エンパワーメントとは?意味や取り入れ方、導入手順から事例まで解説

エンパワーメントとは、ビジネスでは「権限委譲」「能力開花」などの意味で使われ、具体的には「上司が部下に権限を与え、自律的・能動的に仕事ができる環境を整えることで、部下の能力を開花させること」をいいます。円滑なエンパワーメントが実現されれば、意思決定の迅速化や顧客満足度の向上などのメリットがあります。この記事ではエンパワーメントの意味や実施するメリット・デメリットをはじめ、導入ポイントと実施事例を解説します。
エンパワーメントとは?
「エンパワーメント」とは、エンパワーの名詞形で、「~する権限・能力を与える」という意味です。エンパワーメントは、1950年以降、公民権運動やフェミニズム運動など社会改革運動のなかで使われるようになりました。その後、社会福祉や教育、ビジネスなどさまざまな分野にも広がり、使われています。
ビジネスにおけるエンパワーメント
ビジネスでは「権限委譲」「能力開花」などを意味します。具体的には、「上司が部下に権限を移し、部下が自律的・能動的に仕事に取り組める環境を整えることで、能力を開花させること」をいいます。
たとえば、営業職の場合「価格交渉において、あらかじめ決められた範囲内で、部下に価格提示の意思決定権をもたせる」、接客業の場合「一定の予算内であれば、部下の判断でお客様のために自由にサービス(バースデーカードの進呈など)を提供できる」などが挙げられます。
社会福祉におけるエンパワーメント
社会福祉分野では、「社会的弱者や被差別者が自信をもてるようになり、ニーズを満たすために主体的に取り組めるようになること」を意味します。援助者は自らその状況を変える力を持てるようにサポートします。
たとえば、障がい者や高齢者が、「自分のニーズを理解し、自発的に生活できるような状態を目指す」ことが挙げられます。
教育におけるエンパワーメント
教育では、「生徒が潜在的な力や価値を引き出し、自ら人生を切り開くために必要なスキルや自信を身に付けさせること」を意味します。
子ども家庭庁が2022年度に行った「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」によると、日本の若者は諸外国に比べて自己肯定感が低い傾向にあるようです。学校現場におけるエンパワーメントの実践は、ますます重要となっています。
出典:「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査 (令和5年度)|子ども家庭庁
エンパワーメントがビジネスで注目される背景
エンパワーメントが注目される背景にはさまざまな要因があります。特に「市場の急激な変化」は大きな要因と考えられます。
昨今、技術革新や価値観の多様化、情報化社会の進展などにより、ビジネスにおける意思決定スピードはこれまでにない速さで展開されています。そのため、従来のトップダウンの意思決定方法では、判断までに時間がかかってしまうため、顧客の要望に十分に対応できず、機会損失が発生しかねません。
だからこそ、現場で素早くかつ柔軟に意思決定ができる仕組み・環境を整えること、つまり従業員のエンパワーメントが必要とされています。
同時に、エンパワーメントによって、従業員の意欲やモチベーションが高まり、自己成長やキャリア開発の可能性が高まります。そのため、仕事に対するやりがいを感じやすく、仕事や企業へのエンゲージメント(愛着や貢献意欲)向上も期待できるようになります。
企業がエンパワーメントを取り入れるメリット

では、企業がエンパワーメントを取り入れるとどのようなメリットがあるのでしょうか?いくつかの例をご紹介します。
意思決定および業務スピードの迅速化
エンパワーメントの実施により、部下は上司から権限委譲された決定権のもと、自身の考え・判断で意思決定できる業務範囲が増えます。
たとえばトラブル一つとっても、部下は権限委譲された範囲において自身で判断し、その場でスピーディーに対応することが可能です。
