HR Trend Lab
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ヤフー流のピープルアナリティクスで一人ひとりの才能と情熱を解き放つ

2020年04月22日更新


ヤフー株式会社 サイエンス統括本部 サイエンス支援室/ピープル・デベロップメント統括本部 ピープルアナリティクスラボ 山内 智 氏 (右)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 部長/HR Trend Lab 所長 土屋 裕介(左)

組織や従業員に関する多様なデータを活用し、HR領域の業務を向上させたり課題を解決したりする「ピープルアナリティクス」。データを使うことで、一人ひとりに目を向けたより客観的で公平な判断のもと施策を実現できることから、タレントマネジメントとの共通性や親和性という点でも近年注目を集めている。

とりわけヤフー株式会社は、専門部署「ピープルアナリティクスラボ」を立ち上げるなど、データを組織や従業員の発展に還元する取り組みを積極的に推進していることで知られている。今回は、同社のデータサイエンティストとして日々さまざまなデータ活用案件に携わる山内 智 氏に、弊社マイナビの教育研修事業部の事業開発統括部部長でHR Trend Lab所長の土屋裕介が、ピープルアナリティクスやタレントマネジメントの取り組みについてうかがった。

目次

ピープルアナリティクスとタレントマネジメントの共通点
データ収集の三大疾病
データのバイアスに対処する
データ面から採用、評価、定着を支援する
データに価値を持たせるには

ピープルアナリティクスとタレントマネジメントの共通点

土屋裕介(以下、土屋):私は企業の人材開発・組織開発を支援する「crexta(クレクタ)」という当社のタレントマネジメントシステムの開発にも参加しています。HR領域へのデータやシステムの活用について日々研究しているのですが、貴社ではピープルアナリティクスをはじめ、多様な取り組みを展開されているとうかがっています。

山内智氏(以下、山内氏):2012年に前社長の宮坂が就任したタイミングで、人事について「社員の才能と情熱を解き放つ」というテーマが生まれました。「1on1」ミーティングの実施やマネジメント層の教育など、さまざまなアクションが展開される流れのなかで、データ面から一人ひとりの活躍をサポートする「ピープルアナリティクスラボ」が設立されました。私はラボの一員として、人事業務の効率化や組織の意思決定を支援する取り組みに携わっています。

土屋:「一人ひとりの活躍をサポートする」という言葉に、タレントマネジメントと通ずるものを感じますね。

山内氏:実際、ピープルアナリティクスラボの活動のなかでも、タレントマネジメントという言葉をよく耳にするようになりました。とくに意識はしていなかったのですが、これまでピープルアナリティクスで取り組んできたことを振り返ると、タレントマネジメントと重なる部分がたくさんあったように思います。

土屋:貴社では、ピープルアナリティクスラボが組織化される前から、人事領域へのデータ活用を積極的に推進されていたそうですね。

山内氏:たとえば「人財開発カルテ」という仕組みがあります。従業員が「どういうキャリアを希望し、今後のキャリア形成になにが必要と感じているか」といったことを記録するものですが、上長やマネジャーも閲覧可能で、評価を記入することもできます。このカルテをもとに「人財開発会議[※1]」が開かれて、一人ひとりの中・長期的な育成方針が話し合われます。

土屋:個人の希望や評価をデータベース化して、本人やマネジャーが相互に記入したり、閲覧したりといった活用がなされているのですね。まさにタレントマネジメントの取り組みのひとつととらえられます。

データ収集の三大疾病

土屋:貴社がピープルアナリティクスラボを設立されたのは2017年ですが、データを実際に活用するまでの準備に時間をかけられたそうですね。2018年4月からデータの分析をいったんストップし、1年がかりでデータベースの整備に取り組んだとうかがっています。

山内氏:まずはデータの一元化を目指したのですが、業務や部署ごとにデータが散らばっていたり、データのフォーマットが統一されていなかったり、あるいは特定の期間のデータしか残っていなかったりと、一元化の前にいくつもの課題がありました。

土屋:2018年までピープルアナリティクスラボのラボ長を務めていた伊藤羊一さんが講演で、「ばらばら病」「ぐちゃぐちゃ病」「まちまち病」と表現していましたね。
「ばらばら病」は、自分の担当部署以外では、データの有無や所在がわからない状態。「ぐちゃぐちゃ病」は、入力間違いや記載方法の不一致などでデータの整理が難しくなっている状態。「まちまち病」は、データの評価方法などに連続性がなく、継続したデータとして活かしづらい状態。大きな組織になるほど、こういった問題が生じやすくなりそうです。

