DX人材とは?DXの推進に必要な人材の育成方法を解説
IT技術の進展により企業においてデジタルツールの利用が浸透している昨今、デジタルスキル・知識を有する人材が求められています。
とくに重要なのが、政府も後押しするDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応できるDX人材の育成です。DX化を実現するために必要なDX人材とは何か、その育成方法についても解説します。
DX人材とは
DX人材とは、新しいデジタル技術への理解・知識があり、社内にデジタルを浸透させDXを推進し、かつ事業開発力を持つ人材のことです。
IPA(情報処理推進機構)が定めているDXの推進に必要な人材とされる職種には、次の7つがあります。
職種 | 業務内容 |
---|---|
プロダクトマネージャー | DXやデジタルビジネスの実現を主導する |
ビジネスデザイナー | DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進などを担う |
テックリード(エンジニアリングマネージャー、アーキテクト) | DXやデジタルビジネスに関するシステム設計から実装をおこなう |
データサイエンティスト | 事業・業務に精通したデータ解析・分析をおこなう |
先端技術エンジニア | 機械学習、ブロックチェーンなど先進的なデジタル技術を担う |
UI/UXデザイナー | DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当 |
エンジニア/プログラマ | システムの実装やインフラ構築・保守などをおこなう |
このように、一口にDX人材といっても職種はさまざまです。DXへの取り組みを本格的に進める場合、このような職種に対応できる人材を新たに採用するか、社内で育成を進める必要があるでしょう。
DX人材が求められる背景
DX人材が求められる背景には、「政府によるDXの推進」「急速なデジタル化」があります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
政府によるDX推進
デジタル技術の進展による変革は、ビジネスモデルの在り方も変えます。さまざまな分野で既存のビジネスモデルからの脱却とそれにともなう業界地図の刷新が起ころうとしている今、経済産業省は「各企業は競争力の維持・強化のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることが必要」と唱えています。
この背景には「2025年の崖」があります。2025年の崖とは、多くの企業が2025年までにDX化を実現できない場合、2025年以降に最大年12兆円の経済損失が生じる可能性を指す言葉です。
政府は、2025年の崖を乗り越えるためにも、国内企業の競争力強化を目指して企業のDXを推進するさまざまな取り組みを行っています。また、企業もITツールを導入しワークフローのデジタル化や、デジタルツールの活用を想定したサービスの開発などを進めています。
急速なデジタル化
デジタル技術の進展により、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。キャッシュレス決済の浸透や消費活動のオンライン化をはじめとするさまざまな変化に対応し、市場のニーズに応えられる事業を開発していくためには、DXを推進するDX人材の存在が必要不可欠です。
DXの前段階として、業務効率化などを目的にデジタルツールを業務のさまざまな場面で活用する企業が増えています。しかし、DXによる持続的な発展を目指す場合、デジタル技術に明るいだけでなく、DXへの知見やスキルを持つ人材が必要です。
DX人材に必要な2つのスキルとマインド・スタンス
DX人材には、次の2つのスキルとマインド・スタンスが求められます。
技術系スキル
技術系スキルとは、データサイエンスやエンジニアリングに関するスキルのことです。具体的には、AIやビッグデータ、クラウドなどの知識や実装するための構築やコーディングのスキルを指します。このスキルは、システム関連業務をおこなう人材、技術担当者に必須のスキルです。
また、プロダクトマネージャーやUXデザイナーなど、技術者以外も技術系スキルに関する知識を有しておく方がよいでしょう。チームメンバーや顧客と接することの多い職種が技術系スキルを身につけておくことで、技術関係者との情報共有や状況の把握が容易になるほか、サービスを説明する際にも役立ちます。
ビジネス系スキル
ビジネス系スキルとは、ビジネス・サービス設計や組織・プロジェクト管理に関するスキルのことです。ビジネスやサービスの企画立案やプロジェクトの推進、将来像の設計などの知識・スキルを指します。プロダクトマネージャーやUXデザイナーなどに必要なスキルです。
これらの職種においては、リーダーシップや高いコミュニケーション能力、複数部門をまたいでプロジェクトの調整をおこなうスキルや実行力も求められます。
マインド・スタンス
DX人材には、これらハードスキルに加え、次のようなマインドやスタンスも重要です。
・現状を変えたいと考えている
・環境や働き方の変化を受け入れ、自ら学び適応できる
・顧客のニーズや課題に対応するアイデアを、既存の価値観にとらわれず考えられる
・価値創造に向けて、臨機応変に意思決定をおこなえる
