人事業務におけるデータ活用の未来と企業側が注意すべきポイント
武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科 准教授 林 康弘氏(左)
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発部 部長 土屋 裕介(右)
近年、社内の人的資源を有効に活用するために、人材データを管理・分析し、人事施策に活かそうとする気運が企業の間で高まっている。「HRテクノロジー」を取り入れようとするトレンドも盛況だ。一方、人事施策を実施する際、人材データをどう利用すればいいか分からず、戸惑う企業も多い。
そこで今回、データを分析して、学習に専念できる環境づくりを研究テーマとされている、武蔵野大学データサイエンス学部准教授の林 康弘氏にお越しいただいた。
人事業務において人材データを活用することを考えたとき、なにに注意すべきなのか、また具体的にどう活用できるのか。林准教授とマイナビ土屋との対談を通して、その可能性を探る。
学習履歴データを活用して学生の成績を底上げ
──まずはじめに、林准教授の研究テーマについてお伺いしてもよろしいでしょうか?
林康弘准教授(以下、林准教授):私は、LMS(=Learning Management System)の学習データやIoTデバイスのセンサーデータなどをメタレベルにおいて統合・分析し、学習履歴にもとづいて学生に効果的な学習方法を提示する新しい学習支援システムと、学生がより能動的に学習するためのアクティブラーニングについて研究を行なっています。従来型の、与えられた課題に対して答えを出すというだけの授業ではなく、モノづくりの喜びを感じられる授業や学生の創造性を高められるようなアプローチを研究しているのです。
土屋裕介(以下、土屋):創造性を高めるような授業と言いますと、具体的にはどのような教育をされているんですか?
林准教授:私が教鞭を執る武蔵野大学 データサイエンス学部は、2019年度の4月に新設されたばかりの学部で、教育先行型ではなく、研究先行型の授業を行なっています。AI(= Artificial Intelligence)・ロボット時代に必要となるAIクリエーション(AIシステムをどのように開発するか)、AIアルゴリズム(ビッグデータをどのように分析するか)、ソーシャルイノベーション(AIをどのように社会に実装するか)という3つの軸から、学生が自分の興味に応じて2軸を選び学習を進めていくスタイルです。
土屋:なるほど、学生自身が興味のある分野を選択して学べるということですね。研究内容である「学習履歴にもとづいて学習方法を提示するシステム」については、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?
林准教授:一例ですが、データサイエンスの基礎となるプログラミングの授業では、事前にビデオ学習をしてきてもらうんです。授業内容にもよりますが、どうしても授業についていけない学生が一定数います。そのような学生たちを授業の中でどうケアしていき、授業全体の質向上と学生それぞれの理解度向上をどう実現するかという取り組みを行なっています。
LMSに蓄積される学生一人ひとりの学習データには、学生の向き不向きや得意分野、学習している時間帯などの情報が含まれています。そのデータを活用して一定の基準を作り、授業で目を掛けるべき学生とそうでない学生をスクリーニングするんです。そうすることで、授業の進行も滞ることなく、個々の学生の学習効果も上がって、質向上と理解度向上が実現できるようになりました。その結果、試験の成績が中間程度だった学生の約7割が、従来よりよい成績を出せるようになったんです。
土屋:データを活用して、学生一人ひとりの状況に合わせた授業を展開されている上に、試験成績が中間程度の学生の約7割を底上げするというのは、すごい成果ですね。
データ収集で注意すべきポイントと目的の明確化
土屋:HRテクノロジーを用いて個人の能力を伸ばしていくことは、これから企業が取り組んでいきたい分野です。その反面、多くの企業はまだ人材に関するデータを扱うことに慣れておらず、活用方法については未知の領域と考えている企業が多いと感じます。人材データを活用していく上で、どのような点に気をつけるべきかポイントがあれば教えていただけますか。