社会人基礎力診断を若手社員育成に活かすには?~自己評価と評価者評価の差を分析~

マイナビ研修サービスが提供している社会人基礎力診断。社会人基礎力診断では、本人による自己評価と、先輩社員や上司などによる客観的な評価者評価によって社会人基礎力の発揮度合いを確認することができます。
今回、社会人基礎力診断の受検者データを分析したところ、一部の能力については自己評価と評価者評価の結果にギャップがあることがわかりました。
本記事では、2023年5月から2026年1月にかけてマイナビ研修サービスの社会人基礎力診断を受講した若手社員7,930人のデータをもとに、自己評価の全体像と評価者評価とのギャップをみていきます。
社会人基礎力とは

社会人基礎力とは、経済産業省が提唱する「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことです。
「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱しました。
前に踏み出す力:主体性、働きかけ力、実行力
考え抜く力:課題発見力、計画力、創造力
チームで働く力:発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力
>>引用:社会人基礎力(METI/経済産業省)
マイナビ研修サービスの社会人基礎力診断では、本人の自己評価に加えて上司や先輩社員による評価者評価もおこない、双方の視点から各能力の発揮度合いを5段階で測定します。
自己評価だけではみえにくい能力の発揮度合いを、周囲の評価と照らし合わせることで客観的な視点を取り入れられる点が特徴です。
診断データでわかった若手社員の社会人基礎力の傾向
社会人基礎力診断の受検者データをもとに、若手社員の自己評価の全体像をみていきます。
「決められたことをやる力」に手応えを感じている
12の能力要素のうち、自己評価が高い上位4項目は以下の通りです。いずれも5段階評価中3.5p以上の水準となっています。
- •規律性:3.86p
- •実行力:3.75p
- •傾聴力:3.66p
- •柔軟性:3.65p
規律性や実行力は、ルールを守る、やるべきことを確実に実行するといった、与えられた枠組みのなかで成果を出す力です。
日々の業務で上司の指示に従い、期限を守りながら着実にタスクをこなす経験を通じて、本人にとって「自分はできている」という手応えにつながっていると考えられます。
傾聴力や柔軟性といった「チームで働く力」が上位に入っている点も、チーム内での協業を重ねるなかで本人が手応えを感じやすい領域といえるでしょう。
「自分から動く力」に課題がある
一方で、自己評価が低い下位3項目はいずれも3.0pを下回っています。
- •働きかけ力:2.63p
- •ストレスコントロール力:2.68p
- •発信力:2.88p
働きかけ力は周囲を巻き込んでいく力、発信力は自分の意見をわかりやすく伝える力を指します。
いずれも「自分から能動的に動く」ことが求められる能力であり、日常業務のなかで立場や考え方の異なる相手と関わる場面が増えるほど、自分の力不足を実感しやすい領域でもあります。
ストレスコントロール力の低さも見逃せません。業務上のストレスへの対処法が確立されていない段階では、自分のストレス状態を適切に把握すること自体が難しく、苦手意識につながりやすいと考えられます。
全体的に自分を低く見積もる傾向がある
12項目中9項目で、自己評価の結果が評価者評価を下回っています。個別の能力の高低だけでなく、若手社員は自分の力を全体的に低く見積もる傾向があるといえます。
業務経験が浅い段階では「自分にどれだけの力があるか」を判断する材料が少なく、控えめに自己評価をつけやすいことが要因として考えられます。
この傾向を踏まえたうえで、次章では自己評価と評価者評価のギャップを詳しく分析します。
自己評価と評価者評価のギャップからみえること
先輩社員や上司などによる客観的な評価者評価と、若手社員の自己評価を照らし合わせてみましょう。
自己評価が高かった規律性や実行力は、評価者評価でも同様に上位を占めています。一方で、自己評価と評価者評価のあいだにギャップが大きい能力もありました。
周囲には見えない負担を抱えがち
評価者評価が自己評価を大きく上回る上位3項目は、以下の通りです。
- •ストレスコントロール力:差0.48p
- •発信力:差0.28p
- •情況把握力:差0.22p
全12項目のなかで、評価差がもっとも大きいのが「ストレスコントロール力」です。先輩社員や上司からは若手社員がストレスにうまく対処できているようにみえている一方で、本人は「自分はストレスに弱い」と感じています。
周囲からはストレスがないようにみえる場合でも、表面的に反応が表れていないだけで、本人の内心では強いストレスを抱えている可能性があると考えられます。
発信力についても、本人が思っているより周囲からは「伝えられている」と評価されています。会議での発言や日々の報連相について苦手意識があったとしても、実際には十分に力を発揮できているケースがあると考えられます。
「聞く力」「気づく力」は周囲に伝わっていない可能性がある
反対に、自己評価が評価者評価を上回る項目は以下の3つで、本人は「できている」と感じているものの周囲の評価はやや低くなっています。
- •傾聴力:差0.18p
- •課題発見力:差0.12p
- •柔軟性:差0.10p
傾聴とは本来、相手に関心を持ち、共感しながら話を聞くコミュニケーションを指します。
本人が「話を聞いているつもり」でも、相手への関心や共感が伴わず、発言の背景にある意図を正確に汲み取れていないと周囲とのギャップが生まれます。うなずきや相づちといった表面的な傾聴行動はできていても、相手の発言や指示の背景や意図まで理解できるほどの深い傾聴には至っていないケースが考えられます。
課題発見力については、業務経験が浅い段階では本質的な課題に気づく機会自体が少ないこともあるでしょう。目の前の業務に慣れることで精いっぱいの時期は、課題を発見して提案するような場面が限られるといった要因も考えられます。
若手社員の社会人基礎力を伸ばすための4つのポイント

