回は、2030年問題とはなにか、企業に与える影響や、とくに影響が大きい業界、2030年に向けて企業がとるべき対応策についてお伝えします。
2030年問題とは
2030年問題とは、高齢化による人口構造の変化や労働人口が減少することで起こる社会問題の総称です。内閣府が公表した「令和5年版高齢社会白書」によると、高齢化率(65歳以上の人口割合)は、2022年時点で29.0%ですが、2030年には30.8%まで増加し、総人口の約3人に1人を高齢者が占めることになると予測されています。
労働人口の減少により、GDP(国内総生産)の減少や、医療費の増加、社会保険の支出増加など、さまざまな問題の表面化が懸念されています。
関連する「2025年問題」と「2040年問題」
2030年問題の前段階である「2025年問題」は、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)になる2025年に、人口・産業構造に変化が生じ、労働人口が減ることで起こる諸問題を指します。主な問題として、医療費や介護費の増大や現役世代の社会保険料の負担の増大、慢性的な人材不足が挙げられます。
2030年問題の後に起きる「2040年問題」は、団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)が65歳以上の高齢者になる年に起こる問題の総称です。人口ピラミッドも65歳以上の高齢者が35.7%まで膨れ上がり、少子化が進むことで労働人口の更なる減少が見込まれます。
出典:厚生労働省|2040年. 人口ピラミッドの推移(2010年および2040年)
2040年には、 2030年問題にもみられた労働人口減少に伴う問題がさらに進行し、経済や医療などの社会システムの持続が困難になる懸念があります。
2030年問題が企業に与える影響
2030年問題は、企業にどのような影響を与えるのでしょうか。主な3つの影響について見ていきましょう。
人材不足による人材獲得競争の激化
2030年には、労働人口の減少によって企業の人材不足が加速する恐れがあり、企業間の人材獲得競争も激化すると考えられます。従来の採用手法では求める人材の採用に結びつかず、企業価値そのものを高めて魅力ある企業になることや、採用活動において更なる工夫をすることなどが求められるでしょう。また、採用担当者にかかる負担の増加や、採用コストや人件費の高騰にもつながる可能性があります。
業績悪化のリスクが高まる
十分な業務の効率化、DX化が進んでいない企業においては企業が人材不足に陥ることで、既存の業務が回らなくなる懸念があります。加えて、社員が複数の業務を兼任する必要が出てくる場合は、個々の負担も増加するでしょう。
また、豊富なスキルや経験を備えたベテラン層が高齢化し、退職するタイミングで、若手世代に引き継がれていないノウハウが消失してしまう懸念もあります。それにより顧客に提供する商品やサービスの質の低下に繋がり、業績悪化を招く恐れがあるでしょう。
グローバル基準が求められる
少子高齢化が進むことで消費者も減少し、国内市場が縮小していく恐れがあります。そのため日本企業は、海外市場への事業拡大を通じて事業成長の機会を見出す必要があるでしょう。国内市場だけでなく、海外市場でも通用するグローバル基準を確保して企業存続を目指すために、グローバル人材の採用や育成といった取り組みが今以上に求められるでしょう。
2030年問題の影響がとくに大きい業界
あらゆる業界に影響を与える2030年問題ですが、とくに問題が深刻化すると考えられているのが以下の業界です。
医療・介護業界
2030年には、医療や介護サービスを受ける高齢者が増加することが予想されます。内閣府の資料によると、要介護の認定を受ける人の割合は、75歳以上では23.1%となり、約4人に1人の高齢者が介護サービスを必要としていることがわかります。
一方、労働人口が減少することで、医師や看護師、介護スタッフなどの働き手が不足し、需給バランスが崩れる恐れがあります。供給に対して需要が増加すれば、医療や介護業界の労働環境は過酷になり、更なる働き手の減少を招くという負のスパイラルに陥る可能性があるでしょう。
出典:内閣府|第1章 高齢化の状況(第2節 2)
IT業界
IT市場の急成長により、IT人材に求められるスキルが高度化しています。とくに「2025年の崖」と呼ばれる現在の既存システムの老朽化などに伴い、従来型ITサービスのクラウド化やモビリティ化への移行などのDX化の基盤構築に対応できる人材の必要性が増しています。IoTやAI、ビッグデータを活用できるIT人材や、情報セキュリティの知見を持ったIT人材の需要が高まっているものの、これらの需要を満たせるIT人材は現在の需要に対しての供給が少ないのが現状です。
今後、労働人口の減少やIT人材の高齢化によりIT人材の不足がさらに深刻化すると考えられ、経済産業省が公表した推計によると、2030年までに約40万人から最大80万人のIT人材が不足する可能性が指摘されています。
出典:経済産業省|IT人材育成の状況等について
建設業界
