やり抜く力で実行力を高める|GRITの解説、高めるための研修も紹介

変化が激しく、不確実性が高まる時代において、企業や組織に求められるのは成果を出し続ける力です。その基盤となるのが「やり抜く力」です。やり抜く力は単なる精神論ではなく、社会人基礎力のひとつである「実行力」ともつながり、個人の生産性や組織全体の成果を左右する要素となります。
本記事では実行力を高めるやり抜く力とはなにか、やり抜く力が求められる背景や身につけるメリット、構成する4要素(GRIT)、やり抜く力を仕事で発揮するポイントを紹介します。
実行力を高めるやり抜く力とは

やり抜く力とは、困難に直面しても最後まで粘り強く取り組み、成果へとつなげていく力です。「GRIT」と呼ばれる4つの要素によって「やり抜く力」は支えられています。
仕事においては、予期せぬトラブルや想像以上に難しい課題に直面する場面が少なくありません。やり抜く力はそうした場面で困難を乗り越え、目標達成へと導く力となります。
また、社会人基礎力の「前に踏み出す力」のうちのひとつである「実行力」を高めるためにもやり抜く力は求められ、個人の成長にも組織の発展にも重要になる力といえるでしょう。
今やり抜く力が求められる背景

やり抜く力が求められる背景を解説します。
変化が激しい環境で成果を出すため
市場や顧客ニーズの移り変わりが速く、計画通りに進まないことが当たり前になりつつあります。
その中で成果を上げるには、困難に直面しても粘り強く取り組み続ける姿勢が欠かせません。単なる柔軟性だけではなく、最後までやり切る強さを持つことが、変化に対して強い人材につながります。
不確実性と多様化の時代における自己成長のため
技術の進化や働き方の多様化により、未来を正確に予測することはますます困難になっています。
そのような不確実な環境でも自分の目標を見失わず、主体的に挑み続ける人材は強い存在感を発揮します。やり抜く力は、複雑で流動的な状況の中でも自分らしく成長し続けるために必要といえるでしょう。
人材育成における普遍的な基礎力
リーダー候補やハイパフォーマー育成では専門スキルや知識が重視されがちですが、それを活かす土台となるのはやり抜く力です。
職種や階層を問わず共通する行動の基礎として、最後までやり切る力を持つ人材は組織全体の成果を押し上げます。だからこそ、個別最適化が進む人材育成の現場でも、やり抜く力があらためて注目されているのです。
やり抜く力を身につけるメリット

実行力を高めるだけでなく、やり抜く力を身につけることは社員のパフォーマンス向上にも直結します。
困難に直面しても粘り強く取り組む姿勢が、個人の成長だけでなく、組織全体の成果や働きやすさにも良い影響を与えます。
主なメリットは以下のとおりです。
- ●個人の生産性やアウトプットの質向上
- ●組織全体の生産性や業務品質の向上
- ●社員個人の心身の健康の安定
- ●組織の心理的安全性が高まる
粘り強く改善を積み重ねることで、より高い水準の成果を出せるようになります。
前向きな姿勢が広がり、粘り強く取り組む文化が根づくことで組織全体の力が底上げされます。
困難に対しても柔軟に立ち直る「レジリエンス力」が高まることで、ストレスへの耐性が強まり、心身の健康が安定します。
社員一人ひとりがストレスにうまく対処しながら前向きに働けるようになることで、互いを尊重し合い、安心して意見交換や挑戦ができる環境が整います。
やり抜く力を構成する4要素(GRIT)

