企業がアクションラーニングを取り入れるメリットとは?進め方や注意点も解説
業務を行ううえではさまざまな課題にぶつかることも多く、これまで経験したことのない課題について解決を求められる場面もあります。
そのようなときに社員や組織が対応できるよう、自社が抱えている課題を題材に解決手法を考え、振り返りを行うことで問題解決能力やリーダーシップを養成する「アクションラーニング」という手法があります。
本記事では、企業がアクションラーニングを取り入れるメリットを紹介するとともに、どのように進めていけばよいのか、アクションラーニングを実践するうえでの注意点もあわせて解説します。
アクションラーニングとは
はじめに、アクションラーニングとはなにかを紹介するとともに、混同されやすいアクティブラーニングとの違いも解説します。
アクションラーニングの意味
アクションラーニングとは、個人や組織の学習する力を養成する手法のひとつです。現実の課題(生産性向上・販売力の強化など)を題材にグループで議論し、解決するための方法を考え、振り返りを行う過程を通じて、参加者の問題解決能力の向上やリーダーシップ開発につながることが期待できます。
アクションラーニングはもともと1930年代頃、イギリスの物理学者であるレグ・レバンスが考案したのが始まりとされています。
現在では、幹部候補生などを対象に、組織が今抱えている重要性の高い経営課題を題材として扱うことが一般的です。
アクティブラーニングとの違い
アクションラーニングとアクティブラーニングは名前が似ているため混同されやすいですが、異なる学習手法です。アクティブラーニングとは、受講者が能動的に学習に取り組めるよう設計された学習手法を指し、従来の受講者が講義の内容を聞くという受動的で一方通行な手法と対比されるものです。
現場で実際に体験しながら学ぶ方法や、グループディスカッション、ディベートなどの方法があります。アクションラーニングはグループで現実の課題を取り上げることが前提となりますが、アクティブラーニングにはそのような前提がなく、能動的な学習方法の総称を指します。
今回は、対象や課題を限定せず広義でのアクションラーニングの進め方やメリットを紹介します。
企業がアクションラーニングを取り入れるメリット
アクションラーニングを取り入れることで、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
社員の能力開発
アクションラーニングを実践することで、一般的な学習手法と比べてより現実的で業務に則した観点から課題に対する理解力・分析力や、解決のアイデアを創出する思考力などが磨かれます。また、ディスカッションを繰り返すことで質問力や傾聴力などのスキル向上も期待できます。
さらに、アクションラーニングの過程で創出したアイデアを実践して自社の課題が解決できた場合、仕事における達成感を得ることができ、内発的なモチベーション向上にもつながるでしょう。
組織の問題解決能力の向上
アクションラーニングを繰り返していくことで、社員が自発的に課題を見つけ、その課題を解決するために取り組める組織が形成されることが期待できます。
また、アクションラーニングの過程で、自社が抱えている課題に対してさまざまな視点からアプローチして解決方法を見つけることで、今後新たな課題にぶつかった場合でも、培った思考力をもとに有効な対策を講じられるでしょう。
さらに、グループで意見を出し合いながらアクションラーニングを進めていくことでチームワークが醸成され、企業としての組織力向上も期待できます。
企業が抱える問題・課題の解決
アクションラーニングでは、職場における多様なメンバーでグループを編成し、自社が抱えている課題に対して解決方法を考え、実践していきます。そのなかで、課題に対してさまざまな視点が混ざった議論が交わされることで、より優れた解決方法を探し出すことができます。
アクションラーニングの目的は、問題解決能力やリーダーシップを養成することですが、その過程で企業が抱える課題の解決につながるヒントが得られることもメリットといえます。
アクションラーニングの進め方
アクションラーニングの創始者であるレグ・レバンスは、アクションラーニングの実践において問題の本質を探るうえで効果的な、洞察力を伴う質問を投げかけることと、解決策の実行に向けて参加者同士で支え合うことが必要としています。
アクションラーニングはさまざまな手法に派生していますが、今回は進め方の前提を説明した後に、一例として7つのステップに分けて手順を紹介します。
