企業がキャリアコンサルティングを実施することのメリットと効果について解説
企業内におけるキャリアコンサルティングは、従業員のキャリア形成や、組織開発において重要です。従業員への個別面談による支援だけでなく、経営層に対して、キャリアに関する情報を提供し人事施策や人材育成の改善、マネジメントの見直しを図ることで、組織力強化を目指せます。
本記事では、企業内におけるキャリアコンサルティングとはなにか、その効果や手法について紹介します。
企業におけるキャリアコンサルティングとは
職業能力開発促進法における「キャリアコンサルティング」とは、従業員の職業の選択や職業生活設計、または職業能力の開発・向上に関する相談に応じ、助言および指導をおこなうことを指します。
従業員の能力開発は、企業の成長だけでなく経済・社会の発展にも欠かせないものです。いわゆるバブル経済が崩壊した後、終身雇用制度をはじめとする日本的雇用慣行が衰退し企業と従業員の関係性が変化する中で、「組織外でも活躍できる人材が、組織を強くする」という考えから、企業内キャリアコンサルティングを日本政府も後押ししている現状があります。
厚生労働省がおこなった「令和3年度 能力開発基本調査」によると、正社員に対してキャリアコンサルティングを導入している事業所は41.8%にのぼります。
このことから、従業員のキャリア形成について、積極的に携わり組織強化を図ろうとする企業が多くあることが見てとれます。
キャリアコンサルタントとは
キャリアコンサルタントとは、ハローワークや民間の就業支援機関、教育機関、企業などで、就労支援や個人のキャリアにおける課題解決のために支援をおこなう、キャリアコンサルティングの専門家のことです。
企業内キャリアコンサルタントは、所属する企業にて、従業員のキャリアに関するサポートを行います。
キャリアコンサルティングの目的と効果
すでに企業内キャリアコンサルティングを導入している企業は、どのような目的から導入を決め、どのような効果を感じているのでしょうか。
厚生労働省「令和3年度 能力開発基本調査」によれば、企業内キャリアコンサルティングの導入目的として「労働者の仕事に対する意識を高め、職場の活性化を図るため」(正社員71.7%、正社員以外68.7%)、「労働者の自己啓発を促すため」(正社員65.9%、正社員以外58.7%)と回答する企業が多くありました。
また同調査では、キャリアコンサルティングの効果について「労働者の仕事への意欲が高まった」(正社員50.0%、正社員以外49.8%)、「自己啓発する労働者が増えた」(正社員36.8%、正社員以外30.0%)という回答が多くありました。
これらのことから、企業内キャリアコンサルティングはおおよそ企業の目的通りの効果を発揮していることがわかります。企業内キャリアコンサルティングの実施により意欲の高い従業員が増加すれば、組織力強化を図れるでしょう。
キャリアコンサルティングのメリット
企業内キャリアコンサルティングの実施により、企業と従業員は次のようなメリットを享受できます。
モチベーションの向上
キャリアコンサルタントは、従業員のモチベーション向上を図るために、面談を通して従業員の不安や悩み、会社に望むことを把握し、キャリア形成や能力開発を後押しします。このようなキャリアコンサルティングを通してモチベーションを向上させることで、従業員の定着や自主性の向上を目指せます。
人材育成における課題の解決
キャリアコンサルティングによって、従業員個々の課題が明確になることで、研修をはじめとする課題解決に向けた育成を実施できます。
それにより、従業員個々のスキルの向上やキャリアアップが期待できます。また、面談を通して自社の経営理念やビジョンへの理解を深めることで、それらに照らし合わせた人材育成が可能になるのも利点です。
従業員ごとのキャリアプランの立案が可能
キャリア形成に関する悩みは、従業員の階層によっても異なります。キャリアコンサルティングの実施により、新入社員、若手社員、中堅社員、シニア社員など、それぞれの階層と個人にあわせたキャリアプランの立案が可能です。
