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コミュニケーションから人事評価を導き出す「チェックイン」とは? | アドビ株式会社

2020年07月27日更新


アドビ株式会社人事部ビジネスパートナー 草野 多佳子 氏(右)
アドビ株式会社Account Executive 青木 氏(左)

全世界に約40か所の拠点をもつグローバル企業、アドビ。同社では、評価する側のマネージャーと、評価される側の部下とのコミュニケーションに重きを置いた人事制度「チェックイン」を取り入れています。

かつてはまったく別の方法で人事評価をしていた同社では、「チェックイン」を導入して以降、従業員のパフォーマンスやエンゲージメント向上はもちろん、人事評価にかかる業務も効率化できたとのこと。

今回は、アドビ株式会社人事部ビジネスパートナーの草野多佳子さん、同マーケティング本部広報部マネージャーの坂田彩さんに、「チェックイン」導入の背景や、その効果などを伺いました。

 

目次

・アドビを変えた人事制度「チェックイン」とは
・「チェックイン」導入前後の変化
・社内イベントの参加率を重視

アドビを変えた人事制度「チェックイン」とは

――まず、御社が取り入れている「チェックイン」について教えてください。

草野多佳子さん(以下、草野):「チェックイン」とは、通年的なコミュニケーションにより従業員のパフォーマンスを上げることを目的とした人事制度です。マネージャーと部下は3か月に一度、

①Expectations(部下への期待)

②Feedeback(日頃のフィードバック)

③Development(能力開発支援)

の3つのフレームワークに沿って目標設定や業務進捗の報告をします。

――3つのフレームワークについて、それぞれ教えていただけますか?

草野:はい。

①Expectationsは、マネージャーから部下へ課される期待値のすり合わせです。ここを双方できちんと理解できていないと、部下が間違った方向に走り続けてしまう危険があります。なので、少なくとも3か月に1回は業務の進捗を確認する機会を設けています。

②Feedebackは、マネージャーと部下がどちらからも遠慮なく、適切なタイミングかつ近い距離で話をします、という両者合意のルールのことです。

③Developmentは育成・成長の部分で、マネージャーからの期待値に応えるために、部下がどんな経験や勉強をすべきか話し合います。

①Expectationsはマネージャーが主導的に話をし、③Developmentは部下のほうから積極的に提案していくイメージですね。

――継続的に意識をすり合わせることで、パフォーマンスを上げているのですね。昇給などの年次査定は、どのように評価しているのですか?

草野:通年的なコミュニケーションと合わせて、年に一度「リワード・チェックイン」というものを実施しています。当社は毎年12月に年度が始まるのですが、年度末にあたる11月に、マネージャーが1年間のコミュニケーションを振り返り、部下の昇給について検討しています。

――マネージャーはなにを軸にリワード(報酬)を決定しているのでしょうか?

草野:「目標としていた期待値に対してその部下が何%達成できたか」などマネージャーごとに判断基準を持っていて、その判断基準を軸に部下と相談した上で決定しています。

坂田彩さん(以下、坂田):リワード(報酬)の決め方については社外の方から質問を受けることも多いのですが、私自身、一従業員として実際に評価を受ける立場からも納得感がありますね。やはり、年間を通したコミュニケーションで期待値や業務進捗のすり合わせをしているので、お互いに理解できている感はあります。

草野:そのほかリワード・チェックインとは別に、四半期ごとに社員からのノミネーションによって選出された、突出した成果を出した社員を全社ミーティングで表彰し、スポットボーナスを出したりすることもあります。たとえば、リワード(報酬)につながるような成果を年度始めに出した場合、年度末のリワード・チェックインを待っているうちにエンゲージメントが低下してしまう恐れがあるんです。

――なるほど。その対策としての特別措置を設けているのですね。従業員としては、金銭的なインセンティブだけでなくピアボーナスもあるのは嬉しいですし、エンゲージメント強化に繋がりそうですね。

「チェックイン」導入前後の変化

――そもそも御社の「チェックイン」導入にはどのような背景があったのでしょうか?

草野:当社は2012年にチェックインを導入したのですが、それ以前、マネージャーと部下が目標設定をする機会は1年に一度しかありませんでした。マネージャーは1年分の評価をまとめてしなくてはならず、部下1人に対するパフォーマンスレビューが年間8時間もあったんです。マネージャーは平均5人の部下を抱えているので、パフォーマンスレビューにかける時間の合計は年間約40時間。さらに、アドビ全体には約2000人のマネージャーがいるので、グローバル全社で換算すると年間約8万時間もパフォーマンスレビューにかけていたということになります。

――ものすごい時間ですね。現場から改善を求める声は上がらなかったのですか?

