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【研究員コラム】ダイバーシティ・マネジメントの歴史的変遷と日本政府・企業の取り組み

2021年03月30日更新


昨今のVUCAと呼ばれる予測困難な時代において、少子高齢化や市場のグローバル化が与える影響は大きく、企業にはその対応が迫られています。環境の変化が激しい市場において、企業がその競争力を維持していくためには、女性や高齢者、外国人など、異なる背景や価値観を持つ多様な人材を活かすダイバーシティ・マネジメントが必要不可欠と考えられます。

本コラムでは、多様な人材が活躍できる環境を構築し企業価値創造に繋げる経営戦略である「ダイバーシティ・マネジメント」について、ダイバーシティ先進国である米国での変遷から日本での変遷、政府と企業の取り組み状況について概説します。

本コラムにおける言葉の定義
・ダイバーシティ:国籍や性別、年齢など表面的な要素に加え、価値観や考え方などの深層的な要素も含む多様性のこと。
・ダイバーシティ・マネジメント:多様な人材が活躍できる環境を構築し、イノベーションを創出しながら企業価値の創造に繋げる経営戦略のこと。日本政府の資料などに記載のある「ダイバーシティ経営」も含む。

 

目次

米国におけるダイバーシティ・マネジメントのはじまり

雇用機会均等法とアファーマティブ・アクションの取り組み

ダイバーシティ・マネジメントのはじまりは、1960年代の米国までさかのぼります。多人種・多民族社会であった米国において、組織の中核を担う白人男性と、女性や黒人男性といった性別や人種などが異なるマイノリティとでは、雇用や昇進の機会が均等に提供されていませんでした。

こうした問題に対し、雇用機会均等の実現を目指して生まれたのが1960年代の雇用機会均等法(EEO法)(※1)やアファーマティブ・アクション(AA)(※2)といった法律・行政措置です。EEO法やAAによって雇用者側に雇用機会の均等を義務づけることで、女性やマイノリティの限定的だった職業分野は、それまで大きな割合を占めていたサービス職以外にも、ホワイトカラー職をはじめさまざまな職種への就業機会が増加するなど大きく変化しました。

多様性を重視する考え方(ValuingDiversity)の浸透

EEO法やAAにより女性やマイノリティは雇用や昇進の機会を得た一方で、EEO法やAAに際して企業は自分たちの企業文化に適合する人材を期待しました。雇用や昇進の機会を得た女性やマイノリティは、自身の文化を組織に持ち込むことはなく既存の組織文化に合わせる必要がありました。

これらの問題に対して、労働者個々人が持つ文化の違いそのものを受け入れ理解し正当に評価することで、組織内の人間関係をより調和のとれた生産的なものにする多様性尊重(ValuingDiversity)の考え方が生まれます。

既存の組織文化を優先し女性やマイノリティが持つ違いを否定するという考え方ではなく、女性やマイノリティを含めた多様な労働者を企業の価値創造の資源として捉え、重視する考え方が浸透していきました。

ダイバーシティ・マネジメントへの変化

1980年代以降、グローバル化・サービス経済化・技術革新・労働力の人口構成の変化と、女性やマイノリティの労働力に占める割合がいっそう拡大していくことが予測された(1987年にWorkforce2000が発表された)ことを背景に、ダイバーシティは格差を是正する法律上の問題から、多様性が組織にとってどのような影響を与えるかといった経営上の問題に変化していきます。

そんな中で、EEO法やAAを推進するサービスをクライアント企業に提供してきた米国のコンサルタント(R.Roosevelt Thomas,Jr )が「ダイバーシティ・マネジメント」をかたちづくります。1990年代初めには、具体的な例や統計数値をもとにダイバーシティの組織への投資対効果の提示資料(Business Case For Diversity)が発表されました。よいダイバーシティ・マネジメントは企業に採算性をもたらすという考えから、企業は生産性や収益性を改善するためにダイバーシティの観点から、組織文化や管理制度の変革に投資するようになっていきます。

