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心理的安全性の研究変遷と展望

2025年11月12日更新

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目次 【表示】

【はじめに】

「心理的安全性(psychological safety)」は、近年、組織開発や人材マネジメントの分野で注目を集めている概念であり、耳にすることも多いのではないでしょうか。しかし、この「心理的安全性」は、実は定義や研究の文脈が一様ではなく、異なる背景や目的のもとで語られてきたという変遷があります。

本稿では、Schein、Kahn、Edmondsonの3者の研究に焦点を当てて、「心理的安全性」の生まれから発展、現状までを整理しています。心理的安全性を正しく理解し、職場や日常に活かすヒントとしてご活用ください。

【環境条件としての心理的安全性】

心理的安全性という概念を最初に提唱したのは、Edgar Scheinです。
彼は、組織内の人間関係の質や対話・観察を重視したコンサルティング手法である、「プロセス・コンサルテーション」を開発した研究者として知られています。

1965年の著書では、組織変革の研究において、レヴィンが提唱した「3段階モデル」の第1段階である解凍(変革の必要性や動機づけが高まる段階)に注目し、個人が新しい刺激を学びへの欲求につなげるためには、心理的安全性が重要な環境条件であることを明記しています。

【個人の状態としての心理的安全性】

Scheinが組織にとって必要な要素として提唱していた心理的安全性を、個人の状態として捉え直したのが組織行動学の研究者であるWilliam A. Kahnです。個人の仕事に対するエンゲージメントの研究を行っていたKahn(1990)は、人々がどれだけ仕事に積極的に関与するかを決める条件の1つに「安全性(safety)」があると述べています。

この論文でKahnは、心理的安全性を「自分自身を安心して表現し、活用できると感じること、つまり自尊心や地位、キャリアに悪影響が及ぶことへの恐れがない状態」と定義し、心理的安全性が高い人は自分らしさを出すことへの恐怖心が軽減され、より主体的に仕事に取り組めるとしました。

さらに、心理的安全性に影響を与えるものについても研究をしており、①周囲に支えてもらえる・信頼できるような関係があるか ➁チーム内やチーム間における力関係③上司がどれだけ支援的かつ明瞭で、チャレンジを応援してくれるか ④組織内での共通認識 の4つが挙げられています。

【チーム内の信念としての心理的安全性】

組織対象の研究では「組織変革に必要な要素」として、エンゲージメントの研究では「個人の状態」として扱われてきた心理的安全性ですが、1990年代終わりにはチームの学習行動という文脈でも登場するようになります。

心理的安全性を「チームが対人リスクを取ることに対して安全だという、メンバー全員が共有する信念」と定義したEdmondson(1999)は、米国の家具メーカーに属する51のチームを対象に実証研究を行い、心理的安全性が学習行動(失敗を含めた情報共有、フィードバックを求めるなどの行動)を促進し、それによってチームパフォーマンスが向上することを明らかにしました。

学習行動には、失敗を共有する・疑問や異論を発信するといった、対人リスクや不安を伴いやすいものが含まれています。発言しても恥をかかない・拒絶されない・罰せられないという、共有された信念が、こういった脅威を軽減するものとして機能しているのです。

Edmondson(1999)が提唱した“心理的安全性=チームの共有された信念”という枠組みは、以降の多くの研究で標準的な考え方として採用され、心理的安全性研究の基盤となっています。

【効果と要因】

前章ではEdmondsonによる心理的安全性の効果についてご紹介しましたが、さまざまな研究者によって、心理的安全性が与える影響が明らかになっています。

Espedido & Searle(2021)の研究では、心理的安全性が意見の発信といった行動によい影響を及ぼすことが示され、Wang Xら(2020)の研究では、心理的安全性と自己効力感が、学習行動の促進を通じてパフォーマンスに好影響を与えることが示されています。

さらに、組織レベルへの効果については、Anderssonら(2020)が行った中小企業を対象にした研究において、心理的安全性がイノベーティブな成果(組織学習や新たな知識の創造)と正の関係があることを明らかにしています。

