リスキリングとリカレント教育の違いとは?意味や導入ポイントを徹底解説

「リスキリング」と「リカレント教育」の違いがよくわからない、もしくは自社の施策においてどちらを活用すべきか判断に迷うことはありませんか?DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により事業環境や求められるスキルが急速に変化する中、企業の持続的成長には、経営戦略や人材ポートフォリオに合致した学び直し施策の設計が不可欠です。
この記事では、両者の定義・意味や違い、注目される背景、メリット・デメリットについて解説します。さらに、導入手順や活用できる助成金制度もご紹介します。
「リスキリング」と「リカレント教育」の違いとは
リスキリングとリカレント教育は、どちらも学び直しを意味しますが、実施主体や目的に明確な違いが存在します。それぞれの具体的な意味と定義を見ていきましょう。
リスキリングとは
リスキリングは、主に企業が中心となり、従業員に新たなスキルを習得させる取り組みです。経済産業省は「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること/させること」と定義しています。
最大の特徴は、現在の職務を離れずに、働きながら新しい知識を習得する点です。近年では特に、DX推進や業務のデジタル化に伴い、データ分析などのデジタルスキル習得が中心となるケースが多く、企業側が学習の場や費用を提供することで組織全体の生産性向上や競争力強化を目指します。
リカレント教育とは
リカレント教育は、高校や大学など一定の教育を修了した後、再度スキルアップや自己研鑽を目的として就学して学び、就学と就労を生涯にわたり繰り返す教育制度のことを指します。スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン氏によって提唱され、1970年に「経済協力開発機構(OECD)」の教育政策会議で取り上げられたことで、欧米を中心に認知されていきました。
日本では、働きながら夜間や休日に学ぶスタイルも一般的で、長期的なキャリア形成のための「自己投資」としての側面が強いのが特徴です。
リスキリングとリカレント教育が注目されている背景
なぜ、今学び直しが重要視されているのか、3つの背景を解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な推進
AIやクラウド技術の発展により、ビジネスモデルの根本的な変革が加速しています。これに伴い、デジタル技術を活用できる人材需要が急増していますが、市場の供給が追いつかず、深刻な人材不足が多くの企業の課題です。
採用市場の競争が激化している昨今、社内で専門人材を育成するリスキリングが急務となっています。
働き方の変化とジョブ型雇用の拡大
従来の終身雇用制度や年功序列のしくみが崩壊し、個人の能力や専門性を重視する「ジョブ型雇用」の導入を前向きに検討する企業が増加傾向にあります。会社に依存するのではなく、自身の市場価値を高めていく「自律型人材」への期待が高まっているのです。
変化の激しい環境で成果を出し続けるには、最新のトレンドや知識を吸収し続ける姿勢だけでなく、古い知識を捨てる「アンラーニング」も不可欠です。キャリアの流動化が進む中で、どのような環境でも通用するスキルを磨くことは、働く個人にとって避けて通れない課題となっています。
人生100年時代の到来と雇用の多様化
平均寿命の延伸に伴い、社会人として働き続ける期間も必然的に延びています。そのため、ライフステージの変化に合わせた柔軟なキャリア形成が欠かせません。
また、定年退職後のセカンドキャリアを見据えて、中高年層が新たな分野に挑戦するケースも増えています。特に長期的な視点で自身のキャリアを描き、必要なタイミングで教育の場へ戻るリカレント教育のサイクルは、人生を豊かにする重要な手段となっています。
リスキリングとリカレント教育のメリット
ここからは、リスキリングとリカレント教育のそれぞれのメリットを見ていきましょう。
リスキリングのメリット
<企業側>
企業にとっての大きなメリットは、外部採用に頼らず、自社理解の深い人材を育成できるため、採用コストを大幅に削減できる点です。また、従業員のモチベーションアップや帰属意識を高めることに繋がり、優秀な人材の離職を防ぐ効果も期待できます。
さらに、社内に最新スキルと持つ人材が増えることで、新規事業への展開もスムーズになり、組織全体の活性化に寄与します。
<個人側>
