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戦略人事に挑戦する企業に聞く~個と定着する組織の可能性を最大限に引き出すための1on1×Coaching|株式会社エキップ~

2022年01月19日更新

人事領域で話題に上がる機会が多いにもかかわらず、曖昧に解釈してしまいがちな「タレントマネジメント」。この定義・理論・実践について取り上げているマイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部長 土屋裕介の著者でもある『タレントマネジメント入門 ~個を活かす人事戦略と仕組みづくり~』の読者企業に、戦略人事の取り組みをトレンドラボ主任研究員 田口弘毅がインタビューを行いました。

今回フォーカスするのは戦略的な人材マネジメントの手法として定着している1on1ミーティング。メンバーと上長、上長と役員などさまざまな形で1on1ミーティングを設定することには大きな意味がありますが、真に効果を発揮する1on1ミーティングは、その導入だけでなく、運用にもさまざまな工夫が必要です。

本記事では、自社の人事課題に即して1on1ミーティングを設計し、その課題解決に向けた運用を実現している株式会社エキップの総務部 課長の 濱田 愛さんにお話を伺いました。

目次 【表示】

「日本型組織」の枠にはまらない難しさ

田口:濱田さん、今日はよろしくお願いします。まずはタレントマネジメント入門のご感想から伺ってもよろしいでしょうか。

濱田:よろしくお願いします。読んでみた率直な感想としては、タレントマネジメントに関する言葉の定義が非常に丁寧で明確に整理されており、分かりやすいなと思いました。
また、これまで自分がやりたいと思っていたこと、やってきたことに名前が付いていく感覚というか「ああ、なるほど、私がやりたいのはこれなのか」という納得の連続でした。専門部署以外のメンバーにも薦めていきたいと思います。

田口:濱田さんはこれまでもさまざまな業界で人事のお仕事をされてきたということですが、御社の組織としての特徴を教えていただけますでしょうか?

濱田:弊社は花王グループの1社として、「RMK」「SUQQU」「athletia」などの百貨店専売のカウンセリング化粧品を扱っています。中途入社も多く、入社者の多くが「商品ブランド」が好きで入社しているため、「ブランド」に従業員が強くコミットしているという点も特筆すべきだと思います。

田口:なるほど。組織体系もブランドごとに分かれているのでしょうか。

濱田:そうですね。ブランドごとにマーケティング部長や営業部長がいて、営業部の中にスーパーバイザーやチーフ、各店舗の美容職という流れでマネジメントされています。スーパーバイザー以上から本社スタッフとなり、部長はボードメンバーを兼ねております。社長直轄で部長がいて、各部署を統括しているという組織体系です。

これまでは全社を横断的にみて、人事戦略を立てるような機能・役割がありませんでしたが、2020年1月から総務部内に「人事企画チーム」をつくり、本格的に戦略人事に取り組んでいくことになりました。

田口: 人事企画チームでは、具体的にどのような仕事を担当しているのでしょうか。

濱田:経営戦略を実現するための人事施策を企画推進し、人材と組織の側面から経営に貢献していくことがミッションとなります。具体的には、中期的な組織の検討や制度の設計、組織開発を担当しております。また、今後のさらなる海外展開という意味では、経営側からの要請もあり、海外人事の業務フロー構築や運用なども担っております。

これまでは労務などの人事業務と並行して行っていたのですが、変化の激しい事業環境の中で人事部門へ求められる役割が変化しており、より戦略人事の機能を強化していく必要があったため、そこに特化したチームとして独立し、現在は私を含めて3名が所属しています。

流動性の高い組織体系でも中期で組織を支える人材を育成したい

田口: いまお話いただいたような組織の特徴だと、かなり人材の流動性も高いのではないでしょうか?

濱田:はい、おっしゃるとおりです。もともと中途入社の社員が多いということもありますし、ブランドと職種にコミットして入社しているため、中長期での社内のキャリアパスが見えにくく、「次のステージに上るために転職する」という動きが多く見られます。

採用時点でも、「このブランドの、このポジションに入ってください」というような、いわゆるジョブ型のような採用をしています。

ただ、採用手法そのものについては、プロフェッショナルで構成された強い組織をつくるという意味で弊社の人材戦略に合っています。こうした人材の採用は行いつつも、組織の次の成長ステージを踏まえた人材の確保や、バックグラウンドの異なる中途社員同士が同じ組織で成果を上げていくために、制度や人事ポリシーを整えていくことが、今取り組んでいることです。

田口: 各ポジションには能力のあるメンバーがいる一方で、会社の次の担い手が育ちにくいということですね。

濱田:おっしゃるとおりです。本社スタッフはジョブ型の採用をしていますので社内のキャリアパスが見えにくいことは事実です。一方で現場の美容職でいうと、実際には美容職からチーフ、チーフからスーパーバイザーへとキャリアを積んで長く貢献いただいている方もいます。

今後は、本社スタッフの中でもコア人材になり得る社員をしっかりと社内に残す仕組みづくりをしないといけないと感じています。ブランド間や職種をまたいだ異動がかなえられれば、社内での人材流動性が高まり、個人としてのキャリアの可能性も広がるのですが、一方で弊社が大切にしてきたブランドの独自性をどう担保していくのかといった課題もあり、その両立が難しいですね。