キャリアコンサルタントによる面談やアンケートを通して、従業員本人の希望を把握してキャリア形成をサポートできるでしょう。
企業内でのキャリアコンサルティング6つのステップ
企業内キャリアコンサルティングを実施する場合は、次の6つのステップを参考に進め方を検討しましょう。
1.自己理解
従業員自身が、自分に対する理解を深めるプロセスです。従業員は、自身の興味やパーソナリティ、価値観、経歴・経験、取得しているスキルについてあらためて洗い出し把握します。
キャリアコンサルタントは、対象者の興味や適性、スキルの明確化をおこない従業員の自己理解をサポートします。
2.仕事理解
従業員が現在取り組んでいる業務やこれから取り組みたい業務について理解するプロセスです。将来取り組みたい業務については、その業務に求められる能力や、その業務に就くためのキャリアルートを考えることで理解が深められるでしょう。さらにはその先のキャリアについても考えていきます。
キャリアコンサルタントは、従業員に自社の経営方針や企業情報をはじめ、各個人のニーズに合わせた情報を提供します。
3.啓発的経験
従業員が自身のキャリア選択をおこなう前に、目指す職業や職務を体験して、キャリアに対する理解を深めていくプロセスです。
また、今後どのように働きたいのかなどをあらためて明確化し、将来のキャリアの選択肢を考えます。
キャリアコンサルタントは、従業員が職業や職務においてさまざまな経験ができるよう、関係部署などと連携をとりながら従業員を支援します。
4.意思決定
従業員のキャリア選択にかかる意思決定をおこなうフェーズです。従業員は、キャリアの選択肢の中から自身の目指すキャリアを選んでキャリアプランを作成し、自身の将来像を明確にします。
キャリアコンサルタントは、意思決定に必要な追加情報を提供し、短期的・長期的目標の決定を支援します。
5.方策の実行
キャリア形成に向け、実際の取り組みを含め具体的な計画を実行するプロセスです。従業員は、キャリアプランにあわせたスキルや資格取得を目指します。
キャリアコンサルタントは、従業員が新たな部署や業務になじみやすいよう関係部署に働きかけ職場の環境づくりをおこなうとともに、キャリアプランの進捗状況を確認し、都度必要な情報を従業員に提供します。従業員は、キャリアコンサルタントのサポートを受けながら、新たな仕事、または、新たな仕事や役割につくための準備に取り組みます。
6.適応
資格取得や昇進などを実現し、新たな仕事や役割に適応していく段階です。
キャリアコンサルタントは、従業員を育成する環境づくりを支援し、キャリア形成のための土壌づくりに努めます。
企業内キャリアコンサルティングの活用方法
企業内キャリアコンサルティングは、厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック」をおこなううえでも活用できます。
セルフ・キャリアドックとは、従業員のキャリア形成を促進・支援することを目的とした総合的な取り組みのことで、定期的なキャリアコンサルティングやキャリア研修などを組み合わせて実施します。
セルフ・キャリアドックの実施により、従業員のモチベーションの向上や、育児・介護休業者の職場復帰率の向上などの効果を得られるといわれています。そのため従業員はより働きがいをもって業務にあたれるようになるでしょう。企業にとっても、生産性の向上や定着率の向上、人材確保などのメリットが期待できます。
セルフ・キャリアドッグを導入する際には、実施計画の策定や責任者の決定、社内規定の整備とあわせてキャリアコンサルタントの確保などが必要です。円滑に導入できるよう社内体制の整備をおこないましょう。
企業内キャリアコンサルティングの実施が人材と組織を強化する
キャリアコンサルティングを導入することで、従業員の個々のキャリア形成が促進されるだけでなく、モチベーションの向上や組織力強化などさまざまなメリットを享受できます。
企業内キャリアコンサルティングを実施するためには、キャリアコンサルタントの存在が欠かせません。企業内コンサルティングの実施を検討している企業は、体制づくりとあわせて、必要な人材の確保に努めましょう。