2030年問題とは?企業に与える影響や対応策を解説

2030年は、日本における高齢化率(65歳以上の人口割合)が30.8%まで増加し、総人口の約3人に1人が高齢者となる年です。人口構造の変化により、労働力の不足や業績悪化リスクの増大など、日本の社会全体でさまざまな問題の表面化が懸念されています。
今回は、2030年問題とはなにか、企業に与える影響や、とくに影響が大きい業界、2030年に向けて企業がとるべき対応策についてお伝えします。
2030年問題とは
2030年問題とは、日本の高齢化に伴い人口構造が変化し、労働人口が減少することで、日本社会全体でさまざまな課題が顕在化する問題の総称です。
内閣府が公表した「令和7年版高齢社会白書」によると、高齢化率(65歳以上の人口割合)は、2024年時点で29.3%ですが、2030年には30.8%まで増加し、総人口の約3人に1人を高齢者が占めることになると予測されています。
全体人口に占める生産年齢人口の割合が相対的に減少することで、労働人口が減り、GDP(国内総生産)の減少や、医療費の増加、社会保険の支出増加など、さまざまな問題の表面化が懸念されています。
2025年問題
2030年問題の前段階である「2025年問題」とは、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が2,154万人も後期高齢者(75歳以上)になる2025年に、人口・産業構造に変化が生じ、労働人口が減ることで起こる諸問題を指します。主な問題として、医療費や介護費の増大や現役世代の社会保険料の負担の増大、慢性的な人材不足が挙げられます。
2040年問題
2030年問題の後に起きる「2040年問題」とは、団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)が65歳以上の高齢者になる年に起こる問題の総称です。人口ピラミッドでも65歳以上の高齢者人口は3,929万人と全人口の35%になると推計されており、これまで以上に少子化が進んだ場合、労働人口の更なる減少が見込まれます。
2040年には、2030年問題にもみられた労働人口減少に伴う問題がさらに進行し、経済や医療などの社会システムの持続が困難になる懸念があります。
2050年問題
2030年問題が「目の前の危機」であるとすれば、2050年問題は「避けられない長期的な構造変化」がもたらす影響と言えます。2050年には日本の人口は1億人を切り、減少の一途をたどると予想されており、人口が減少するだけでなく、全人口の4割を65歳以上の高齢者が占める超高齢社会となるのです。
2050年問題は、もはや「対策すれば解決する」というレベルを超え、「いかに変化に適応し、被害を最小限に抑えるか」という段階に移行すると考えられています。日本が直面する最も根本的で避けられない構造変化であり、社会全体での意識変革と、大胆なパラダイムシフトが求められています。
2030年問題が企業に与える影響

2030年問題は、企業にどのような影響を与えるのでしょうか。主な3つの影響は下記のとおりです。
■人材不足による人材獲得競争の激化
■業績悪化のリスクが高まる
■グローバル基準が求められる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
人材不足による人材獲得競争の激化
2030年には、労働人口の減少によって企業の人材不足が加速する恐れがあり、企業間の人材獲得競争も激化すると考えられます。従来の採用手法では求める人材の採用に結びつかず、企業価値そのものを高めて魅力ある企業になることや、採用活動において更なる工夫をすることなどが求められるでしょう。また、採用担当者にかかる負担の増加や、採用コストや人件費の高騰にもつながる可能性があります。
業績悪化のリスクが高まる
十分な業務の効率化、DX化が進んでいない企業においては企業が人材不足に陥ることで、既存の業務が回らなくなる懸念があります。加えて、社員が複数の業務を兼任する必要が出てくる場合は、個々の負担も増加するでしょう。
また、豊富なスキルや経験を備えたベテラン層が高齢化し、退職するタイミングで、若手世代に引き継がれていないノウハウが消失してしまう懸念もあります。それにより顧客に提供する商品やサービスの質の低下に繋がり、業績悪化を招く恐れがあるでしょう。
グローバル基準が求められる
少子高齢化が進むことで消費者も減少し、国内市場が縮小していく恐れがあります。そのため日本企業は、海外市場への事業拡大を通じて事業成長の機会を見出す必要があるでしょう。国内市場だけでなく、海外市場でも通用するグローバル基準を確保して企業存続を目指すために、グローバル人材の採用や育成といった取り組みが今以上に求められるでしょう。
2030年問題の影響がとくに大きい業界
