社会人基礎力診断を新入社員育成に活かすには?~自己評価と評価者評価の差を分析~
マイナビ研修サービスが提供している社会人基礎力診断。社会人基礎力診断では、本人による自己評価と、先輩社員や上司などによる客観的な評価者評価によって社会人基礎力の発揮度合いを確認することができます。
今回、2019年~2021年にかけて新卒で入社した1年目の社員505名を対象とした社会人基礎力の発揮度合いのデータを分析したところ、一部の能力については自己評価と評価者評価の結果にギャップがあることがわかりました。このギャップについて考察するとともに、人事担当者や上司、先輩社員の皆さんに向けて社会人基礎力診断の結果を自社の新入社員育成に活かす方法の一例を紹介します。
新入社員の自己評価から見た社会人基礎力の発揮度合い
新入社員は仲間との活動に自信あり
新入社員の自己評価が高い能力をみると、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力のなかでは「チームで働く力」がもっとも高くなっています。さらに細分化されている12の能力要素の観点でみると、「実行力」「規律性」「柔軟性」「傾聴力」「課題発見力」の順に自己評価が高く、いずれも5段階評価中3.5p以上です。この上位5つの能力要素のうち、「傾聴力」「柔軟性」「規律性」が「チームで働く力」に含まれます。
これらの「チームで働く力」に自信がついたのは、学生時代に部活動やゼミなどチームで活動する機会が多かったからではないでしょうか。更に、仲のよいメンバーで活動する機会が多かったことも要因の一つとして考えられます。具体的には、似たような価値観を持つ仲間内で、比較的従いやすいルールに対する「規律性」を発揮したり、仲間の意見や立場を思いやるために「柔軟性」を発揮したり、仲間の意見や話に耳を傾けようと「傾聴力」を発揮している様子がイメージされます。
また学生時代は、自身が興味を抱くテーマの範囲内で活動する機会が多くなる傾向があります。「チームで働く力」以外にも、興味のあるテーマに対して「課題発見力」や「実行力」を発揮して、自発的に課題を設定したうえで実行に移していたのかもしれません。
「働きかけ力」と「ストレスコントロール力」に苦手意識
次に新入社員の自己評価のポイントが低く、苦手意識を持っている能力をみてみましょう。12の能力要素の観点でみると、「働きかけ力」「ストレスコントロール力」の2つが5段階評価で2p台と、他の能力要素に比べて低い水準となっています。この2つの能力要素に共通するのは、立場や考え方の異なる他者に対する関わりを通じて発揮される能力である点です。
前述した通り、学生生活においては、仲のよい人間関係のなかで過ごす時間が比較的多かったと考えられます。よって、立場や考え方の異なる他者を巻き込んだ活動をする機会が少なかった新入社員にとっては、「働きかけ力」を発揮できる自信がなかったり、ストレスの発生源と距離を置いて過ごしてきた新入社員は「ストレスコントロール力」が低いと認識したりしているのかもしれません。
自己評価の高い能力と合わせて考えると、自分の力が及びやすい範囲では能力を発揮できる一方で、その範囲を外れることには苦手意識があるのではないでしょうか。
評価者評価とのギャップが大きい社会人基礎力
先輩社員や上司などによる客観的な評価者評価と、新入社員の自己評価を照らし合わせてみると、自己評価が高かった上位3つの「実行力」「柔軟性」「規律性」は、評価者評価でも同様に3.5p以上のスコアで上位を占めています。一方で、自己評価と評価者評価で発揮度合いのポイントにギャップがある能力はどのようなものでしょうか。
「ストレスコントロール力」と「発信力」は自己評価より高く評価されている
自己評価よりも評価者評価の方がポイントが高く、本人が自覚しているよりも高く評価されている能力要素には「ストレスコントロール力」や「発信力」が挙げられます。
「ストレスコントロール力」は自己評価が2.84pなのに対し、評価者評価は3.21pとなっています。新入社員はストレスを感じている様子を評価者にはあまり見せないようにしている可能性があります。また、コロナ禍ではリモートワークが増え、新入社員がストレスを感じていることが評価者から見えにくくなったことも要因の一つとして考えらえます。
一方、「発信力」は自己評価が3.08pなのに対し、評価者評価では3.30pと、0.22p高くなっています。近年の新入社員は学生時代からSNSなどを活用して自分の考えを発信することに慣れているイメージがあり、それが評価者の評価にも影響しているのかもしれません。