「やり抜く力」を構成する4要素は、以下の頭文字をとって「GRIT」と呼ばれています。
- ●GUTS(ガッツ=精神力)
- ●RESILIENCE(レジリエンス=立ち直る力)
- ●INITIATIVE(イニシアチブ=自発性)
- ●TENACITY(テナシティ=粘り強さ)
なかでもRESILIENCE(レジリエンス)=立ち直る力は、失敗や挫折を前にしても諦めずに改善を続ける姿勢を支える中核的な要素とされています。
それぞれの要素について詳しく解説していきます。
GUTS(ガッツ=精神力)
GUTS(ガッツ)とは、困難に立ち向かうための強い心を意味します。
仕事に失敗や壁はつきものですが、大切なのは「失敗を避けること」ではなく、「失敗とどう向き合うか」であり、そこで必要となるのがガッツです。
ガッツは生まれ持った資質だけで決まるものではありません。むしろ、日々の成長意欲や組織に貢献しようとする姿勢を積み重ねることで鍛えられていくものです。「この仕事を自分がやり遂げたい」という意識が精神力を強くし、困難に立ち向かう原動力となるのです。
また、「guts」には「直観」という意味も含まれています。ここでいう直観とは、推理や分析を頼らずに、物事の本質をとらえる力のことです。
日常業務の中で仕事の目的や背景、人との関わり方を意識的に理解しようと努めることで、知識や経験が蓄積され、状況に応じて最適な判断を導く「直観力」として表れます。
直観力が深まるほど判断の質が高まり、精神的な強さにもつながります。ガッツとは単なる根性論ではなく、目的意識や洞察力と結びついた実践的な力です。
RESILIENCE(レジリエンス=立ち直る力)
RESILIENCE(レジリエンス)とは、逆境にさらされたり新たな挑戦をするときに、強いストレスやプレッシャーを乗り越え、それを糧にして成長する力を指します。
仕事をしていると、思い通りに進まないことや、努力が報われない瞬間にいつか直面するものです。そうした逆境の中で重要なのは、失敗を「終わり」にするのではなく、立ち直って次につなげることであり、これを支えるのがレジリエンスです。
レジリエンスを備えている人は、失敗やストレスを経験しても必要以上に自分を責めることなく、冷静に状況を振り返り、学びを次へと活かすことができます。また、他者の価値観や意見の違いに過度に反発するのではなく、受け止めて自分を適応させる柔軟さも持ち合わせています。
この柔軟性があるからこそ、変化の激しい環境でも持続的に成果を出し続けることにつながるのです。
INITIATIVE(イニシアチブ=自発性)
INITIATIVE(イニシアチブ)とは、自ら課題を発見し、解決に向けて動くことができる力です。
キャリアを積み重ねると、与えられた仕事をこなすだけではなく、イニシアチブ=自発性を発揮する必要があります。
イニシアチブを発揮する人は、常に「この状況をより良くするにはどうすればよいか」という問題意識を持ち、その答えを目標として具体化します。目標を自分の意思で定めるからこそ責任感が芽生え、達成に向けて最後までやり抜く力が自然と強まるのです。
また、イニシアチブを持つ人には信頼が集まりやすい傾向にあります。組織において「仕事が集まる人」とは、単に多くの業務を任されているのではなく、自ら仕事を見出している人です。その姿勢が周囲から評価され、さらに大きな役割を担うことにつながります。
イニシアチブは、組織において自分の立ち位置を強化するだけでなく、自身の成長にも直結します。自ら課題を発見し、主体的に解決していくことで、変化に強い人材になれるのです。
TENACITY(テナシティ=粘り強さ)
TENACITY(テナシティ)とは、粘り強さであり、最後までゴールを目指し続けるための根本的な力です。
どんなに優れた計画やスキルを持っていても、途中で投げ出してしまっては成果にはつながりません。
仕事では、ひとつの課題を解決すれば、次の改善点や新たな課題が現れます。そこで諦めず、試行錯誤を繰り返しながら取り組み続けることで、より良い成果を生み出し続けることができるのです。
また、粘り強さは「考える力」と連動し、相乗効果を生み出します。困難に直面したとき、思考を止めずに「どうすればうまくいくのか」と問い続けるからこそ、新たな解決策が見え、諦めない気持ちが支えられます。
結果として、粘り強さが習慣となり、仕事をやり抜く力が強いものになっていくのです。
やり抜く力を仕事で発揮するポイント

