ハーズバーグの二要因理論とは?組織のマネジメントに活かす方法を紹介

従業員の「働きがい」や「モチベーション」は、生産性や定着率に直結する重要な要素です。しかし、給与や待遇を整えるだけでは、長期的なやる気や満足感を十分に高めることは難しいといわれています。
では、どうすれば従業員のモチベーションを高められるのでしょうか?そのヒントとなるのが、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」です。
本記事では、ハーズバーグの二要因理論の基本をわかりやすく解説するとともに、「衛生要因」と「動機付け要因」の違いや、それぞれを組織マネジメントにどう活かすかをご紹介します。
ハーズバーグの二要因理論とは?

ハーズバーグの二要因理論は、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した、仕事における「満足」と「不満足」を引き起こす要因に関する理論です。
この理論の特徴は、仕事における満足と不満足が同じ軸では生じないと考える点にあります。つまり、満足と不満足はそれぞれ異なる要因によって生まれるため、従業員の働きがいや意欲を高めるには、要因ごとに異なるアプローチが必要になります。
具体的には、「衛生要因」と「動機付け要因」という2つの観点が用いられます。衛生要因は不満を抑えるためのものであり、動機付け要因はやりがいや達成感を生み出すものです。
この考え方は、現代の企業が直面する人材管理の課題とも深く関係しています。少子高齢化による労働人口の減少により、単に人材を採用するだけではなく、既存従業員のモチベーションを維持し、離職を防ぐことがますます重要になっています。
そのため、従業員のモチベーションを「衛生要因」と「動機付け要因」の両面から捉えるハーズバーグの二要因理論は、組織のマネジメントにおいて非常に有用な考え方といえるでしょう。
衛生要因と動機付け要因

ハーズバーグの二要因理論では、従業員の働く意欲や満足感、そして不満は、「衛生要因」と「動機付け要因」という2つの異なる軸によって生まれるとされています。
衛生要因とは
衛生要因とは、仕事を取り巻く外的な環境や条件を指します。代表例は以下の通りです。
| 衛生要因 | 給与 |
| 労働時間・休暇 | |
| 人事制度 | |
| 上司・同僚との関係/職場の雰囲気 | |
| 職場環境 | |
| 福利厚生 |
これらの要因が欠けると、不満につながりやすくなります。ただし、整っていたとしても、従業員の満足度が直接高まるわけではありません。衛生要因はあくまで「不満を抑えるための土台」として機能します。
たとえば、労働時間が長すぎたり、昇給の仕組みが不透明だったりすると、従業員は不満を感じやすくなります。しかし、それらが整っていても、満足感やモチベーションが自然に高まるとは限りません。
動機付け要因とは
動機づけ要因とは、仕事そのものや従業員自身の内面にかかわる要因を指します。代表例は以下の通りです。
| 動機付け要因 | 仕事の達成感 |
| 承認や成果に対する評価 | |
| 仕事自体の魅力や面白さ | |
| 仕事の責任・裁量の大きさ | |
| 成長・キャリアアップの機会 | |
| 自己実現の機会 |
これらの要因が整っていなくても、不満を引き起こすわけではありません。しかし充実していると、従業員の満足感やモチベーションを大きく高めるため、「やる気を引き出す源泉」となります。
たとえば、自分の能力や知識が十分に発揮できる業務や、社会的に意義があると感じられる仕事を任されることで、従業員はやりがいや達成感を得て、主体的に仕事に取り組む姿勢が強まります。また、メンターとして後輩を育成する責任を持つことも、自己成長や承認欲求を満たす機会となり、動機付け要因として機能します。
衛生要因と動機付け要因の関係
このように、衛生要因と動機付け要因は、それぞれ異なる役割を持ちながら、どちらが欠けても従業員の満足度や働きがいの醸成にはつながりにくいものです。
衛生要因が整っていなければ、従業員は不満を抱えやすく、仕事への集中や継続的な意欲が阻害されてしまいます。しかし、衛生要因だけを充実させても、従業員のモチベーションは高まりません。そこで、動機付け要因が重要になります。
衛生要因による不満を抑えつつ、動機づけ要因による満足度を向上させることが、従業員のパフォーマンスや定着率を高め、組織全体の働きがいを育むことにつながります。
二要因理論の活用方法