また、2003年~2021年に発表された、心理的安全性に関する185本の論文を調査したEdmondson & Bransby (2023)は、心理的安全性がエンゲージメントや仕事満足度に影響することを示す定量研究が多数存在することを明らかにした上で、心理的安全性は職場でのストレスや負担を軽減し、支援的で包摂的なチームの雰囲気をつくる上でも重要な役割を果たすことを示唆しています。

こうした知見から、心理的安全性は個人から組織全体に至るまで、能力や可能性を引き出すための重要な要素である可能性が示唆されています。

では、心理的安全性を高めるにはなにが必要なのでしょうか。このテーマについては多くの研究が行われていますが、やはりリーダーの影響はよく指摘されています。

Edmondson(1999)は、リーダーとの良好な関係が心理的安全性に強く影響することを示しました。さらに、後続の研究では、リーダーの具体的な行動として「傾聴(話し手に注意を向け、内容を理解し、善意をもって耳を傾けること)」や「透明性(情報を積極的に共有し、フィードバックを受け入れ、意思決定の理由や動機を率直に説明すること)」が、心理的安全性を高める要因であることが明らかになっています。

また、Frazierら(2017)は、「自律性(自分で重要な意思決定を行えること)」「業務の相互依存性(メンバー同士が協力し合う必要があること)」「役割の明確さ(自分にどんな役割が期待されているかが明確であること)」が心理的安全性によい影響を与えると述べています。リーダーがこれら3つの要素を意識した行動を取ることで、心理的安全性の向上が期待されます。

【今後見込まれる研究の伸びしろ】

心理的安全性は、個人・チーム・組織レベルのパフォーマンスやエンゲージメント、創造性など、多様な側面によい影響をもたらすことが多くの研究で明らかになっています。こうした知見から、心理的安全性は現代の組織において重要な役割を果たす要素であり、今後も注目され続けるテーマであると考えられます。

一方で、心理的安全性の研究には依然としていくつかの伸びしろが存在します。たとえば、これまでに発表されたレビュー論文などでは、次のようなものが指摘されています。

心理的安全性の定義や尺度の統一

心理的安全性という概念は広く使われている一方で、その定義や測定方法(尺度)は研究ごとに異なる場合があります。

たとえばEdmondson & Bransby(2023)は、心理的安全性に関する定義や尺度が複数存在し、研究によって「個人レベル」「組織レベル」など異なる枠組みや質問項目が用いられていることを指摘しています。また、Frazierら(2017)のメタ分析でも、「職場の安全性をどう感じているか」に着目したものなど、定義の揺れが言及されています。

こうした違いは、研究成果の比較や実務への応用を難しくする一因ではありますが、裏を返せば、心理的安全性という概念が多様な職場環境や目的に応じて柔軟に活用されていることの表れともいえます。

今後、定義や尺度の整理・統一が進むことで、研究成果の比較がしやすくなり、実務への応用もより効果的に行えるようになることが期待されます。人事領域においても、現場に合った形で心理的安全性を活かす取り組みが、ますます広がっていくでしょう。

ダイナミズムの解明

Edmondsonによる1999年の実証研究以降、心理的安全性は多くの研究者によって検討され、職場にポジティブな影響をもたらすことが繰り返し示されています。

その一方で、心理的安全性がどのように形成され、維持され、時には失われるのかといった変化のプロセスや因果関係については、まだ十分に明らかになっていません。Edmondson&Zhike(2014)は、心理的安全性の職場への有効性が「多くの研究間で一貫して見られる」としながらも、心理的安全性を変化し続けるものとして捉える必要性を指摘しています。

その構築・減少・破壊のメカニズムに関する理解は発展途上ですが、これは人事やマネジメントの現場で、心理的安全性を「育てるもの」として意識的に関わることの重要性を示唆しています。
こうしたメカニズムの解明には、長期的かつ多面的な研究が必要とされますが、現時点でも「なにが心理的安全性を高めるのか」についての知見は少しずつ蓄積されています。

