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65歳定年制は義務なのか? 2025年の法改正と企業に求められる対応を解説

2024年11月13日更新

会議の中で談笑する様子
65歳定年制とは、社員が65歳まで働けるように、企業が定年を60歳から65歳に引き上げる制度です。この制度は、日本の高齢化社会や労働力不足への対応として、2013年に改正された「高年齢者雇用安定法」にもとづいて導入されました。企業は65歳までの雇用機会の提供を義務付けられ、社員が長く働ける環境を構築することが求められます。

本記事では、65歳定年制とはなにか、2025年の法改正による変化、求められる背景、メリット、課題、企業に必要な対応について解説していきます。

目次 【表示】

65歳定年制とは

テーブルに資料を広げて会議をする様子65歳定年制とは、企業が社員の定年を65歳に引き上げる制度のことです。
この制度は、2013年に改正された「高年齢者雇用安定法」にもとづいており、同法では、企業が定年を65歳未満に設定している場合に、以下の①~③いずれかの措置を講じることが義務付けられています。

  • ①65歳までの定年の引き上げ(65歳定年制)
  • ②65歳までの継続雇用制度の導入
  • ③定年の廃止

「65歳までの定年の引き上げ」は、現在の定年を60歳から65歳に変更し、すべての社員が65歳まで働けるようにする措置です。一方で「65歳までの継続雇用制度の導入」は、60歳で定年を迎えた後、本人が希望すれば引き続き65歳まで雇用される仕組みです。

継続雇用制度には、再雇用制度と勤務延長制度の2種類があります。再雇用制度は、60歳で一度退職し、新たに雇用契約を結びなおす方法です。勤務延長制度は、定年後も退職せずにそのまま働き続ける形となります。

このように、65歳定年制はあらかじめ定年を引き上げる形をとり、継続雇用制度は定年後に希望する社員が引き続き働けるという違いがあります。ただし、以下のように2025年の3月31日までは希望者全員が対象でないケースもあります。

2025年の法改正による企業の対応の変化

高年齢者雇用安定法は2025年3月31日までは、希望する高齢者社員全員ではなく、対象者を限定したままでの運用が認められる経過措置が設けられています。具体的には、2013年の法改正時に、継続雇用制度の対象者を労使協定で限定していた企業に対しては、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢を段階的に引き上げることで、経過措置が適用されていました。

しかし、この経過措置は2025年3月31日で終了し、2025年4月1日以降、企業は希望するすべての社員に対して65歳までの雇用機会を提供することが義務化されます。この改正により、企業は定年後の再雇用制度や勤務延長制度を含む、継続雇用制度を希望者全員に適用する必要があります。ただし、これはあくまで雇用機会を提供する義務であり、65歳定年制そのものが義務化されたわけではありません

加えて、雇用保険法にもとづく「高年齢雇用継続給付」の給付率の縮小も対応が変わる箇所となります。2025年4月1日以降、60歳になる社員でそれまでより一定の比率で賃金が低下した場合に支給される給付率が、現在の最大15%から10%に引き下げられます。

65歳定年制が求められる背景

夕方のビル街の様子65歳定年制が求められる背景には、少子高齢化や労働力不足、そして年金制度の課題、高齢者の就労意欲と労働人口の変化が挙げられます。

少子高齢化による労働力不足

少子高齢化により労働人口が減少していることは65歳定年制が求められる大きな要因です。日本の高齢化は急速に進んでおり、内閣府の調査「令和6年版高齢社会白書」によると2030年には65歳以上の人口割合が30.8%に達する見込みとなり、実に総人口の約1/3を高齢者が占めることが予測されています。

これにより、若年層だけでは十分な労働力を確保することが難しくなり、定年を迎えた高齢者にも引き続き労働市場で活躍してもらう必要性が増しています。

出典:令和6年版高齢社会白書│内閣府

収入源確保の課題

収入源の確保も重要な背景の一つです。年金の支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられるなか、従来の60歳定年では年金支給までの生活を支える手段が不足してしまいます。65歳までの雇用を確保することで、高齢者の生活を年金に頼るのではなく、労働によって安定させることを目指しています。

労働人口の変化と高齢者の就労意欲

内閣府の調査「令和6年版高齢社会白書」によると、令和5年の労働人口総数のうち65歳以上の割合は13.4%であり、令和3年、4年と比べると大きな変化はないものの長期的には上昇傾向にあります。

また、同調査では現在収入のある仕事をしている60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答していることから、高齢者の就労意欲の高さも伺え、これに応える形で企業側も65歳定年制を導入する動きが進んでいます。

65歳定年制のメリット

人がOKサインをしている様子65歳定年制には、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下で紹介します。

労働力の確保と採用コストの削減

65歳定年制の導入によって、少子高齢化に伴う労働力不足を補うことができます。高齢者社員の雇用を継続することで、企業は新たな人材の採用や教育にかかるコストを削減でき、安定的な労働力を確保することにつながります。