・勘や経験のみに頼らず、データに基づいた判断ができる
・顧客に寄り添い、その立場に立って課題を発見しようとする
・フィードバックを得て、反復的に改善をおこなえる
DXにこれから取り組む企業にとって、DXの推進にまつわる業務は未知の領域です。前例のないプロジェクトに取り組むためには、「現状を変えたい」と強く考え、既存の価値観にとらわれず、新たなアイデアを創出しようとするといったマインドを持つ人材の存在が欠かせません。
DX人材に関する課題
企業がDXを実現し、2025年の壁を乗り越えるために必要不可欠なDX人材ですが、すべての企業が十分な人材を確保することは難しいのが現状です。ここからは、企業から見たDX人材に関する課題について説明します。
DX人材の不足
DX人材は市場にそれほど多く存在していないのが現状です。また、DX人材は需要が高いため、採用しようとしても給与など待遇面がハードルとなり獲得が難しいケースもあります。
優秀な人材を獲得するためには、スキルに見合う給与水準が必要です。必要な能力要件を満たす人材を獲得できないことが少なからずあることから、企業は社内でのDX人材の育成もあわせて検討する必要があります。
経営層の理解不足
経営層のDXへの理解不足から、DX人材の獲得・育成に至らないケースもあります。長期的な視点が必要になるDX推進よりも短期的な利益を優先することで、DXの実現が後回しとなり人材の育成にも着手できていない企業は少なくありません。
経営層は、DX化が自社の未来のために必要なものであること、長期的に取り組む必要があること、そのためにはDX人材の存在が不可欠であることを理解する必要があります。
学習機会が不十分
経営層の理解不足などの要因もあり、DX人材を育成するための学習環境が整っていない企業が多くあるのも事実です。また、DX人材が社内に存在しない状態では、先輩社員の業務から学ぶOJTによる育成も期待できません。
DX人材に必要なデジタルスキルやマネジメントスキル、マインドやスタンスを獲得するための十分な学習機会を用意すること、また学んだことを実践する場を用意することが求められています。
DX人材の育成において重要な5つのステップ
これからDXに取り組みたい企業は、DX人材を育成するための環境を構築する必要があります。具体的にどのように取り組めばよいのでしょうか。DX人材の育成に重要な5つのステップをご紹介します。
1. DX人材となる対象者を選定する
まず、DX人材として育成する従業員を選定します。選定の際には、デジタルスキルの高さだけでなく、DX人材に必要な柔軟な思考や探究心を持っているか、高いコミュニケーション能力を有しているかなども判断基準として取り入れるとよいでしょう。
2. 育成過程を可視化・共有する
DX人材として育成された従業員が、どのようにして学び、育ち、成果を上げているのかを他の従業員にも共有します。これにより、社内でDX人材を目指したいと考える従業員が出てくる可能性があります。DX人材を目指す従業員が増えることで、社内全体でDX化への理解が進み、より迅速なDX化につながります。
3. DXのための専任チームをつくる
DX人材を選出し、育成をはじめたあとは、DX推進のための専任チームをつくります。DXへの取り組みは長期的に継続していくもののため、別業務との兼任は難しいでしょう。専任チームをつくることで、学習と実践を同時におこない、DXを推進する環境を構築できます。
4. DX学習環境を整備する
IT関連の基礎知識や先端デジタル技術について学べる研修やeラーニングを用意して、従業員がスキルを獲得できる環境を用意しましょう。データサイエンスやIT・AI関連の各種資格の取得支援なども用意することで、学習意欲の向上も見込めます。
5. デジタルリテラシーの底上げを図る
DX人材として選定された従業員だけでなく、企業全体でデジタルリテラシーを向上させることも重要です。DXは、DX推進担当者だけの努力では実現できません。経営層も含めデジタルリテラシーを向上させることで、より活発な意見交換や円滑なプロジェクト進行が可能になります。
また、後任のDX推進担当者や新たなDX人材の育成のためにも、全社的に研修を実施し、デジタルリテラシーの向上を図りましょう。
経済産業省の「DXリテラシー標準」も活用しよう
DXの人材育成・従業員教育の指標として、経済産業省のDXリテラシー標準も活用してみましょう。DXリテラシー標準は、従業員一人ひとりがDXリテラシーを身につけることで、ビジネスの変革に向けて行動できるようになることを目指し策定されたDXに関する学習のガイドラインです。
DXリテラシー標準の指針では、学習を「DXの背景」「活用されるデータや技術」「データ・技術の活用」「マインド・スタンス」の4つの項目に分け、それぞれどのような内容を学ぶのかを示しています。
「DXについて何から学べばよいのかわからない」「従業員にどのような知識やスキルを身につけてもらえばよいのか具体的に知りたい」という企業は、DXリテラシー標準に照らして学習環境の整備を進めてみましょう。
DX人材の育成がDX推進の第一歩
政府も推進するDX化には、DX人材の存在が欠かせません。しかし、DX人材を新たに獲得できず、思ったようにDX化を進められない企業もあるでしょう。
DX人材は社内で育成することも可能です。DXを推進できる人材の育成を足がかりに、企業全体でDXリテラシーを高めDX化を一歩ずつ進めていきましょう。