あらゆる業界に影響を与える2030年問題ですが、とくに問題が深刻化すると考えられているのが以下の業界です。
■医療・介護業界
■IT業界
■建築業界
■物流業界
■公務員の行政サービス
ここからは、各業界が具体的にどのような影響があるのか解説します。
医療・介護業界
2030年には、医療や介護サービスを受ける高齢者が増加することが予想されます。内閣府の資料によると、要介護の認定を受ける人の割合は、75歳以上では23.1%となり、約4人に1人の高齢者が介護サービスを必要としていることがわかります。
一方、労働人口が減少することで、医師や看護師、介護スタッフなどの働き手が不足し、需給バランスが崩れる恐れがあります。供給に対して需要が増加すれば、医療や介護業界の労働環境は過酷になり、更なる働き手の減少を招くという負のスパイラルに陥る可能性があるでしょう。
出典:内閣府|第1章 高齢化の状況(第2節 2)
IT業界
IT市場の急成長により、IT人材に求められるスキルが高度化しています。とくに「2025年の崖」と呼ばれる現在の既存システムの老朽化などに伴い、従来型ITサービスのクラウド化やモビリティ化への移行などのDX化の基盤構築に対応できる人材の必要性が増しています。
IoTやAI、ビッグデータを活用できるIT人材や、情報セキュリティの知見を持ったIT人材の需要が高まっているものの、これらの需要を満たせるIT人材は現在の需要に対しての供給が少ないのが現状です。
海外では、Google、Meta、Microsoft、Amazonといった大手テック企業が、2022年後半から2024年にかけて数万人規模のレイオフを発表しました。これらの多くはコロナパンデミックで生じたデジタル需要の急増によるIT人材の過剰雇用の調整が主因とされますが、同時にAIによる効率化を見越した人員構成の見直しも含まれていると考えられています。
また、生成AI技術などの飛躍的な進化は、人間が行っていたさまざまな業務を自動化・効率化する可能性を現実のものにしました。日本においても、これまで人間が行っていた定型的な業務がAIに代替されることで、その業務に携わっていた人員が削減されるケースが発生してくるでしょう。
ただ日本では、労働人口の減少やIT人材の高齢化によりIT人材の不足がさらに深刻化すると考えられ、経済産業省が公表した推計によると、2030年までに約40万人から最大80万人のIT人材が不足する可能性が指摘されています。
建設業界
国土交通省の調査によると、建設業における就業者は、2020年時点で55歳以上が約36%、29歳以下が約12%となっており、全産業における高齢化率(55歳以上が約31%、29歳以下が約17%)と比較しても高齢化が深刻です。スキルが豊富な世代のリタイアにより、次世代へ技術が承継されない恐れがあります。
出典:国土交通省|最近の建設業を巡る状況について【報告】
また、2030年には、現在の建築物などが老朽化することで、維持修繕工事の需要が高まることが見込まれています。たとえば、築50年超の分譲マンションは、2016年末で約4.1万戸でしたが、2036年末には約172.7万戸に増える見込みです。また、建築物だけでなく、水道、電気などの生活インフラ全般の老朽化も進むでしょう。
しかし、働き手の減少により、維持修繕工事の需要増に対応しきれず、建設業界における就業者の負担が増える恐れがあります。
出典:国土交通省|建設産業の現状と課題
物流業界
物流業界では、2024年の働き方改革にもとづき、運転業務の時間外労働の上限規制が適用され、輸送量の減少が推測されます。対策をおこわない場合、2030年には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足することが懸念されています。
また、2030年問題が重なることで、さらなる輸送能力の低下が予想され、多くの業界に影響を及ぼすでしょう。
出典:国土交通省|物流の2024年問題について
公務員の行政サービス
2030年問題では、人口構造の変化により、行政サービスの需要が増える一方で、サービスを提供する側の担い手(公務員や財源)が減少するという構造的な課題に直面します。
たとえば、2030年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となるため、医療、介護、福祉サービスの需要が飛躍的に増大します。これに伴い、行政はその提供体制(窓口、相談業務、施設整備、在宅支援など)をさらに強化する必要が出てきます。また、生産年齢人口の減少は、公務員の採用にも直結し、行政サービスを提供する現場の人手が慢性的に不足するでしょう。
持続可能な行政サービスにするためには、行政サービスのデジタル化(DX)や高齢者、女性、外国人材など、多様な属性の職員の積極採用と、育児・介護と両立できる柔軟な働き方の徹底、行政組織のスリム化と広域連携で、サービスの効率的な提供とコスト削減が求められます。
