キャリアオーナーシップとは?考え方から具体的施策までをまとめて解説
変化が激しく先行きの予測が困難なVUCA時代において、「キャリアオーナーシップ」という考え方が注目されています。多くの企業が人材の確保や育成を経営課題として抱えており、その解決策のひとつとして従業員のキャリア形成を支援する施策に注目が集まっています。
本記事では、キャリアオーナーシップの基本概念やその重要性を解説します。キャリアオーナーシップを促進する具体的な施策も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
キャリアオーナーシップとは?
キャリアオーナーシップとは、個人が「自分のキャリア」に対して責任を負い、目指すキャリアの実現のために、主体的に取り組む意識や行動のことです。
従来、日本では終身雇用や年功序列を前提とした画一的なキャリア形成が一般的でしたが、働き方の多様化や成果主義への移行により、キャリアの選択肢が多様化しています。変化の激しい現代において、会社や組織から与えられるのを待つだけでは自分の望むキャリアを歩むことは難しくなりつつあります。
そのため、自らが責任者(オーナー)となって将来のなりたい姿や目標(キャリアプラン)を描き、その実現に向けて必要な知識やスキル、経験などを主体的に学び、獲得していくことが大切です。
さらに企業にとっても、従業員一人ひとりがキャリアオーナーシップを持つことは、組織全体の活性化やイノベーションの原動力となります。
なお、よく似た言葉に「キャリア自律」があります。キャリアオーナーシップとほぼ同じ意味合いで使われることが多く、いずれも核心は「自分のキャリアは自分で責任を持つ」という考え方にあります。
キャリアオーナーシップが注目されている理由とは
キャリアオーナーシップへの注目度が高まっている背景には、従来の終身雇用などが変化し、働き方やキャリアが多様化している点が挙げられるでしょう。
「人生100年時代」を迎え、職業人生が長期化する一方で、従来の終身雇用や年功序列といった雇用や人事制度の仕組みは限界を迎えています。そのため、従業員は会社にキャリアを委ねるのではなく、長期的な視点で主体的にキャリアを築く必要性が増しています。
企業側の視点では、ESG投資の広まりもキャリアオーナーシップの重要性を押し上げる要因となっています。とくにSocial(社会)の観点から、企業は人的資本の最大化を目指す必要があり、そのために従業員の自律的なキャリア形成を支援することが求められています。
実際に日本経済団体連合会の調査では、6割以上の企業が「社員本人のキャリア自律を重視する」と回答しています。こうした社会と企業双方の変化が、キャリアオーナーシップの重要性を押し上げているのです。
出典:Society 5.0 時代を切り拓く 人材の育成|一般社団法人日本経済団体連合会
企業がキャリアオーナーシップ促進に取り組むメリット
企業が従業員のキャリアオーナーシップを積極的に支援し、促進することは、単に従業員個人のためだけではなく、企業側にも多くのメリットをもたらします。
従業員の主体的なスキル向上
企業がキャリアオーナーシップを後押しする環境を提供することで、従業員は自らのキャリア目標やありたい姿をより明確に意識するようになります。
その結果、目標達成や理想のキャリア実現のためになにが必要かを自ら考え、主体的にスキルアップや知識習得に取り組めるようになるでしょう。従業員が自らの意思で能力を高めていくことは、優秀な人材の育成につながります。
離職率の低下
「この会社は自分のキャリアプラン実現を応援してくれる」「ここでなら成長できる」と従業員自身が感じられる環境は、企業への信頼感や愛着心を育むことにつながります。キャリアオーナーシップを尊重し、その実現を支援する制度や文化が整っている企業では、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。その結果優秀な人材の流出を防ぎ、離職率の低下につながる可能性があります。
組織パフォーマンスの向上
従業員一人ひとりがキャリアオーナーシップの意識を持つことは、組織全体のパフォーマンスを高めるうえでも重要です。自分のキャリアに責任を持つ従業員は、仕事に対しても当事者意識を持ちやすくなります。