個人にとっては、現在の収入を維持しながら企業負担で専門スキルを習得できるという点が大きな魅力です。実務に直結したスキルを習得することにより、社内での活躍はもちろん、将来のキャリアの選択肢が広がり、自身の市場価値を高められます。
リカレント教育のメリット
<企業側>
外部での教育機関で専門的な知見や幅広い視野を養った人材を迎え入れることは、組織に新しい風を吹き込み、イノベーションを創出するきっかけとなります。従業員が自律的に最新の知識や技能を習得し、専門性を磨くことで、個々の業務効率が改善され、結果として企業全体の生産性向上に繋がります。
<個人側>
新たなスキルや知識の習得は、昇進や昇格、キャリアチェンジといったキャリアの可能性を大きく広げ、市場価値の上昇に直結します。また、学びの場での異業種交流は、多角的な視点や新たなビジネスアイデアを生むネットワークの構築にも役立ちます。
リスキリングとリカレント教育のデメリットと課題
リスキリングとリカレント教育それぞれにメリットがある一方で、デメリットもあります。それぞれのデメリットについて見ていきましょう。
リスキリングのデメリットと課題
<企業側>
導入にあたり、施策設計から研修プログラムの開発、外部講師の選定など、人事の時間とコストを要する点が課題です。さらに、導入目的が不明確なままでは受講自体が目的となり、制度が形骸化しやすいため、目的の周知や受講者のモチベーション維持の工夫も求められます。
<個人側>
学習時間の確保が懸念点として挙げられます。通常業務と並行して学びを進める必要があるため、肉体的・精神的な負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。
リカレント教育のデメリットと課題
<企業側>
従業員が学びやすいよう、休職制度や時短勤務、フレックスタイム制といった労働環境の整備が不可欠です。学習者をフォローする周囲のメンバーへの負担増を防ぐための体制構築も欠かせません。
また、社外で高度なスキルを得た人材がそのまま離職してしまう可能性もあり、リカレント教育を施策として取り入れるだけでなく、その後の社内でのキャリアパスや計画も併せて考える必要があります。
<個人側>
長期的な学習に対して、職場や家族の十分な理解を得るのが難しいケースがあります。特に、離職・休職を伴う場合は、一時的な収入減やキャリアの空白期間が生じるという経済的・心理的リスクを伴うことも。
また、習得したスキルが再就職の現場で必ずしも正当に評価されるとは限らないという、評価の不透明さも課題として残ります。
リスキリングとリカレント教育はどちらを選ぶべきか
選択や導入に迷ったときは、学習の目的と誰が主導するのかを基準に判断しましょう。
リスキリングが適しているケース
リスキリングは以下のようなケースに適しています。
<企業>
- ・外部採用に頼らず内部で人材を育成したい
- ・事業変革、DX推進を早急に実現したい
<個人>
- ・安定した収入を確保しながら学び直しをしたい
- ・社内での評価向上や昇進に直接結びつけたい
リスキリングは、業務と直結したアップスキリングに適しています。
リカレント教育が適しているケース
リカレント教育は、以下のようなケースに適しています。
<企業>
- ・福利厚生として従業員のスキルアップを支援したい
- ・自主的な学び直しを促し、外部の高度な知見を取り入れたい
<個人>
- ・全く未知の分野へ挑戦したい、本格的なキャリアチェンジを志している
- ・教養や人間力を深めたい
- ・育児や介護などからの社会復帰するための準備期間にあてたい
- ・収入やキャリア面に余裕がある
根本的な学び直しを求めるなら、リカレント教育が適しているといえます。
リスキリング・リカレント教育の導入のポイント
ここからは、企業におけるリスキリング・リカレント教育の導入ポイントを解説します。
リスキリングの導入ポイント
リスキリングの成功には、まず従業員が継続して学べる環境作りが欠かせません。単に講座を案内するだけでなく、勤務体制の調整や費用の会社負担といった、無理なく続けられる制度設計を整えましょう。
また、組織全体の生産性向上や競争力強化など目的を従業員に周知することで、企業の成長に必要なスキルの習得を促せるでしょう。加えて、既存スキルと不足しているスキルの可視化をおこなうことで、ミスマッチのない教育が可能になります。
自社での完結が難しい場合は、オンライン学習プラットフォームや外部研修機関の活用もひとつの手です。外部の知見を取り入れることで、時間やコストを抑えながらスムーズに成果を引き出すことに繋がります。
リカレント教育の導入ポイント
