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【研究員コラム】周りの環境から影響を受けやすい「HSP」とは ~企業が「HSP」を考えるメリット~

2021年09月27日更新


近年、企業にはダイバーシティの理解とそれに応じた対応が求められています。ダイバーシティとは、人材の多様性に目を向け、様々な人材を活用し、個々が能力を発揮しやすい環境を作ろうとする考え方です。人材の多様性は、年齢・性別・国籍などの表層的な要素と、個人の価値観や性格特性、気質などの深層的な要素に分けられます。

本コラムでは、ダイバーシティの深層的な要素に着目し、そのなかでも昨今注目されている「HSP」という気質を取り上げます。「HSP」を知り、人材の多様性を捉えるヒントとなれば幸いです。

目次 【表示】

HSPとは

最近、書店などでは「HSP(繊細な人)」に関する書籍を多く見かけます。「HSP」とはどのような概念なのでしょうか。

「HSP」は、Highly Sensitive Person(とても敏感な人)と言われ、エレイン・N・アーロン博士が1996年に名付けたもので、比較的新しい概念です。「HSP」は病気ではなく、生まれ持った個人の気質であるとされます。「HSP」の気質を持っている割合は人口全体の15~20%程度で、「5人に1人があてはまる」とされます。

アーロンは「HSP」を感覚処理感受性が高い人と定義しています。感覚処理感受性とは、周囲の環境からの刺激によって感受性がどのくらい高まりやすいのかを測定するものです。

感覚処理感受性は主に3つの因子に分類されます。感覚処理感受性が高いと起こる特徴を以下の表にまとめます。

因子 因子の内容 高いと起こる特徴(行動への表れ)
易興奮性 様々な刺激(外部刺激だけでなく、自身の
内的な感情等の刺激を含む)に対する
影響のされやすさ
大勢の前で緊張しやすい
他人の気分や感情に振り回されやすい
周囲の変化に気づきやすい
低感覚閾 感覚閾値の低さ
小さな刺激に対する反応のしやすさ
周りの音が気になる
サイレンや大きな音で不快になる
静かな場所を好む
美的感受性 美的な刺激やポジティブな刺激に対する
影響の受けやすさ
精神生活が豊かで、芸術や音楽などに
感動しやすい
ポジティブな感情や出来事から
良い影響を受けやすい

 
また、感覚処理感受性の因子は、さらに2つのグループに分けて考えることができます。

ネガティブな環境刺激に対する感受性 ポジティブな環境刺激に対する感受性
易興奮性(緊張・混乱)
低感覚閾(不快感・煩わしさ)
美的感受性(ポジティブな感情・幸福感)

 
感覚処理感受性が高いと、たとえば、大きな音や他人のイライラしている感情から悪影響を受けやすい反面、映画や芸術作品からの良い影響も受けやすくなります。つまり、「HSP」とは、周囲の環境からポジティブな刺激もネガティブな刺激もどちらも多く受けやすい人といえます。

HSPに関する研究


「HSP」は、現在も心理学などの分野で多く研究されています。ここで、「HSP」に関する研究を3つご紹介します。

研究1

大学生23人に大縄跳びをしてもらい気分の変化を測定した研究(※1)があります。 参加者のうち「感覚閾値」が低いグループ(HSPの気質が高いグループ)は、運動後に安定度(落ち着いた気分状態)と快適度(快適な気分状態)が大きく下がりました。

逆に、「感覚閾値」が高いグループ(HSPの気質が低いグループ)は、運動後に安定度と快適度が上昇しました。この研究から、同じ条件下でも、「HSP」の気質が高い人と低い人とでは、結果に違いが出ることが分かりました。

研究2

日本人の成人4,333 名(平均年齢49.05 歳)に対して行った研究(※2)では、「HSP」の傾向が強い高敏感群の方が、「HSP」の傾向が弱い低敏感群や中敏感群よりも、「人生に対する満足度(大体において私の人生は理想に近い、など)」と「自尊感情(私は自分に満足している、など)」の得点が低い結果となりました。

また、低感覚域と易興奮性が高いと「人生に対する満足度」と「自尊感情」が下がり、美的感受性が高いと「人生に対する満足度」と「自尊感情」が高くなる傾向も見られました。この研究から、「HSP」は主観的な幸福感が低い傾向にありますが、美的感受性が高いとその傾向を補うことができることが分かりました。

研究3

「HSP」に関する論文を多く発表している串崎氏(関西大学文学部教授)は、自身の著書(※3)のなかで、海外の研究を引用して「HSP」は、環境によって振れ幅が大きな人だと述べています。以下のグラフ(※4)は感受性の差の概念を示しています。横軸に環境の善し悪し、縦軸に成果(適応)をとります。

「HSP」のように環境からの影響を受けやすい場合、そうでない人と比べて、環境が良いとそれだけパフォーマンスを発揮しやすくなりますが、環境が悪いとパフォーマンスが落ちてしまう傾向があることを示しています。

こうした「HSP」の研究から、個人の感受性には差があり、同じ環境であっても多くの刺激を受けて影響される人もいれば、そうではない人もいることが言えます。

企業が「HSP」を考えるメリット


では、「HSP」の気質に焦点を当てることは、企業にどのようなメリットがあるでしょうか。

一例としては、従業員のエンゲージメントを向上させるヒントになることが挙げられます。従業員エンゲージメントを考えるうえで、個人の気質に着目することは必要であると考えます。様々な気質や感受性を持っている従業員が働いている企業では、誰かにとって好ましいことが、他の誰かにとっては好ましくないことである場合があります。

たとえば、エンゲージメントを高めるために、働きやすい職場環境を作ろうとした際に、Aさんはコミュニケーションがとりやすい活気のあるオープンスペースでの業務を好み、またBさんは静かで集中しやすいリモートワークや個人ブースなどでの業務を好む、ということがあるかもしれません。その背景にあるものが個人の性格や気質的な要素です。

「HSP」のような気質を知り、個人の気質や好みもエンゲージメントを向上させるための施策に組み入れることで、よりエンゲージメントの高い組織作りに繋がるのではないでしょうか。

まとめ

ここまで「HSP」の気質について述べました。しかし、「HSP」は様々ある気質のうちの一つに過ぎません。「HSP」以外にも人の性格特性や気質は様々あります。「HSP」を知ることが、個人の多様性を考えるきっかけとなり、企業において多様な人材を活用していく手がかりになれば幸いです。

<参考文献>
※1 雨宮・坂入(2018) 一過性の運動実践が敏感な個人の気分に与える影響についての試験的検証
※2 上野・髙橋(2020) Highly Sensitive Personは主観的幸福感が低いのか? ─感覚処理感受性と人生に対する満足度,自尊感情との関連から─
※3 串崎真志(2020)『繊細な心の科学-HSP入門』
※4 Del Giudice & Ellis(2016) Evolutionary Foundations of Developmental Psychopathology

<執筆>
HR Trend Lab研究員(ダイバーシティ):樋口

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