山内氏:そうですね、当社でも地道な作業が必要でした。たとえばデータをまとめている時点で変なところに気づいたら、そのつど運用していた人に確認をとり、定型的なデータに変換するといった対処をしてきました。

土屋:実際、タレントマネジメントシステムを運用している人事担当者の方々からも、さまざまなところにあるデータを統合するのが大変だという声をよく聞きます。そういった地道な作業が、きちんとデータを扱うための第一歩になるのでしょうね。

山内氏:私はそのようにして整えられたデータベースを使って分析をする立場ですが、必要なデータはSQL(データベース言語)を書けば、データベースからすぐ取得できる状態になっています。また、データを可視化したダッシュボード[※2]も用意されており、人事担当者だけではなく、部長以上の役職者であれば、全員が参照できます。

土屋:データが日常的なマネジメントにも活かされているのですね。今後を見据えたデータの活用法としては、どういうイメージを持っているのですか。

山内氏:たとえば全社的な配置転換があるときに、どの部署にどういった人材がいるかといったリストを優先順位つきで提示したり、あるいは日頃から異動によってパフォーマンスが高まりそうな人材に目を配って人事部門に提案したりといった活用法が考えられるでしょう。ほかにも、社用携帯の位置情報をもとに他部署とのコミュニケーションといった行動の活発度を可視化して組織の成果やコンディションとの相関を見るなど、細かく挙げるとキリがないほどのアイデアがあります。

データのバイアスに対処する

土屋:データやシステムをHR領域に活用する動きが広がる一方で、「人事は経験やカンが大事」という価値観も根強く残っており、実際にデータからだけでは解釈が難しい部分で人事の経験やカンが人事施策への貢献を果たすことも多々あると思います。こういったアナログな部分をデータで読み解くような取り組みはありますか。

山内氏:ちょうどいま取り組んでいることを紹介しましょう。まず現場をよく知っている人たちに、優秀な人材を50人、序列をつけて評価してもらいました。その主観的な評価リストを、客観的なデータを用いて分析することで、評価した人が人材のどういう部分を重視しているのかがつかめるのではないかと期待しています。

土屋:主観的な判断を、客観的なデータから解き明かす……非常に興味深い取り組みですね。データに主観が多く入り込むと、どうしてもバイアスが生じやすくなると思いますが、たとえばアンケートなどを実施する際に、客観性を保つにはどうすればよいのでしょうか。

山内氏:マーケティングのアンケート調査などと同じように、回答者が客観的な情報として答えやすい設問を考えることは基本的な対策の一つです。ただその一方で、主観的な要素は絶対に残っているという前提を持ち、どんなふうに情報を集めれば、あとで主観の部分を取り除けるのか……といった設計をしておくことも大事です。

また、一度にたくさんの質問をぶつけるのではなく、何回も分けて聞くことも有効です。こまめにたくさん聞くことで、1回あたりでは多少ノイズが乗っても、平均的なところにおさまってくるのではないでしょうか。

データ面から採用、評価、定着を支援する

土屋:採用、評価、定着といった具体的な人事の施策に対し、データ面から支援をされた実例はありますか。

山内氏:まず採用についてですが、エントリーシートの志望者に向けた設問を分析し、採用に至った人と至らなかった人の回答を比較したことがあります。具体的には、採用に至った人と至らなかった人の間で、回答の内容に差があった設問と、差がなかった設問を抽出しました。差がなかった設問については、合否の判定には大きく影響していないと考えられるため、次回から削ったり、変更したりすることが可能になりました。

土屋:志望者の負担が軽減されるだけではなく、設問の質もより洗練されることから、正確な評価にも寄与しそうですね。

山内氏:評価についても、さまざまな取り組みがあります。たとえば当社では多面評価を実施しており、6〜10人程度で一人の人材を評価するのですが、企業の規模が大きいため、部署ごとで評価のつけ方の傾向が変わることが少なくありません。平均的なスコアを3と考えるのか、4と考えるのか……といった時点でずれてしまうこともあります。そういったバイアスをデータからうまく分離することで、全部署で偏りなく比較できるような分析方法をつくっているところです。

土屋:企業の規模が大きくなるほど、データを正しく扱うために、より広い視野での対策が必要になることがわかります。定着については、なにかデータを活かした取り組みはありますか。

山内氏:最近では退職率の分析をしました。退職率については毎月統計を出しているのですが、4月や10月などの期の変わり目には、どうしても退職者が増えやすくなります。そのほかにも、突発的なイベントがあったときなどに、退職率が急激に変動することがあります。そういった短期的な変動を時系列分析のテクニックを使って取り除き、長期的に見たときに上昇傾向なのか下降傾向なのかといったことを評価できるようにしました。