ハーズバーグの二要因理論を組織に取り入れることで、従業員の不満を引き起こす要因を減らし、やりがいを感じられる要因を増やしたりすることができます。ここでは具体的な活用方法を紹介します。
衛生要因を高める施策
組織の方針を日常レベルまで浸透させる
経営方針やビジョンが現場まで正しく伝わっていないと、従業員は自分の仕事の意義を見失いやすくなり、不満が発生しやすくなります。
これを防ぐためには、経営陣が日常的に方針を語る機会を設けたり、管理職を通じて部署ごとの行動指針に落とし込んだりする工夫が求められます。組織の方向性が明確になることで、従業員は自分の業務と組織の目標を結び付けて理解できるようになり、不安や不信感といった不満の発生を防ぐことができます。
コミュニケーションの活性化による人間関係の改善
衛生要因のなかでも、人間関係の悪さは不満を招きやすい要因となります。そのため、日常的にコミュニケーションを取りやすい職場環境を整えることが重要です。
たとえば、雑談しやすい休憩スペースの設置や、部門横断の「情報共有ランチ会」など、自然な会話を生み出す仕掛けが効果的です。
さらに、部署ごとに「対話のルール」を設けることも有効です。
- 【対話のルールの一例】
- 相手の話を最後まで遮らずに聞く
- 会議の発言は「否定」ではなく「提案」を基本にする
- 批判ではなく建設的なフィードバックを心がける など
こうしたルールを明文化して部署内で共有しておくと、言いづらさや誤解が減り、心理的安全性を高めることができます。心理的安全性が確保されることで、意見や相談がしやすくなり、人間関係の改善にもつながります。
柔軟な働き方でワークライフバランスを支える
長時間労働や休日出勤が続くと、衛生要因としての不満が蓄積し、離職リスクが高まります。これを防ぐには、まず業務分担の見直しによって長時間労働を解消することが第一歩です。さらに、フレックスタイム制度やテレワークといった柔軟な勤務形態を導入し、働き方の多様化を進めることができます。
たとえば、子育て中の従業員に対しては「午後は在宅勤務」といった就業形態を可能にするなど、従業員のライフステージに合った働き方を提供することが、ワークライフバランスの支援につながります。
動機付け要因を高める施策
努力や成果が評価される仕組みづくり
従業員がやりがいや達成感を実感するためには、日々の努力や成果が正当に評価されることが重要です。画一的な評価では意欲を高めにくい可能性があるため、職種や個人の特性に応じた柔軟な指標を導入することを検討してみましょう。
たとえば、営業職であれば「売上」や「受注件数」といった数値だけでなく、「顧客からのフィードバック」や「提案の質」といった定性的な観点を加えることで、自らの貢献をより強く実感でき、仕事へのやりがいや達成感を高められます。
非金銭的な賞賛制度を整える
報酬や手当などは、従業員にとって欠かせない要素です。しかし、それだけではモチベーションを長期的に維持することは難しい場合があります。
そこで重要になるのが、「非金銭的な賞賛制度」です。従業員が努力や成果を認められたり、自分の存在価値を実感できたりすると、承認欲求や自己成長欲求が刺激されます。これらは動機付け要因として機能します。
具体的な施策としては、社内表彰制度や、日常の感謝を伝える「サンクスカード」の導入などが挙げられます。これらは、従業員のやりがいや達成感につながり、モチベーションを継続的な向上に寄与します。
衛生要因・動機付け要因の両方を高める施策
管理職・リーダー層の育成を重視する
管理職やリーダー層のかかわり方は、部下が感じる衛生要因と動機付け要因の両方に影響します。曖昧な指示や一貫性のない態度は不満の原因になりますが、挑戦を後押ししたり成果を認めたりする姿勢は、成長意欲や達成感といった動機付け要因を引き出す力を持っています。そのため、就任時の初期研修にとどまらず、定期的なリーダー研修を通じてマネジメント力を高めていくことが重要です。
キャリア開発・成長機会の整備
従業員が安心して働き続けるためには、将来の不安を減らすことが重要です。明確なキャリアパスや研修制度を整えることは、将来の不透明さを軽減し、衛生要因による不満を低減することにつながります。
同時に、スキルアップ研修や昇進の機会を設けることで、仕事に対する従業員の自信を高め、動機付け要因としてやりがいや達成感も引き出します。
- 具体的な施策
- 社内公募制度の整備
- 手上げ式の研修やeラーニングによる学習機会の提供
これらは、従業員の成長を支援し、組織への定着と貢献意欲を高めることにつながります。
二要因理論から学ぶモチベーションの高め方

従業員の働きがいや意欲を高めるためには、衛生要因と動機付け要因という2つの異なる視点が重要です。衛生要因は不満を抑える基盤として、動機付け要因はやりがいや達成感を生み出す源泉として機能します。
給与や職場環境などを整えるだけでなく、評価制度やキャリア開発、非金銭的な承認など、衛生要因と動機付け要因の両方に配慮した施策を導入していくことが、従業員の定着や生産性向上につながっていくでしょう。

