こうして米国においてダイバーシティ・マネジメントは、経営上の成果に結びつく実利的な事項として捉えられるようになりました。

■ダイバーシティ・マネジメントについてや、そのメリットはこちらの記事で解説しています。
「ダイバーシティ・マネジメントで企業価値を高める 企業にとってのメリットや進め方を詳しく解説」/HR Trend Lab

日本におけるダイバーシティ・マネジメントの変遷

政府による男女雇用機会均等法、ポジティブ・アクションの推進

日本におけるダイバーシティへの取り組みは、雇用における女性差別の是正から始まりました。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、従業員の募集・採用、配置・昇進に関して女性を男性と均等に扱うとする内容は、雇用において男女間で異なった扱いをしてはならないという価値観を芽生えさせました。

また、1999年には男女雇用機会均等法の改正にともない、女性労働者の機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置としてポジティブ・アクション(米国でいうアファーマティブ・アクション)が規定されました。2003年には政府が「ポジティブ・アクションのための提言」として、それに取り組むメリットや経営者、人事担当者などがそれぞれ取り組むべきことを示しています。

政府は「女性労働者の能力発揮を促進するための積極的な取組」や「仕事と育児・介護との両立支援のための取組」について、推進している企業の表彰や、経営者団体と連携し「女性の活躍推進協議会」を開催するなどポジティブ・アクションの普及に努めました。

企業におけるポジティブ・アクションへの取り組みは、1995年に外資系企業からはじまり、1999年からその他の日本企業が本格的に着手しはじめました。

2000年代の日本におけるダイバーシティ・マネジメント

日本でポジティブ・アクションの議論が活発になった2000年前後に、女性だけでなく多様な人材の活躍を対象とするダイバーシティ・マネジメントの議論も開始されました。

まずは、日経連が企業や団体の人事労務担当者らとともに「ダイバーシティ・ワークルール研究会」を発足しました。同研究会は日本企業や日本社会の特性に適応したダイバーシティの概念が必要と考え、ダイバーシティを先行して導入していた外資系(米国)企業の日本法人数社にヒアリングを実施しました。

その結果、ダイバーシティは「多様な人材を活かす戦略」であり、従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想を取り入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人の幸せにつなげようとする取り組みであるとして定義します。

ここで同研究会は、多様な属性(性別、年齢、国籍など)を持つ人材は、家庭環境や生活環境などのバックグラウンドもさまざまであるために、それまでの日本人男性を主な対象とした終身雇用・年功序列を中心とする画一的な人事制度では、能力が最大限発揮できないと報告しています。そして、それまでの企業内で大多数であった属性にとって有利な働き方や人事システムを見直し、従業員それぞれが持つ価値観やニーズに合った働き方を選択できるようにすることが必要である、という方向性を示しました。

企業においても、同じく2000年ごろからダイバーシティ・マネジメントへの取り組みがはじまりました。それは海外販売や海外生産をおこなう企業が、世界中の多様な市場ニーズに対応する商品やサービスを展開するために、多様な人材の価値観や発想を活かしてイノベーションを起こしていく取り組みが必要とされるようになったためでした。そうした企業では、経営成果の向上を目指した取り組みもおこなわれました。

しかし、このような企業は日本全体のごく一部であり、多くの日本企業は女性の管理職の割合を増やすなどのポジティブ・アクションとしての取り組みにとどまっていたため、日本においてダイバーシティ・マネジメントの推進は進んでいない状況だったといえるでしょう。

日本政府によるダイバーシティ・マネジメントへの取り組み

ここからは、ダイバーシティに対する最近の日本政府・日本企業の取り組みを紹介します。

ダイバーシティ・マネジメントの推進~ダイバーシティ2.0〜

近年、日本政府はグローバル競争の激化や、少子高齢化の中での人材確保、多様化する市場ニーズを捉えてイノベーションを生み出すため、多様な人材の活躍を目指した「ダイバーシティ経営」を必要不可欠なものと捉えその推進に取り組んでいます。

前項最後に取り上げたような課題についても、経済産業省は企業のダイバーシティに関する対応が政府社会に対する受身的なものとなっており、組織現場には形式的に下ろされていること、成果の明確な評価がなされず経営課題とは紐付かないものとして取り扱われていることなどを「ダイバーシティ1.0の限界」として、認識しています。