リカレント教育を推進するには、まず学習時間を確保できるよう労働環境を根本的に整備する必要があります。ほかにも「リカレント教育制度を利用して就学している期間は有給、無給のどちらにするのか」「リカレント教育によって得られたスキルや知識をどう評価するのか」など各人事制度の調整も求められるでしょう。
学びの成果を昇給や昇格の判断材料として明確に定義し、努力がキャリアアップに直結する評価制度を構築することが、従業員の意欲を最大化させるカギとなります。
また、学びを宝の持ち腐れにしないためには、修了後に習得した高度な知識やスキルを活かすことができる適材適所の人材配置が重要となります。
リスキリング・リカレント教育に活用できる助成金・支援制度
ここからは、リスキリング・リカレント教育に活用できる補助金や支援制度を紹介します。
人材開発支援助成金(企業向け)
雇用する労働者のキャリア形成を効果的に促進するために、職務に関連した専門的な知識や、技能を修得させるための職業訓練などを受講させる企業に対して支給される助成金です。実施した職業訓練にかかる経費や訓練期間中の賃金が一部助成されます。人材育成支援コースや教育訓練休暇等付与コースなど、7つのコースがあります。
教育訓練給付制度(個人向け)
労働者の主体的な能力開発への取り組みや中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とした給付金です。厚生労働省が指定する教育訓練を修了した際、受講費用の一部がハローワークから支給されます。
リスキリングとリカレント教育に関するよくある質問
最後に、リスキリングとリカレント教育について、多くの方が抱きやすい疑問をまとめました。不安や迷いを解消するためのヒントとしてご活用ください。
リスキリング・リカレント教育と生涯学習の違いは?
リスキリングとリカレント教育、生涯学習との違いは、目的や対象範囲です。
- ・生涯学習:人生を豊かにする趣味や教養を含むあらゆる学び
- ・リスキリング:企業の戦略にもとづき、実務スキルを習得する
- ・リカレント教育:教育と就労を交互に繰り返し、専門性を深める
豊かな人生を目指すのが生涯学習、市場での生存戦略として職業能力を磨くのがリスキリング・リカレント教育といえます。
リスキリングとリカレント教育の両方を同時におこなうことはできる?
リスキリングとリカレント教育のアプローチを組み合わせることは十分に可能です。たとえば、平日は会社の制度を利用し、実務に必要なデータ分析の手法を学び、週末には個人の興味にもとづき大学の公開講座で学ぶといった並行学習のスタイルが考えられます。
リスキリングとリカレント教育は今後も必要になる?
社会人の絶え間ない学び直しは、一時的な流行ではなく、今後のビジネス社会において生存戦略として定着していくでしょう。特に、AIなどの普及により、既存業務の自動化が進む中、人間にしかできない創造的な役割へのシフトが求められています。
企業も個人も、一度学んで終わりにするのではなく、時代の要請に合わせて知識をアップデートし続ける循環型のキャリア構築こそ、不確実なビジネス環境を生き抜くための確実な武器となるはずです。
リスキリングとリカレント教育の導入にはどれくらいの費用がかかる?
1人当たり数万円のオンライン研修、数十万円の外部講師派遣や養成講座・専門学校、数百万円の大学通学までさまざまです。経済的な負担を減らすために、人材開発支援助成金や教育訓練給付制度などの制度があります。
リスキリング・リカレント教育を実施している企業事例を教えてください
<リスキリング>
複数の大手企業では、DX企業として変革するため全従業員が活躍できるよう、独自のプログラムやコースを導入。e-ラーニングやワークショップなどの学習機会を提供しています。
<リカレント教育>
チームに戻れる安心感を持ちながらチャレンジできるよう、企業独自の時短・休暇制度を導入した企業があります。また、全従業員への学び手当や資格取得に応じた報奨金を設け、自発的に学ぶ環境を整えている事例もあります。
リスキリングとリカレント教育を活用し、企業の成長へ繋げよう
この記事では、リスキリングとリカレント教育の違いや導入のポイントについて解説しました。人生100年時代を迎え、リスキリングとリカレント教育による学び直しは、企業と個人の持続的な成長に欠かせない戦略です。
企業は助成金などを上手に活用して学習環境を整え、個人は自律的にキャリアを磨き続ける。この双方がマッチすることで、変化の激しい時代を生き抜く組織とキャリアが構築されます。
自社の課題に合わせ、双方の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

