土屋:退職率の可視化に加え、離職トレンドを抽出して、長期的な視点での現状認識に役立てたということですね。

データに価値を持たせるには

土屋:こういったお話をうかがっていると、HR領域におけるデータサイエンティストの必要性を実感します。

山内氏:分析はシステム任せというわけにはいきません。データを収集する際の設計にはじまり、集めたデータをどう解釈して、その結果が正しいか間違っているかを判断するといったことが必要になります。そういった役割から評価すると、分析を手がける人材は、決して小さな存在ではないと思います。

土屋:しかし、HR領域にデータサイエンティストが在籍している企業は、非常に限られているのが現実です。

山内氏:データサイエンティストという言葉には、統計やプログラミングなど特殊な技能を持った人材というイメージがあるかもしれません。しかし分析の実務は、エクセルでデータをきちんと扱える人材であれば、十分に対応できます。いわゆる「エクセルの達人」といった人材が在籍している企業はたくさんあると思いますが、分析に必要な仮説などは、データサイエンティストと同じように立てられるはずです。

土屋:分析というと、「なんだか難しいことをしている」という印象を持つ人が多いと思いますが、データを扱うこと自体は、それほどハードルが高くないということでしょうか。

山内氏:今回は発展的な話もしましたが、一番大切なのは、きちんとデータを集めて一元化し、可視化にまで持っていくことです。可視化はそれほど専門性が高い作業ではありませんが、データを使った施策のなかで、もっとも価値が出せるところだと思います。

土屋:データをわかりやすく可視化することで、より多くの人に情報が行き渡り、より多くの場面で意思決定に活用されていくのですね。

山内氏:その上で、より深い分析をする際には、いかに価値創出につなげていくかという意識を持つことが大事です。人事のデータは面白くて興味深いのですが、知識を増やすだけで満足していてはいけません。データを分析した内容を、アクションに結びつけることで、新たな価値が生まれます。

土屋:ただ、HR領域においては、そういった価値が目に見えた「成果」としてあらわれるのに、時間がかかる場合も多そうですね。

山内氏:短期的な成果と長期的な成果を分けて考えてはどうでしょうか。たとえば効果測定をするときも、短期と長期の両方に目を配るのです。人事で大きな成果を出すには、10年くらいの時間がかかることもあるでしょう。だからといって、10年後の成果だけを目指してすべてを注ぎ込むわけにはいきません。そこで、業務の効率化など短期的な部分で価値を出せる取り組みも同時におこない、細かく成果をあげながら知見をたくわえていき、大きなアクションにつなげていくのです。

土屋:組織のなかでは、目に見えた成果が求められがちですから、そういった視点も大事ですね。

山内氏:ピープルアナリティクスという取り組み自体が、まだはじまったばかりです。なにをすればよいのか、よく分からない人事担当者も多いのではないでしょうか。まずは小さな成功体験を積み重ね、新しい知見を得ることができれば、より大きな発想を描けるようになるはずです。

土屋:山内さんのお話から、データ分析の実務における数多くのヒントをいただきました。また、「データを扱うのは難しい」と感じていた人事担当者の方々にとっても、勇気づけられる言葉がたくさんあったのではないでしょうか。最初は小さなチャレンジでも、HR領域へのデータ活用が推進され、やがてピープルアナリティクスやタレントマネジメントの大きな発展につながることを期待しています。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

※1.人財開発会議
「人財開発カルテ」をもとに、従業員ごとの中・長期的な育成方針を検討する会議。直属の上長や関連部署の役職者が参加し、今後1年間でどういった経験を積むべきかが議論される。

※2.ダッシュボード
複数のデータを見やすく一覧表示する機能。データをグラフや表として表現することもできる。

<プロフィール>
山内智
ヤフー株式会社 サイエンス統括本部 サイエンス支援室/ピープル・デベロップメント統括本部 ピープルアナリティクスラボ
2012年、ヤフー株式会社に入社。ヤフオク!事業のデータ分析や経営企画等に6年間携わり、現在はデータサイエンティストとして、ヤフー社内の多様なデータ活用案件のサポート業務を担う。2019年4月より、ピープルアナリティクスラボに参加し、人事データを組織や従業員に還元する取り組みを進めている。京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。

土屋裕介
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 部長/HR Trend Lab所長
2013年に株式会社マイナビ入社。マイナビ研修サービスの商品開発の責任者として、「ムビケーション研修シリーズ」「各種アセスメント」「ビジネスゲーム」「タレントマネジメントシステム crexta(クレクタ)」など人材開発・組織開発をサポートする商材の開発に従事。10年以上にわたり一貫してHR領域に携わる。日本エンゲージメント協会副代表理事。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。ライフシフト大学フェロー。

 

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