やり抜く力を仕事で発揮するポイントを解説します。
自分の興味や関心を起点に取り組む
人は興味のあることに対しては集中力が続き、自然と高い成果を生みやすくなります。
仕事も同じであり、関心を持てる分野からまず「やり切る」経験を積むことが、次の行動の原動力になるでしょう。
新しい仕事に積極的にチャレンジする
与えられた業務だけにとどまらず、自ら新しい仕事を取りに行くことは、責任感を高め、やり抜く力を育む大きなきっかけになります。
たとえば、新規プロジェクトに立候補すれば、自分の裁量が増える分、成果に対する責任も強まります。そうした挑戦を通じて周囲の期待や信頼を集めることにもつながるでしょう。
ゴールは必ず相手と共有する
「自分なりに満足できたらゴール」という基準は、組織の成果にはつながりづらいものです。
やり抜く力を高めるには、業務を始める段階で目的や条件をしっかり把握し、相手とゴールを共有することが重要です。たとえば、資料作成を依頼された際に「どの層に向けたものか」「どの程度の内容が必要か」を確認することで、成果物の方向性は大きく変わります。
独りよがりな基準に陥らず、相手の視点で完了ラインを見極めることが大切です。
他者への価値提供を意識する
仕事の本質は、自分の成果を通じて相手に価値を提供することにあるといえるでしょう。取引先だけでなく、同僚や上司など、自分の仕事の影響を受けるすべての人が対象です。
たとえ一人で完結する作業であっても、その結果を活用する誰かがいるものです。例えば、正確に仕上げたデータ入力は、その後の分析担当者の効率を高めるかもしれません。自分の役割を「誰かの成果を支えるもの」と捉えることで、やり抜く力は強化されていきます。
満足を超えた成果を目指す
相手の期待を超えた成果を出すことで、信頼はより強くなります。
表に出ている要望を満たすだけでは「当たり前」と評価されやすく、やり抜いたとは感じてもらえないこともあります。
たとえば、納期どおりに資料を仕上げるだけでなく、相手が次に必要とする比較データを先回りして用意しておくと期待を上回る成果となり、継続的な関係や次の依頼につながります。
やり抜く力を持つ人と一緒に働く
最も早く自分のやり抜く力を高める方法の一つは、実際に高い力を発揮している人と一緒に仕事をすることです。
粘り強さや工夫の仕方を間近で見ることは、なによりの学びになります。ただし、やり方をそのまま真似するだけでは十分ではありません。観察から得たヒントを自分の強みや環境に合わせて取り入れてこそ、初めて自分の強みになります。
共に働く機会を成長の場と捉え、自分なりのスタイルを磨く姿勢が大切です。
やり抜く力研修の特長|内省型のワークで自分のやり抜く力を高める

やり抜く力を本当に身につけるには、知識を学ぶだけでは不十分になりがちです。重要なのは「自分自身の経験を振り返り、そこから学ぶこと」です。
そこで取り入れたいのが、過去の仕事における成功体験や失敗体験を棚卸しする「内省型のワーク」です。
「なぜやり抜けたのか」「なぜ途中で諦めてしまったのか」を一つひとつ整理し、自分の行動パターンを浮き彫りにしていきます。さらに、やり抜く力のGRITの4要素と照らし合わせながら、自分の強みと弱みを可視化することで、抽象的な「やり抜く力」を自分ごととして理解できるようになります。
加えて、内省の効果を高めるには上司の関わりも欠かせません。たとえば、上司が面談の場でフィードバックをおこない、期待していることを伝えるといったコミュニケーションによって部下の自己効力感が高まり、「自分ならできる」という前向きな姿勢が育ちやすくなり、「やり抜く力」にもつながるでしょう。
さらに、心理的安全性が確保された職場環境であれば、メンバーは安心して自分の失敗や課題を振り返ることができ、内省がより効果的なものになります。
つまり、やり抜く力の育成には、個人の努力だけでなく、上司のサポートやチームの信頼関係づくりといったマネジメントの視点も重要となるのです。
やり抜く力を身につけ、実行力を高める

やり抜く力は、個人の成果だけでなく、組織の心理的安全性や生産性の向上にもつながる能力です。社会人基礎力のひとつである「実行力」にも関連し、目標達成に向けた行動を最後までやり遂げる力は、変化の大きな時代においてますます価値を増しています。
組織としてやり抜く力を育てるには、本人の内省やチャレンジだけでなく、上司による支援・コミュニケーションも欠かせません。心理的安全性のある環境を整え、期待を伝え、成果につながる経験を積んでもらうことで、やり抜く力は高まっていきます。
人材の定着や成長、組織の持続的な競争力を支えるために、実行力と共にやり抜く力を高めていきましょう。

