なぜなら、「会社をより良くしていくこと」と「自身のキャリア目標の実現」が重なる部分を見つけ、積極的に行動するようになるからです。そういった従業員が増えれば、結果として組織全体の生産性や競争力の向上につながります。
さらには、組織全体の柔軟性や適応力が増し、イノベーションが生まれやすい企業風土も育まれるでしょう。予測困難な市場環境の変化に迅速に対応していくうえでも大きな力となります。
キャリアオーナーシップ促進のための具体的施策
キャリアオーナーシップは、従業員任せにするだけではなかなか育まれません。主体的なキャリア形成を具体的に後押しする制度や仕組みを企業が用意することが不可欠です。
ここでは、企業が取り組むことのできる代表的な施策をご紹介します。
キャリア意識醸成のための研修・面談制度
従業員が自身のキャリアに向き合うきっかけを作るためには、体系的な研修プログラムと定期的な個別対話の機会を提供することが有効です。たとえば、キャリアデザイン研修などを実施し、自己理解を深め、キャリアオーナーシップの基本的な考え方や手法を学ぶ機会を提供しましょう。
上司との1on1や、専門知識を持つキャリアコンサルタントによるカウンセリングなども、キャリア意識の醸成に役立ちます。なぜなら対話を通じて、従業員一人ひとりが自身の経験や強みを振り返り、自分の考えが整理できるからです。やりたいこと、なりたい姿などが明確になることで、キャリアに対する当事者意識が高まるのです。
自己実現を促進するスキル獲得支援
従業員が自ら描いたキャリアプランを実現していくためには、そのために必要なスキルや知識を習得していくことが欠かせません。会社としてできる支援策としては、以下のようなものが考えられるでしょう。
- ●資格取得支援制度の導入
- ●業務に関連する書籍購入費用の補助
- ●外部セミナーへの参加費補助
- ●eラーニングプラットフォームの提供 など
学習機会を充実させることで、従業員は主体的に学び続け、自身の能力やスキルを高められます。
組織の枠を超える「越境学習」機会の創出
越境学習とは、普段とは異なる環境に身を置くことで、新たな知識やスキル、多様な価値観に触れようという考え方です。普段の職場を離れて新しい環境に身を置くことは、固定観念を打破し、自身のキャリアを新たな視点で見つめ直すきっかけを与えてくれます。
具体的には、グループ会社での業務を経験する社内留学制度、社外の研修プログラムへの派遣、NPO法人などでのボランティア活動(プロボノ)、副業・兼業の許可、異業種交流会への参加支援などが挙げられます。
こうした越境体験は、従業員の自律的な成長を促し、組織に新たな視点やイノベーションをもたらすきっかけにもなり得るでしょう。
多様なキャリアの選択肢の提示
一人ひとりの価値観やライフプランが多様化するなかで、画一的なキャリアパスだけでは個々のキャリアオーナーシップを十分に支援することは困難です。
管理職を目指すコースだけでなく、特定の分野で専門性を高める専門職コースなど複線型のキャリアパスを整備することが有効です。また、計画的なジョブローテーションによって従業員に多様な業務経験を積ませることも、キャリアの可能性を広げるうえで役立ちます。
さらに、従業員が自ら挑戦できる柔軟な人事制度の構築も重要です。社内公募制度や、希望する部署や職種へ自ら応募できる社内FA(フリーエージェント)制度、職務内容や責任範囲を明確にしたジョブ型雇用の導入などを検討することも有効です。
たとえば、ジョブ型雇用では各ポジションの要件が明確であるため、従業員は目指したい役割に必要なスキルを具体的に把握し、主体的に学習を進めることができます。
キャリアオーナーシップの育成に取り組もう
キャリアオーナーシップは、従業員と企業がともに成長するための重要な考え方です。
従業員にとっては、主体的なスキルアップや経験の獲得につながります。他方、企業にとっては、従業員が自律的に考え行動することで、個々の能力が最大限に引き出され、組織全体の生産性向上やイノベーション創出につながります。
つまり、キャリアオーナーシップという考え方は、従業員の成長が企業の成長を支え、企業の成長が従業員に新たな挑戦の機会を提供するポテンシャルを秘めているということです。
本記事で紹介したような研修制度の充実、スキル獲得支援、越境学習の機会創出、多様なキャリアパスの提示といった具体的な施策を継続的に実施し、従業員が自律的にキャリアを考える機会を提供しましょう。