「傾聴力」や「課題発見力」は自己評価より低く評価されている
一方で、自己評価に比べて評価者評価のポイントが低く、本人が思っているよりも発揮度合いが評価されていない能力要素には「傾聴力」や「課題発見力」が挙げられます。
「傾聴力」は自己評価が3.79pなのに対し、評価者評価では3.56pとなっており、0.23p低いです。新入社員は指示に従って業務をおこなう機会が多く、「傾聴力」を発揮する機会があまりないのかもしれません。
また「課題発見力」は自己評価では3.67pですが、評価者評価では3.45pと、0.22p低くなっています。こちらも、まだ目の前の業務に慣れることに精いっぱいで、課題を発見して提案するような機会が少ないといった要因が考えられます。
新入社員の様子をじっくり観察し対処することを心掛けよう
自己評価と評価者による客観的な評価には、さまざまなギャップがあると感じていただけたでしょうか。新入社員を受け入れる人事担当者や上司、先輩社員は、ギャップがあることを前提に考えて新入社員とコミュニケーションをとる必要があります。ここでは社会人基礎力診断の結果を、新入社員育成に活かす方法をいくつかの視点からご紹介します。
ストレスコントロール力に要注意
自己評価と評価者評価のギャップが大きかった能力要素のうち、「ストレスコントロール力」のギャップが大きい点から読み取れるのは、先輩社員や上司からは新入社員がストレスに対してうまく対処できているようにみえているということです。この点にはとくに注意が必要だと考えられます。
なぜなら、ストレスの感じ方やストレスを感じた時の反応は人によって異なるためです。周囲からはストレスにうまく対処しているようにみえたとしても、表面的にはストレス反応がみえていないだけで、心のなかではストレスを抱えている可能性があるのです。
そのため人事担当者や上司は、新入社員の業務状況の把握に努めることや、社外の人と話す機会や趣味の時間といったストレス解消の術を持ち合わせているかどうか、ヒアリングするなどの対応が不可欠です。
できていることをフィードバック
「発信力」については本人が思っているより発揮できていると評価者評価されたように、本人が自覚していなくても実際にはできていることが誰にでもあるはずです。人事担当者や上司、先輩社員は、発揮できている能力についてしっかりと本人にフィードバックすることが大切です。そうすることで新入社員は自信をつけ、より能力を発揮しやすくなるのではないでしょうか。
能力を伸ばし、発揮できる機会を提供
社会人基礎力診断を通じて評価が低い能力が明らかになったら、それらを伸ばし発揮できるような取り組みにも繋げられます。自己評価も評価者評価も低い能力については、業務経験を通じて失敗や成功を重ねていき徐々に伸ばしていく必要があります。そのためには、少し難しい業務にも挑戦させる機会を提供することが必要です。
また「傾聴力」や「課題発見力」にみられたような、自己評価は高いにもかかわらず評価者評価が低い能力については、思うように発揮できていない場合と、実際に能力が身についてない場合の両方が考えられます。新入社員が実際の業務で能力をどれくらい発揮できるのか見極めるためにも、その能力を要する業務に就いてもらうことで能力が発揮されたり、身につけたりできる可能性があるでしょう。
新入社員の自己評価だけに頼らない
データからわかる通り、自己評価と評価者評価とのあいだにギャップが生じることがあり得ます。自己評価が低かったとしても、単に発揮する機会が少ない可能性や、発揮の仕方がわからないだけの可能性もあります。また、自己評価の方が評価者評価に比べて高い能力については、すでに発揮できているにもかかわらず、先輩社員や上司にうまく伝わっていないだけかもしれません。
大切なのは、新入社員の自己評価だけに頼ることなく、新入社員を取り巻く周囲からみた能力の発揮度も合わせて確認し、現状を把握することです。人事担当者や上司が自己評価を鵜呑みにして、評価の高い能力を発揮しやすい業務だけを割り振ってしまうのは危険です。若いうちは実施する業務の幅を狭めずに、さまざまな経験を通じて本当の能力を測ったり伸ばしたりしていく期間を大切にしましょう。
まとめ
社会人基礎力診断は、社会人として仕事をするうえで必要な能力の発揮度合いを体系的に把握するために有効なツールです。新入社員に経験させる業務内容や成長の方向性を決める際には、社会人基礎力診断を活用し、自己評価と評価者評価の双方の視点から、現状をしっかりと把握するところからはじめてみてはいかがでしょうか。