国土交通省の調査によると、建設業における就業者は、2020年時点で55歳以上が約36%、29歳以下が約12%となっており、全産業における高齢化率(55歳以上が約31%、29歳以下が約17%)と比較しても高齢化が深刻です。スキルが豊富な世代のリタイアにより、次世代へ技術が承継されない恐れがあります。
出典:国土交通省|最近の建設業を巡る状況について【報告】
また、2030年には、現在の建築物などが老朽化することで、維持修繕工事の需要が高まることが見込まれています。たとえば、築50年超の分譲マンションは、2016年末で約4.1万戸でしたが、2036年末には約172.7万戸に増える見込みです。また、建築物だけでなく、水道、電気などの生活インフラ全般の老朽化も進むでしょう。
しかし、働き手の減少により、維持修繕工事の需要増に対応しきれず、建設業界における就業者の負担が増える恐れがあります。
出典:国土交通省|建設産業の現状と課題
物流業界
物流業界では、2024年の働き方改革にもとづき、運転業務の時間外労働の上限規制が適用され、輸送量の減少が推測されます。対策をおこわない場合、2030年には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足することが懸念されています。
また、2030年問題が重なることで、さらなる輸送能力の低下が予想され、多くの業界に影響を及ぼすでしょう。
出典:国土交通省|物流の2024年問題について
2030年問題に向けて企業がとるべき対応策
2030年問題に向けて、企業は今からなにをしておくべきでしょうか。4つの対応策をお伝えします。
人材育成を強化する
2030年には現在よりも人材確保が難しくなると考えられるため、少ない人材でも事業を継続できるよう社員一人ひとりの能力を高める重要性が増していくでしょう。また、将来の予測が困難なVUCA時代において、既存のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります。そのような状況のなかで企業が競争優位性を確保するためにも、人材育成を強化する必要があるでしょう。
社員自身に必要なスキルを習得してもらうリスキリングを推進したり、社員のキャリア自律を支援する体制を整えたりすることで、個々のスキルアップやイノベーションの促進に繋がります。それにより、自社の商品やサービスに新たな付加価値を生み出せるようになるでしょう。
働きやすい職場環境の構築
2030年には、企業間の人材獲得競争が激化することで、より良い職場を求めて転職する人材が増加し、人材の流動性が増す可能性があります。企業としては、働き手にとって魅力的な職場となるように、リモートワークや副業の解禁など柔軟な働き方を取り入れるほか、成果が公正に評価されるような評価制度の構築などが必要となるでしょう。働きやすい職場環境の構築により、個人がそれぞれの強みを活かしたり、成長の達成感を得たりできるようになります。
これらの要素は、社員のエンゲージメント向上に寄与し、退職による人材流失の抑制につながるだけでなく、組織全体のパフォーマンスにポジティブな影響を与えることが期待されます。
DXの推進
業務のデジタル化により効率が上がり、社員が創造的な業務に集中できる環境が整います。これにより社員一人ひとりの生産性が高まるため、人材不足への対策としても有効です。また、デジタル化だけでなく、その延長線上にあるDXを推進し、市場に新しい価値を生み出していくことも、企業価値を高めていくうえで重要な取り組みとなるでしょう。
シニア人材の採用
シニア人材の活用も、人材不足への対策として効果的です。内閣府の「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果」では、現在働いている60歳以上に「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」を質問しています。その結果「働けるうちはいつまでも」と回答した人が42.0%ともっとも高く、「70歳」の回答を除いて「75歳」「80歳」「働けるうちはいつまでも」と回答した人と合わせると、約6割程度が働くことを希望している結果となりました。
働いている高齢者は労働意欲が高い傾向にあるため、企業は定年の延長や嘱託社員制度を導入し、就業意欲の高いシニア人材に長く働いてもらえる環境を提供するといったことも考える必要があります。シニア人材に活躍してもらうことで、これまで培った専門知識や人脈を発揮してもらえるメリットもあります。
出典:内閣府|平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果
2030年問題を理解して今から対応を検討しよう
人材不足や、それに伴う業績悪化のリスク増大など、2030年問題が企業に与える影響は深刻です。企業は、人材育成の強化や、働きやすい職場環境の構築、DX化の推進、シニア人材の活用を目的とした制度改革など、今から取り組みを始めていきましょう。
2030年問題について正しく理解し、今後起こりうるさまざまな課題への対応を考えておくことで、2030年以降も事業の成長や持続可能性を確保することに繋がります。