経験豊かな人材の活用

65歳定年制は、長年の経験や専門知識を持つ高齢者社員が引き続き活躍できる環境を提供できます。また、高齢者社員から若手社員へ技術を継承できれば、現場での即戦力としての活用も期待できるでしょう。

業務の安定性と組織の連続性

定年を迎えた社員を引き続き雇用することで、組織や業務に大きな変化が生じることなく、現場での混乱や効率低下を避けることができます。既存の組織体制を維持したまま運営を続けられるため、業務の安定性にもつながります。

65歳定年制の課題

男性が画面を見ながら考えごとをしている様子
65歳定年制にはメリットがある一方で、課題もあります。以下で紹介します。

人件費の増加

65歳定年制の導入により、企業は高齢者社員の雇用をさらに延長することになります。多くの高齢者社員が雇用延長を希望した場合は、人件費が増加することで企業の財務負担が大きくなるリスクがあるでしょう。企業としては、人件費に見合う価値を発揮できる人材へと高齢者社員を育成することが重要となります。

組織の高齢化

定年の延長により、社内の高齢化が進行することで、世代交代が遅れるだけでなく、組織全体の柔軟性が低下し、変化に対応しにくくなるリスクが高まります。とくに、少子化の影響で新卒採用が難しくなると、組織の高齢化がいっそう進む恐れがあるでしょう。

組織の高齢化が進む可能性があるからこそ、そうした状況でも成果を出せる組織を作る必要があります。

モチベーションの低下

65歳定年制においては、社員のモチベーション低下も課題として挙げられます。高齢者社員の場合、雇用延長後に役職が外れる、賃金が低下するなどの変化により、これまでの待遇とのギャップが大きくなることで、意欲を持って働き続けることが難しくなる可能性があります。

また、高齢者社員だけでなく、新入社員や若手社員のモチベーションについても考える必要があります。考え方や価値観の違いが原因で高齢者社員との摩擦が生じることや、高齢者社員の経験や業務の進め方が押し付けられると、若手社員が自分の意見を出しにくくなり、自発的な行動が阻まれることでモチベーションの低下につながることもあります。

これを防ぐためには、世代を超えた交流やコミュニケーションの場を定期的に設け、双方が互いの価値観を理解し合える機会を作ることが大切です。高齢者社員の知識や経験を活かしつつ、若手社員の視点やアイデアを尊重するなど、両者のモチベーションを維持し、職場全体の生産性向上につながる環境を構築することが求められます。

65歳定年制で企業が対応しなければいけないこと

フォルダーおよびデータ管理のテーマ65歳定年制に対して、企業がとらなくてはならない対応を解説します。

雇用契約・就業規則の改訂対応

65歳定年制に対応するためには、雇用契約や就業規則の見直しが必要です。継続雇用を希望する高齢者社員が増えるなかで、現行の制度では対応しきれない部分が出てくる可能性があります。とくに、再雇用制度や勤務延長制度の内容を「希望者全員」に適用するための規定変更が求められます。

これに伴い、労働条件や退職に関する規定の見直しも必要となり、これらの改定事項を労働基準監督署へ届け出ることが必要です。

賃金制度の見直し

高齢者社員の雇用を延長する場合、高齢者社員向けの賃金制度を新たに作ることを検討する必要があります。ただし、その際に従来よりも賃金が低下するといった要因により高齢者社員のモチベーション低下が懸念されます。

能力や職務などの要素を考慮して、適切な賃金を決定し、社員が納得できる制度へ変更をすることが求められます。また、同一労働同一賃にも配慮し、高齢者社員の雇用形態に関わらず、不公平感のない待遇を確保することが必要です。

高齢者社員を考慮した社内の環境整備

高齢者社員がモチベーションを持ち続け、企業に貢献できる制度や環境を整えることも重要です。たとえば、人事制度や評価制度の見直し、退職金制度の改定などを通じて、高齢者社員の就労意欲を保つ環境などが求められます。

さらに、業務の効率化や技術の進歩に対応するため、高齢者社員に対しても継続的な教育や研修の機会を提供することが不可欠です。とくに、若手社員との待遇に差が出ないよう、公正公平なスキルアップの機会を整備することが大切です。

65歳定年制を考え、高齢者も働きやすい環境を

高年齢社員が会話する様子65歳定年制は、少子高齢化が進む日本社会において、高齢者の労働力を活用し、年金制度の課題に対応するために必要な制度です。高齢者が長く働き続けることで、企業は労働力を確保し、経験豊かな人材を活用することが可能です。

しかし、人件費の増加や組織の高齢化、モチベーションの低下といった課題にも対処する必要があります。企業は、就業規則や賃金制度の見直しをおこない、高齢者も働きやすい環境を整えることが求められるでしょう。

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