アクションラーニングの進め方の前提
アクションラーニングには2つの基本ルールがあり、実施にあたってはこれらを押さえておく必要があります。
1.質問を中心に進める
アクションラーニングにおける議論の場は「セッション」と呼ばれます。
セッションでは、質問を中心に進め、参加者は質問への回答時に意見を述べることを原則とします。
このルールに沿って、自由に質問が交わされる場をつくることで、質問によってリフレクション(振り返り)を促し、アクションラーニングによる個人の能力開発・課題解決の両方の効果を高めることができます。
2.コーチが必要に応じて介入する
アクションラーニングでは、参加者とは別に、セッションをリードするためのコーチを1名設置します。コーチはセッションのなかで、要点をまとめたり言い方を変えたりしながら、参加者の認識を合わせられるよう介入します。
また、コーチは円滑にセッションを進めるという役割もあるため、時間管理や参加者に対して質問や回答を促すことも求められます。
そのため、セッション全体を見渡せるファシリテーション能力の高い人がコーチに適しているといえるでしょう。
参加者はコーチが介入してきた場合に一旦議論をストップし、コーチの言葉に耳を傾けなければなりません。
1.グループの編成
はじめに、アクションラーニングを実施する少人数のグループを編成します。メンバー全員がセッションに参加し、発言できるよう、4〜6名程度が理想的といえるでしょう。
2.課題の共有
グループ内のメンバーが業務のなかで困っていることや問題に感じていることを出し合い、共有し、課題を決めます。
参加者から意見が出ない場合には、コーチが業務内容を細分化し、「○○の作業で困っていることはないか」と問いかけ、メンバーからの発言を促します。
3.質問の投げかけ
ここからはセッションを開始し、グループのメンバーで質問を繰り返し、課題の本質を探っていきます。質問は、「自由に回答してもらうもの」「より深く考えさせるもの」「より詳しい説明を求めるもの」などを織りまぜ、さまざまな角度から問いかけることで、学習効果を高めることができます。
メンバーからの質問が少ない場合には、コーチが代わりに質問を投げかけたり、メンバーに対して質問を促したりします。
また、認識や理解のレベルが共通となっているか、さらに詳しい説明をしてほしい内容がなかったか、などについてもコーチが確認します。
4.課題の再定義・目標の設定
セッションのなかで議論された内容をもとにあらためて課題を定義してみます。そのうえで、課題を解決するためには何を目標とすべきかをメンバー同士でふたたび議論します。
メンバーの間で具体的な目標が定まらない場合にはコーチが介入し、課題を整理しながら、現状と目指す姿を比較して何が足りないのかを導き出すヒントを与えます。
5.行動計画の策定・セッションのリフレクション(振り返り)
最後に、設定した目標を達成するために具体的にどのような行動をすればよいのかを検討し、行動計画を策定します。セッションの最後には、「今回のセッションがどのように役に立ったか」「どのような質問が印象に残ったか」などのリフレクション(振り返り)を行います。
6.行動計画の実行
セッション終了後には、メンバーは行動計画を実行に移し、後日再びグループで集まる場を設け、結果を振り返ります。
アクションラーニングの注意点
アクションラーニングでは、なぜその課題が発生しているのかを考えるあまり、社員個人や部署、チームの責任の追求に終始してしまうことがあります。しかし、重要なのは、どうしたら解決できるのかといった質問を中心に投げかけ、意見を引き出すことです。
そのためにも、セッションのまとめ役であるコーチの人選は重要です。コーチは課題を深堀りしていったり、助言をしたりする役割があることから、コミュニケーション力や論理的思考力が備わった人材を選ぶことが理想的といえるでしょう。
組織と個人の能力開発にアクションラーニングを取り入れてみよう
アクションラーニングは、自社が抱えている課題に対して、解決策を考えるプロセスを通じて問題解決能力やリーダーシップを養成する手法です。
ビジネス環境が大きく変化している現代において、企業が成長していくためには自社の課題を正しく認識し、自ら解決していく力が求められます。これを実現するためには、社員個人のスキルアップや能力開発が不可欠であり、そのためにアクションラーニングは有効な方法といえるでしょう。
今回一例として紹介したアクションラーニングの進め方を参考に、取り入れてみてはいかがでしょうか。