こうした課題への認識から2017年に経済産業省は、ダイバーシティ経営について、「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指し、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組」をダイバーシティ2.0としてあらためて定義しました。

あわせて、企業においてダイバーシティの必要性の認識は浸透してきているものの、形式的・表面的な対応が懸念されることを受けて、持続的な経営上の成果創出を目的とした「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」が策定されました。策定された行動ガイドラインでは、ダイバーシティ経営実践のために企業がとるべき7つのアクションが定められています。

図:実践のための7つのアクション(ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン,経済産業省,2018.06改訂 より)

ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン – 実践のための7つのアクション
①経営戦略への組み込み
経営トップが、ダイバーシティが経営戦略に不可欠であること(ダイバーシティ・ポリシー)を明確にし、KPI・ロードマップを策定するとともに、自らの責任で取組をリードする。

②推進体制の構築
ダイバーシティの取組を全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に責任を持つ。

③ガバナンスの改革
構成員のジェンダーや国際性の面を含む多様性の確保により、取締役会の監督機能を高め、取締役がダイバーシティ経営の取組を適切に監督する。

④全社的な環境・ルールの整備
属性に関わらず活躍できる人事制度の見直し、働き方改革を実行する。

⑤管理職の行動・意識改革
従業員の多様性を活かせるマネージャーを育成する。

⑥従業員の行動・意識改革
多様なキャリアパスを構築し、従業員一人ひとりが自律的に行動できるよう、キャリアオーナーシップを育成する。

⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話
一貫した人材戦略を策定・実行し、その内容・成果を効果的に労働市場に発信する。
投資家に対して企業価値向上に繋がるダイバーシティの方針・取組を適切な媒体を通じ積極的に発信し、対話を行う。

経済産業省は現在、このダイバーシティ2.0行動ガイドラインを指標として、多様な人材の能力を最大限発揮させ、イノベーションの創出・生産性向上などの成果をあげている企業を表彰する「100選プライム」や「新・ダイバーシティ経営企業100選」、「なでしこ銘柄」の事業にも取り組んでいます。

企業によるダイバーシティ・マネジメントへの取り組み

それでは企業の実際の取り組みには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?日本企業におけるダイバーシティ・マネジメントの主な取り組みを、経済産業省が選出する「新・ダイバーシティ経営企業100選」「100選プライム」をもとにまとめました。

経営戦略への組み込みと体制整備

ダイバーシティ・マネジメントを全社的に取り組んでいくには経営トップのコミットメント・リーダーシップが必要不可欠として、政府はダイバーシティ2.0に「中長期的・継続的な実施と、経営陣によるコミットメント」をポイントのひとつとして挙げています。

このことから、ダイバーシティ・マネジメントを推進している企業には、経営理念にダイバーシティについて明記する、経営の中長期計画にダイバーシティに関するKPIを設けるなど、トップダウンで進めている企業が多くみられます。またそのほとんどが「ダイバーシティ推進室」などの専門部署を設けて取り組み体制を整えています。

女性の活躍支援

企業内保育所の設置や育児休暇からの復職支援など、育児との両立を支援する取り組みも多くの企業でおこなわれ、近年では、男性が育休をとることを推進する取り組みもみられます。

女性社員が企業内で長く活躍できるよう、ロールモデルとなる先輩社員との座談会やメンター制度など、キャリア支援に力を入れている企業もあります。また多くの企業では、女性社員への支援から拡大して全社員が働きやすい職場を目指した制度や文化の整備がおこなわれています。

働き方改革、ワークライフバランスへの取り組み

社員それぞれのライフスタイルに合わせた働き方ができるよう、時短勤務やフレックス制度などのさまざまな就業時間の設定や、サテライトオフィスや在宅勤務の活用など、働き方の変革を図る取り組みも行われています。社員それぞれが働きやすい環境をつくることで、多様な人材の活躍が見込めるでしょう。