したがって、部下および組織における意思決定・業務スピードの向上を図ることができます。その結果、業務効率化・生産性の向上にもつながります。
顧客満足度の向上
エンパワーメントをおこない、現場レベルでスピーディーかつ柔軟な対応ができれば、顧客満足度の向上にも寄与します。
顧客からマニュアルにはない要望を依頼された場合でも、都度上司に確認するよりも自身の決定権の範囲で迅速かつ的確な答えを伝えた方が、顧客の満足度は高くなることでしょう。
自律型人材の育成
上司からの事細かな指示ではなく、自身で意思決定をする機会・業務範囲が増えることで、部下には少なからず当事者意識が生まれます。
同じ業務をするにしても、「この場合はどのような対応がベストなのか」「なぜこの業務プロセスが必要なのか」などと、自身で考える機会が増えるためです。
このように意思決定を繰り返す経験を通じて、部下に自己効力感が芽生え、自発的に業務をおこなう姿勢が身につくことでしょう。
エンゲージメントの向上
エンパワーメントを行うことで、従業員自身が決定して業務遂行する機会が増え、従業員の主体性が促されます。
仕事に対する責任感やモチベーションも向上し、業務の成果アップを通して、やりがいにつながっていくでしょう。
また、その機会を与えてくれている職場、同僚、仕事に対する従業員への愛着、帰属意識など感情的な結びつきが深まります。
従業員の企業や業務へのエンゲージメントが高まるという好循環が生まれるのです。定着率が高まり、離職率も低下し、採用や人材育成のコスト削減にもなります。
エンパワーメントを実施するデメリット・注意点
続いて、エンパワーメントを実施するデメリット・注意点も解説します。
適切に権限委譲をしないと、トラブルが発生するリスクが増える
適切な人材に適切な権限を委譲できなかった場合、トラブルが発生するリスクが増えてしまいます。とくに部下自身の能力を超える業務範囲において権限を委譲すると、部下が誤った判断をしてしまう可能性が高まります。
また、部下が「自分自身で判断しなければならない」という心理的負担を感じ、失敗をしてしまうケースも想定されます。このような経験やトラブルが重なると、部下のモチベーションだけでなく、生産性の低下にもつながりかねません。
そのため、エンパワーメント実施時には、本人の能力・経験を踏まえて、適度な介入・フォローをすることが重要です。
組織としての対応に一貫性を欠く可能性がある
個々が意思決定することになるエンパワーメントでは、判断結果が人によって異なる場合があるため、組織としての対応に一貫性を欠くリスクが生じます。たとえば、同じ状況であっても部下の経験や能力・知識、考え方により、顧客への対応がばらつく可能性があります。
また、組織として一貫性を欠いた対応をしていると、企業に対する信頼が揺らぐリスクも出てくるほか、顧客満足度の低下にもつながりかねません。企業として一貫性のある対応をするために、企業理念や経営戦略の浸透、権限の明確化などを進める必要があります。
エンパワーメントの取り入れ方と導入手順

エンパワーメントを導入する際の手順は、4つのステップとなります。それぞれのステップに分けてご紹介します。
【ステップ①】エンパワーメント推進の理由や目的などを明示する
エンパワーメントの実施にあたって、まず、エンパワーメントの推進者は、エンパワーメントを推進すること、および推進する理由や目的・目標を全従業員に明示・共有します。これはエンパワーメント実施に限らず、組織的な取り組みを成功させるためには、機運の醸成および従業員の理解が不可欠となります。
従業員の理解促進のため、必要に応じて、従業員に対して導入メリットを伝えたり、不安軽減のためにサポート体制について説明する機会を設けるのも有効です。
【ステップ②】必要な情報共有をおこなう
次に上司は、組織の戦略や目標など、エンパワーメントの実施・推進に必要な情報を部下に共有します。
各種情報を共有することで、エンパワーメントの導入後、部下は企業の方針から外れない行動をとりやすくなります。加えて、積極的な情報共有により、上司が部下を信頼している姿勢を示すこともできるでしょう。