草野:当然サーベイでも、時間のロスについて指摘する声が多く上がるようになりました。そしてマネージャーだけでなく、部下たちからも「1年単位の目標設定では評価の公平性に問題が生じるのでは?」という声が上がってきたため、人事制度の改革に向けたプロジェクトチームがグローバル全社で立ち上がりました。

また、ビジネスモデルの変革も大きな背景のひとつです。チェックインを導入した2012年は、当社が提供するPhotoshopやIllustratorなどのサービスがクラウド化された年でもあります。クラウド化によってビジネスサイクルが加速したことも、1年単位で目標設定をするそれまでのやり方から、3か月ごとに目標設定をするチェックインに乗り換える大きなきっかけとなりました。

――実際にチェックインを導入してみると、どのような変化がありましたか?

草野:問題となっていた時間のロスをかなりセーブできるようになりました。また、3か月ごとに目標設定や進捗の確認をすることでマネージャーと部下の関係性が密になり、それがエンゲージメントの向上やリテンションにも繋がったと思います。

――かなり大きな改革だったと思うのですが、現場で混乱はなかったのですか?

草野:チェックインの導入については、まずトップから全従業員に向けて「グローバル全社としてこんな改革をします」というメッセージがアナウンスされました。当初は「うまくいくのか?」という不安の声も上がったのですが、人事が主導となり、マネージャー向け・部下向けにそれぞれ制度の説明やトレーニングを繰り返すことで、徐々に浸透させていきましたね。幸いなことに、導入後はスムーズに機能しだすのも早く、毎年少しずつ改善しながら現在にいたっています。

――近年ランク付けをしない「ノーレイティング」という人事評価の概念が注目されつつありますが、その解釈は企業によって異なるように思います。横ぐしの評価が当たり前の日本ではまだまだ馴染みが薄いですが、グローバル展開している御社ではどのような意味合いで解釈しているのでしょうか?

草野:当社ではノーレイティングを「全社的な横ぐしを取り払い、マネージャーと部下が話し合って相互に理解した結果が評価になる」という解釈をしています。

ちなみに、チェックインの導入によりマネージャーの作業量が減少した一方で、評価の対象となる“目標”が日常的なコミュニケーションから生まれるようになったため、その分責任も大きくなりました。

――各マネージャーへのミッションは会社から与えられるかと思うのですが、それぞれが3か月ごとのコミュニケーションで部下と設定する目標については、会社への報告は必須なのですか?

草野:よく驚かれることなのですが、そこは必須にしていないんです。やるべきことがきちんと実行されていれば、独自のテンプレートやノートを使うなど、マネージャー本人のやり方に任せています。

――必須ではないんですね。マネージャーそれぞれに任せる、という度量を会社が持っていることが素晴らしいです。ルールが柔軟であることも、御社でチェックインがうまく機能している理由なのかもしれないですね。評価繋がりでお聞きしたいのですが、御社ではハイパフォーマーに共通する傾向はあるのでしょうか?

草野:製品が新しくなるとか、ビジネスモデルが変わるとか、そういった変化があるときに「やります!」と手をあげる積極的な気持ちのある人は、よく名前があがっていますね。グローバル全社共通で、変化が好きな人や、変化に前向きな人がハイパフォーマーの傾向にあります。

――キータレントは、人事で管理しているのですか?

草野:そうですね。選抜基準はグローバル全社で決まっていて、若手のうちからキラリと光るものがある人が選ばれることが多いです。対象者向けのトレーニングも行っていて、ビジネスを知るための数字の見方や、コミュニケーションの取り方、日本語・英語でのプレゼンテーションなどを学びます。ゲストスピーカーにエグゼクティブ(経営幹部)を招いて、自身のキャリアパスを話してもらうようなセッションをすることもあります。

キータレント向けのトレーニングはまだまだ数多く実施できていないので、これを充実させていくのは、人事の課題でもありますね。


アドビ株式会社マーケティング本部広報部マネージャー 坂田 彩 氏

社内イベントの参加率を重視

――チェックイン導入の背景にはエンゲージメント強化もあるかと思いますが、「エンゲージメント」という言葉を、御社ではどのようにとらえていますか?