マネジメント層の意識改革

女性の活躍支援や働き方改革、ワークライフバランスへの取り組みなどダイバーシティ・マネジメントの推進には、その受け皿となるマネジメント層の意識改革が必要不可欠です。マネジメント層の行動や意識改革をおこなうことを目標に、マネジメント層向けのダイバーシティに関する研修やマネジメント研修に取り組む企業も多く見られます。

また成果のみでの評価ではなく、生産性向上やタイムマネジメントに関する目標を設定し評価するなど、時短勤務など多様な働き方をする社員を公正に評価できるよう、制度を見直す企業もあります。

ダイバーシティ・マネジメントの推進にあたっては、企業が自社で定めたロードマップに沿ったKPIなど数値的目標の達成を目指している企業も多くあります。それはあくまで経営成果創出のために、社員の働きやすさや組織の活性化を実現することを目的としています。

ダイバーシティ・マネジメントの成功には、経営課題を認識し、自社の課題に合わせた制度の見直しや従業員の意識醸成など、複合的に取り組んでいくことが重要と考えられます。

まとめ

本コラムでは米国で誕生したダイバーシティ・マネジメントと、日本におけるダイバーシティ・マネジメントの変遷をみてきました。

近年の日本においては、政府や企業による取組が少しずつ進んでいく一方で、2019年12月世界経済フォーラム発表の各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数(※3)153か国中121位や、政府が2003年に掲げた「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%」という目標の達成が先送りされるなど、女性活躍の観点からもダイバーシティ・マネジメントが進んでいるとは言いきれない現状があることが伺えます。

ただこういった現状において経済産業省は、2018年6月にはダイバーシティ2.0行動ガイドラインの改訂から企業に対してより詳細な行動具体例を提示、2019年4月には「ダイバーシティ経営」の重要性・必要性を認識していても具体的な実践方法がわからない企業組織に向けて、その実践に必要な取組を見える化し、促進することを目的とした「ダイバーシティ経営診断ツール」も公表するなど、いっそうの推進を図っています。

多様な人材が活躍するダイバーシティの実現に向けて、企業ごとに抱える課題やその解決のためのアプローチや手法は異なります。本コラムでご紹介した取り組み事例や政府の公表しているツールなどが、皆さまがダイバーシティ・マネジメントについて向き合い、考えるきっかけとなれば幸いです。

※1 雇用機会均等法(EEO法):米国では1964年に、人種・肌の色・宗教・性別・出身国にもとづく雇用差別の禁止を規定する公民権法第7編が成立し、その監督機関として機会均等雇用委員会(Equal Employment Opportunity Commission: EEOC)が設置された。1972年にはその改正(雇用機会均等法: The Equal Employment Opportunity Act: EEO法)により、公民権法はその適用対象を連邦全体に拡大し、EEOCは申立に関する調査や和解にとどまらず法的措置により規定を守らせる力を持つこととなった。

※2 アファーマティブ・アクション(AA):1965年に公民権法の実行手段として成立した。過去に形成されてきた社会的・構造的な差別によって、他の集団より不利益を受けている集団に対して、格差を是正するためにとられる積極的是正措置のこと。具体的には、連邦政府と一定額の契約関係を結ぶ事業主に対し、教育や雇用などの分野において特定の数値目標を定め、マイノリティに実質的な機会均等を付与し、結果の平等を実現するよう努めるもの。

※3 ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI):経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を意味する。2020年の日本の総合スコアは0.652、順位は153か国中121位(前回は149か国中110位)だった。

<出典>
経済産業省,「新・ダイバーシティ経営企業100選」100選プライム/新・100選 ベストプラクティス集,(参照 2021-03-22)
経済産業省,2018-06,ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン,(参照 2021-03-22)
経済産業省,2019-03,ダイバーシティ経営診断ツールについて (コンセプトペーパー),(参照 2021-03-22)
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室,2020-09,ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ,(参照 2021-03-22)
労経ファイル,2001,日経連「ダイバーシティ・ワークルール研究会報告」
労働時報,2002,ダイバーシティ・マネジメントの方向性「多様な人材を活かす戦略」の概念や方向性を盛り込む

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