したがって、完璧な理解を待つのではなく、今ある知見を参考にしながら、日々の関係性や職場環境づくりに丁寧に向き合っていくことが、心理的安全性の維持・向上に繋がる可能性があると考えられます。心理的安全性は一度築けば終わりではなく、変化し続けるものだからこそ、日々の関わりの中で意識を向けていくことが、健全な組織運営にも寄与するのではないでしょうか。

文化圏による差異の加味

心理的安全性に関する研究の多くは、英語圏を中心に進められてきました。Edmondson&Zhike(2014)は、非西洋諸国を対象とした研究において、心理的安全性の本質やその重要性は共通しているものの、文化的背景に応じた測定方法の調整が必要となる可能性を指摘しています。

こうした文化的背景の違いとして挙げられる一例が、雇用形態の違いです。たとえば、アメリカなどでは職務内容や役割が明確なジョブ型雇用が主流である一方、日本では総合職採用が多くを占めており、職務や役割に対する明確な認識の度合いに違いが生じている可能性があります。

前述の通り、役割の明確性は心理的安全性によい影響を与えることが示されており、チーム内での役割を明確にし、それをメンバーが共有・認識している状態をつくることは、心理的安全性の向上に繋がるかもしれません。

【むすび】

心理的安全性は、個人の積極的な行動や学習、チームの協働、組織の創造性や成果にまで影響を及ぼすことが、これまでの多くの研究によって示されています。その効果は、エンゲージメントや満足度、パフォーマンス、学習行動など、幅広い領域にわたっており、現代の組織において欠かせない要素の一つといえるでしょう。

一方で、心理的安全性の定義や測定方法の統一、変化のメカニズムの解明、文化的背景への対応など、理解をさらに深められる余地も残されています。これらの点については、今後の研究の進展によって、より実践的で汎用性のある知見が得られることが期待されます。

心理的安全性は、一度築けば終わりではなく、日々の関係性や環境づくりの中で育まれていくものです。現時点で得られている知見を活かしながら、組織の状況に応じた工夫を重ねていくことが、個人やチームの力を引き出し、健全で活力ある職場づくりにつながっていくのではないでしょうか。

【文献】
Amy Edmondson(1999), Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams, Administrative Science Quarterly, Vol. 44, No. 2 (Jun., 1999), pp. 350-383.
Amy C. Edmondson1 and Zhike Lei(2014), Psychological Safety: The History, Renaissance, and Future of an Interpersonal Construct, Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1, 23–43.

Amy C. Edmondson and Derrick P. Bransby(2023) ,Psychological Safety Comes of Age:
Observed Themes in an Established Literature, Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 10, 55–78.
Castro, Dotan R. Anseel, Frederik Kluger, Avraham N. Lloyd, Karina J. Turjeman-Levi, Yaara. (2018), Mere listening effect on creativity and the mediating role of psychological safety, Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 12(4), 489–502.

Espedido A, Searle BJ. (2021), Proactivity, stress appraisals, and problem-solving: a cross-level moderated mediation model, A cross-level moderated mediation model. Work & Stress, 35(2), 132–152.

Frazier ML, Fainshmidt S, Klinger RL, Pezeshkan A, Vracheva V.(2017),Psychological safety: a meta-analytic review and extension, Personnel Psychology, 70, 1113–65.
Han Y, Hao P, Yang B, Liu W. (2017) , How leaders’ transparent behavior influences employee creativity: the mediating roles of psychological safety and ability to focus attention, Journal of Leadership &Organizational Studies, 24, 3335–44.

Wang, X., Guchait, P., & Paşamehmetoğlu, A. (2020). Tolerating errors in hospitality organizations: Relationships with learning behavior, error reporting and service recovery performance. International Journal of Contemporary Hospitality Management, 32(8), 2635–2655.

William A. Kahn, (1990), Psychological Conditions of Personal Engagement and Disengagement at Work., The Academy of Management Journal, 33(4), 692-724.

著者プロフィール清水 茉那映(しみず まなえ)
2021年に株式会社マイナビへ入社。医療資格者向けの転職支援を担当した後、人材・組織開発領域の研究・開発職として、大学機関・研究者との共同研究に従事。科学的根拠に基づき、企業が抱える人材課題に対して、ソリューションの構築を行っている。
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