コア人材とキーポジションの違い

田口: いま、コア人材というお話がありました。御社にとって「コア人材」というのはどのような社員でしょうか。

濱田:弊社で定義している「コア人材」は、エキップという会社の将来を担う人材です。具体的には、市場での競争優位性を確立できるような価値を発揮できるポジションにいる人材、将来的にそうなる人材を指していますので、会社の次の成長ステージを考えると本社スタッフの中でそういった人材をしっかり育成し、定着させていくことが必要だと感じております。

一方で、会社の価値を定義づけるキーポジションとなるのが美容職です。百貨店でお客さまと対面するカウンセリング化粧品だからこそ、お客さまのブランドに対する印象そのものをつくり、お客さまの声に直接触れられるポジションです。

田口: キーポジションである美容職から本社にいるコア人材になるというルートがあると思うのですが、そういった方を発見するためにタレントマネジメントはされているのでしょうか。

濱田:タレントマネジメント自体は次のステージとして考えているため、組織的に取り組んでいくのはもう少し先かもしれません。

とはいえ、美容職からスーパーバイザーや営業部内の教育チームに活躍の場を移していくケースもあります。
このあたりをもっと仕組み化して、将来的には能力とやる気のある社員が主体的にチャレンジしていける環境をつくることができればと考えています。

コア人材をどう残していくか

田口:全社的なシステムの導入はもう少し先である一方で、御社では1on1ミーティング(以下、1on1)に力を入れていると伺っています。どのような目的、方法で行っているのでしょうか。

濱田:まずは本社スタッフを対象として、「1on1×Coaching」といった形で実施しています。冒頭でお話ししたように、ジョブ型の採用で一人ひとりのミッションを達成することにフォーカスしてはいるのですが、そこに1on1を通じて上司と早期に信頼関係を築ければパフォーマンスも高まりやすいですし、社内に残ってさらに上を目指してもらうコア人材としての可能性が生まれると思っています。

また、この1on1では上司側の育成意識の醸成にも一役買っていると思っています。ジョブ型で中途採用を中心にしてきた弊社において、この採用手法で生じる課題を解決できる一手とも考えています。

田口: 1on1を導入する上で、どのような準備をされたのでしょうか。

濱田:トップを含めて全員がやらなくては意味がないということで、社長もマネジメント層一人ひとりと1on1をやってもらっています。この状態をつくるために、1on1の意義をしっかりと理解してもらうというステップはかなり丁寧に行いました。弊社の管理職層に対して「なぜ1on1をすべきか」について納得感を引き出すため、ガイダンスを実施したり、1on1をより有効なものにするために、コーチングセッションの講習も受けてもらいました。

こうして本社スタッフに対して1on1を進めていく中で、現場のスーパーバイザーが自主的にチーフたちにも1on1を実施したいから、コーチング研修のレクチャーをしてほしいといった要望や、チーフが「自腹でコーチングの講習を受けてきました」という声も聞こえてくるようになってきました。コミュニケーションに課題を感じているチーフやコーチングといったアプローチに価値があると感じたチーフが現場でも少しずつ増えてきているのではないかと感じています。

田口: 1on1はフィードバックも重要だと思いますが、その点はどうされていますか?

濱田:社内アンケートを実施し、「1on1の場があなたにとって有益でしたか?」「満足していますか?」という内容を聞いて上司側へフィードバックを行っております。そこからすくい上げた声をさらに次の1on1ミーティングの施策に生かしていくという動きもやっていますね。

田口: 昨年、美容職向けの新人事制度の構築・導入を行い、直近ではコーチングの講習も含めた1on1と、大掛かりな施策を行っていらっしゃる印象ですが、外注されている部分もあるのでしょうか?

濱田:コーチングの講習は外部の講師に来ていただきましたが、あとはできるだけ内製化しています。

1on1ですくい上げた声をいかに人材活用や事業に生かすかといった設計も内部でやっています。弊社が持っている文化の恒常性を保つという意味でも、効果を実感のある形で計測するという意味でも、必要なことだと考えています。

田口: 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

濱田:これまでエキップは自己実現のワンステップとして社員に捉えられていた部分があると思いますが、「ここでキャリアを実現していきたい」と思ってくれるような環境を社内で整えて、社員一人ひとりが自分の可能性を広げていけるような、そんな組織になることが目標です。

そのために、タレントマネジメント領域は私たちが目指す次のステージと言えるでしょう。今の取り組みに加えて、全社的なタレントマネジメントシステムの導入や、リサーチやアンケートをはじめとしたデータの利活用によって、人材の可能性を広げ、多様な仲間と協働し、主体的・自律的に働くことでやりがいを感じられるような組織へと変化していければと思います。

田口: 大変素晴らしいお取り組みで、感銘を受けました。ありがとうございました。

<プロフィール>
濱田 愛
株式会社エキップ 総務部 部長
人事企画チームにて人事制度の構築、組織開発、海外人事、人事関連システムの導入検討などを担当。経営戦略を実現するための人事施策を企画推進し、人材と組織の側面からエキップのありたい姿の実現・事業成長に貢献することをミッションとする。
※インタビュー時は人事企画チーム課長として勤務

田口 弘毅
株式会社マイナビ 教育研修事業部 事業開発統括部 HRシステムコンサル部 部長
2010年に株式会社マイナビへ入社。以後、一貫して採用・人材開発・組織開発のコンサルティング(各種制度設計・企画・運用支援)に従事する。
近年では、HR Trend Labの主席研究員や日本人材マネジメント協会の執行役員なども務め、若年層のリーダーシップ開発をテーマにした研究活動なども行う。
仕事においては理論と実践のバランスを、人生においては仕事と家庭(主に息子2人の育児)のバランスをとりわけ大切にしている。

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