2030年問題に向けて企業がとるべき対応策とは
2030年問題には企業経営に多岐にわたる深刻な影響を及ぼすことが予測されており、今から対策を講じることが急務となっています。2030年問題に向けて企業がとるべき対策は、主に以下の4つです。
■人材育成を強化する
■働きやすい職場環境の構築
■DXとAI活用の推進
■シニア人材の採用
2030年問題は、企業にとって非常に大きなチャレンジですが、同時に持続可能な成長を実現するための変革の好機でもあります。これらの対策を早期に実行し、柔軟に対応できる組織へと進化していくことが、今後の企業の明暗を分けるでしょう。ここからは、それぞれ詳しく解説します。
人材育成を強化する
2030年には現在よりも人材確保が難しくなると考えられるため、少ない人材でも事業を継続できるよう社員一人ひとりの能力を高める重要性が増していくでしょう。また、将来の予測が困難なVUCA時代において、既存のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります。そのような状況のなかで企業が競争優位性を確保するためにも、人材育成を強化する必要があるでしょう。
社員自身に必要なスキルを習得してもらうリスキリングを推進したり、社員のキャリア自律を支援する体制を整えたりすることで、個々のスキルアップやイノベーションの促進に繋がります。それにより、自社の商品やサービスに新たな付加価値を生み出せるようになるでしょう。
働きやすい職場環境の構築
2030年には、企業間の人材獲得競争が激化することで、より良い職場を求めて転職する人材が増加し、人材の流動性が増す可能性があります。企業としては、働き手にとって魅力的な職場となるように、リモートワークや副業の解禁など柔軟な働き方を取り入れるほか、成果が公正に評価されるような評価制度の構築などが必要となるでしょう。働きやすい職場環境の構築により、個人がそれぞれの強みを活かしたり、成長の達成感を得たりできるようになります。
これらの要素は、社員のエンゲージメント向上に寄与し、退職による人材流失の抑制につながるだけでなく、組織全体のパフォーマンスにポジティブな影響を与えることが期待されます。
DXとAI活用の推進
業務のデジタル化により効率が上がり、社員が創造的な業務に集中できる環境が整います。これにより社員一人ひとりの生産性が高まるため、人材不足への対策としても有効です。また、デジタル化だけでなく、その延長線上にあるDXを推進し、市場に新しい価値を生み出していくことも、企業価値を高めていくうえで重要な取り組みとなるでしょう。
また、2030年問題が企業にもたらす深刻な労働力不足、生産性低下、市場縮小といった課題に対し、AI(人工知能)の活用は極めて重要となります。たとえば、経理のデータ入力や顧客情報の管理、受発注処理など、ルールにもとづいた反復的なデスクワークをRPAで自動化することで、労働力不足を補い、ヒューマンエラーの削減し、従業員はより付加価値の高い業務に集中することで生産性の向上にもつながるでしょう。
シニア人材の採用
シニア人材の活用も、人材不足への対策として効果的です。
内閣府の「令和6年度 高齢社会対策総合調査」では、60歳以上の男女2,188人に「何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいか」を質問しています。
その結果「65歳ぐらいまで」と回答した人が最も多く23.7%ですが、「働けるうちはいつまでも」と回答した人もその次に多く22.4%という結果でした。
その後「70歳ぐらいまで」が20.0%、「75歳ぐらいまで」が13.7%、「80歳ぐらいまで」が5.3%と回答しており、「働けるうちはいつまでも」と回答した人と合わせると、約6割が65歳を過ぎても働くことを希望している結果となりました。
シニア層は労働意欲が高い傾向にあるため、企業は定年の延長や嘱託社員制度を導入し、就業意欲の高いシニア人材に長く働いてもらえる環境を提供するといったことも考える必要があります。シニア人材に活躍してもらうことで、これまで培った専門知識や人脈を発揮してもらえるメリットもあります。
2030年問題を理解して今から対応を検討しよう
人材不足や、それに伴う業績悪化のリスク増大など、2030年問題が企業に与える影響は深刻です。企業は、人材育成の強化や、働きやすい職場環境の構築、DX化の推進、シニア人材の活用を目的とした制度改革など、今から取り組みを始めていきましょう。
2030年問題について正しく理解し、今後起こりうるさまざまな課題への対応を考えておくことで、2030年以降も事業の成長や持続可能性を確保することに繋がります。


