草野:エンゲージメントについてはトップからのメッセージでも頻繁に発信されていますし、その言葉自体が社内でとても浸透しています。マネージャーのトレーニングの中でも「『エンゲージメント』『コミットメント』を口癖にしてください」という話をしていますね。

あとはインターナルコミュニケーション(社内コミュニケーション)として、社内イベントも活発に行っています。サマーパーティーやファミリーデーなど、どのイベントもしっかり予算をかけてかなり本格的に実施しているため、従業員の参加率も高いです。みんなSNSで「#AdobeLife」を付けて発信しているので、ぜひチェックしてみてください。

ちなみに当社では、社内イベントの参加率が低ければエンゲージメントも低いととらえています。サーベイでは「社内イベントが多くていい」という声も上がっているので、自社への愛着心を持ってもらうのに一役買っているのだと思います。

――私は他社でもお話を伺っているのですが、「働きがいのある会社」の共通点は「対話が多いこと」「社内イベントに本気になっていること」だと思うんです。逆にエンゲージメントが低い会社では、社内イベントをやってはいるけれど本気じゃなくて、なんとなく冷めている感じがします。

御社は社内イベントでしっかり盛り上がれていますが、やはり採用でも、そのカルチャーに合うかは重視されるのでしょうか?

草野:リワード(報酬)の決定と同じく、採用についてもマネージャーに裁量と責任が持たされています。そのため、業務のスキルセットを重視するか、カルチャーフィットを重視するかは各々の判断に任せています。

ただ採用基準には「アドビカルチャーにフィットするか」という項目があるので、比重は違えど必ずチェックはされていますね。「アドビカルチャー」に定義はないのですが、コアバリュー[Genuine(真摯な)、Exceptional(卓越した)、Inventive(革新的な)、Involved(自ら積極的にかかわっていく)]に合致しているかが基準となります。

社内イベントについては「Involved(自ら積極的にかかわっていく)」が自然と現れているのだと思います。

――なるほど。自ら積極にかかわっていくというアドビカルチャーが社内イベントの盛り上がりにつながっているのですね。
ところで先ほど、サーベイのお話が出ましたが、どのくらいの頻度で行っているのですか?

草野:1年に一度グローバル全社共通で行い、エンゲージメント向上のために活用しています。この時にマネージャーごとのスコアも出されるので、スコアによって各マネージャーは自分の部下がなにを考えているのかを知ることができます。

――マネージャーごとのスコアというのは誰にどこまで公開されるのでしょうか?

草野:マネージャーごとのスコアは、自分の部下のものしか見ることができません。グローバル全社の結果については、各国のスコアや、回答のTOP5(よかった答え)、BOTTOM5(悪かった答え)が全社会議の際に共有されます。その結果を踏まえて「会社としてこんなアクションをします」という宣言がトップから出されるんです。

――そのほかにもサーベイを取る機会はありますか?

草野:「働きがいのある会社ランキング」のサーベイも取っていて、これもエンゲージメントを知る上での一つの指標になっています。当社は、福利厚生関連の項目が高い傾向にありますね。また、社員同士がリスペクトしあうカルチャーからか、「周りの人に恵まれている」という回答も多いです。

――「リスペクトしあう」というのもアドビカルチャーのひとつなのですね。
最後にひとつどお伺いさせてください。一般的には「エンゲージメント=業績が上がる」と直接的に考えがちだと思うのですが、御社では、エンゲージメントが直接的ではなく副次的によい影響を与えるということに理解があるのでしょうか?

草野:そうですね。「従業員をエンゲージすることが副次的に業績につながる」ということにとても理解があって、みんなが自然と会社を好きになれるような取り組みもしています。

たとえば、当社にはさまざまな部門があるので、全従業員がPhotoshopやIllustratorに精通している訳ではありません。なので、ランチタイムに自社製品の使い方をレクチャーするセッションを設けて、自由に参加できるようになっています。

従業員としても、こういった取り組みが働きがいに繋がり、さらには業績や生産性によい影響をもたらしているという実感があります。リテンションにもとても重要ですし、トップも「社員の成長が会社の成長」と口癖のように言っているので。

――なるほど。ちなみに教育援助制度などもあるのでしょうか?

草野:はい。従業員1人あたり年間12万円の教育援助が出て、英会話や技術取得のための講習など、好きな勉強に使っていいことになっています。また大学院に行ったり、資格を取ったりする際には、会社が120万円まで負担する制度もありますね。

――とてもいいですね。その経験が仕事に生かせれば、モチベーションも上がるし、ワクワクしながら仕事ができそうです。

草野:教育制度とは少し違いますが、エンジニアが趣味でなにか開発をする場合に、その開発物がビジネスにもつながるようなものであれば、費用の一部を会社に負担してもらうことが可能です。創業者自身もエンジニアですし、グローバル全社的にテクノロジーが好きな人たちが集まっていて、いつも新しいことを考えているようなカルチャーがありますね。

――「新しいことを生み出そう」という気持ちが土壌としてあるからこそ、人事制度にも柔軟な考えが取り入れられ、それが働きがいに繋がっているのかもしれないですね。草野さん、坂田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

※取材にご協力いただきました方々の肩書きはインタビュー当時のものです。

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