ネガティブ・ケイパビリティとは?意味や具体例とともに鍛える方法も解説
現代社会は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれ、先行きの予測が困難な状況にあります。そのようななかで、「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念が注目を集めています。
ネガティブ・ケイパビリティとは、不確実性、疑い、未知を許容する能力を指す言葉です。本記事では、ネガティブ・ケイパビリティとはどのような能力なのか、なぜ現代社会でこの能力が注目されているのかを解説します。また、この能力を身につけるためのヒントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ネガティブ・ケイパビリティとは?わかりやすく意味を解説
まずはネガティブ・ケイパビリティの定義や注目される背景を確認していきましょう。
ネガティブ・ケイパビリティの意味
ネガティブ・ケイパビリティとは、「不確実性や疑い、未知を許容する能力」のことです。不確実な状況や答えのない問題に直面した際に、すぐに結論を出そうとせずに、その状態を受け入れる力を指しています。
この概念は、もともと19世紀のイギリスの詩人ジョン・キーツによって提唱されました。キーツは、優れた文学者には「曖昧さや疑念のなかにあっても、それを受け入れる能力が備わっている」と考え、そこからネガティブ・ケイパビリティの概念を確立したといわれています。
現代において、ネガティブ・ケイパビリティは医療や看護、心理学の分野で注目されています。また社会環境の変化にともないその価値も派生し、ビジネスシーンでも重要性が高まっています。
ネガティブ・ケイパビリティが注目される背景
現代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれています。グローバル化により世界経済は複雑に絡み合い、先行きの予測が難しくなっています。さらに、テクノロジーが急速に発展し、雇用環境もより一層流動的になっています。このような状況下では、従来の知識や経験だけでは、問題解決が難しくなっているといえるでしょう。
そのような背景から、不確実性に対処する方法としてのネガティブ・ケイパビリティが注目されているのです。
ネガティブ・ケイパビリティに対して「ポジティブ・ケイパビリティ」という考え方もあります。これは素早く問題を解決する力を指しますが、VUCA時代においてはそれだけでは十分ではありません。リサーチや思考をどんなに巡らせても、不確実性や曖昧性を完全に取り除くことはできません。
ネガティブ・ケイパビリティは、ポジティブ・ケイパビリティを補完する役割を果たし、「わからないもの」を冷静に捉えて許容する力の重要性が増しているのです。
ネガティブ・ケイパビリティの具体例
ネガティブ・ケイパビリティは抽象的な概念ですが、日常生活のなかでも発揮される場面は少なくありません。
以上のようなシーンにおいて、ネガティブ・ケイパビリティの考え方が役立ちます。不確実性に対して抵抗したりうろたえたりするのではなく、すぐに状況を許容することで冷静な判断が下せるようになります。
ネガティブ・ケイパビリティを身につけるメリット
ネガティブ・ケイパビリティを身につけることで、困難な状況に直面した際も悲観的にならずに事態を冷静に分析できるようになります。その結果、自分の感情をコントロールする力が高まり、複雑な問題にも落ち着いて柔軟に対応できるようになります。
また、理論や理屈だけにとらわれない、柔軟な思考が養われるのもネガティブ・ケイパビリティを意識するメリットといえるでしょう。現代は、多様性が求められる時代です。バックグラウンドの違う人と互いに理解し合いながら、問題解決をしていく姿勢が欠かせません。ネガティブ・ケイパビリティを意識することで、自分にはない発想や考え方に向き合うことができるようになります。
さらに、ネガティブ・ケイパビリティは創造性や好奇心の源泉にもなりえます。未知の状態を受け入れることは、「まだ世にないもの」「答えのない問題」に対峙することにほかなりません。逆を返せば、ネガティブ・ケイパビリティの考えを取り入れることで、既存の枠組みを超えた新しいアイデアを発想するきっかけになります。
ネガティブ・ケイパビリティを発揮している人の特徴
ネガティブ・ケイパビリティを発揮している人には、いくつかの共通する特徴があります。続いては、そのような人々の特徴を見ていきましょう。