ここまでの分析で、自己評価と評価者評価のあいだにはさまざまなギャップがあることがわかりました。
若手社員の育成に携わる人事担当者や上司、先輩社員は、ギャップがあることを前提に考えてコミュニケーションをとる必要があります。ここからは、こうしたギャップを踏まえて若手社員の育成に取り組む際のポイントを4つご紹介します。
自己評価と評価者評価の認識をフィードバックで合わせる
自己評価と評価者評価の認識のズレは、ポジティブ・ネガティブの両面からフィードバックすることで合わせていけます。
たとえば発信力のように、本人は苦手だと思っていても周囲からは「できている」と評価されている能力については、発揮できている点を具体的に伝えることで本人の自信につながります。
反対に、傾聴力のように本人はできているつもりでも周囲の評価が低い能力については、「相手が伝えたいことを正確に理解できているか」「言葉の背景にある意図や心情まで捉えられているか」など、具体的な場面を挙げながら改善点を伝えることが効果的でしょう。
いずれの場合も、ギャップがある能力について「どの場面で、どのような行動を期待するか」を具体的に伝えることが、次のアクションにつながります。
若手社員のストレス状況を見逃さない
ストレスコントロール力は、評価者評価と自己評価のギャップが全12項目中で最大でした。周囲からはうまく対処できているようにみえていても、本人は強いストレスを感じている可能性があるということです。
ストレスの感じ方や反応は人によって異なります。表面的には問題なく業務をこなしているようにみえたとしても、それはストレス反応が周囲からみえていないだけの可能性も考えられます。とくに「弱みをみせたくない」「迷惑をかけたくない」という意識から、困っていても自分から相談しにくいと感じる若手社員は少なくありません。
人事担当者や上司は、本人の自己申告を待つのではなく、業務量や難易度の変化を把握したうえで定期的にヒアリングすることが大切です。
自己評価の低さを、そのまま適性の判断材料にしない
今回のデータでは、12項目中9項目で評価者評価が自己評価を上回っていました。若手社員は自分の力を過小評価する傾向があります。
たとえば働きかけ力は自己評価が2.63pと全項目中でもっとも低いスコアでしたが、周囲がそれを根拠に「まだリーダー役は早い」と判断してしまえば、本人が力を試す機会自体が失われます。こうした判断の積み重ねが、業務の幅を狭め、成長機会そのものを奪うことにつながりかねません。
スコアや表面的な行動だけで適性を決めつけず、「なぜそう見えるのか」「実際はどうなのか」を本人との対話で確かめることが、育成の方向性を見誤らないための第一歩です。
能力を発揮できる場を意図的に用意する
診断結果で評価が低かった能力は、業務のなかで意図的に発揮の場をつくることで伸ばしていきましょう。
自己評価も評価者評価も低い能力は、段階的に負荷を上げながら経験を積ませる方法が有効です。たとえば、働きかけ力であれば小規模なプロジェクトのリーダーを任せる、他部署との調整役を担当させるといった機会が考えられます。
傾聴力や課題発見力のように自己評価だけが高い能力は、実力が伴っていない可能性もあります。傾聴力なら顧客ヒアリングへの同席、課題発見力なら業務改善の提案など、その能力を要する場面に就かせて実力を見極めましょう。
まとめ

社会人基礎力診断は、若手社員の能力を「測る」だけでなく、上司と部下の認識のズレを可視化できるツールです。
今回のデータが示すように、若手社員は自分の力を過小評価しやすく、周囲もその印象に引きずられると成長機会を狭めてしまうリスクがあります。
定期的な面談やフィードバックの場で診断結果を活用し、「本人がどう感じているか」と「周囲からどう見えているか」のすり合わせから育成の方向性を考えてみてはいかがでしょうか。

















