ダイバーシティ&インクルージョンを経営の中心に イノベーションの生まれる企業風土の育て方
日本電気株式会社 コーポレート・エグゼクティブ I&D統括 佐藤千佳氏
近年、HR領域で注目を集めているキーワードの一つが「ダイバーシティ&インクルージョン」。
本来的な意味は、ジェンダーや性的マイノリティはもちろん、人種、国籍、信条、価値観などを含めた多様な人材が協調し、それぞれが持つビジネスパーソンとしての能力を活かせる場作りを指しています。
今や、グローバル市場でビジネスを推進する上では欠かせない視点であり、世界的にもイノベーションを創出し、企業価値の創造につなげるための重要テーマとして活発な議論、取り組みが行われています。
一方、日本においては、男性優位の企業体質や制度が根強く存在しているという背景があり、女性の活躍推進がダイバーシティの重点課題として掲げられてきました。国の法整備だけでなく、民間でも各社が社内規定を見直すなど、取り組みが進んでいます。
しかし、そういった取り組みを単に「法規制への対応のため」と考えてしまうと、人的リソースや社内の意見調整に必要な時間と施策を実行した際の効果をてんびんにかけ、具体的な取り組みに消極的になりやすいことも事実です。
そこで今回は、日本電気株式会社(以下、NEC)でダイバーシティ&インクルージョンの推進を担当するコーポレート・エグゼクティブの佐藤千佳さんに、具体的な取り組みについてお話を伺いました。
NECがダイバーシティ&インクルージョンに「本気で」取り組む理由、その先に見ている会社の姿とは、どのようなものでしょうか。
実行力の改革から、多様な人材の活躍へ
― 佐藤さん、今日はよろしくお願いいたします。まずは、佐藤さんがNECにご入社されるまでのご経験をお聞かせいただいてよろしいでしょうか?
佐藤:はい、よろしくお願いいたします。私がNECに入社したのは2018年の4月です。
これまで私は外資系のコングロマリットやIT企業でダイバーシティ&インクルージョンの推進を含めて、幅広く人事にまつわる仕事を長くしてきたのですが、実はキャリアのスタートは日本企業でした。
そして4年前、NECが2020中期経営計画の中で発表し、市場環境の変化に対応できる社内のカルチャー変革推進のために設置した「カルチャー変革本部」の本部長としてお声掛けいただき、久しぶりに日本企業に入社しました。
―カルチャー変革本部はどのような意図で立ち上がったのでしょうか。
佐藤:NECは2017年に業績の悪化から中期経営計画を見直しています。その見直しに当たってフォーカスしたのが「実行力の改革」でした。変化の激しい時代において、柔軟な戦略変更にも対応できるよう社員の実行力を高めていく必要があったのです。
カルチャー変革本部は、この「実行力の改革」のドライバーとして立ち上がった部門です。人事評価・育成制度の改革、働き方改革、そして、それらの変革をドライブするための社内コミュニケーションの強化といった3つのテーマにフォーカスして動き出しました。
―具体的には、どのような動きをされていったのでしょうか。
佐藤:まずは企業として今後どのような行動を重視していくか、どんなルールに従って採用・人事評価・育成を行うかという基準を定めることから始まりました。
具体的には、2018年に行動基準「Code of Values」を定めました。これは、社員一人ひとりが今後グローバルで戦い、勝ち続け、輝くビジネスパーソンになることを目指したものです。人事評価の基準としても位置付けられました。
そして2019年に策定されたのが、HR方針「挑戦する人の、NEC。」です。この方針を旗頭とし、人材一人ひとりへの多様な挑戦・成長機会の提供やフェアな評価、挑戦する社員がベストを尽くせるよう環境や風土の変革をさらに進めることになりました。
「インクルージョン&ダイバーシティ(以下I&D)」という言葉が経営方針として位置付けられたのもこのタイミングです。一般的にはダイバーシティ&インクルージョンと呼ばれることが多いのですが、NECでは単に多様性を確保しただけではなく、インクルージョン(包括性)が発揮されてこそダイバーシティの価値がもたらされるという考え方をしています。I&Dを推進するInclusion & Diversityチームも、この時に立ち上がりました。
経営の中心でダイバーシティが議論されるように
―実行力の改革とともに、多様な人材の活躍も求められていったのですね。I&Dについてもう少し伺いたいのですが、 久しぶりに日本企業に参画された佐藤さんから見て、当時のNECのダイバーシティの取り組みはどのように映りましたか?