柔軟な思考を持っている
ネガティブ・ケイパビリティが高い人は、一般的に柔軟な思考を持っていることが多いです。物事を多角的に捉え、固定観念にとらわれず、常に新しい可能性を探ります。また、他者の意見にも耳を傾け、自分の考えを柔軟に変化させられるのも特徴といえるでしょう。
感情をコントロールできる
ネガティブ・ケイパビリティを発揮している人は、自分の感情をコントロールすることに長けています。不確実な状況や未知の課題に直面した際にも、感情に流されるのではなく、理性的に状況を分析し、適切な行動を取ることができるのです。また、ストレスフルな状況下でも、自分の感情を上手にマネジメントし、忍耐強く事態の収拾や解決に取り組みます。
強いレジリエンスを備えている
レジリエンスとは、困難にぶつかってもしなやかに乗り越えて状況から回復する力を意味する言葉です。このレジリエンスを持ち合わせているのも、ネガティブ・ケイパビリティを発揮している人の大きな特徴のひとつといえるでしょう。
逆境におちいってもそれをうまく乗り越え、失敗や挫折を恐れず置かれた状況を成長のチャンスと捉えられます。それにより、たとえストレスがかかる状況下でも、心の健康を維持し前向きな姿勢を保てるのです。その意味では、ネガティブ・ケイパビリティ(受け入れる力)とレジリエンス(回復する力)は、切っても切れない関係にあるといってもいいでしょう。
ネガティブ・ケイパビリティを鍛える方法
それではどのようにしたらネガティブ・ケイパビリティの能力を養えるのでしょうか。
最後に、ネガティブ・ケイパビリティの発想を自分のなかに定着させるためのヒントをご紹介します。
状況を意識的に受け入れる
不確実・理不尽な状況に直面した際は意識的に、置かれている環境を受け入れてみましょう。変えられない状況をいくら変えようとしても徒労に終わってしまうことは少なくありません。そのため、環境や相手に対してアプローチをするのではなく、その状況に対する自分の反応を変えることに注力しましょう。
「この状況からなにを学べるか」「どのように対処できるか」と自問自答することで、前向きな姿勢を持ち続けられるようになります。
自分の思考や感情を観察する
自分の思考や感情を客観的に観察することは、ネガティブ・ケイパビリティを鍛えるうえで有効です。とくに、ビジネスシーンにおいては、難しい意思決定を迫られる場面が多々あります。
たとえば、A案とB案のどちらを採用するか迷っている状況を考えてみましょう。両案ともに一長一短があり、不確実性がともないます。このような状況でネガティブ・ケイパビリティを発揮するには、自分の思考や感情を客観的に観察することが重要です。
各案を選んだ場合の結果を予想し、自分の心理的な傾向を内省します。過去の経験や先入観が判断に影響を与えていないかを分析するなどして、自分の内面を俯瞰的に観察してみましょう。そうすることで、状況を多角的かつ客観的に捉えられ、不確実性に対する許容度が強化されます。
解決困難な問題、達成が難しい目標などに遭遇した際にも、うろたえたり諦めたりするのではなく、いったん状況を受け入れて落ち着いて対処できるようになるはずです。
多様な価値観・考え方に触れる
読書、旅行、異業種交流など自分とは異なる価値観や考え方に触れることでも、ネガティブ・ケイパビリティは養えます。自分の常識が絶対ではないことを理解でき、柔軟な思考を身につけられるでしょう。また、意見の異なる人とディスカッションをすることも、視野を広げるうえで効果的です。
VUCA時代のビジネスにおいては、多様な観点から問題を捉え、創造的な解決策を見出すことが重要です。多様性に触れる経験は、ネガティブ・ケイパビリティの育成に役立つと考えられます。
不確実な時代を生き抜く力、ネガティブ・ケイパビリティを身につけよう
不確実な現代社会を生き抜くために、ネガティブ・ケイパビリティは欠かせない能力のひとつです。社会のスピードが上がり、さまざまな情報を得られるようになった今、私たちはついつい答えをすぐにほしがってしまいます。
しかし、社会の変化が激しいからこそ、不確実性や曖昧さは増す一方であり、答えのない問題もまだまだたくさんあります。そのようなVUCAな状況に対して適切に対処するためにも、ネガティブ・ケイパビリティはとても重要な概念といえるでしょう。
そして、ネガティブ・ケイパビリティを鍛えるには、日々の実践が重要です。今回ご紹介した内容を参考に、ネガティブ・ケイパビリティを身につけ、時代の変化に柔軟に適応していきましょう。