【ステップ③】徐々に権限委譲を始める
上司が部下へ一度にすべての権限を渡してしまうと、混乱が起きてしまったり、誤った方向性で業務を進めてしまう恐れがあります。
したがって、権限は少しずつ委譲するのがポイントです。また、権限委譲の際には、「意思決定できる業務範囲」「迷った際の判断基準」「報連相をおこなう基準」もあわせて伝えておくことで、部下は迷わず意思決定・判断を下せるようになります。
【ステップ④】定期的なフォロー・改善をおこなう
エンパワーメント導入後は、定期的に上司による部下へのフォローや必要に応じた改善をおこないます。たとえば、経験・知識不足からミスを頻発する部下がいることが分かれば、権限委譲する業務の範囲を狭める対応も必要かもしれません。
また、トラブル発生時や部下から相談を受けた際には、上司がコーチングを用いて一緒に答えを出す方法も有効です。このように部下の経験や個性に応じて、適切なフォロー・改善を適宜おこなうようにしましょう。
エンパワーメントを成功させるポイント
エンパワーメントを成功に導くために、重要なポイントを3点挙げます。
会社全体でエンパワーメントへの共通認識をもつ
エンパワーメントの導入にあたって、経営層と管理者の認識のずれが生じると、管理者が権限委譲をためらったり、権限移譲後に部下を放置することが起こる可能性もあります。
導入前に、経営層をはじめ全従業員がエンパワーメントに対する共通の認識を持てるよう、企業風土の確立に取り組むことが必要となってきます。
経営者が企業風土改革のために強く推奨することで、エンパワーメントを発揮しやすくなります。
自主的な行動を促す風土づくり
権限移譲しても、従業員自身が業務遂行する自信を持てなかったり、失敗を恐れたりすれば、エンパワーメントの発揮に至ることはありません。
従業員の前向きな気持ちを引き出せるように、失敗しても、叱責せず原因を探り、改善策や予防策を一緒に考えることが重要です。部下が試行錯誤から少しずつ成功体験を増やせるよう、介入しすぎず、信じて見守る必要があるのです。
上司の適切なフォローを得て成功体験を重ねることで部下は自己肯定感を高め、良い変化を自覚しやすくなります。
従業員が業務に必要な知識・スキルを習得する
権限移譲にあたり、従業員が任された業務を実践できるスキルがなければエンパワーメントが成功することはないでしょう。
たとえば、プロジェクトマネジメント業務の遂行にあたって、上司が部下にプロジェクト管理に関する必要な情報・知識・スキルを伝えることで、部下のスキル習得や能力開発を推奨します。
エンパワーメントへ取り組んでいる企業事例
最後に、エンパワーメントへ取り組んでいる企業はどのような施策にを行っているのでしょうか。取り組みの具体的なイメージの参考としてご活用ください。
A社(業種:総合リゾート運営会社)
国内有数の高級リゾートホテル・旅館グループであるA社では、かつて高い離職率、求人難、社員のモチベーションの低下など、人材に対する課題を抱えていました。旧態依然の階層組織への不満が大きな要因となっていたのです。
そこで、従業員の自発的な環境を整えるため、「やりたい人がやる」「コミュニケーションは双方向」「経営情報はオープンに」という経営方針に刷新しました。
全従業員に情報は常にオープンにされ、仕事の目標を明確にした自律した働き方が促されるようになりました。
その結果、職責やポジションに関係なく議論できるフラットな組織文化が醸成され、離職率が低下し、顧客満足度も売上も増加につながったということです。
まとめ
エンパワーメントを実施することで「意思決定スピードの迅速化」「顧客満足度の向上」などのメリットが期待できます。
一方で、部下の意思決定の範囲を広げることになるエンパワーメントでは、ミスを抑えるためにも、適切な人材に適切な権限を委譲することが重要です。
今後も、エンパワーメントの実施を検討する企業が増えてくることが予想されます。本記事で解説したメリット・デメリットおよび実施手順を踏まえた上で、エンパワーメントの実施を検討してみてはいかがでしょうか。

















