管理職育成が若手社員の離職抑制のカギ~アンケートから紐解く役職間ギャップ~

企業が抱える人事課題の1つに「若手社員の早期離職」が挙げられます。
よくあるケースでは、配属先の上司と業務上のコミュニケーションがうまくとれず、仕事への意欲が低下することにより、離職にいたってしまうことです。
このような若手社員の早期離職には、事業機会の損失や採用コストの増加、業務負荷の増加による既存社員のモチベーション低下など、悪影響を招くリスクがあります。
同課題の解決にはさまざまなアプローチが考えられますが、その内の1つが「管理職の育成・能力強化」です。組織運営の要である管理職は、若手社員と接する機会が多く、部下育成の側面では、仕事の進め方や改善点をフィードバックする役割も担います。
そのため、指導を受けている部下から「管理職の一挙手一投足が十分機能していない」と認識された場合、若手はキャリア形成の観点から「離職を考える」きかっけとなることもあります。
一方で、このような問題はなかなか解決されず、入社後3年以内の離職率が30%以上という状態が続いています。これらの問題について、管理職教育の観点からどのような問題や課題があるのでしょうか。
そこで、マイナビ研修サービスではさまざまな組織における管理職教育の実態を明らかにするため、「役職間の意識ギャップと管理職育成の現状」に関するアンケートを実施。本調査では、13の設問を通じて「管理職・非管理職間でどのような役職間のギャップが発生しているのか」や「人事担当者が管理職に対して、どのような課題を感じているのか」などについて調査しています。
同アンケートの結果を踏まえ、「若手の早期離職」という切り口も交えて、管理職の育成に関する現状やポイントを解説していきます。
・調査期間/2024/2/9~2024/2/22
・調査方法/Webアンケート
・調査対象/上場および非上場企業の人事責任者・担当者
・有効回答数/277件
※構成比の数値は、四捨五入しているため、100%にならないことがあります。
若手社員の早期離職の原因
厚生労働省の調査(※1)によると、2020年3月に卒業した新規学卒就職者の就職後3年以内離職率は大卒で32.3%、高卒で37.0%を占めます。大卒・高卒ともに、3人に1人以上が入社後3年以内に離職していることになります。
またマイナビの調査(※2)では、1人あたりの採用コストは50万円前後ともいわれています。研修・育成費用も考慮すると、若手社員の早期離職は人材確保と財務の観点から企業が優先的に対処すべき課題の1つだといえるでしょう。
参考:
※1.厚生労働省|新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します
※2.新卒採用サポネット「2023年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」
若手社員が離職を考えるキッカケとは
マイナビが大学3年生に実施した調査(2022年実施)(※3)によると、「新卒で入社する会社で何年働きたいか」という質問に対し、最多が「特に決めていない・わからない(31.7%)」、次いで「定年まで(22.1%)」が続き、もっとも少なかった回答が「1~3年くらい(4.9%)」という結果でした。
このことから、入社前の時点では、企業を早期に離職する意向を持つ人は少ないことがわかります。つまり、若手社員が早期離職する要因は、入社前ではなく、入社後に起こりえることが大きく影響しているといえるでしょう。
参考:
※3.マイナビキャリアリサーチLab|若手人材の早期離職の実態~調査結果から見えた早期離職検討者と企業に必要な考え方とは~
もとより、新たな環境に身を投じる場合、その環境に適応していく過程で、組織の文化や価値観、行動規範を理解し、受け入れ、順応していく必要があります。新入社員も同様で、新しい環境に慣れ、その組織における理想像や業務プロセス・ルールに適応しながらパフォーマンスを発揮することが理想です。(組織社会化)
ですが、その適応過程で「入社前に抱いていた印象や期待」が、ネガティブな要因により裏切られ(リアリティショック)、そのギャップが解消できない状態が継続することは、先述した順応の妨げとなり、結果として「離職」にいたってしまうと考えられています。
新入社員の場合、インターンシップや会社説明会、先輩社員の話などから職場環境や業務内容に期待を膨らませ、充実した社会人生活を想像することが多いでしょう。
しかし、想像していた社会人生活と入社後の上司・同僚との人間関係やチームの雰囲気、組織様態などに、ネガティブなギャップを感じることで引き起こされるリアリティショックを解消できないままだと、新入社員は大きなストレスを感じます。
加えて、リアリティショックへの対処を誤ると、不安や悩みを更に増長し、生産性やモチベーションの低下、ひいては退職にいたってしまうのです。
では、上記の問題はどのような事象により引き起こされるのでしょうか。
ここからは管理職と非管理職間で発生しているギャップを、アンケート結果とともに見ていきましょう。
発生しているギャップの内容と原因
「管理職・非管理職間で発生しているギャップの内容について」の質問では、「仕事に対する姿勢やモチベーション」という回答がもっとも多く42.6%、次いで「コミュニケーションの取り方(頻度や話題など)(32.1%)」、「上司・部下間でのアドバイスや協力体制の質と頻度(31.0%)」と続いています。
また、これらのギャップが発生する理由を問う質問では、「役割や役職による視座に違いがあるから」がもっとも多く52.5%であり次いで「役職や役割による視座が同じ方向性を向いていないから(33.9%)」、「相手を理解しようとしていないから(30.2%)」「相互理解をする機会がないから(28.1%)」という結果となりました。
管理職教育の実態、育成の課題と障壁
それでは、組織運営の要である管理職の教育状況はどうでしょうか。人事部門が自社の管理職に対してどのような課題を感じているのかについてアンケート結果から解説します。
管理職育成の実態
「管理職のスキル向上に向けて、なにか社内で取り組まれている施策について」では、「実施している」と回答した企業は56%程度。残りの44%は「実施なし」という結果になりました。すでに半数近くの企業が管理職への育成を実施しています。
一方で、教育機会を提供している人事部門からは、管理職に対する課題感を解消しきれていないことも明らかになりました。「管理職に対して感じている課題について」は、「部下の能力や特性を把握した適切な育成ができていない(53.8%)」「適正な目標設定・浸透・管理ができていない(43.4%)」が上位に挙がっていることがわかりました。
価値観や働き方も多様化している現代において、部下育成は画一的な教育や指導では対応しきれません。管理職が部下の能力や特性を把握した育成ができていない場合、適切な支援体制を提供できず、部下が最大限の能力を発揮できない状況に陥り、組織成果の低下につながる可能性があります。
また、部下に対して適正な目標設定・浸透・管理ができない状況は、管理職と非管理職の間で視座や視座の方向性にギャップを生じさせます。目標設定や目標達成の経緯や達成意義を咀嚼しないまま、トップダウン形式で通達することは、部下のモチベーションを下げる原因となってしまうでしょう。
早期離職防止における管理職の重要性
アンケート結果より若手社員の早期離職の要因と考えられる「ギャップの解消・抑制」のためには、若手と適切なコミュニケーションを取り、教育ができる管理職の存在が不可欠だと考えられます。
たとえば、管理職と部下の間で「仕事に対するモチベーション」にギャップが発生している場合、管理職が部下と適切にコミュニケーションを取り、個人の強みや課題を把握したうえで、一人ひとりの興味関心や欲求に寄り添い、動機づけをおこなう必要があります。
また、部下が業績目標の進捗や目指すキャリアに対して悩んでいる場合は、支援者の立場として部下の意思や希望にできうる限り寄り添い、実現に向けて伴走することも大切です。
管理職が若手社員の成長やキャリア形成の支援を怠った場合、自分の役割や将来のビジョンを明確にできず、会社に対する信頼や愛着を持つことが難しくなります。その結果、エンゲージメントの低下や組織への帰属意識が弱くなり、早期の離職や組織全体の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
よって、このギャップの解消(ひいては若手社員の早期離職防止)には、管理職がいかに最適解をとりつづけ、組織運営をおこなえるかがカギとなります。
管理職の育成にあたっての障壁
このようなギャップ解消には、管理職自身のスキル向上が重要な1要素となりえるでしょう。他方で、管理職を十二分に育成するうえでは、大きな障壁があることもアンケートによって明らかになりました。
「管理職のスキル向上に、向けた施策をおこなうにあたり、障壁となっていること(もしくは今後なりそうなこと)について」では、「管理職のスキルや能力に個人差があるが、育成を個別最適化できない(48.6%)」や「管理職の業務が増加しており、教育機会の創出が難しい(47.4%)」が挙げられます。
このような状況下で管理職だけに自責を強いて、自走することを待つのは難しいでしょう。
ですので、「管理職教育・育成」は人事部門はじめ上級管理職や経営層までをも巻き込み、組織全体で支援していくことが求められます。
前者の「育成の個別化」については、管理職各々に対する「解決すべき課題」の優先順位を理解できる機会提供を、人事部門が主導するのも一つの手でしょう。
たとえば、自組織のエンゲージメント結果を解説する講習会や管理職アセスメントによる各人の得手不得手評価などが挙げられます。
また、施策を実施するだけで終わりではなく、組織運営の要となる管理職としての「問題意識」と「当事者意識」醸成をしつづけるための仕組みも必要となるでしょう。
後者の「業務量の増加」については、現在の組織や管理職の状況を加味したうえで従来の管理職研修の内容が適しているのか、管理職研修だけの実施でよいのかなど教育体系の見直しも必要です。
たとえば、従来までおこなっていたリーダーシップ研修に加えて、仕事の段取り力を養うコンテンツを追加したり、集合型研修だけでなくオンライン学習(e-ラーニングやマイクロラーニングなど)を導入したりするといった、各組織の管理職に適したコンテンツや運営方法の模索が重要です。
また、管理職への教育に対してアンケート結果のような障壁はあるものの、人事部門はいかにして管理職への教育機会を確保するのか、経営層や上級管理職にその必要性を訴えかけていく必要があるといえるでしょう。
まとめ
今回は「管理職の能力開発・役職間の意識ギャップ」に関するアンケートの結果をもとに、「若手社員の早期離職」という観点も交えつつ、管理職の育成に関するポイントを解説してきました。要点は以下の通りです。
上記の通り、管理職の育成は、組織内のギャップを解消し、若手社員の離職を防ぐためには不可欠です。企業(人事部門)は、管理職と非管理職の間のコミュニケーションと理解を促進するために、管理職育成の研修内容およびコンテンツの見直しもおこないながら、積極的に管理職の育成に取り組むべきでしょう。